今回でサンシャイン7話パートは終わりですね。いつもより少々長めになっております。
「こ、こんにちは」
ほんの少しだけ戸惑う様子を見せた後、千歌は制服姿の二人の少女へ挨拶を返した。
「……?」
『どうかしたのかい?』
(いや、この人達どこかで……)
記憶があまり定かではないが、この女子高生二人の顔は見覚えがあった。
どこかで会ったことがある、というのならハッキリとわかるはずなので、おそらくネットの記事か何かで彼女達を見かけたのだと思う。どんな内容だったのかは忘れたが。
「あら、あなた達もしかして……Aqoursの皆さん?」
「うそ、どうして……」
「千歌達のことを知ってるんですか?」
こちらは誰も二人のことを知らないようだが、向こうは千歌達がAqoursだということに気付いた。
ということは……。
「PV観ました。素晴らしかったです」
「あ、ありがとうございます」
どうやら以前公開した「夢で夜空を照らしたい」のPVを視聴済みのようだ。それならAqoursのことを知っているのも頷ける。
「もしかして……、明日のイベントでいらしたんですか?」
「はい」
なぜか少し眉をひそめながらそう尋ねるサイドテールの少女に、千歌はキョトンとした表情で答えた。
「そうですか。楽しみにしてます」
そう言い残し、向かって左側に立っていた少女がゆっくりとその場から未来達の横を通り過ぎ、立ち去る。
一方もう片方のツインテールの少女は深々とお辞儀をした後、突然こちらに向かって走り出したのだ。
「おお……⁉︎」
地面に手をつき、アクロバティックな動きで
「では」
背を向けて神社から離れていく二人の少女。
たった今目の当たりにした驚異的な身体能力に、千歌達は揃って目を見開いた。
(ステラみたいだ……)
「東京の女子高生って、みんなこんなにすごいずら⁉︎」
「あったりまえでしょ⁉︎東京よトウキョウ!!」
一年生三人が驚きの余韻に浸っている中、千歌は本殿前でふっと口元を緩めた。
「歌、綺麗だったな……」
◉◉◉
やがて太陽は沈み、千歌達は事前に予約しておいた旅館へと足を運んでいた。
「なんか、修学旅行みたいで楽しいねー!」
「なあ、お前一体何着買ったんだ……?」
数時間前の巫女服姿とは一変して今度は客室乗務員風のコスプレだ。それなりに値が張るだろうに。
「堕天使ヨハネ、降臨!」
「うわっ⁉︎」
「やばい……かっこいい……!」
いきなりテーブルの上に飛び乗ってきたのは、黒いマントを翻した善子である。これも秋葉で購入したものだろうか。
(あ、そういや俺何も買ってないや……)
せっかくの東京だというのにお土産の一つも購入していないことに気づき、自然と今日の出来事が頭の中で映像として再生される。
黒ずくめの憎たらしい顔ばかりが浮かび、自然と握りしめた拳に力を込めた。
「ん!美味しいねこれ!」
「本当ね。未来くんもどう?」
「ああ、もらうよ」
腹いせにやけ食いしてやろうと、梨子に差し出された饅頭らしきものを一気に二つほど手に取って口の中に放り込む。
「あぁー!マルのバックトゥザぴよこ万十ーーーー!!」
「り、旅館のじゃないのかよ⁉︎」
急に声を上げた花丸に驚き、喉に饅頭を詰まらせかけた未来は咄嗟に咳き込んだ。
「それより、そろそろ布団敷かなきゃ…………」
未来達が騒いでいるのを尻目に、ルビィは押入れから積まれた布団を抱え、外に出そうとする。
すると自分よりも大きいものを抱えたせいでバランスを崩したのか、布団ごと彼女が覆い被さるように倒れてきた。
「ピギィ……!」
「おわぁ!?」
「ねえ!今旅館の人に聞いたんだけど…………あれ?」
それとほぼ同時に部屋に入ってきた千歌が、怪訝な顔で布団に埋もれる未来達を見下ろした。
「音ノ木坂って、μ'sの?」
散らかっていた部屋を片付け、未来達は中心に設置されたテーブルを囲んで座布団の上に座る。
「うん、この近くなんだって。……梨子ちゃん!」
「ん?」
「今からさ、行ってみない?みんなで!」
そういえば梨子は音ノ木坂から浦の星に転校してきた生徒だった。今思えば春の出来事が懐かしく感じる。
千歌の提案に若干表情を曇らせる梨子。
「私、一回行ってみたいって思ってたんだあ。μ'sが頑張って守った高校、μ'sが練習していた学校!」
「ルビィも行ってみたい!」
「私も賛成ー!」
「東京の夜は物騒じゃないずら……?」
「な、なにっ⁉︎怖いの⁉︎」
「善子ちゃん震えてるずら」
音ノ木坂学院高校。
千歌達が目標としている、伝説とも言われているスクールアイドル、μ'sのメンバーが通っていた高校だ。
(そこに行けば……もしかしたら光の欠片に関しての、何かがつかめるかもしれない)
未来がそう空想して期待を膨らませていると、とある人物から予想外の言葉が飛び出した。
「ごめん、私はいい」
弾かれたように全員が一斉に梨子の顔へ視線を移した。
「先寝てるから、みんなで行ってきて」
そう言うと梨子は立ち上がり、小さな足音を立てながら部屋を出て行ってしまった。
取り残されたメンバーは顔を見合わせ、やがて曜が切り出す。
「やっぱり、寝ようか」
「そうですね、明日ライブですし」
少しだけ重い雰囲気となった空間で、未来達は次々と座布団から立ち上がった。
◉◉◉
寝る時はさすがに女子組とは別室だ。
一人で使うにしても少し広すぎる畳の部屋に布団を敷き、未来はしばらくその中で目を開けてジッとしていた。
(……トイレ)
気怠そうに掛け布団を剥ぎ、未来は部屋の出入り口付近にある手洗い場を目指した。
……その時だ。
もう宿の人間は寝静まっただろうこの夜中に、ノックの音が響いた。
『誰だろうね?こんな時間に……』
「ホラーは苦手だぞ俺は……」
おそるおそる扉を開けると、浴衣姿のステラが目の前に立っていた。
幽霊の類ではなかったことに胸をなでおろし、未来は彼女に用を聞く。
「なんだよこんな夜中に……。ていうかさっきまでどこに行ってたんだよ」
「別に大したことじゃないわ。……なに?心配でもしてくれてた?」
「んなわけないだろ。……俺じゃなくて、千歌達に心配かけるなって話だ」
「それもそうね。今後は気をつけるわ」
あたかも当たり前のように部屋に上がりだすステラを見て、未来は呆気にとられる。まさかこのまま居座るつもりなのだろうか。
「おい、俺はもう寝るぞ?」
「まあ待ちなさい。少し話があるの」
「大事なことなのか?」
未来の質問に少し悩むように唸った後、ステラはパッと顔を上げて答えた。
「わたし達にとってはとても大事よ。……あなた達にはあまり関係ないけど、一応話しておこうかと思って」
「……?はあ……」
月明かりを背にするステラは、いつにも増して神秘的な美貌を放っている。
彼女は側にあったテーブルの前に正座をし、未来から視線を外したまま言った。
「アークボガールが見つかったって」
「……⁉︎それって……」
「ええ、わたしとヒカリの……大事な人達を奪った奴よ」
ステラの胸から飛び出した青い光球が宙を舞い、落ち着いた口調で語り出す。
『俺とステラをウルトラサインで呼びだしたのは、宇宙警備隊のタロウだったんだ』
『まさか……タロウ教官が⁉︎』
「ええ、わたし達に話しておくべきだって……」
時は数時間前に遡る。
街の路地裏でタロウと対面したステラは、彼の口から報告された内容を聞いた瞬間目を見開いた。
「アークボガールが……⁉︎」
「ああ。ここから遠く離れた惑星で、再び奴らの捕食が確認された」
『……なんてことだ』
未来やメビウスと一緒にボガールモンスを倒したきり、全く姿を見せなかったボガール達、その親玉。
「やっぱり地球から離れていたのね……」
『それを伝えるために
ヒカリの問いに、予想外にもタロウは首を横に振った。
「いいえ、私の任務は別にあります。……あなた達には、大隊長からの言伝を」
「……?」
宇宙警備隊の大隊長が、一体何を自分達に伝えるというのだろう。と、ステラは感じた疑問を表現するように首を傾けた。
「ウルトラマンヒカリ。七星ステラ。あなた達には、アークボガール追跡の任務を遂行してもらいたい、と」
『「……⁉︎」』
「アークボガールの捜査……⁉︎つ、つまり地球からいなくなるってことか⁉︎」
「ええ」
「それで、お前達はなんて答えたんだ⁉︎」
悲しげに下を向くステラの顔は無表情を保ってはいるが、未来には彼女の迷いが見て取れた。
「……わからないの。確かにわたし達はボガールが憎い、けど……」
「けど、なんだよ?」
「今この危険な状況で、あなた達だけを地球に残すことはしたくない」
眉を下げてそう言うステラに、未来とメビウスは「そんなことか」と、安心するように溜息を吐いた。
『大丈夫だよ。君達がいない間も、僕と未来くんが必ず地球を守ってみせる』
「そうだぜステラ。俺達のことを気にする必要なんかないって」
未来とメビウスがそう言うと、今度はヒカリが真剣な声音で問いを投げかけてきた。
『……君達は気付いていないのか?』
「……?何をだ?」
『不自然すぎることが一つあるんだ。…………前に一度、この地球から謎の時空波が発生していると言ったのは覚えているか?』
「怪獣を呼び寄せるとかいうアレか?エンペラ星人が仕掛けたっていう……」
『では聞くが、ここ最近現れた怪獣に時空波に関係するものはいたか?』
その質問を受けて、ヒカリが言いたいことがなんとなく理解できた。
キングジョーブラック。ナツノメリュウ。ギャラクトロン。
これらは全てノワールが呼びだしたものであって、時空波に引き寄せられた怪獣ではない。
『今も時空波はこの星のどこかで発生し続けている。……だが、それに対して影響を受けている怪獣や宇宙人があまりに少なすぎる』
以前会ったメトロン星人等、確かに地球には時空波に招かれた者が何人かは存在する。が、数が不自然に少ないというのだ。
『エンペラ星人の狙いは地球に眠る怪獣達や、宇宙怪獣を目覚めさせ、暴れさせることではなく……』
「……時空波を仕掛けたのには、別の目的がある……?」
不意に立ち上がったステラが、未来の目を自分の視線で射抜く。
「敵は何を考えているかわからないわ。……最悪の場合、あなた達は命を落としてしまうかもしれない」
張り詰めた空気を肌に感じながら、未来はステラとヒカリの言葉を脳内で繰り返していた。
エンペラ星人の企み。そしてステラとヒカリ、二人の地球を離れての任務。
ーーーーあなたとメビウスだけじゃ心配なのよ。
東京に来る前にステラに言われた言葉を思い出し、未来は悔しそうな表情で拳を握りしめる。
ーーーー君が求めているのは、シンプルな”力”だ。
(……くそっ……みんな好き勝手言いやがって……)
「……未来?」
「ぉ…………れ……だって……、やれるはずだ」
「ちょっと、聞いてる?」
伏せた顔を覗き込んできたステラに、未来は
「心配しすぎだって。……そりゃ、お前達よりは弱いかもしれないけど、俺達だってウルトラマンだ。千歌達は……地球は、必ず守ってみせる」
「…………」
「だからお前達は、安心して仇をとってこい」
引きつった笑顔でそう言う未来を見て、ステラは呆れた様子で彼の横を通り過ぎる。
「……わかったわ。夏中には出発するから、他のみんなには適当にごまかしておいて」
青い輝きと共に出入り口まで歩いていく少女の背中を、未来はやるせない気持ちで眺めた。
「…………お前はいいよな、そんなに強いんだから」
『……?何か言ったかい?』
「いいや、なんでもないよ」
◉◉◉
「ん…………」
カーテンから漏れる光に目をくすぐられ、未来は重い瞼を開いた。
『おはよう未来くん』
「おはよう。……もう朝か」
カーテンを開け、浴衣から私服へと着替えを済ませる。
ふと耳を澄ませば、隣の部屋から物音が聞こえたので、なんとなく扉を開けて廊下に出ると……。
「……千歌?」
「あ、未来くんおはよう!」
「ああおはよう。……練習行くのか?」
「うん!……未来くんも一緒に走る?」
昨日からのモヤモヤした気持ちを払うのにちょうどいいかもしれない、と未来はすぐさま頷いた。
今着ている服はTシャツにハーフパンツなので、運動をするのにも問題ないだろう。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
宿を出て、千歌について行く形で東京の街中を駆ける。
早朝ということもあり、周囲にいる人は未来と千歌のようにランニングに勤しむ人や、犬の散歩をしている者ばかりだ。
「ねえ未来くん」
「んー?」
「未来くんはさ、Aqoursのことどう思ってる?」
「え?」
いきなりの質問に頭を悩ませ、未来は走りながら隣にいる幼馴染に目をやった。
「どう思ってるって言われてもなあ」
「簡単にでいいよ。みんなを見てて、未来くんはどう感じてる?」
どうしてそのようなことを聞くのか気になるが、まずは千歌の質問に答えようと思考を巡らす。
「……みんな、活き活きしてるなあって」
「どんなところが?」
「……って、何なんだよこの質問?」
「んー……だって未来くん、春から少し雰囲気変わったっていうか……私達がスクールアイドルになった辺りから様子が変というか……」
千歌の言葉に、未来は思わず声を漏らしそうになる。彼女は少なからず、未来の異変に気付いているのだ。
春……つまりメビウスと出会った時からだ。
「なんか変わったところあったか?」
「うーん、だからその……未来くんさ……無理して、ない?」
大きなモニターが設置された建物の前で千歌は立ち止まり、未来の顔を真正面から見据えた。
なんと答えていいのかがわからなかった。千歌はどこまで気付いている?何を疑っている?
…………どうして、こんな悲しそうな顔をする?
(……もしかして、それを聞くために俺をランニングに誘ったのか?)
いつものように、未来は彼女に心配をかけさせまいと、あの言葉を口にする。
「……なんでもないさ。俺は、みんながもっと輝けるように協力する。ただそれだけだ」
「……うん、そうだよね。やっぱり未来くんは未来くんだよ」
「……?」
千歌が最後に呟いた言葉の意味を、まだ未来は気付くことができなかった。
…………自分のことで、精一杯だったから。
「千歌ちゃん!未来くん!」
後ろから響く声に反応し、二人は同時に振り向く。
そこには練習着姿で並んでいる、Aqoursのメンバーがいた。
「やっぱり、ここだったんだね!」
「まったく、勝手に飛び出さないでよ」
「練習行くなら声かけて?」
「抜け駆けなんてしないでよね!」
「帰りに神社でお祈りするずらー!」
「だね!」
みんなの顔を見た途端、不思議と不安定だった心が落ち着きを取り戻し、未来と千歌は自然と微笑んだ。
「……!」
直後、側にあった巨大なモニターから音楽と同時に映像が流れ出し、その場にいた全員の視線を集める。
そこに書かれていたものは……。
「ラブ……ライブ……」
「ラブライブ……!今年のラブライブが発表になりました!」
「ついにきたね」
「どうするの?」
「もちろん出るよ!μ'sがそうだったように、学校を救ったように!さあ、いこう!今、全力で輝こう!!」
千歌が差し出した手の甲に、それぞれの掌を重ねていく。
「ほら、未来くんも!」
「あ、ああ……」
曜に声をかけられてハッとした未来が、その輪に加わった。
ーーーーAqours!
ーーーーサンシャイン!!
◉◉◉
「ランキング?」
イベントの会場に着いた千歌達がスタッフの人に詳細内容を説明されている最中だ。
「ええ。会場のお客さんの投票で、出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」
今日イベントの場でのパフォーマンスだけで順位が決まるということは、完全な実力勝負だ。
そして、上位を取ればその分一気に有名になれる。
「まあそうね。Aqoursの出番は二番目!元気にはっちゃけちゃってねー!」
扉の中へ消えていくスタッフから目を離し、自分達の立場を確認する。
「二番?」
「前座ってことね」
「仕方ない。他のチームはラブライブ決勝に進んだことのある人達ばっかなんだろ?」
「でも、チャンスなんだ。頑張らなきゃ!」
マネージャーである未来とステラは先に客席へ移動しておき、イベントが始まるのを待機だ。
周りから溢れる熱気を見るに、やはりスクールアイドルというものの人気は凄まじいことを実感させる。
「すごい人ね」
「ああ。…………大丈夫かな、みんな」
ステージに足を踏み出すトップバッターの姿が見え、会場中の視線が前方に注がれた。
「……!あの二人は……」
そこには、意外な人物が現れたのだ。
未来は咄嗟にプログラム表を確認すると、一番上の方で記されているチーム名を呟いた。
「
徐々に未来が悪い方向に進んじゃってる……?
これも全てノワールって奴の仕業なんだ。
主人公である彼にはこの先キツイ試練を受けてもらいますよ〜(ゲス顔)
今回の解説はチラっと出てきたアークボガールについて!
テレビのメビウスでは元四天王というなかなか興味深い設定を持ちながら本編に登場することはなかったアークボガールさん。勿体無いので今作ではツルギ関連で使わせて頂くことに。
メディアによって活躍も違うアークボガールですが、今作ではどのような戦い方をするのか……、楽しみにしててください。
あぁ……早くバーニングブレイブ出したい……。