といっても一章のメインストーリーに絡むのはメビウスとヒカリだけですがね。本格的な登場は二章になることでしょう。
「今の状況はどうなっている?」
「エンペラ星人の軍勢に動きは見られません。……ただ」
光の国。宇宙警備隊本部。
大隊長と呼ばれるウルトラの父が赤いマントを翻し、背後に立っていたゾフィーへと身体を向ける。
「
「報告によると、奴とはまた別の者が暗躍している模様です。……なんでもエンペラ星人と同じ惑星の生き残りだと名乗っているようで」
「……⁉︎それは本当か⁉︎」
思わず語気を強くしてしまう。
エンペラ星人の故郷である惑星は、奴を除いて全ての住人が死滅したと聞いている。今更もう一人の生き残りが現れたと言われて驚かないはずがない。
「兄弟達は今何を?」
「はい。メビウスには内密にしていますが、既に地球へ到着しているようです」
「そうか」
ウルトラの父はどっと疲れたような様子で額に手を当て、小さく息を吐き出した。
ウルトラマンキングから授かっていた”光の予言”を開くと、さらに脱力する。
「まさか、その宇宙人がこの内容を盗み出したというのか」
誰にも気付かれずに、「予言の内容は拝見させてもらった」と書かれたメモだけを残して去った。
その宇宙人とは、他でもないノワールである。
「予想外の存在が多い。……いざとなったら、メビウスをこちらに呼び戻すことも考えなくてはならない。彼と一体化している、地球人のためにもな」
まだ若いメビウスをこのままエンペラ星人との戦争に正面からかち合わせるわけにはいかない。
それに今の彼は日々ノ未来という少年と一つになっている状態なのだ。メビウスが危険に陥るということは、同時に未来の危機でもある。
それだけは極力避けなければならない。
(……お前は今、何を考えている?…………ベリアル)
◉◉◉
『以上!”がんばルビィ!”こと、黒澤ルビィがお伝えしました!』
理事長室。
鞠莉は目の前で開かれた動画から流れてくる声と映像を薄目で眺めていた。
動画が終わり、部屋の中に数秒間の静寂が満たされた後、緊張気味に千歌が彼女へと問う。
「どうでしょうか?」
ゴクリ、と並んでいた他の面々も冷や汗を顔に滲ませながら、鞠莉の表情をうかがっている。
しかし一向に彼女は返答をせず、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。
「…………ォ”ウ!」
どうやら居眠りしていたようで、鞠莉はたった今動画が終わっていたことに気がついたように閉じていた瞼を開いた。
その様子を見て拍子抜けした千歌達は思わずその場でよろけてしまう。
「もう!本気なのに!ちゃんと見てください‼︎」
「
「はいっ!!」
開いていたパソコンを軽く閉じ、鞠莉は若干眉をつり上げてAqoursのメンバー達に言い放つ。
「それでこの”テェイタラク”ですか?」
「て、”体たらく”……?」
「それは、さすがに酷いんじゃ……」
「そうです!これだけ作るのがどれだけ大変だったと思ってるんでーーーー」
あんまりな批評に次々とブーイングに近い意見が飛び交う。それを打ち消すように、さらに鞠莉は声を張り上げて言った。
「努力の量と結果は比例しません‼︎大切なのは、このタウンやスクールの魅力をちゃんと理解してるかデス!!」
「それってつまり……」
「俺達が理解していないということ……ですか?」
「じゃあ理事長は、魅力がわかってるってこと⁉︎」
善子がそう聞くと、鞠莉は引き締まった表情のまま彼女達を見据えた。
「少なくとも、あなた達よりは。…………聞きたいデスか?」
「どうして聞かなかったの?」
昇降口で靴を履いている千歌に、梨子は先ほどの件について尋ねた。
「なんか、聞いちゃダメな気がしたから」
「なに意地張ってんのよ」
「意地じゃないよ。…………それって大切なことだもん」
街の良いところを知らない人間に、他人にそれを伝えられるわけがない。考えなくてもそれはわかる。
「自分で気付けなきゃPV作る資格ないよ」
「理事長が言ってたことは……まあ、俺も正しいと思う」
昔から住んでいた街の良いところを見つけるのは、思っていたよりも難しいもので、馴染みのある場所ほどそれは見つけにくいものなのではないか。
「”既に知ってること”を気付くっていうか……、再確認するのは簡単なことじゃない」
「…………そうかもね」
「ヨーソロー!じゃあ今日は千歌ちゃん家で作戦会議だ!」
と、曜が口にした瞬間梨子の全身が強張る。千歌の家で飼っているしいたけが怖いのだろう。
「喫茶店だってただじゃないんだから。梨子ちゃんもがんばルビィして!」
「…………はぁ」
そんなやり取りを見ていた千歌の顔が少し暖まり、やがて笑いを零し始めた。
「ぷふっ……ふふふふっ!あははははは!!」
学校が好きで、だから無くなって欲しくない。そのために仲間とスクールアイドルとして活動し、より絆を深めていく。
千歌は、思った。
ーーーーやっぱり私、この学校が好きなんだ。
「よーしっ!……あ、忘れ物した。ちょっと部室見てくる!」
そう言って部室のある体育館への道を戻る千歌。
「締まりがないリーダーだなあ、まったく」
おそらくこの場にいる全員が、千歌と同じ気持ちを抱えているのだろう。
スクールアイドル部の部員として出会った仲間達。みんなこの学校があったからこそ引き寄せられた者ばかりだ。
「ちょっと様子見に行ってくる」
未来は先ほど千歌が向かった体育館方面の廊下へ走り出す。床の軋み、壁の汚れ、空気の匂いを感じながら。
浦の星学院の中を、駆けた。
「あれって……」
他のメンバーも未来の後をついてきて体育館まで移動すると、ステージで踊る一人の少女と、それを眺めている千歌が視界に入る。
「すごいです!私、感動しました!」
「な、なんですの?」
なんとそれは思いもしなかった人物だったのだ。
スクールアイドルを嫌悪していたはずの、黒澤ダイヤが見事な踊りを披露していたのである。
「ダイヤさんがスクールアイドルが嫌いなのは、わかってます」
ステージ上に立つダイヤを見て、千歌は一層瞳の輝きを強くさせた。
「でも、私達も学校が続いて欲しいって、無くなって欲しくないって思ってるんです。……一緒にやりませんか⁉︎スクールアイドル!」
彼女はその質問にすぐには答えなかった。
舞台から飛び降り、黒髪をなびかせた少女が千歌の横を通り過ぎる。
「残念ですけど。……ただ、あなた達のその気持ちは、嬉しく思いますわ。お互い頑張りましょう」
ふとダイヤが落としていったプリントを千歌が拾い上げる。そこには”署名のお願い”という文字がある。今度行われる海開きのボランティアに関してのものだろうか。
「なあルビィちゃん。もしかして会長って前は……スクールアイドルのことを……」
「……はい。ルビィよりも大好きでした」
その哀しげな後ろ姿を見つめる千歌の表情にも、同じモノが宿るのが見えた。
「ーーーーッ!」
咄嗟にダイヤに声をかけようとした千歌の前に、彼女の理解者が両手を広げて立ち塞がった。
「今は言わないで!」
「ルビィちゃん……」
「…………ごめんなさい」
ダイヤが何を抱えているのか。妹であるルビィさえも知らないそれを、未来はおろか千歌達だって知る由もない。
ーーーーブッブー!ですわ!
春の始めに聞いた、ダイヤの千歌に対する振る舞いを思い出す。
(…………あの人もきっと……、みんなと同じなんだ)
◉◉◉
まだ太陽が昇っていない、午前四時前。
未来はぼうっとする頭を掻きながら、寝間着から浦の星学院の指定ジャージに着替えていた。
「…………ぐぅ……」
『未来くん?』
「ああ、大丈夫。起きてる、起きてるぞ」
海開きになると毎年浜辺の掃除に住民が集まる。未来もそれに参加するため、いつもより早起きしているのだ。
「うー、さむ……!」
「あ、未来くん。おはよう」
未来が玄関を出るのとほぼ同時に、二軒隣に建っている家から梨子が同じく赤いジャージ姿でちょうど家の扉を開けて出てくるところが見えた。
「おはよう。さすがにこの時間は寒いねえ」
「そうね。でもこの街に来てから、私にとっては新鮮なことばかりよ」
「そっか。ここの海開きも初めてだっけ」
海までの道のりを二人で並んで歩いた。まだ四時前なので、周囲に人の気配はほとんどない。
しかし、浜辺に近づくごとに騒がしい声が聞こえてくるのがわかった。
「あ、梨子ちゃんに未来くん!」
「おはヨーソロー!」
二人と同じジャージを着た曜と千歌が、
「二人の分もあるよ」
「こっちの端から、海の方に向かって拾っていってね」
「よしきた!行こうぜ梨子!」
眠気と寒さを振り払うためにやけくそ気味に走り出そうとする未来。
そんな彼には気も留めずに、梨子は立ち止まって砂浜にいる人々を眺めた。
「曜ちゃん。毎年海開きって、こんな感じなの?」
「うん。どうして?」
「ん?なんだ、お前も来てたのか」
「悪いかしら」
しゃがみ込んでゴミ拾いに勤しむ、七星ステラの背中を見かけたのだ。
「大歓迎さ。人手は多いほうが助かるし」
「そ。…………それにしても」
「ん?」
ステラは一度立ち上がり、自分と同じように集まっている街の人達に視線を注いだ。
「思っていたよりも人が多いのね、ここ」
「まあ、街中の人に……学校のみんなも来てるからな」
こういう行事とか、イベントとなるとこの街の人々は進んで協力してくれる傾向がある。
街のあたたかさとでも言うのだろうか。
「千歌達のファーストライブの時も思ったんだけど」
「…………?」
「この街の良さってーーーー」
「あのー‼︎みなさん!!」
ステラが何かを言い終える前に、一人の少女の呼びかけが、道路沿いにある階段の方へ未来の視線を引き寄せた。
「私達、浦の星学院でスクールアイドルをやっている、Aqoursです!」
その場にいた全員の視線を集めた千歌が、遠くの海まで聞こえるような声で、あることを話し始めた。
「私達は、学校を残すために!ここに生徒をたくさん集まるために!みなさんに協力してほしいことがあります!!みんなの気持ちを形にするために!!」
◉◉◉
「よしっ、準備OK!」
屋上に固定カメラを設置し終えた未来は、顔を上げてドレスのような衣装に着替えた千歌達を見た。
「こっちもいいよ」
「上手くいくかしら……」
「大丈夫!みんなにはちゃんと伝えたから!」
全員の立ち位置を確認したステラが未来の背後まで戻ってくる。
合図を送った未来に、Aqoursのメンバーは首を縦に振って返した。
「本番いくぞ!」
音楽が流れ、ついにAqoursのPV撮影が始まった。
ーー夢で夜空を照らしたいーー
千歌達が美麗なダンスと歌を披露していく中、未来はこれまでの準備期間のことを思い返していた。
街の人達や、学校の生徒みんなに協力を呼びかけ、”スカイランタン”の製作を手伝ってもらったのだ。
数多くのランタンを作ることに成功し、曲のサビを控えた今は真下で空へ浮かぶのを心待ちにしている。
(来るわよ)
(ああ、わかってる。タイミングはバッチリだ!)
曲の盛り上がりがピークに達したところで、夜空を照らすスカイランタンが上空に放たれた。
(さあ、これが内浦って街だ……!)
内浦という場所がどのようなところなのか。それをアピールするには最高のパフォーマンスが完成したのだった。
『わあ!すごいよ未来くん!飛んでる!飛んでるよ!ほら、ヒカリ!ステラちゃん!』
(おお、想像してたよりもずっと……)
(綺麗なものね……)
『ああ。素晴らしい光景だ』
千歌達のダンスと歌も相まって、光の粒が飛んでいくその景色は心を魅了するものがあった。
千歌達みんなの夢で、この空を照らした。
「大成功だな」
◉◉◉
撮影が終わると、千歌はおもむろに屋上の端へ歩み寄り、そこから広がる景色を眺めていた。
「お疲れ」
「未来くん。……どうだったかな?」
「ああ、すっごく綺麗だった!」
「ほんと⁉︎やったね!」
無邪気な笑顔でハイタッチを交わす千歌だったが、すぐに芯の通った表情へ変わる。
「私、心の中でずっと叫んでた。”助けて”って。”ここには何もない”って」
「…………でも、そうじゃなかった」
「うん。やっとわかった気がするんだ、この街のこと」
未来から目を離した千歌が、再び海に彩られた街並みを見下ろした。
「追いかけてみせるよ。……ずっと、ずっと!この場所から始めよう!」
そんな様子の千歌を見た曜、梨子……Aqoursのみんなも決意を新たにする。
「できるんだ!!」
何気にゾフィーが登場したのは初だったかな?
今までチラチラ登場していたウルトラ兄弟達の活躍はもう少し先になります。
解説いきましょうか。
今作のウルトラ兄弟達は正史のものとは違うため、過去に地球を訪れたという経歴を持つ者はベリアル以外はいません。
よって二章でメビウスや未来達と絡む予定の彼らも、テレビのそれとは違ったものになるかもしれませんね。
ていうか二章でやりたいネタって結構あるんですよね……、サファイヤちゃん関連とか……。(忘れた方は18話19話をどうぞ)
ここ最近の話にずっと登場していたノワールですが、今回はセリフなしです。あの人が書いてて一番楽しいキャラかもしれませんw
次回からはサンシャイン7話に突入ということで、東京にレッツゴー!
それではお楽しみに!