今年は創作のアイデアに満ち溢れた一年を願います。
今回の話は事前に第22話を読むことをオススメします。
月面。
音すら存在しない、静寂と闇が広がる空間にただ一人だけ存在感を放つ者がいた。
甲胄に身を包み、手に持つ刀はあらゆるものを切り裂くであろう鋭さだ。
「…………なぜ、来ない」
男はいくら時間が経っても待ち人が来ないことに苛立ちを感じていた。
知らせはこちらから出したはずだ。目の前に”突き刺さった”こともたしかに確認した。
「何故やって来ないのだ⁉︎ハンターナイト……ツルギ……!!」
誇り高き光の者であるならば果たし状を出した自分を無下に扱うことはないはず、そう思っていたのだ。
「奴め……!一体何をしているのだ……⁉︎」
このまま無視し続けるつもりなのだろうか。
この宇宙で名を馳せていたツルギという戦士に勝ち、自らの力を証明することは叶わないのか。
痺れを切らした男は、ついに背後に見える青い星の方へ振り向き、月面を蹴った。
(ならばこちらから向かうまで……!)
◉◉◉
開放的な青い空と海、白い雲と砂。
心地いい風が頬を撫で、思わず眠たくなるくらいのどかな昼下がりだった。
暑苦しそうな黒コートを着たまま、ノワールは木に登り、淡島神社の祠がある辺りから下の風景を見下ろす。彼の気に入っている場所だった。
『失敗したようだな』
唐突にテレパシーで伝わってくる暗黒の皇帝の声音に驚きながらも、ノワールは景色を見つめながら返答した。
「ボクもここまで手こずるとは思わなかった。予想以上に彼女達の光は強力だ」
ノワールの目的は、かつて失った”光”を取り戻すこと。
それだけ聞けば全ての光を抹消しようとしているエンペラ星人とは敵対関係にあるよう思えるが、実際は違う。
ノワールはあくまで”光を取り戻したい”だけだ。ウルトラマンのように地球を守ったり、エンペラ星人の邪魔をするつもりはない。
それをわかった上でエンペラ星人は彼を利用することに決めたのだ。もちろん、そのこともノワールは勘付いているだろう。
『では、お前が言う目的を果たすことは不可能と?』
「いや……それはどうかな。光の欠片っていうのは形あるものじゃない。その人間が発する”現象”だ。彼女達から奪うことは不可能……」
そう。ノワールが求める光とは、Aqoursのメンバー中数人が発現に成功している”光の欠片”を指していた。
「ならば光を宿している”身体”ごと乗っ取ればいい。……と、思ってたんだけどなぁ……」
一度目は津島善子。二度目は日々ノ未来。
二回とも体内への侵入には成功したが、善子の場合は光の欠片に、未来の場合はメビウスに弾かれて失敗している。
「そう簡単には譲ってくれなさそうだ。これはなかなか骨が折れるよ」
『まあいい、お前は好きなように行動すればいい』
「おや……、いいのかい?ボクはてっきり君に嫌われてると思ってたのに」
子供みたいな顔で喜ぶノワールだったが、一瞬でその笑顔が闇を含んだものへと変わった。
「まあ、でも……チャンスはまだある」
おそらく既に光の欠片を発現させている者の身体に入っても、乗っ取ることは不可能だろう。
だが、まだ欠片を奥底に眠らせている、”発現させる可能性”を持つ人間ならば…………。
「
『……なんだ』
「変身能力を持つ宇宙人を、ボクに寄越してくれないかな?二人ほど」
木から飛び降りたノワールが、階段を下りながら瞼を閉じる。
「きっと上手くいくよ。今度こそボクは、あの光を手に入れる」
◉◉◉
休日。浦の星学院スクールアイドル部、その部室。
七星ステラは誰もいないこの部屋の惨状を見て、顔を引きつらせた。
「また散らかってる…………」
ステラとヒカリはボガールの探索でたびたび外出するので、最近はあまり部活動に顔を出せていなかったのだが……。
「戻ってきたらこれだもの」
腰を曲げ、散乱していたブツを拾い上げる。おそらく善子のものであろう、厨二病感溢れる書物だ。
「ったく、誰が掃除すると思ってるのよ!」
『大変だな』
「ヒカリも手伝ってくれたらどんなに楽かしら」
そろそろ部室に他のメンバーがやってくる頃だろうから、ここでヒカリの人間態を晒すわけにもいかない。
(梨子がいるから安心だと思ってたけど……はぁ……)
高速で移動しながら部屋中を片付けていくステラ。ノイド星人ならではの荒業だ。
ものの数分で粗方の掃除が終わり、ステラは疲れを追い出すように息を漏らした。
直後、部室の前に人の気配を感じ、誰かが入ってくることも瞬時に察する。
扉を開けて入ってきたのは、顔の整ったダークブルーの髪を持つ少女だった。
「おはようございま〜す……ってステラしかいない」
「おはよう、ヨハ子」
「ヨハネ!……って、その呼び名は……」
「未来がいつもこう呼んでるから」
「あの男ぉ〜……!リトルデーモンの分際でぇ!」
頭に作ったシニヨンが特徴的な彼女とは、結構話す方だ。主にステラが善子の
「まったくもう!みんなヨハネのことを軽視しすぎよっ!」
「そんなことないわ。あなたが自分のことを重視し過ぎなだーけ」
「あんたって容赦ないわよね」
目を細めて視線を突き刺してくる善子を尻目に、ステラは中心に設置されているテーブル前の椅子に腰掛けた。
「…………あれ?ここに置いてた黒魔術書は?」
「え?ああ、整理しといたわよ」
ピッ、と腕を組みながら人差し指を部屋の端にある段ボール箱へと向ける。
それを見た途端に、善子の眉がつり上がっていくのがわかった。
「ちょっと!勝手なことしないでよ!」
「な、なに?わたしは掃除しただけよ!」
「それが勝手だって言ってるの!」
「なっ……なによ!あんな邪魔なものほったらかしにしろって言うの⁉︎」
ステラはムキになるとなかなか止まらない。そのことを熟知しているヒカリは即座に「まずい」と彼女の体内で頭を抱えた。
「邪魔なもの……ですってぇ……⁉︎」
全身を震わせて怒りを表現する善子に、ステラも負けじと尖った視線を突き付け続けた。
「もう怒ったわ!あなたはヨハネに使えるリトルデーモン失格よ!天界堕天条例に従ってその軽はずみな発言を訂正しなさい!」
「その要求斬り捨てるわ!それにわたしはあなたの手下じゃない!」
『おいステラ、そのへんに……』
ヒカリの制止など全く耳に入っていない様子だ。
席を立った二人はしばらく睨み合った後、善子の瞳に涙が溜まり始めたところでステラはハッと目を見開いた。
「うっ……!わぁぁあん!もうステラなんか知らないんだからっ!!」
飛び出すように部室を出ていく善子。その後ろ姿を、ステラは呆然と眺めていた。
「な、なんで泣くのよ……」
『やってしまったな』
先ほどまでの熱が一瞬で冷めていくのがわかった。さすがに言い過ぎたかもしれない、と罪悪感がせり上がってくる。
ステラは倒れるように椅子へもたれかかると、頬杖をついて愚痴をこぼしだす。
「だいたい、なによ……リトルデーモンって……。これも地球では当たり前の文化なの?」
善子がAqoursの一員として加入する時は気にならなかったが、今になってステラは彼女の言うことの意味に疑問を感じ始めた。
『いや、未来達や他のAqoursメンバーの反応を見るに、そういうわけではないらしい』
最初にこの星に来た時よりも馴染んでいるのは確かだ。しかし、まだまだわからないことが多すぎる。
『だが未来達は、君のように疑問を感じることはないようだな』
「…………ふんっ。似てるといっても、所詮は違う星の住人同士よ」
『ステラ、そのままではいけない』
「えっ?」
ヒカリの雰囲気がいつもより堅くなったのを感じ、思わず意識を彼に集中させる。
『君はこの星と、人間を守ることに決めたのだろう?』
「…………まだわからないけど、降りかかる火の粉は払うつもりよ」
『なら、まずはこの星の人間を知らなくてはならない』
「人間を、知る……?」
『そうだ。この星のあらゆる命の声を聞き、自身の心と向き合うんだ』
ヒカリの言っていることの意味はうっすらとしか理解できなかった。
この人はずるい。彼が自分に質問する時は、決まって”ヒント”までしか語ろうとしない。答えは自分で見つけろという意味だろう。
「難しい言い方しないでよ……。あなたは本当にわかりにくいわ」
『君なら見つけることができるさ』
不意に部室の扉か開き、今度はぞろぞろと数人の少女達が流れ込んでくる。
「こんにちは〜」
「あれ?なんだか少ないね」
未来と善子を除いた全員のAqoursメンバーが部室に集結した。
「そういえば、さっき善子ちゃんとすれ違ったけど……、何かあったずら?」
「泣いてたよね……」
「えっ?さ、さあ……。未来はどうしたの?」
「それが……」
千歌は苦笑いを浮かべて数分前の幼馴染の様子を思い出す。
「いくら呼んでも、起きてこなくて……」
「えぇ……何やってるのよあいつ……」
久しぶりに未来に対してのため息を吐き出すステラであった。
◉◉◉
「やばいやばいやばい!!!!」
『僕は知らないからね』
「わかってるよんなこと!!」
未来はバスから飛び降りると、すぐに地面を蹴って学校へ続く坂を上り始めた。
「まさか寝坊するなんて……」
昨日偶然動画サイトを漁っていたら善子の動画へ辿り着き、夜遅くまでその関連動画を視聴していたのが悪かった。
もちろん今朝はメビウスや千歌達が起こそうとしてくれたが、結果は言わずもがな。
「くっそぉ!地味に何個か面白い動画あげやがって!!」
『梨子ちゃんへの言い訳は?』
「素直に謝るよちくしょう!!」
『よろしい』
全力疾走で坂を駆け上がり、すぐに校舎が見える所まで到達した。
「ん……?」
不自然に道の真ん中に立つ人影が見え、咄嗟に立ち止まる。
和風の衣服で傘をかぶっている、腰に日本刀らしきものを下げた男だった。
(なんだ……?)
『…………⁉︎』
男はゆっくりとこちらに近づいてくるなり、一言未来へと言い放った。
「貴様がツルギか?」
「は?」
ツルギという言葉が何を意味するか、思い出すのに十秒。そして目の前にいる男が誰なのかを考えるのにさらに十秒。
やがて、彼が宇宙人だという結論が頭に浮かぶ。
「……誰だよあんた」
「俺はザムシャー。ハンターナイトツルギとの決闘に参上した」
「決闘……?」
なんのことかさっぱりだ。そもそも未来の中にいるのはツルギではなくメビウスだ。
「とぼけるな。以前果たし状を送ったはずだろう」
「はた……、いやまてまて!ていうか俺はツルギじゃないし!」
「ならば貴様が宿している者はなんだというのだ?」
どうやら彼にはメビウスが未来の身体の中にいることはお見通しらしい。
ザムシャーはピリッとした緊張感を放ちながら未来へ問う。
「あー……えっと……」
未来が返答に困っていると、彼の体内からオレンジ色の球体が飛び出してきた。メビウスだ。
「ツルギか……?」
『すまないが、違う。僕の名前はメビウス。君の探しているツルギと同じ星の出身だ』
「なるほど……、どうりで”似ている”と感じたわけだ」
未来とメビウスがツルギでないことをわかると、ほんの少しだけ柔らかい雰囲気になったザムシャーがさらに質問を重ねてくる。
「ではツルギについて何か知らないか?俺は奴と決闘の約束をしているのだが……」
「決闘の……約束?」
そんなことステラとヒカリは話してただろうか、と眉根を揉んで考える。
ーーーー無視に決まってるでしょこんなの。
「あっ」
過去の映像が脳裏をよぎり、冷や汗が頬を伝った。全身から血の気が引いていくのがわかる。
そう、思い出したのだ。
ステラは前に果たし状が届いたと言っていた。だがそれは既に……。
(あいつが破り捨てちゃってたじゃん!!)
善子回と見せかけてステラ回でもあるお話です。
次回はついにヒカリとザムシャーが決闘……⁉︎
プチ解説です。
以前後書きで報告したと思いますが、善子回の次は一気にサンシャインパートを進めていきます。途中で怪獣も登場させるかもしれませんが、基本的に9〜11話辺りまで進めるつもりです。
ノワールがまた何か企んでいるようですが、それはサンシャインの話を進めた後に書く未来&千歌回で詳細が明かされます。よってネタバレするわけにはいきませんw
そして第一章のクライマックスに満を辞して怒涛の展開が待っています。
それでは、今年もメビライブサンシャインをよろしくお願いします!