最後にちらっとあの人が登場……?
「本を……失くした?」
「ごめん!本当にごめん!!」
練習を終え、帰り支度をしていたスクールアイドル部の面々だったが、急に花丸へ頭を下げた未来の方へと視線が吸い寄せられる。
「昨日ずっと探してたんだけど……、カバンの中から消えてて、どこにも見つからないし……」
「い、いいよいいよ。あれ、もう読み終わってたし」
首を何度も横に振ってそう言う花丸だったが、失くした張本人である未来は気が済まなかった。
「そういうわけにもいかないよ。何かお詫びを……」
「う〜ん……」
顎に手を当てて唸る花丸。彼女のことだ、そう大きなものは要求してこないだろう。
「じゃあ、この後買い物に付き合ってほしいずら」
「買い物?そんなんでいいのか?」
「うん。ちょっと荷物持ちの人が欲しいかなーって」
「わかった、お安い御用!」
そのやりとりを見ていたルビィと善子は何かを察したように苦笑する。未来はそれに気づかないまま、快く花丸の頼みを承諾した。
◉◉◉
「あ、あのー……花丸ちゃん……?」
「ん?どうかしたずら?」
未来と花丸は沼津にある大きな本屋に足を運んでいた。
花丸が台車に乗せた山のように積まれている本を見て、未来は思わず戦慄する。
「もしかして、これ全部買うの……?」
「うん、そうだよ」
まさかここまで大量の荷物だとは思わなかった。店に入る前に見たのだが、花丸がなぜか風呂敷を所持していた事を納得する。
会計を済ませ、持っていた風呂敷に買った本を全て包んだ後、彼女は未来にそれを手渡してきた。
(まあ、約束しちゃったしなあ……)
これくらい仕方ないか、と未来は泣く泣く本の塊を受け取り、背負う。
「未来くんが来てくれて助かったずら〜!」
「それは何より……」
背負っている物のせいで泥棒のような風貌になった未来。
二人は帰宅しようと、すっかり暗くなった夜の街を歩き始めた。
本は幸いメビウスが身体の中にいるおかげで大して重くは感じなかった。
「歩いたらお腹減ったずら〜……」
しばらく歩いていると、花丸が唐突にお腹を抑えてそう言ってくる。
「なにか食べていくか?」
「えっいいの⁉︎」
「あっ、もしかしてナチュラルに奢らされるパターン?」
前から気になってはいたが、花丸に限らずスクールアイドル部に所属しているメンバーは未来に対して遠慮がないように見られる。
……と、頭の中で思っていた事が口に出ていたらしい。花丸は笑いながら言った。
「だって未来くん、部活でサポートとか頑張ってるでしょ?みんなもつい甘えたくなるんじゃないかな?」
「喜んでいいのか悪いのか……」
側にあった鯛焼き屋に寄り、それぞれ一つずつ餡子の鯛焼きを買う。案外高値だったことに気づき、未来は渋々花丸の分のお代まで払った。
二人は鯛焼き片手に再び歩道を歩き出した。
「美味しいずら〜」
「うん、美味い」
味はなかなかいい値段してただけあって、それ相応の価値のあるものだった。焼きたてなので生地もカリカリしているのが好ポイントだ。
不意に花丸が傍に設置されてあった時計を見て呟く。
「もう七時ずら」
「あんなに本を物色してたら、そりゃこんな時間になるわ」
男の先輩としては、今日も彼女を家に送らなくてはならない。
「うわぁーーーーーーーーッ!!」
遠くの方で街行く人々の悲鳴が上がり、何事かと頭を上げる。
すると前方で巨大な火柱が上がっており、そこから逃げるために滝のように人がこちらに押し寄せて来た。
「なんだ……⁉︎火事か⁉︎」
そう思ったのも束の間、火柱が収まり、代わりにとある巨大なモノが夜の空に現れた。
暗い肌に金の装飾が施されたような見た目の、長い首を持つ龍だった。背中には炎で形成された大きな翼がある。
「龍……?」
『あれは……⁉︎』
(メビウス!何か知ってるのか⁉︎)
『いや……わからない……怪獣なのか……⁉︎』
頭の中で未来とメビウスが会話している隣で、花丸は遠くに見える龍を見てポツリと口に出す。
「夏ノ眼龍……?」
◉◉◉
「はははっ……すごいな、こいつは。空想上の存在なだけあるよ」
ビルの屋上に立ち、一冊の小説を片手に抱えながら、ノワールは不気味な笑いを漏らしていた。
「さあ焼くんだナツノメリュウ。ボクの望む光を……炙り出せ!」
闇のオーラが小説に注がれ、連動するようにナツノメリュウが凶暴さを増していく。
口から青い炎を吐き出し、沼津の街を火の海に変えようと動き出したのだ。
「君に物語の結末を変えるだけの力があるかな……?日々ノ未来くん……!」
◉◉◉
「花丸ちゃん!先に避難を!!」
「未来くん⁉︎」
背負っていた風呂敷を置き、鯛焼きを一気に口に放り投げると、未来は流れる人の波に逆らってナツノメリュウのいる方向へと駆け出す。
「なんだっていきなりあんなのが……!」
『凄まじい闇の力だ……。
「ノワールとかいう奴か……!」
やっぱりあの男は味方ではないようだ。これで確定的になった。なにが目的かはわからないが、この怪獣を奴が召喚したのは明らか。
未来は人目につかない、ビルとビルの間にある狭い空間に入り込む。
「メビウーーーース!!」
左腕を天にかかげ、ウルトラマンメビウスへと変身を遂げた。
「テヤァ!」
光とともに現れた巨人は、街を焼くナツノメリュウの前に立ちはだかり、両腕を構える。
長い首の先にある頭をこちらに向け、ナツノメリュウは鋭い目つきでメビウスを睨んだ。
「■■■■ーーーーッ!!」
蒼炎を放射しながら飛び込んでくるナツノメリュウ。
メビウスディフェンサークルを発動させ、前方に突き出して対応する。
(なんて熱量だ……!)
炎を横に弾きながら飛びかかってくるナツノメリュウを受け止め、空から引きずり下ろす。
地上戦に持ち込んだメビウスだが、暴れる巨体をなかなか抑えることができずにいた。
『力が強すぎる……!』
(大人しく……しろぉ!)
「グアッ……!」
長い首で突き飛ばされるメビウス。
そこへすかさず青い炎が迫り、咄嗟にバク転で回避する。
「セヤッ!」
メビュームスラッシュで牽制し、両腕を広げて空へと移動した。
それを追いかけるように、ナツノメリュウは再び背中に炎の翼を作ると、大きくはためかせて上空へと昇った。
「はあ……!はあ……!」
あちこちに火が立ち昇っている街中を、花丸は必死に走る。
空中戦を繰り広げるメビウスとナツノメリュウを見て、何もできない自分を恨んだ。
「あの龍……小説に出てきたのと、特徴が一致してるずら……」
どういうわけかは知らないが、物語の中から現れた存在だということは薄々わかっていた。
「一体どうして……」
「君の小説を利用させてもらったよ」
「……⁉︎」
いつの間にか後方に立っていた黒ずくめの男へ振り返る。
彼の右手には「夏の怒り」と書かれた本が握られていた。
「あなたの……仕業なの……?」
「ああ、そうだよ。ナツノメリュウを呼び出す媒体として利用させてもらった」
「ひどいずら……!どうしてこんなことを⁉︎」
「いやね、ボクが見たいものが一向に覚醒しないもんだからさ。きっかけを作ろうと思って」
「……?なんだかわからないけど……。こんなことのために本を利用するのはやめるずら!」
「アレを引っ込められるかどうかは君と、彼らにかかっているよ」
ノワールは本にさらなる闇を注ぎ込み、ナツノメリュウに力を与える。
「このまま物語の通り、全てを焼き尽くすか……。それともその運命を断ち切るか……」
「■■■■ーーーーッ!!!!」
黒霧が蔓延しだし、ナツノメリュウはまるで苦しむように暴れ出すと、周りにある建物をメビウスごと葬り去ろうとする。
「……させない。させないずら!」
「…………おお……?」
花丸は危険を顧みずにナツノメリュウの足元まで近寄ると、必死に叫ぶ。
(マルは信じるよ……!必ず、ウルトラマンが夏ノ眼龍を……!)
「運命なんか、いくらでも変えられるずら!!」
刹那、花丸の体内から眩い輝きが漏れ出し、ナツノメリュウを覆っていた黒い霧を払い始めた。
(この光は……⁉︎)
ナツノメリュウと取っ組み合いになっていたメビウスが、下を見て光の発生源である花丸に気がつく。
『これはまさか……!』
(”光の欠片”……⁉︎)
ーーーー四の光。他者を思いやりその背中を押す、信託の輝き。
「頑張って!ウルトラマン!!」
花丸から発せられた輝きが、まるでメビウスを応援するように、赤い身体に注ぎ込まれていく。
「ォォオオオオ…………!」
(力が……湧き上がって……!)
『これが……光の欠片の力なのか……⁉︎』
ウルトラマンと人間、双方の存在が呼応し、力を与える。
それが、光の欠片の真の力ーーーー
「ハァッ!!」
メビウスブレスから放たれる炎を拳にまとわせ、ナツノメリュウに強烈な一撃を叩き込む。
「■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!」
悶え苦しむナツノメリュウに向かって、メビウスはさらに追い討ちをかける。
(今、帰してやるからな……!)
クリスタルサークルを回転させ、エネルギーを溜めた後で腕を十字に組む。
「セヤアアアアッッ!!」
必殺光線であるメビュームシュートがナツノメリュウの胴体へと直撃し、途端に時が止まったように動かなくなる。
「……!」
ノワールが持っていた本がひとりでに浮き上がり、ナツノメリュウの元へ上っていく。
ナツノメリュウの身体が光の粒子へと変化し、心地良さそうな表情を浮かべて本の中へと吸い込まれていった。
「やった!やったずらぁ!」
コンクリートの地面に落ちていた”夏の怒り”を拾い上げ、大事そうに抱きしめる花丸。
「……!あれ?」
ふと後ろを見ると、ノワールの姿は既になかった。
◉◉◉
「昨日はひどい目にあったずら……」
「大丈夫だったの?二人とも……」
曜が眉を下げて心配そうにそう聞いてくる。
どうやらニュースで沼津の街に怪獣が現れたと聞いて、気が気でなかったらしい。
「ああ。ウルトラマンが助けにきてくれたからな!」
「失くしてた本も見たかったし、よかったずら」
笑顔で一冊の本の表紙を見せつける花丸に、善子は怪訝な顔で問う。
「で、結局その本はどこにあったのよ?」
「あっ……」
それを聞いてやっと気づいたように、花丸はハッと本を見つめる。
「そういえばあの人……なんだったんだろう……?」
淡島神社の祠。その傍に生えてある大木の枝に、ノワールは寄りかかりながら欠伸をしていた。
近くに生物の気配を感じ取り、咄嗟に横を見る。
「君は……」
階段に立ち、ノワールの方をじっと見る初老の男性。
ノワールには彼が何者か、一目で理解できた。
「やあ。思ったより遅かったね」
「君はエンペラ星人の仲間なのか?」
男性は若干警戒しながら、ノワールへと質問を投げかける。
「仲間……か。向こうはわからないけど、少なくともボクは友達だと思ってるかな」
「メビウスを……あの子達をどうするつもりなんだ」
「はは…………言うわけないだろ」
ノワールは一気に表情を引き締め、木の枝から飛び降りると、男性の横を通り過ぎて階段を下り始める。
「ただ、邪魔をするなら君達でも容赦はしない。ウルトラ兄弟」
ーーーー男性の手には、ライトグリーンで染められたペンライトのようなものが握られていた。
「俺は運命と戦う!」的な話でしたね。今週のオーブでも掘り返されたエピソードなので、タイムリーに感じたかもしれません。
プチ解説はこの世界のウルトラ兄弟について!
エンペラ星人の妨害が解け、地球とウルトラの星を繋ぐゲートが開けるようになった、と以前作中で話しました。
急いでメビウスの増援として地球へ訪れたウルトラ兄弟達なのですが、本格的な登場は第二章からになります!
テレビ版と同じように、基本はメビウスの成長のために手出しはせず、ピンチになった時に助ける感じです。
次回は梨子ちゃん回になります!
その後は善子回……ときて千歌ちゃんの話にいくと思ったかぁ⁉︎
今後のことをちらっと予告すると、梨子ちゃん回の後に善子回、そしてサンシャインの話を一気に11話辺りまで進めて……。第一章のクライマックスとして未来と千歌がメインの話を書こうと思っています。
それでは次回もお楽しみに!