今回はあの宇宙ロボットが登場!
時はほんの少し遡る。
津島善子は自分の部屋を真っ暗にしながら動画サイトで”儀式”の様子を配信していた。
ロウソクに灯した小さな火をひと吹きで消し、自らの誤ちに頭を悩ませる。
「またやってしまった……」
配信を終えた後にガックリと肩を落とす善子の背後には、魔法陣が描かれた大きな布が床に敷かれていた。
「ダメよ善子……もう高校生なんだから。卒業するのよ……!」
そう自分に言い聞かせる善子だったが、そう簡単に心変わりできるはずもなく……。
ーーと、その時。
「ん?」
魔法陣の中心が紫の光に包まれたと思いきや、いつの間にかそこには一つのリモコンのような物が置かれていた。
「なに……?こんなのあったかしら……」
真っ黒に染められたリモコンを手に取り、隅々まで確認するが、このような物が私物にある記憶はなかった。
「ゲームのコントローラー……かな?」
何気なく設置されてあるボタンを押すが、何も起こらない。
「はっ……!こんなことしてる場合じゃない!今日こそ学校に行くのよ!」
自分でも気付かない内に鞄の中に教科書と一緒にリモコンを詰め込んだ善子は、クローゼットから入学式以来に制服を取り出した。
◉◉◉
「いきなり屋上から堕天してしまった……」
善子は廊下に設置されている戸棚の中に身を隠し、膝を抱えていた。暗くて狭い空間が彼女の不安定な心を落ち着かせてくれる。
(なんで屋上に人がいるのよ……!それにずら丸まで……!)
やっと学校に来たのはいいが、この調子じゃクラスに馴染むのにはまだまだ時間がかかりそうであった。
「はぁいヨハ子ちゃん」
「学校来たずらか」
「ひえええええっ!?!?」
棚の引き戸が横に開かれ、光が差し込むのと同時に一組の男女が顔を出してきた。
男の方はスクールアイドル部マネージャー、日々ノ未来。そしてもう片方は善子の幼馴染でもある国木田花丸だった。
咄嗟に棚から飛び出した善子は廊下の壁にもたれかかる体勢になり、二人から顔を背ける。
「き、来たっていうか、たまたま近くを通りかかったから、寄ってみたっていうか……」
(たまたまねえ……)
「それより!クラスのみんな……なんて言ってる?」
「え?」
善子はそわそわした様子で花丸にそう聞く。
「私の事よ!変な子だねー!とか!ヨハネってなにー?とか!リトルデーモンだって、ぷふ。とか!」
「はあ」
「そのリアクション!やっぱり噂になってるのね!そうよねえ……あんな変な事言ったんだもん。終わった、ラグナロクよ!」
そう言って再び身を隠そうと棚の中に隠れる善子。
「まさに、デッドオアライブ!」
(この子こういうキャラだったのか……)
『ヨハネってなんだい?』
(俺に聞くな)
隠れてしまった善子に語りかけるように、花丸は棚に近寄ると彼女を安心させようと言った。
「誰も気にしてないよ」
「でしょ〜?……え?」
「それより、みんなどうしてこないんだろう、とか、悪い事しちゃったのかなーって心配してて」
「……本当?」
「うん」
「本当ね?天界堕天条例に誓って、嘘じゃないわよね?」
「……ずらっ」
花丸が頷くのと同時に棚の戸が開かれ、ガッツポーズをした善子が勢いよく立ち上がる。
「まだいける!まだやり直せる!今から普通の生徒でいければ!……ずら丸!」
「な、なんずらぁ?」
「ヨハネたってのお願いがあるの」
ぶつかりそうなほどに顔を近づける二人の横で、未来は呆然と立ち尽くしていた。
「えっと…………君達……」
「……?だれ?」
「ですよねー」
結局未来は終始幼馴染同士の会話に入れないままだった。
◉◉◉
その日の帰り道。
善子は上機嫌な様子でバス停までの道のりを歩いていた。
(まだチャンスがあるのね……リア充になるチャンスが!)
「きゃっ⁉︎」
スキップをしながら進んで行くと、曲がり角で一人の男性とぶつかってしまい、後ろに尻餅をついてしまう。
その時に落とした鞄が開き、中に入っていたリモコンが教科書と一緒に外へ飛び出してしまった。
「いったたた……。す、すみません!」
目の前に立つ男性に謝ると、慌てて散乱している教科書類をかき集め出す。
「津島……善子ちゃんだね?」
「はい?」
顔を上げた先に見えたものは、全身真っ黒な服を身にまとった青年だつた。
「あの……どちらさまで……」
「…………」
男はじっと善子の顔を見つめた後、転がっているリモコンに視線を移した。
「君、”リトルデーモン”が欲しいんだってね」
「えっ……?」
「君に、とっておきの下僕を用意したんだ」
男が片手を天にかざすと、二人の頭上の空間が捻れ、漆黒のゲートが開かれた。
そこから四つのパーツに分かれた黒いロボットが現れる。
「なっ……な……!」
善子はその光景を見て思わず腰を抜かし、全身を震え上がらせる。
黒いロボットのパーツはたちまち合体していき、瞬く間に一体の人型ロボットへと姿を変えた。
「”キングジョーブラック”……。君にこれをあげよう」
「あ、あんた一体何者よ⁉︎なんなのよこれ⁉︎」
周囲に”闇”が発生し、男の姿を徐々に煙のようなものへと変貌させていく。
「借りるよ、身体」
「うぐっ……!むぅっ…………⁉︎」
黒い煙は善子の口から身体の中へと入り込み、彼女を支配しようと自由を奪う。
「ふう……。少し強引すぎたけど……、やってることはメビウスやツルギと同じだし……大丈夫だよね」
善子の身体を手にした男ーーーーノワールは地面に落ちていたリモコンを拾い上げると、設置されてあるボタンを押し込む。
「さあ。起動だよ」
男が起動ボタンを押した瞬間、キングジョーブラックは右腕の砲口を街のど真ん中に向け、弾丸を発射した。
◉◉◉
ーーーードオォォオオン……!という地鳴りと低い音が聞こえ、未来は自宅の窓から街の方を見る。
黒いロボットが、街を蹂躙する光景が目に飛び込んできた。
「なんだあれ……⁉︎ロボット⁉︎」
『キングジョー……⁉︎』
「メビウス!いくぞ!」
『わかった!』
着の身着のままで家を飛び出した未来は、左腕にメビウスブレスを出すと、慣れた動きで変身する。
「メビウーーーース!!」
「セヤアッ!!」
街中に降り立つのと同時に拳を突き出し、キングジョーブラックの身体を強く殴りつける。
硬い装甲を持つキングジョーには、並大抵の攻撃で倒すことはできないだろう。
(こいつ……ただの怪獣じゃないよな……)
『誰かが持ち込んだとしか考えられないね……。気をつけて、敵はこれだけじゃないかもしれない』
(了解……!)
ギギギ、と音を立てながら右腕の武装ーーーーペダニウムランチャーを放つキングジョーブラック。
その破壊弾丸を避けながら、メビウスは牽制のメビュームスラッシュを放ち、隙をうかがう。
「グアッ…………⁉︎」
右腕のペダニウムランチャーのせいでなかなか近づくことができず、メビウスは防戦を強いられた。
(邪魔くさいなあのライフル!!)
『まずはあれをなんとかしよう!』
(ああ!)
メビウスブレスを操作し、メビュームシュートを撃つ体勢になる。
「セヤアアアア!!」
光線がキングジョーブラックの右腕目掛けて放たれる。が、なんと奴は身体を分離させて光線を避けたのだ。
(なっ…………⁉︎)
『この器用な動き……!やっぱり誰かが裏で操っているな!』
四体のロボットがメビウスの周りを囲み、一斉に電撃を放射してきた。
「グアアアアアアアアアア!!」
(くっ……そ……!)
『このキングジョー……通常のものより強化されて……⁉︎』
瞬間、上から降り注いだ青い光線がパーツの一つを弾き、出来た一瞬の緩みを捉えたメビウスは電撃の縄から脱出する。
(ステラ!)
(だらしないわね)
ヒカリはメビウスの隣に並ぶと、右腕のナイトブレスから光の剣ーーーーナイトビームブレードを伸ばした。
『ヒカリ、こいつは……』
『ああ。どうやら俺達を倒すために強化改造されているようだな』
(二対一なら勝機はあるさ……!)
キングジョーブラックを挟むようにして周囲を回るメビウスとヒカリ。
「デアアアッッ!!」
奴が弾丸を放つと、死角からヒカリが光剣でその身体を斬りつける。
「ハッ!」
メビウスも接近し、キングジョーブラックの胴体に連続でパンチを繰り出した。
「へえ……」
ノワールは二人の巨人とキングジョーブラックの戦いを遠目で眺めている。
「やっぱり……こんな闇じゃ物足りないか……」
『ち、ちょっと!返しなさいよ私の身体!』
「おや?意識を保っているとは驚いた。こちとら手加減しないつもりだったのに」
『いいから返してって言ってるのよ!この変態!』
「ひどいなあ。どうしてボクだけがそう非難されるんだろう?…………やっぱり、”闇”と”光”じゃ全然違うんだね」
ノワールはリモコンを握る手を強め、さらに善子の人格を潰そうと闇の力を増幅させる。
『ひぐっ……⁉︎』
「大人しくしててよ、君にも見せてあげるから。……光が、輝く瞬間ってヤツをさ……!」
(なんだ……⁉︎)
キングジョーブラックは唐突にその場で回転し出すと、そのままペダニウムランチャーを発射。不規則に撃ち出される弾丸がメビウスとヒカリを襲った。
「ウアァアアア……!」
「グアアアアッ……!」
まともに弾を受けた二人は地に倒れ伏し、カラータイマーも青から赤へと点滅してしまう。
『こ、このままじゃウルトラマンが……!ねえやめてよ!お願い!』
「あー……。死んじゃったらまあ、その程度の光だったってことかな」
『そんな……!』
「どのみちこんな所で負けてちゃ話にならないよ。彼らはいずれ死ぬ運命にある」
ーーーー違和感。
先ほどまで感じていた善子の気配が一変し、ノワールは思わず冷や汗を流す。
『なによ……さっきから好き勝手なことばかり言って……!』
「なんだ……?この……」
『ごちゃごちゃ言ってないで!早く私の身体を返せってのーーーーっ!!』
「ッ…………⁉︎」
瞬間、ノワールーーーーもとい善子の身体から眩い光が溢れ出し、ノワールが生み出した黒い煙が身体の中から強制的に追い出される。
「くっ……⁉︎」
「わっ⁉︎戻った⁉︎」
自分の身体を取り戻したことを確認した善子は、ノワールに向かって人差し指を突きつける。
「よくもやってくれたわね!お返しよ!」
善子は手に持っていたリモコンを思い切り地面に叩きつけると、全体重を乗せて踏み潰した。
パリ、と電気が漏れ出し、リモコンは完全に破壊される。
「はは……。そうか、君も……!君も”欠片”を持つ者の一人か……!素晴らしい……素晴らしいよ!!」
「はあ⁉︎何言って……」
「退き際かな」
顔を上げる。
リモコンが破壊されたことで動きの止まったキングジョーブラックは、メビウスとヒカリによって同時に放たれた合体光線を受けていた。
(うおおおおおおお!!!!)
(いけるわ!)
ガードもせずにただ立ち尽くすキングジョーブラックは光線を浴び続け、そのまま四方に鉄くずを飛ばしながら爆発した。
「思わぬ収穫がまた一つ……」
「あっこら!待ちなさい!」
「じゃあね、津島善子ちゃん」
「ヨハネよ!」
そう言い残すと、ノワールは先ほどと同じように自らの身体を霧状に変化させ、蒸発するように消えていった。
◉◉◉
「はあ……はあ……なんとか倒せたな……」
「でも、どうして急に機能が停止したのかしら?」
地に仰向けで倒れる未来と違い、ステラは息一つ切らさずに首を傾げている。こればかりは経験の差というものだろう。
『あのロボット……僕を倒すために作られたとしたら……』
「どうしたメビウス?」
『…………いや、なんでもないよ』
今までの敵とは違い、確実にメビウスを狙った兵器。これからも今回のような奴らが現れるのだとしたら、その戦いは熾烈を極めるだろう。
ーーーーその場合、未来は耐えられるのか。
メビウスはともかく、人間である彼が厳しい戦いについていけるかどうかはわからない。
一緒に戦うとは言ったが、未来が死んでしまってはなんの意味もない。
「メビウス?」
『あっ……いや……。そろそろ、帰ろうか』
「え?お、おう……」
「私達も行きましょうか、ヒカリ」
『そうだな』
ーーーーこの時、日々ノ未来はまだ知らなかった。
メビウスの心に、変化に、本音に。
それがいずれ、二人の関係を引き裂くことになることも知らずに、その日はそのまま帰路についた。
キングジョーブラックは僕の好きな怪獣の一体で、前から登場させたかったので思い切って出してみました。
善子の身体を乗っ取る展開は、別に作者の趣味とかじゃないから……ね?
プチ解説いきましょう。今回は光の欠片について。
光の欠片は第7話でも書いた通り、全部で十存在する、集まると究極の光を生み出すと言われる”現象”です。
超能力のように派手なものではありませんが、誰でも発現する可能性を持つ”ありふれた才能”とでも言いましょうか。ただ、実際に発現までに至った例はかなり少ないです。
最近少しリアルで忙しくなってきたので更新が遅くなる時があるかもです。