メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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メトロン回閉幕。


第17話 愛された街:後編

「いやあ驚かせてすまなかったね。ほら座って座って」

 

「は、はあ……」

 

「お、おじゃまします……?」

 

半信半疑でメトロン星人を捜索し、とある空き家のアパートに入った結果、なんと本物のメトロン星人が実在したのだ。

 

未来はともかく曜はいきなりの展開についていけず、先程からぐるぐると目を回している。

 

「この星に来てもう10年になるが……、あいにくこんな所に住んでるからねえ。こうして家に誰かを上げるのは久方ぶりだよ」

 

(じ、10年……⁉︎)

 

未来と曜が並んで座る卓袱台の向かえには、数分前までは赤、青、黄、とカラフルな色合いの体色を持った宇宙人の姿だった初老の男性が胡座をかいている。おそらくはこの姿が人間態なのだろう。

 

「あの……」

 

「あ、なんか飲む?」

 

ボロボロの冷蔵庫から取り出したのは”眼兎龍茶(めとろんちゃ)”と書かれている缶の容器に入れられたお茶だ。

 

未来と曜、そして自分の分をそれぞれの前に置く。

 

(なんだこれ……)

 

「毒なんか入ってないよ。ほら、ぐーっといきなさいぐーっと」

 

警戒しながらまじまじと缶を見つめる未来にそう言うと、メトロン星人は星形のストローを使って中のお茶を吸い出した。

 

(メビウス……まさかこの人が侵略者じゃないよな?)

 

『……どうだろ……』

 

本当に宇宙人なのかと疑うほどに気さくな彼は、側から見ればただの人間のおっちゃんだ。

 

「……こんなお茶初めて見た……」

 

気づけば隣で曜が眼兎龍茶を手に取り、平然とした表情でそれを口に流し込んでいる。

 

出されたものは飲もう、と未来も缶に手を伸ばし、半ばヤケクソで口に持って行った。

 

「おいち〜!ふぅ〜!」

 

「ごふっ」

 

急に変装を解いて元の姿に戻るメトロン星人に不意をつかれ、思わず茶を吹き出してしまう。

 

「わっ!また変身した!」

 

「はっはっはっ。これが本来の姿だよ」

 

メトロン星人が他の星からやってきたという事実に驚きを隠せない曜。

 

「未来くん、やけに落ち着いてるね?」

 

「ん?そちらの彼は見たところ何か混ざっt」

 

『あぁーーーーっ!ストップストップ!!』

 

むせて喋れない未来に代わってメビウスがメトロン星人の言葉をテレパシーで遮った。

 

『彼の中に僕がいることは内緒なんだ!』

 

「ふむ、なるほどな」

 

「……?」

 

小首を傾げる曜にはメトロン星人が独り言を呟いたようにしか聞こえていないはずだ。

 

 

「ほんとに、宇宙人なんですよね……?」

 

「うん。宇宙人に二言はないよ」

 

(なんだそれ……)

 

「す、すごい……!宇宙人だよ⁉︎ねえ未来くん⁉︎」

 

「う、うん。そだね」

 

未来の身体をゆさゆさと揺する曜。彼の中にまさにその宇宙人がいるので、まるで自分の事を言われているような気分だ。それにステラだって宇宙人だろうに。

 

 

 

 

「それで……どうしてその姿で街中を歩いてたんですか?」

 

「あぁ……、やっぱりか。最近気が抜けるとすぐ元に戻っちゃって……」

 

どうやらあの派手な姿でぶらついていたのは故意ではないらしい。例え一般人に見られても着ぐるみと思われそうなものだが。

 

「そういえば私が最初見た時、すごく落ち込んでる様子でしたけど」

 

「俺が見かけた時もだ。すっごいだるーんってしてたし」

 

「色々あってね……」

 

急にテンションを落とすメトロン星人に、未来と曜は戸惑いながらも話を聞こうとする。

 

「何かあったんですか?」

 

「なに、大した悩みじゃないよ。……近頃、故郷に帰ろうと思っていてね」

 

「故郷に?」

 

「うん。それでな、せめて最後くらいは親しい友人に別れを告げようと思ったんだが……、自分が宇宙人だなんて言い出せなくてね」

 

なんとわざわざ自分がメトロン星から来た宇宙人だとバラすつもりなのか。自分に危険が降りかかる可能性も考えずに。

 

「大丈夫なんですかそれ?」

 

「いいんだよ。最後くらい……、本当の私を見てもらいたいんだ」

 

「…………」

 

そこまでするということは、もう二度と地球に来ることはないのだろうか。……そもそもどうして故郷に帰る必要があるのだろう。

 

地球(ここ)を去るのは、何か事情が?」

 

未来よりも一足先に曜がそう尋ねる。

 

「……親が危篤で……」

 

「えっ、あっ、すみません……」

 

(意外と重い理由だった……)

 

これまでの会話から悪さをする侵略者という可能性はほぼ無くなっただろう。むしろ家族を大切にする心優しい人だ。

 

(ていうか一体親は何歳なんだよっっ!)

 

『未来くんさっきからツッコんでばっかだよ』

 

……何か話を聞いてるうちにほっとけなくなってしまった。

 

聞く限りだとその友人とやらに宇宙人だということを打ち明けられずにいるーーーーその友人とは誰か。

 

こんな田舎だ。未来や曜もどこかで面識のある人間かもしれない。もしそうならば、力になれるはずだ。

 

「ちなみにその友人というのは……?」

 

「ん?そうだなあ……君達くらいの歳の女の子でな……」

 

「「ふむふむ」」

 

「ダイビングショップで働いていて……」

 

「「ふむふ…………ん?」」

 

ーーーーまさか……

 

「名前は松……」

 

 

「「果南ちゃん/さん!?!?」」

 

「……え?知り合い?」

 

 

◉◉◉

 

 

「そうか、果南ちゃんの幼馴染だったか……」

 

夕焼けの陽射しが窓から入り込み、三人の横顔を照らす。

 

「一年ほど前からあの店に通い始めてね。……いやあいいもんだよ、地球の海は」

 

「気持ちいいですもんね、ダイビング」

 

どうやら彼は果南が手伝いをしているダイビングショップの常連客らしいのだ。

 

「本当はお父さんの顔も見たいが、怪我をしてるそうじゃないか。……果南ちゃんは健気でいい子だよ。しっかりしてる」

 

「私達にとっても、お姉さんみたいな人なんですよ」

 

「果南さんなら、あなたが宇宙人だと知っても拒絶したりしないと思いますが……」

 

メトロン星人は気まずそうに頭を掻いた後、以前見かけた時のような脱力感溢れる前屈みの体勢になる。

 

「そうだろうねえ。……でもただ単にな、私に勇気がないだけなんだよ」

 

「勇気、ですか?」

 

「そう、勇気だ」

 

既に空になっている眼兎龍茶の缶を卓袱台の隅に置き、メトロン星人は自らの昔話を語り出した。

 

「さっきこの星に来てから10年経つと言ったね?」

 

「はい。そう聞きましたが」

 

未来は自分で答えておいて、薄々違和感を感じていた。

 

10年もいたのなら、どうして自分達は気付かなかった。このアパートが空き家になる前の住人にはバレていなかったのか、と。

 

「実はな、この内浦に来たのは果南ちゃんの店に初めて行った時とほぼ同じ、一年前なんだよ」

 

「それはつまり……以前は別の場所で暮らしていたと?」

 

「ああ。東京にな」

 

これまた意外な名前を出されて、一瞬言葉が出なくなる。未来達ですらほとんど行ったことがない東京に住んでいたというのだ。

 

確かに一年前ならば、その時にはこのアパートは廃墟同然になっていた。

 

「どうしてわざわざこんな田舎に?」

 

「そう聞くと思ったよ。いいだろう、話すよ」

 

静かに溜息をついた後、メトロン星人は自分の過去について語り出した。

 

 

「東京の方でもな、私と仲良くしてくれた子供達がいたのさ」

 

その頃を懐かしむように天井を見上げるメトロン星人の姿は、どこか寂しげだ。

 

「毎日が楽しくてなあ。子供達と一緒に鬼ごっこをしたり、隠れんぼをしたりな。充実した日々だったよ」

 

「…………」

 

「でも。その子達の親御さんはな、私の事が怪しく見えたみたいでーーーーまあ、実際怪しいのだけどね」

 

笑いながら話す彼の声音には、明らかに隠しきれていない悲しみの感情が宿っていた。

 

「その地を離れざるを得ない状況になったんだ。……でな、その時も今回みたいに、別れ際に子供達だけには自分の正体を明かそうとしたんだよ」

 

気付けば彼は震えているのは声だけでなく、身体までもをふるふると揺らしていた。

 

「……悪いことをしたと思ったよ。子供達にとって宇宙人というものは、やはり恐ろしいのだろうね。この姿を見た時のあの子達の泣き叫ぶ声……今でも思い出しては胸が痛くなる」

 

ーーーー今の地球人にとって、怪獣や宇宙人といった類のものは、恐怖の対象でしかないのだろう。

 

数年前にディノゾールが地球に現れてから、ずっと。

 

 

「どうにか身を隠せる場所を探した私は、ここに辿り着いたってわけさ」

 

「……俺達は、あなたを怖いとは思いません」

 

「ははは、優しいなあ。どうかその心を、私以外の宇宙人達にも向けてやってくれ」

 

少しの間静寂が続き、次に口を開いたのは曜だった。

 

 

「打ち明けましょう。果南ちゃんに!」

 

「え?」

 

「このままじゃ絶対後悔します!私と未来くんも一緒に行きます。だからあなたもーーーー」

 

「ありがとう。ありがとう。ここの人間は皆暖かい」

 

「じゃあ!」

 

「でもいいんだよ。私の私情に、君達まで巻き込むわけにはいかない」

 

ザクザクした腕を左右に振り、メトロン星人は否定の意を示す。

 

「もしも、……もしも、と考えてしまうんだ。もしも果南ちゃんを東京の子供達のように怖がらせてしまったら……それこそ私には耐えられない」

 

「…………それでも」

 

未来は思わず勢いよく立ち上がり、メトロン星人を見下ろした。

 

「もしそうなっても!……次は受け入れてくれるかもしれない。それがダメなら、その次には大丈夫かもしれない!!」

 

「未来くん……」

 

「諦めたらその先は絶対にこないんです!……あと少しで切り拓けるかもしれない道でも、途中で諦めたら終わりだ」

 

曜はハッと何かに気がついたように、未来の横顔を輝いた瞳で見つめていた。

 

「あなたが愛した人間を、もう一度信じてください!!」

 

深く頭を下げる未来に、メトロン星人は一度驚いた様子を見せ、数秒後に一言口にした。

 

 

 

「……眩しいなあ」

 

 

◉◉◉

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

ダイビングショップ。

 

松浦果南は店から出て行く客に深々とお辞儀をした。

 

 

 

「……ふぅ……」

 

「勇気を出して、メトロンさん!」

 

「大丈夫です!俺達が保証します!」

 

物陰から果南の様子を伺う未来、曜、そしてメトロン星人。何も知らない人が見ればただの怪しい集団だ。

 

メトロン星人は人間態に変身すると、震える足を踏み出してダイビングショップの方へと歩いて行く。

 

『大丈夫なのかな……』

 

(なあに、心配するなって。果南さんの懐の深さは伊達じゃない)

 

物理的にも、と付け加えようとして口を閉じる。メビウス相手にこの手の冗談はよしといたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?眼兎さんじゃないですか」

 

眼兎、と呼ばれたのは間違いなくメトロン星人のことだろう。

 

果南は彼に気がつくと、作業の手を止めて声をかけてくれた。

 

「珍しいですね、こんな時間に」

 

「いやね、今日はちょっと言わなくちゃならないことがあって」

 

そう言ってメトロン星人は、一瞬で人間態からいつものド派手な姿へと変身してみせた。

 

「…………」

 

「今まで隠していたが、私は宇宙人なんだ」

 

ただ呆然とメトロン星人の姿を眺める果南に向かって、彼は必死に伝えたいことを口にする。

 

「父さんや、もちろん君にも世話になった。……私は近々、故郷へ帰らなくてはならなくなったんだ。だからその別れをーーーー」

 

メトロン星人が話していると、時折クスリ、と笑い声が混じる。

 

「……うふふっ……」

 

果南は口元に手を当てて、必死に笑いを堪えようとする。が、抑えきれない声が若干漏れ出していたのだ。

 

「果南ちゃん?」

 

メトロン星人の中の不安が徐々に膨れ上がっていくのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー知ってましたよ」

 

「「「『!?!?!?』」」」

 

果南の発言に、メトロン星人はもちろん、隠れていた未来、曜、メビウスまでもが驚愕する。

 

「あなた、ダイビングが終わった後リラックスしてる時にそんな身体に変身してましたし」

 

「え?ま、まさか見てた……⁉︎」

 

至る所で気が抜けまくりじゃないか!とまたもツッコミを入れそうになる未来。

 

「ええ。言っちゃ悪いことなのかなーって、あなたには伝えませんでしたけど」

 

「なんてこった……」

 

頭を抱えるメトロン星人に、果南はさらに「あはは」と声を上げて笑う。

 

「でもそっかぁ……。帰っちゃうんですね」

 

「ああ。残念ながら」

 

「寂しくなります。眼兎さんは、久しぶりの常連さんでしたから」

 

「できることならば、もうしばらくは海の散歩をしてみたかったよ」

 

 

ーーーー沈む夕日が海面に反射し、メトロン星人のシルエットが揺れる。

 

「…………やっぱり、地球の海はいいなあ」

 

ポツリ、と呟いたその言葉は、瞬く間に海へ溶け込んだように思えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……で、これはなに?」

 

「えーと……お土産?」

 

次の日。

 

未来と曜は大量の眼兎龍茶が詰め込まれた段ボール箱を持って部室へとやってきた。

 

メトロン星人が、地球を去る前にお礼がしたいと言って渡してきたものだ。

 

「ってこれ中身全部お茶⁉︎」

 

「こんなにたくさん、どうしたずら?」

 

「いや〜……ちょっと色々あって……」

 

千歌、花丸、ルビィは箱の中の眼兎龍茶を見て不思議そうに首を傾けている。見たことないパッケージなのだから、無理もないだろう。

 

三人が箱の中身に興味津々の中、曜と未来は昨日の出来事について話していた。

 

 

「まさか果南ちゃんがメトロンさんのこと知ってたなんてね」

 

「ああ。……もしかしたらあの店の客にまだ宇宙人がいるのかもな」

 

「まっさかー!」

 

笑い飛ばす曜の顔が一瞬で神妙なものに変わり、彼女は目でしっかりと未来を捉えるとーーーー

 

「未来くんって、変わり者だよね」

 

「な、なんだよいきなり」

 

「えへへ、別に」

 

悪戯っぽく舌を出し笑う曜。

 

彼女の瞳が写す未来の姿は、幼い頃と重なっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

小学校のグラウンド。

 

「やった……」

 

身体をくの字に曲げ、荒い息を整えようと息を吐き出し、思い切り吸う。

 

「やったぁーーーー!!」

 

「うぅ……!」

 

「ついに!ついに曜に勝ったぞおおおおおお!!」

 

挑み続けていた徒競走の勝負。

 

30回ほど先からはもう何回走ったのかすら覚えてない。

 

何度も何度も幼馴染の女子に敗北し、それでも諦めないで走り続けた未来は、ついに勝利を収めることに成功したのだ。

 

「どうだ曜!見たか曜!」

 

「悔しいーーーー!!」

 

手足をバタバタさせながらそう叫ぶ曜は、まさに幼い子供といったところだ。

 

「もう……いいもんっ!別に負けたって!」

 

今まで勝っていた相手に抜かされたのがよほど悔しかったのか、曜は涙を流してそう言った。

 

「よ、曜ちゃん……」

 

「うっ……ぐすっ……」

 

オロオロとした様子で曜に駆け寄る千歌。

 

未来はその光景をじっと見つめた後、キッと表情を引き締めて二人のところへ歩み寄った。

 

曜に手を伸ばしーーーー

 

 

 

 

「なに泣いてるんだよ!ほら、まだまだ走るぞ!」

 

「え……?」

 

「ほらはやく!!」

 

半強制的に曜をスタートラインに連れて行き、その場に立ち止まらせる。

 

「……っ?勝負は未来くんの勝ちじゃ……」

 

「何言ってるんだ!俺はまだ一回しかお前に勝ててない!」

 

「……へ?」

 

「お前も、たった一度負けたくらいでなんだ!俺なんか何回負けたか数えられない!」

 

ニッと笑う未来を見て、まるで太陽のように眩しいと感じた曜は、思わず目を逸らした。

 

ーーーー不思議な感覚。

 

 

「……い、いいよ!やったげようじゃないですか!ヨーソロー!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「えぇー!まだ走るのー⁉︎」

 

ストップウォッチを持つ千歌が不満そうに声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと少しだけーーーー

 

少しだけ、彼と一緒に走りたいと。

 

追いつきたいと、そう思った。

 

そしていつしかそれは…………”少しだけ”じゃなくなった。

 

 

 




曜ちゃん回でもあった16話と17話。でも彼女の本当のメインの話は皆さんご存知のサンシャイン11話ですね。
次回からもオリジナルエピソードをお送りしていきまっす!
予告しておくと……次回はルビィちゃん回にしようかなーと思ってます。

プチ解説イクゾオオオオオ!!ダイナモ感覚(ry

前回と今回のサブタイトル、「愛された街」の元ネタは言わずともわかると思います、ウルトラセブンのメトロン星人回「狙われた街」です。
ウルトラシリーズの中でもかなりの名シーンである卓袱台を間にした対話もこの話が始まりでしたね。
今作に登場したメトロン星人はマックスに登場したメトロン星人をモデルにしております。セブンに出てきたのと同一人物ですが、考え方が少し違っていて面白かったですね。

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