メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回はついにファーストライブ回!……少し詰め込みすぎたかもしれません。


第13話 輝きへの一歩

「じゃあ私、美渡姉と交渉してくる!」

 

「いってら〜」

 

未来達は今、ライブ当日どうやって人を集めるかの話し合い中だ。とりあえずは千歌のもう一人の姉である美渡に頼み込み、会社の従業員を連れてこれないか聞いてみることに。

 

「すごいわね……こんな部屋がいくつもあるの?」

 

「そりゃあまあ、旅館だし」

 

ステラは千歌の部屋に入ってからずっと周りをキョロキョロと伺うような反応を見せていた。初めてという事もあって、旅館の内装が珍しいのだろう。

 

「もしかしてステラちゃん、結構世間知らずのお嬢様だったり?」

 

「別にそういうわけではないけど……」

 

お嬢様という言葉ほどステラに似合わないものはない、と未来は思わず吹き出しそうになるのを……堪えきれなかった。

 

「ぷっ」

 

「なによ」

 

「いや、なんでもない」

 

気を取り直して本題に移ろうと、未来は気怠げに話を進めた。

 

「しっかしあの理事長もキツイ提案してくるよなあ。こんな田舎に人を集めるだなんて……」

 

「でも出来なきゃ、部を作ることすらできないよ」

 

「そうね。最初の頑張り所よ」

 

衣装を製作しながら話す曜と、真剣な眼差しでライブで使う曲の楽譜を見つめている梨子。

 

二人を見ていると、自然と自分も頑張らねば、という気持ちになってくる。

 

「じゃあステラ、俺達は今度配るチラシを作ろう」

 

「わかった」

 

無い知恵を振り絞って何とかデザイン案を出し、サンプルとして紙にイラストや広告を書いていく。

 

「少しお手洗いに行ってくるわ」

 

「いってら〜」

 

席を立つ梨子に手を振りながら、中々上手く決まらないデザインに悩む未来であった。

 

 

 

 

 

 

しばらくすると部屋の(ふすま)が勢いよく開き、何やら神妙な顔つきの千歌が姿を現した。

 

「……おかしい。完璧な作戦のはずだったのに」

 

額にマジックで書かれた”バカチカ”という文字をウェットティッシュで拭く千歌。どうやら交渉は上手くいかなかったらしい。

 

「ダメだったか……。まあ美渡さんの気持ちもわからないわけじゃないけど」

 

「ええっ⁉︎未来くんお姉ちゃん派⁉︎……って梨子ちゃんは?」

 

「トイレ行くって言ってたぞ」

 

「あれ、何やってるの?」

 

千歌が机の隣の襖を開けると、つっかえ棒のような格好で、真下に居座る大型犬を避けようとしている梨子がいた。高海家で飼っている”しいたけ”である。

 

「それよりも人を集める方法でしょ?」

 

「そうだよね、何か考えないと……」

 

「チラシだけじゃ効果薄いかもしれないしなあ」

 

「町内放送で呼びかけたら?頼めばできると思うよ」

 

「あとは沼津かなあ。向こうには、高校いっぱいあるから、スクールアイドルに興味ある高校生もいると思うし」

 

では沼津でもこのチラシを配ろう、と改めてデザイン作りに取り掛かる……が。

 

「あなたそれ……なに?」

 

「千歌と曜と梨子……のつもりだったんだけど……」

 

「……」

 

無言で未来の手元にあるデザイン案を見るステラの目は絶対零度の如く冷ややかだ。絵心など皆無な未来にイラストを描かせたらどうなるかを知る事となった。

 

逆にステラのイラストを拝見する。デフォルメされた3人の少女が、可愛らしく並んでいるのが見えた。

 

「あとはわたしがやるわ。あなたは……配る時に頑張りなさい」

 

「…………はぃ」

 

 

◉◉◉

 

 

次の日。

 

未来達はライブの知らせのチラシを配るために沼津駅前へとやってきていた。

 

普段暮らしている地域とは違い、人の数も建物の量も圧倒的に多く、改めて都会の力というものを感じた。

 

「東京に比べて人は少ないけど、やっぱり都会ね」

 

「そろそろ部活終わった人達が来る頃だよね?」

 

「よーし!気合い入れて配ろう!」

 

一足先にチラシを配ろうと走り出す千歌。

 

「よし……。これ、お願いします!」

 

続いて近くにいた高校生に向かってチラシを突き出すが、まるで何も見えないかのようにスルーされた。

 

「意外と難しい……?」

 

「こういうのは気持ちとタイミングだよ!見てて!」

 

大量の紙束を抱えて駆けていく曜の後ろ姿を呆然と眺める。

 

「ライブのお知らせでーす!よろしくお願いしまーす!」

 

「ライブ?」

 

「はい!」

 

「あなたが歌うの?」

 

「はいっ!来てください!」

 

二人組の女子高生の前に出てきては持っていたチラシをそれぞれに渡し、好感触を掴むことに成功した。

 

(さすがコミュ力の塊……っ!)

 

「感心してないであなたも頑張りなさいよ」

 

「む……。そういうお前はどうなんだよ。ちゃんとできるのか?」

 

「ふん、見てなさい」

 

ステラはゆっくりと一人で歩いていた男性を引き止めーー普段では考えられない満面の笑みを作った。

 

「すみませーん!今度行われるライブのお知らせですっ!もしよかったら来てください!」

 

(あぁ……⁉︎)

 

気味が悪いほどの眩しい笑顔。彼女の本性を知っている未来からしてはとてつもなく恐ろしい光景だった。

 

「え?連絡先?すみませーん、わたし携帯持ってないんです!」

 

男性にしっかりとチラシを受け取らせた後に軽くあしらうようにしてその場を離れるステラ。

 

「チッ……、調子乗んないでほしいわ。あのチャラ男」

 

「お、お前……怖いな」

 

「ほら、突っ立ってないで仕事してマネージャー」

 

「わかってる!」

 

未来も負けじと周りを見渡し、できるだけ大人しくて受け取ってくれそうな人間を探す。が、そんな人物など外見で判断するのは難しい。

 

(くそう……!怖い人に当たりませんように!)

 

『怪獣相手にしてる君がそんな弱気でどうするんだい?』

 

(うるさい!)

 

曜は言うまでもないが、千歌と梨子も意外と多くの人にチラシを配っている。未来の中の焦りがブーストしていった。

 

「ええいままよ……ってあれ?」

 

並んで歩く人影に見覚えがあることに気がつき、その二人組の方へと駆け寄っていった。

 

「花丸ちゃん!それとルビィちゃん!」

 

「ずらっ?」

 

「ピギッ……!」

 

すぐさま花丸とその後ろに隠れるルビィへライブのチラシを手渡す。

 

「ライブ?」

 

「ああ!うちの三人娘が歌うんだ、是非来てくれ!」

 

「やるんですか⁉︎」

 

「ん?」

 

「あっ……うゅぅ……」

 

未来と目が合った瞬間に膝を抱えて花丸の後ろに座り込むルビィ。怖い顔だったろうか、と内心反省する。

 

『任せて』

 

(はい?……うっ!)

 

気づくとメビウスがいつの間にか主人格を奪い、小さくなっているルビィの側に近寄っていた。

 

「絶対満員にしなきゃならないんだ。ルビィちゃんも、来てくれると嬉しいな」

 

「ぁ……は、はぃ……」

 

メビウスが発した爽やかな笑顔と声によって警戒心が解かれたのか、ルビィは紅潮させた顔をチラシで隠しながら小さくそう答えた。

 

『……もう全部お前一人でいいんじゃないかな?』

 

(ダメだよ。ちゃんと仕事しなよ)

 

『冗談だよ』

 

身体を元に戻してもらい、その場から離れて再びチラシ配りへと戻ろうとする未来。

 

 

「あ、君!それボクにも一枚くれないかな?」

 

「え?あ、もちろんです!どうぞ!」

 

黒い上着に黒いズボン……と、全身黒ずくめな男性がそう言って未来に歩み寄って来た。妙な雰囲気を纏った、清潔感のある男だ。

 

束から一枚、男性へと渡す。

 

「ありがとう。必ず行くよ、このライブ」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

スクールアイドルが好きなのだろうか。やけに積極的な人だな、と違和感を感じつつも、未来はその場を後にしようとする。

 

『……ッ……⁉︎』

 

(どうかしたかメビウス?)

 

『……ごめん。なんか具合が……』

 

(人混みにあてられたか?)

 

『いや、それなら同化してる君も影響を受けるはずだ』

 

(よくわからんが気をつけてくれよ。俺とお前は文字通り一心同体なんだし)

 

男性を尻目に、気を取り直してチラシを配ろうと足を動かす。

 

「あれ、ちょっと待って」

 

「……?はい」

 

先ほどの黒ずくめの男性に呼び止められ、未来はキョトンとした表情になる。

 

「グループ名はなんていうんだい?」

 

「え?」

 

自分の手の中にある紙に目を落とす。

 

「グループ名……?」

 

 

◉◉◉

 

 

「まさか……決めてないなんて」

 

「梨子ちゃんだって忘れてたくせに」

 

「とにかく、早く決めなきゃ」

 

夕方、いつも通り海岸で練習を行なっていた千歌達は、未だに決まっていなかったグループ名の話題を持ち出した。

 

「そうだよねえ……。どうせなら学校の名前入ってる方がいいよね?”浦の星スクールガールズ”とか?」

 

「まんまじゃない」

 

「じゃあ梨子ちゃん決めてよー」

 

「ええっ⁉︎」

 

「そうだね!ほら、東京で最先端の言葉とか!」

 

ストレッチの最中である三人の会話に聞き耳を立てる未来とステラ。

 

「えっと……じゃあ、”スリーマーメイド”とか……」

 

「「いちにーさんしー!いちにーさんしー!」」

 

「待って!今の無し⁉︎」

 

(これ絶対俺にも回ってくるよな……)

 

しばらく決まることはなさそうだな、と思いつつ嫌な予感も同時に察している未来であった。

 

「曜は何かないのか?」

 

自分に矛先が向けられる前に曜へと振る。

 

ランニングしながら目を閉じて考えている曜が数秒後に一言。

 

「”制服少女隊”!どう?」

 

「ないな」

 

「ないわね」

 

「ないかな」

 

「そうね」

 

「えぇーーーー⁉︎」

 

それにしても、こんな大雑把に決めていいものなのだろうか。グループ名ということは、そのチームにずっと付いて回る看板のようなものだ。その場のノリで決定しないほうがいいと思うが……。

 

「じゃあ未来くんの番ね」

 

「ですよねええええ」

 

一応考えはしたが、それらしいものがポンポン浮かぶほど未来には発想力はない。

 

「じゃあ今まで出たのを合わせて、”浦の星少女隊”とか……」

 

「ちょ、ちょっと!スリーマーメイド要素ないじゃない!」

 

梨子が怒りにも恥辱にも見える表情でそう訴えてきた。正直組み合わせるのならスリーマーメイドは入らないと判断したので……。

 

「あっはははは!……ごめんなー梨子」

 

「未来くんの馬鹿!」

 

「ん……?」

 

ステラが何かに気づいたように、海が広がる後方へと視線を飛ばした。

 

そこには木の棒か何かで削られるようにして書かれた、”Aqours”という文字があった。

 

「この文字……なんて読むのかしら?」

 

「えーきゅーあわーず……」

 

「あきゅあ?」

 

「もしかして、”アクア”?」

 

「水ってこと?」

 

「あー……そゆこと……」

 

しばらく見惚れるように、五人はその場で固まったままその文字を眺めていた。

 

その沈黙を破ったのは、千歌だった。

 

「水かあ……。なんか、良くない?グループ名に」

 

「これを?誰が書いたのかもわからないのに?」

 

「だからいいんだよ!名前決めようとしている時に、この名前に出会った。それって、すごく大切なんじゃないかな!」

 

「……そうかもね!」

 

「このままじゃ、いつまで経っても決まりそうにないし」

 

千歌に続いて曜と梨子も賛同していき、ほぼ決定したような雰囲気が漂い始める。

 

「いいんじゃないかな」

 

「ええ。いい響き」

 

「じゃあ決定ね!この出会いに感謝して、今から私達は!」

 

千歌は広大な海原に向かって勢いよく飛び上がりーーーー

 

 

◉◉◉

 

 

次の日からもライブに人を集めるためにチラシ配りや町内放送をしたりと、様々な努力を施した。

 

もちろんダンスや曲にも改良を加え、当日に最高のパフォーマンスができるように最後まで、夜遅くまで作業を続けた。

 

「ここの振り付け、ちょっと派手すぎないか?」

 

「じゃあ少し抑えて……、この辺でアピールを……」

 

「なあ、千歌は……って」

 

いつの間にかテーブルに突っ伏して眠りこけている千歌に、未来は側にあった掛け布団をそっと被せる。

 

「今日はもう終わりにしましょうか」

 

「そうだね……ってもうこんな時間⁉︎バス終わっちゃってる……」

 

「ええ⁉︎」

 

ステラは千歌の家に泊まり、梨子と未来はお隣ーーーー三人は問題ないが、曜の家は少し離れた場所にあるため、バスが無いとかなりの時間を要する。

 

「もう夜遅いし、俺が送って行くよ」

 

「え?そ、そんな悪いよ!」

 

「だいじょぶだいじょぶ。ほら、行くぞー」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

ぴしゃっ、と襖が閉まる音が部屋の中に響く。

 

 

 

 

 

 

未来に手を引かれて部屋を後にする曜を見て、ステラは梨子に尋ねる。

 

「曜も照れる時があるのね」

 

「え?」

 

「いえ、なんでもないわ……。片付けはわたしがやっておくから」

 

散らばったプリント類に手を伸ばすステラに、梨子は構わずその手伝いを始めた。

 

「ううん、私もやるわ。ステラちゃんも遠慮しないでね、私達、友達なんだから」

 

「…………」

 

故郷を離れてから久しぶりに感じる暖かみの連続に戸惑いつつも、ステラは必死にポーカーフェイスを装った。

 

 

◉◉◉

 

 

(大丈夫だよな……警察とかいないよな……?)

 

未来は周りをキョロキョロとうかがいながら、曜を後ろに乗せた自転車で歩道を疾走していた。絶賛二人乗り中なので、誰かに呼び止められでもしたらお終いだ。

 

(にしても、なんか全然疲れないな……)

 

「み、み、み、未来くん⁉︎」

 

「なにー?」

 

「なにーって!スピード出し過ぎじゃない⁉︎」

 

「え?別にそんなことは……」

 

言いかけてやっと気づく。今の自分はメビウスと身体能力を共有しているのだ。どうりでいくらペダルを漕いでも疲れないわけだ。

 

「おっ……と」

 

「ひゃああっ⁉︎」

 

小石にでもつまづいたのか、若干大きめに車輪が地面を離れた。

 

曜からしたらバイクにでも乗っている気分ーーーーいや、それ以上の速度が出ているかもしれない。

 

振り落とされまいと必死に未来の胴にしがみついている。

 

「早く帰らないと心配するだろうし、ちょっとトバすぞ!」

 

「えっ?ええ⁉︎うわわわわああああ!?!?」

 

鎌鼬か何かとでも勘違いしそうな速度が、少女の悲鳴と共に街中を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「あ、あの……ごめん。ほんとごめん……」

 

曜の自宅に着いたはいいが、その時には既に彼女の体力は限界に達していた。

 

ぐったりとした身体とむすっとした表情でこちらに視線を突き刺してくる曜に、思わず目を逸らしたくなる。

 

「怖かったんだよ?」

 

「……はい……調子に乗りすぎました」

 

文字通りぐうの音も出ない未来をしばらく見つめた後、曜は何かを面白がるように吹き出した。

 

「ぷっ……!あははっ!冗談冗談!でもすごいね未来くん。いつの間にあんな体力付けたの?」

 

「えっと……まあ、色々ありまして」

 

「へえ、色々ね……」

 

じっと未来の顔を隅々まで観察した後、曜は彼に背を向けて玄関へと歩いて行った。

 

「じゃ、送ってくれてありがとね、未来くん。また明日」

 

「あ、ああ。おやすみ曜」

 

置いてかれたような心細さが一瞬胸をよぎり、未来はビクビクしながら再び自転車のサドルへ跨った。

 

(怒ってるよな……?)

 

今後メビウスの力を使う時は色々と気をつけよう、と反省する未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

「やっぱり慣れないわ……。本当にこんなに短くて大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって!μ'sの最初のライブの衣装だって……ほら!」

 

ライブ当日。凄まじい緊張感の中、千歌達は体育館の裏手で開始時間を待っていた。

 

「はあ……やっぱりやめておけばよかったかも、スクールアイドル」

 

「大丈夫!ステージ出ちゃえば忘れるよ!」

 

この空間にいると、なぜか踊らないはずの自分まで緊張してくる。震える全身に力を入れながら、未来は腕に巻いている時計を確認した。

 

『ついに見れるんだね……ライブ!』

 

(嬉しそうだな)

 

『当たり前さ!初めてスクールアイドルのことを聞いてから、ずっと気になってたんだから!』

 

少し時間が経った後、照明等の器具の調子を確認していたステラが舞台裏へと駆け上ってきた。

 

「あっ、ステラちゃん!」

 

「準備は全部完了よ。クラスの人達も、配置に付いてるわ」

 

そう、このライブはこの場にいる五人だけで完成されるものじゃない。千歌の呼びかけで協力してくれることになった数人の生徒、そしてーーーー見にきてくれるであろう、地域の人々。

 

数々の協力が重なって織り成すものだ。

 

「一応言っておくけど……」

 

「ん?」

 

ステラは他の三人には聞こえないように、未来の側に寄って耳打ちをした。

 

「慰める準備もしといたほうがいいわよ」

 

「は……?」

 

不穏なセリフを囁いたステラは、そのまま何事もなかったかのように円形に並ぶ三人の少女の近くへ歩み寄って行った。

 

「未来くんとステラちゃんも!」

 

未来は千歌と曜の間に、ステラは曜と梨子の間にそれぞれ入り、深呼吸をして一旦落ち着く。

 

「そろそろだね……えと、どうするんだっけ?」

 

「たしか、こうやって手を重ねて……」

 

五人が片手を前に出し、添えるように掌を重ねていく……が。

 

「……繋ごっか」

 

「え?」

 

千歌に言われるままに重ねた手を戻し、隣にある手を優しく握る。

 

「こうやって互いに手を繋いで……ね?あったかくて、好き」

 

「ほんとだ」

 

静寂の中、外で降り注ぐ雨音と雷が落ちる音が耳をつんざく。

 

「雨……だな」

 

「みんな、来てくれるかしら?」

 

「もし、来てくれなかったら……」

 

「じゃあ、ここでやめて終わりにする?」

 

「…………くすっ」

 

「「「「「あははははっ……!」」」」」

 

ライブの前のひと時が終わりを告げ、千歌は目の色を変えて声を張り上げた。

 

「さあ行こう!今、全力で!輝こう!」

 

「「「「「Aqours!サンシャイン!!」」」」」

 

 

◉◉◉

 

 

マネージャーである未来とステラは一度舞台裏から移動し、一般のお客さん達が集まる場所に向かった。

 

そこで見た光景に、未来は息を呑むこととなった。

 

「……こっ…………これだけ……なのか……?」

 

体育館に集まったのは浦の星の生徒が数人と、マスクで顔を隠し、厚手のコートを羽織った少女のみ。満員とは程遠い、絶望的な数の差だった。

 

「……そう気を落とさないことね。最初なんて大体こんなものよ」

 

「……わかってる。大丈夫さ、あの三人ならきっと」

 

ステージの幕が上がり、照明の光と共に三色の衣装を身に纏った千歌、曜、梨子の姿が目に飛び込んで来た。

 

「……っ……」

 

千歌も集まった人数にショックを受けたのか、ほんの一瞬だけ表情が濁る。……しかし。

 

「私達は、スクールアイドル、せーのっ!」

 

「「「Aqoursです!!」」」

 

堂々と足を踏み出し、精一杯の想いを観客にぶつけようとする千歌達。

 

「私達は、その輝きと!」

 

「諦めない気持ちと!」

 

「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました!」

 

 

 

 

 

「目標は…………スクールアイドル、μ'sです!!」

 

憧れの存在を口にし、ますます三人の顔が引き締まっていくのがわかった。

 

「聞いてください!」

 

千歌の掛け声と同時に会場の静まりがピークに達し、ついにAqoursのーーーーファーストライブが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーダイスキだったらダイジョウブ!ーー

 

 

 

その場にいる者はーーーーそれぞれの、様々な想いを馳せていた。

 

三人を見守る者。誰かを待つ者。誰かに素直になれない者…………。

 

少女達の歌声によって彩られていく空間の外側にーーーー尋常ならざる”闇”が、近づいていたのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「やあ……今始まったところか……」

 

豪雨の中傘も持たずに校舎の前に立つ一人の黒ずくめの青年。その瞳には見る者に恐怖を与えるギラついた”闇”が込められていた。

 

青年の手中に闇のオーラが集まり、しっかりとした質量、密度を持ってテニスボールほどの大きさまで巨大化していく。

 

「さあ……見せてもらうよ、()()の輝きを……!」

 

青年は手の中にある”闇の波動”を放ち、傍に設置されていた電柱の導線を一撃で両断してしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

三人の輝きが頂点に達しようとした刹那、バツンッ!という不快な音と共に体育館中に暗闇が広がった。

 

「……なっ……⁉︎」

 

「停電……⁉︎」

 

当然照明の明かりも、音楽も中断され、その場にいた全員から困惑の声が漏れ始める。

 

(こんな時に…………ッッ!!)

 

未来は今までにないほどに脳をフル回転させ、今自分が何をすべきかを必死に模索する。

 

『ステラ……、ステラ!』

 

「はっ……!」

 

呆然と立ち尽くしていたステラが、ヒカリの声で我に帰る。

 

(どうしたんだヒカリ⁉︎何か手があるのか⁉︎)

 

『未来くん落ち着くんだ!』

 

(落ち着いていられるか!)

 

『ええい二人とも静かにしろ!!』

 

ヒカリの一喝で未来とメビウスは宿主であるステラの方へ視線を移す。

 

『この施設はそれなりに設備が整っている、ならどこかに予備電源になる何かがあるはずだ』

 

「行ってくる!」

 

「あっ!ちょっと未来⁉︎」

 

ステラの伸ばした手は未来には届かず、ヒカリの助言を聞くなり彼は体育館を飛び出して行ってしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

(妙だ……、なんでこんなに車が……?)

 

予備電源が置かれているかもしれない倉庫へ向かうために全力疾走していると、窓から外の景色が見えてきた。

 

「いや、今はそんなことより……ッ!」

 

視線の向きを前方に戻し、一秒でも早く倉庫に辿り着きたいと手と足を動かした。

 

途中、一人の男性とすれ違う。

 

未来がやってきたーー体育館のある方向へと向かおうとする、黒ずくめの青年。

 

(今の人……どこかで……)

 

『未来くん!もしかしてあれじゃーーーー』

 

 

 

 

一つの扉を指してそうメビウスが言いかけたところで、視界は一気にクリアに戻った。

 

周囲を照らす光が戻り、拍子抜けした未来は思わず立ち止まってしまう。

 

「電気が戻った……?」

 

何が起こったのか確認するため、倉庫へほとんど特攻していく形で入って行った。

 

「……⁉︎あなたは……!」

 

「あれっ……ダイヤさん⁉︎どうしてここに⁉︎」

 

「あ……これは……」

 

ダイヤの足元には予備電源の機器が置かれており、おそらくそのおかげで明かりが元に戻ったのだろう。

 

「あっ……ありがとうございます!!」

 

「ち、ちょっとあなた!お待ちなさい!」

 

ダイヤの言葉を聞かずに、未来は再び体育館に戻ろうと足を動かした。

 

 

◉◉◉

 

 

「あんた開始時間まちがえたでしょー!!」

 

その声が広い空間に響き渡った瞬間、その場を支配していた絶対的な闇が一瞬で消え去った。

 

数人程度しかいなかった体育館には大量の人が訪れーー()()になるまでそれは止まらなかった。

 

「やっぱり私……バカチカだ……!」

 

三人の少女から再び”輝き”が取り戻され、闇を消し去っていく。

 

 

 

 

(なんてことだ……!素晴らしい……!素晴らしいよ!)

 

黒ずくめの青年は傍にある壁に背を預け、高笑いしそうになるのを堪えた。

 

(これが……”光”か……。高海……千歌ちゃん……!)

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃああああああっ!!」

 

物凄い勢いと形相で体育館出入り口に現れたのは、日々ノ未来だった。

 

未来は数分前とは打って変わった情景の変化に目を疑い、近くにいた少女ーーーーステラに一言尋ねた。

 

「えっ…………満員?」

 

「満員……ね」

 

「夢じゃないのか……!」

 

「た、確かめてみるわ……!」

 

無言でナイトブレードを取り出してこちらに構えてくるステラを止め、自分で頰を強く引っ張る。

 

ーーーー確かに、痛い。

 

「夢じゃ、ないんだ!」

 

 

 

 

ーーダイスキがあれば ダイジョウブさーー

 

音楽が終わり、ステージ上でビシッと動きを止める三つの光。

 

数秒後、会場を満たす拍手と歓声が湧き上がった。

 

 

 

 

 

「彼女達は言いました!」

 

「スクールアイドルは、これからも広がっていく!どこまでだって行ける!どんな夢だって叶えられると!」

 

「ーーーー」

 

 

 

 

一人の少女ーーーーダイヤがステージの前に立ち、三人に向かってはっきりとした口調で述べた。

 

 

「これは今までの、スクールアイドルの努力と、街の人たちの善意があっての成功ですわ!勘違いしないように!」

 

「ーーーーわかってます!」

 

「……っ?」

 

「でも……、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!上手く言えないけど……。今しかない、瞬間だから!」

 

だからーーーー

 

 

だからーーーーーーーー!

 

 

 

「だから!」

 

「「「輝きたい!!」」」

 

 

 

 

その日、また新たなスクールアイドルーーーーAqours(アクア)が誕生した。

 

 

 

 




かなり駆け足で進めてしまいました……。ということで次回からはサンシャイン4話、ルビィ&花丸がメインとなります!

そして、今回のプチ解説!

今回や第10話でも登場した黒ずくめの青年。彼もこの作品でのオリジナルキャラクターですが、とある宇宙人と深い関わりがあります。……まあ彼の能力の描写とか見れば大体お察しできると思いますが。
光である未来と対になるキャラとして登場させました。若干変態じみてるのはお気になさらず。

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