メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

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今回でツルギとステラとのいざこざをひと段落つけたかったので、少し多めです。


第11話 騎士の心

「きゃあああああ!!」

 

「うわぁぁあああぁぁあ!!」

 

ボガールモンスの放った光弾の衝撃は辺り一帯を吹き飛ばし、避難していた浦の星の生徒までも巻き込まれてしまった。

 

「うぐっ……!」

 

「曜ちゃん!」

 

勢いよく地面を転がる曜。頭部を強打したのか、瞼を閉じて気を失っている。

 

慌てて駆けつけようとする千歌と梨子だったが、道を塞ぐように連続した振動と爆発が襲ってくる。

 

(ウルトラマンが……もう一人?)

 

少し離れた場所にいる赤い巨人に、その隣に立つ蒼い巨人。

 

ボガールモンスの攻撃に為す術もなく、放たれる光弾を防御するだけで精一杯のようだった。

 

「千歌ちゃん⁉︎早く逃げないと!」

 

「う、うん!」

 

曜を背負った梨子が声を張り上げてそう呼びかける。

 

千歌は周りをキョロキョロと伺い、一人欠けていることに気がついた。

 

「未来くんがいない……」

 

「えっ……」

 

梨子も未来が近くにいないことを理解したのか、一瞬顔の血の気が引いていく。

 

「もう避難したかもしれないわ、私達も逃げないと!」

 

「梨子ちゃんは曜ちゃんをお願い!」

 

「千歌ちゃん⁉︎ちょっと!!」

 

梨子に背を向けて走り出す千歌。その先にあるのは、すぐ側にボガールモンスとウルトラマンが激闘を繰り広げている校舎だ。

 

(嫌な予感がする……!無事でいて未来くん!)

 

 

◉◉◉

 

 

次々に撃ち出される光の弾を防御しつつ、ツルギは目の前にいる灰色の怪物を睨みつけていた。

 

(ボガール……ボガール……!ボガール!!)

 

『……⁉︎ステラ⁉︎』

 

「ハァァァァアアア……!」

 

抜刀するような動きでナイトブレスからナイトビームブレードを伸ばし、迫り来る光弾を切り落とす。

 

(ボガールを……殺す!!)

 

『待て!ステラ!!』

 

ツルギが制止するのも構わずに、ステラは蒼い巨体を動かしてボガールモンスへと特攻していく。

 

自らに傷害を加える光弾を払い、ボガールモンスの身体を切り裂こうとブレードを振るった。

 

(あいつ……!)

 

『危険だ……!あのボガール……体内エネルギーが凄まじく膨張している!』

 

(それどういうことだよメビウス⁉︎)

 

『奴が死ぬ時に、大規模な爆発が起こる!』

 

 

 

 

「デアアアアアアアアア!!」

 

胴体に向かって大振りな斬撃を繰り出すツルギ。怒りに身を任せて剣を振るうその姿はまるで鬼神のようだ。

 

『ステラ落ち着け……!こいつは……!』

 

(うるさい!)

 

「ダァアアアアアアアアアア!!!!」

 

胴に刃を突き立てようと腕を引く。だが、その一瞬の隙を見逃さなかったボガールモンスは、鋭い鉤爪でツルギの鎧に向かってカウンター攻撃を繰り出してきた。

 

「グア……ッ!」

 

(くそ!くそ!くそぉ!!)

 

ツルギに追撃しようと、灰色の剛腕が真横から迫る。

 

 

 

 

 

 

 

「セヤ!!」

 

メビュームシュートがボガールモンス腕を直撃。間一髪で危機を逃れたツルギは後ろへ下がり、距離を取った。

 

『大丈夫か二人とも!』

 

(世話が焼けるなまったく……!)

 

横に立つメビウスに向かって、ツルギは鋭い視線を向ける。

 

(邪魔を……するなぁ!!)

 

再びボガールモンスへ立ち向かおうとするツルギだったが、痛みに耐えられずにすぐ膝をついてしまった。

 

(うっ……ぐ……ッ!!)

 

『ステラ!』

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

ツルギに接近しようとするボガールモンス。

 

メビウスは近づけさせまいと前に立ち、メビュームブレードを伸ばし構える。

 

「セヤァ!!」

 

すれ違い様にボガールモンスの頭部を切りつけ、振り向いた勢いを利用してさらに一撃を加えた。

 

(硬い……!)

 

ボガールモンスの皮膚に大した外傷は見られない。ダメージもほとんど受けていないのだろう。

 

「ハァァァァアアア……!」

 

メビウスブレスに力を溜め、左腕に”∞”字の炎を纏わせる。

 

「セヤァア!!」

 

「■■■■ーーーー!!」

 

横から迫る巨腕をいなし、ボガールモンスの腹部に高熱の拳を叩き込んだ。

 

炎がボガールモンスの身体を突き抜け、天へと昇っていく。

 

(通った!)

 

『未来くん!まだだ!』

 

(なにっ……⁉︎)

 

「■■■■ァァァアアア!!!!」

 

ボガールモンスは全身から灼熱の熱風を放出し、メビウスとツルギは堪らず側から離れる。

 

灰色の巨体が徐々に縮小していき、最後には紫色の球体となってどこかへ消えてしまった。

 

(また……逃げられた……!)

 

 

◉◉◉

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「いっ……つ……!」

 

木に背中を預けて脱力するステラ。未来も体力を使い果たしたのか、肩で息をして立っているのがやっとだ。

 

ステラの胸の中から青い光が浮かんでくると、中からメビウスと同じような球体が現れた。

 

『大丈夫かステラ?』

 

「ええ……」

 

メビウスも未来の身体から分離し、オレンジ色の光となって目の前に現れる。

 

『……君達に聞きたい。どうして僕らの邪魔をしてまで、ボガールにこだわるんだ?』

 

『それは……』

 

「……」

 

言葉を詰まらせるツルギとステラに、未来は我慢しきれないといった様子で怒号を吐き出した。

 

「言えよ!これ以上勝手なことをするなら……!」

 

「するなら、なに?」

 

ありったけの殺意が込められた瞳が未来を映す。だが今回ばかりは気圧されるわけにはいかないと、未来はそれに思い切り拳を握って耐えた。

 

『……俺は以前、ウルトラの星で”命の固形化”に関する研究をしていた』

 

「ちょっと……ツルギ⁉︎」

 

『ステラ、何度も詮索されては迷惑だ。全て話そう』

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

ツルギから語られる話には、ボガール達の悪虐の限りが尽くされていた。

 

アーブという星を滅ぼしただけでは飽き足らず、他の惑星までも次々に餌場として食い荒らしたという。

 

そして、地球に来るまでに出会ったノイド星の少女についても。

 

 

 

 

『俺達は、ボガールに復讐する。例えどんな犠牲を払ってもだ』

 

未来はツルギの言葉を聞き、どこからか湧いてくる怒りに身体を震わせた。

 

「そのためなら……人間なんかどうなってもいいってのか……?」

 

『人間など……アーブの知性体に比べれば、下等な存在だ』

 

「んなこと……言うなよ」

 

一歩一歩に怒りを込め、ツルギとステラの所まで進む未来。

 

『未来くん!』

 

「命の研究をしてた奴が……!そんなこと言うなよ!!」

 

『…………ッ』

 

「あなたにはわからないわ」

 

ボガールに受けた傷を抱えるように押さえ、足を震わせて立ち上がるステラの目は、どこか遠くをみているようだった。

 

「わかるはずがない。大事なもの全てを……奪われた気持ちはね」

 

「いいや、わかる」

 

「……なんですって?」

 

 

未来の過去の情景が走馬灯の如く脳裏に映し出され、父と母を失った時の悲しみと憎しみが蘇ってきた。

 

「俺も父さんと母さんを怪獣に殺されてる。……でもだからこそだ」

 

今度はステラとしっかり目を合わせ、言った。

 

「復讐心で周りが見えなくなって……そのせいで沢山の命が消えるなんて嫌だ!」

 

「うるさい……」

 

「俺は2度とあんな光景は見たくない。だからメビウスと一緒に戦うって決めたんだ!決して復讐のためなんかじゃない!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!黙れぇ!!」

 

噛み付くような勢いで未来の胸ぐらを掴み、鬼の如き形相で激昂するステラ。

 

「わたしはあなたとは違う!そんなに心は強くない!……ねえ教えてよ、わたしは……わたし達は、どうすればいいっていうのよ!!」

 

段々と手に込められた力が無くなり、するっと未来の首元から彼女の小さな手が滑り落ちた。

 

「もう……終わらせたいよ……」

 

大粒の雫が宝石のような瞳から零れ落ち、地面を濡らす。

 

『ステラちゃん……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!見つけた!」

 

「えっ……?」

 

息を荒げて駆けつけてきたのは、未来の幼馴染である少女ーー高海千歌だった。

 

メビウスとツルギは慌てて未来とステラの身体の中に入り込み、息を潜めた。

 

「千歌⁉︎なんでここに……」

 

「なんで、じゃないでしょ⁉︎もう!また急にいなくなっちゃうんだから!こんな大変な時に!!」

 

「ご、ごめん」

 

「何度も何度も……もう、やめてよね……」

 

千歌は未来が無事だとわかったことで身体の力が抜け、地面にへたり、と座り込んでしまう。

 

「あれ?」

 

「……どうかしたの?」

 

「ステラがいない……」

 

後ろを振り返ると、そこにいたはずの黒髪の少女の姿は無かった。

 

「……?いたのは未来くんだけだったよ?」

 

(……ステラ……)

 

 

戦闘の後に充満する、光線で焼かれた空気の焦げ臭い匂い。今回はそれが、いつもより遥かに不快に感じた。

 

 

◉◉◉

 

 

その日の放課後。

 

「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」

 

千歌、曜、そして梨子も加えた三人は、砂浜でダンスの練習をしている真っ最中だ。

 

梨子の方も曲が完成したらしく、早速今度は振り付けを決めようという話になったのだ。

 

「三人ともー!そろそろ休憩入れたらどうだー⁉︎」

 

「「「はーい!」」」

 

三人分のミネラルウォーターを運んで来た未来が砂浜でステップを踏む少女達に言う。

 

未来の手から水の入ったペットボトルを受け取っていく三人。その内一人は、頭部に軽く包帯を巻いていた。

 

「曜、動いて大丈夫なのか……?」

 

「え?あぁ、これね。ちょっと切っただけだから問題ないよ!」

 

「でも、痛かったら無理しないでね」

 

「そうだよ!悪くなったら大変なんだから!」

 

曜に巻かれている包帯を見て改めて胸を痛めたのか、千歌と梨子も心配するように言葉をかけた。

 

「えへへ。心配してくれてありがとう」

 

「マネージャーとして、アイドルの体調管理もこなさないとだからな」

 

未来がニッと無邪気な笑顔を送ると、なぜか曜の顔がたちまちりんごのように真っ赤になる。顔から火でも吹くのではないだろうか。

 

「よ、よーそろぉ……」

 

「なんだ急に大人しくなって」

 

「な、なんでもないよっ」

 

ぷいっと未来から逃げるようにそっぽを向く曜。彼女はごく稀にこのような反応を見せることがあるのだが…………やはり幼馴染である千歌や未来にもその理由はわからずにいた。

 

『ほら、やっぱり曜ちゃんの様子おかしいって』

 

(いや、曜はたまにこんな感じになるぞ?)

 

『あ、あれぇ?やっぱり僕の勘違い……』

 

 

 

 

四人は砂浜に尻餅をつき、深呼吸をして空を仰ぐ。

 

気温もそこまで寒いわけではなく、思わず眠ってしまいそうになるくらい気持ちいい空間だ。

 

リラックスした雰囲気の中、黒髪をショートボブに揃えた少女の顔が頭の中に浮かんでくる。

 

 

ーーーーわたし達は、どうすればいいっていうのよ!!

 

 

(なあメビウス)

 

『……ステラちゃんと、ツルギのことかい?』

 

(ああ)

 

 

あの冷めた態度から初めて彼女が見せた、内に溜め込んでいた感情。

 

ノイド星とやらの文化がどうなのかは知らないが、ステラは最初に浦の星に来た時”習慣を取り戻したい”と言っていたはずだ。つまり、彼女も元は未来や千歌と同じ学生で……おそらく年もそう離れていない。

 

そんな少女が、ツルギというウルトラマンと共に戦いへ身を投じている。……そんなの普通じゃない。

 

(俺が言えた口じゃないけど……)

 

『何か引っかかることが?』

 

(あいつらの話を聞いて……正直同情はしたよ)

 

自分と同じ……いや、それ以上の境遇にいる者達。重ならないわけがない。

 

(だから……少しだけ、俺にも非があるなって……)

 

『……たまーに素直になるよね、君って』

 

(うるさい)

 

『まあ確かに……僕も彼らには思う所もある。でも、あんなやり方が許せるわけじゃない』

 

(それだよ。だから次にボガールが出た時は、ちゃんと協力して倒す)

 

数秒間驚いたように、そして考えるように、わざとらしくメビウスが会話を途切らせた。

 

『うん、僕もそのつもりだった。……でもどうやって?』

 

(どうもこうもないさ。ただ勝手に、俺達があいつらのサポートに回ればいい)

 

『ははっ……君らしい』

 

「だろ?」と心中で会話していたはずの未来の顔が、不意に笑顔で満たされていった。

 

いつの間にかつり上がっている口角に気がついた梨子が、首を傾げて問いを投げる。

 

「嬉しそうね。何かあったの?」

 

「いや……別に、”なんでもない”っ!」

 

千歌は必死に否定する未来の横顔を見つめた後、目を伏せた。

 

 

 

四人で雑談をしていると、話題が自然とウルトラマンのことに移っていった。

 

数年ぶりに地球に現れた怪獣と、それを倒し街を守ってくれる正義のヒーローの話。

 

「そういえば私、小さい時はまだここにいなかったけど……みんなは経験してるんだよね」

 

梨子が言う経験、とはおそらく怪獣に襲われることだろう。世界で初めて確認された怪獣、ディノゾール。何の偶然か、奴はこの内浦に現れたのだ。

 

「うん。あの時は……すっごく怖かったなぁ……」

 

「……そうだな」

 

しんみりとした雰囲気になってしまい、まずいと思ったのか梨子がオロオロと表情を変える。

 

「でも、ウルトラマンが来てくれた」

 

「そうだよっ!今回だって!」

 

「あれ?でも……」

 

曜は何か疑問に思ったように口元に手を添えて考える素振りを見せる。

 

「あの時見たのと、最近来たウルトラマン、別物だよね?」

 

「あっ、確かに……そうかも」

 

一瞬ドキッとした後、正体がバレていないことを確信して胸をなでおろす未来。

 

「どっちも”ウルトラマン”じゃややこしいわね」

 

「じゃあさじゃあさっ!私達で名前決めようよ!」

 

『⁉︎』

 

メビウスが動揺してるのが手に取るようにわかった。これで変な名前を付けられたらたまったものじゃないだろう。

 

「ウルトラマンヨーソロー!」

 

「ウルトラマンオレンジ!」

 

「ぷっ……」

 

『……やめさせてくれないかな?』

 

(しょうがないなあ……ぷふっ……)

 

好き勝手に意見を出し合う千歌達に向き直り、未来は人差し指を立てて注目を集めた。

 

「”メビウス”、なんてどうかな」

 

「メビウス……?」

 

「無限大って意味ね」

 

「メビウスかあ……かっこいい!未来くんセンスあるじゃん!」

 

「決まりだな!」

 

これでいいだろう、と心の中でメビウスに確認する。

 

『ありがとう……本当にありがとう……』

 

(一つ借しで)

 

 

どうやら名前は”ウルトラマンメビウス”でOKが出たようだ。

 

「ウルトラマンメビウス……私達の……ヒーロー!」

 

 

◉◉◉

 

 

「な、なあメビウス……本当にここにいるのか?」

 

『間違いないよ。近くで、もう戦闘が始まってる』

 

真夜中に家を抜け出し、未来とメビウスは内浦にそびえ立つ山の中へと足を踏み入れていた。

 

二人はツルギとステラ……そしてボガールの気配を追ってここまでやってきたのだ。

 

ーーーーギィン……!

 

鉄がぶつかり合うような音が届き、瞬時に神経を張り巡らせた。

 

『……!来るよ!』

 

「わ、わかった!」

 

身体の主導権をメビウスへ渡し、未来とメビウスは山道を疾風の如き速度で駆け抜けた。

 

風が全身を打つ中、遠くの方で死闘を繰り広げている二つの影の姿を捉える。

 

間違いなく、ステラとボガールだ。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

「くっ……!」

 

ナイトブレードを駆使し、自分よりも一回り二回り巨大な体躯に立ち向かう少女。

 

『あれは……昼に逃げた奴か!』

 

「突っ込むよ!」

 

左腕にメビウスブレスを出し、拳に力を注ぎ込む。

 

『「はあああああっっ!!」』

 

縮小化しているボガールモンスの頭部に渾身のパンチが炸裂し、バランスを崩した隙にメビュームブレードを展開、全身を切り刻む。

 

やはり未来自身が身体を動かすよりも、戦闘慣れしているであろうメビウスが戦った方が有利だ。ウルトラマンとしての活動はメビウス本人の力が半減しているため出来ないのが余計に悔やまれる。

 

「あなた達……!なんでここに!!」

 

「助太刀だ!こいつは強い……!でも俺達が協力すればきっと勝てる!」

 

未来が主人格に戻った後、ステラの隣へ並び立つ。

 

「どういう風の吹きまわしよ!邪魔をしないでって言ったでしょう⁉︎」

 

ステラは地を蹴り、前にいる未来とメビウスを突き飛ばした後、ボガールの腹部にナイトブレードで突き、素早く引き抜いた。

 

「■■■■ァァァアアア!!」

 

その瞬間、怒り狂ったボガールモンスは身体を肥大化させようと紫色に発光する。

 

それを見たステラと未来はそれぞれメビウスブレス、ナイトブレスを構えた。

 

「奴を倒すのはお前だ」

 

「……はぁ⁉︎」

 

「俺達はできる限りお前らのサポートをする。邪魔はしない」

 

「何言って……」

 

「俺はお前が嫌いだ。でも……お前の力を借りたいんだ。みんなの命を、救うために」

 

「命を、救う……?」

 

構えていた右腕を顔まで寄せて、ステラはじっとナイトブレスを見つめた。

 

 

 

 

 

ーーーーステラは優しい子ねえ。

 

ーーーー父さんの自慢の娘だよ。

 

 

 

 

 

 

 

(声……?これは……)

 

聞き慣れた、心が落ち着く声音。

 

もう二度と聞けないはずの、かつての故郷での思い出が見える。

 

それが幻覚なのか、それともナイトブレスが見せているものなのか、ステラには全くわからなかった。

 

『ステラの記憶が、俺の中にも流れ込んで来る……』

 

今までに起こることのなかった現象だ。

 

『まさか……これがウルトラマンキングが言っていた……』

 

未来とメビウスという存在によって引き出された、ナイトブレスの奇跡の力。ツルギにはそれで納得することしかできなかった。

 

「わたしも」

 

「え?」

 

「わたしもあなたが大っ嫌いよ」

 

「え?あ、うん……しってた……」

 

「だから、存分に利用してやるわ」

 

にやけた笑顔を晒すステラに、未来もつられて笑いながら答えた。

 

「ああ、そうしろ」

 

 

ステラはナイトブレスにナイトブレードを装填。

 

そして未来は、メビウスブレスを高く突き上げーーーー

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーー心の底から笑えたのは、いつぶりだろう。

 

戦闘中、そんな疑問が頭の中に浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

「デュアッッ!!」

 

「テヤァッッ!!」

 

以前では考えられないようなコンビネーションでボガールモンスに一撃、また一撃と攻撃をヒットさせていくメビウスとツルギ。

 

タフなボガールモンスといえど辛いのか、拳一発蹴り一発で動きが鈍くなっていくのがわかった。

 

「■■■■ーーーーーーーー!!!!」

 

尻尾を触手のように操り、二体の巨人を仕留めようと迫って来る。が、息が合い始めたメビウスとツルギにそれを迎撃することなど容易い。

 

「「ハァッ!!」」

 

メビュームブレード、ナイトビームブレードを伸ばし、縦に振るう。

 

二つの光剣が交差し、バツ印の斬撃が空中を飛び、ボガールモンスの胴体を切りつける。

 

(挟んで!)

 

(了解!)

 

メビウスは左から、ツルギは右からの攻撃に臨む。

 

相変わらずボガールモンスは巨人を食おうと抗うが、被膜を広げる前にダメージが蓄積され、ほとんど動けないでいる。

 

「■■……!■■……」

 

弱っているのだろう、ボガールモンスの鳴き声も小さくなってきた。

 

瞬間、ボガールモンスの体に赤みが帯び始め、同時に高熱と水蒸気を放出し始めた。

 

『くっ……!』

 

『そうだ、こいつは……!』

 

体内に膨大なエネルギーを抱えているのだ。いわば”移動する火薬庫”。トドメを刺せば、その身体を中心に大規模な爆発を引き起こしてしまう。

 

 

 

 

(どうすれば……いいんだ⁉︎)

 

(…………)

 

立ち止まるメビウスを追い越し、ツルギがボガールモンスへと突撃する。

 

「デヤアアアアッッ!!」

 

ナイトビームブレードをボガールモンスの胴体へ突き刺し、そのまま抱えようとするツルギ。

 

『……⁉︎何をするつもりだ!』

 

(ステラ……⁉︎)

 

 

(こいつは、わたし達が引き受ける!)

 

ーーーーステラは今、”自分達が犠牲となる”と同義の言葉を口にした。

 

『俺とステラでこいつを持ち上げ……空中で爆破させるんだ!』

 

『そんなことをしたら……君達の命は……!』

 

『百も承知だ!!』

 

(死ぬつもりなんて毛頭ないわ……!だから……死なないように、神頼みでもしててくれない?)

 

 

 

ツルギが地面を蹴ると、同時に串刺し状態のボガールモンスも飛び上がり、ドンドン上空へと昇っていく。

 

『……随分と君らしくない行動だな』

 

(それはあなたもでしょツルギ…………いいえ)

 

 

 

 

 

 

 

(ヒカリ)

 

ーーーードオォォォォオオオオオン!!!!

 

真夜中に太陽が現れたかと思うほどの閃光が世界を照らし、凄まじい音が地上まで届いた。

 

 

◉◉◉

 

 

『……!しっかりするんだ!ツルギ!』

 

(ステラ⁉︎おいステラ!!)

 

青い肌を露わにし横たわる巨人に、メビウスは必死に呼びかけた。

 

ツルギを纏っていた鎧は砕け散り、元のウルトラマンとしての姿。

 

『がはっ……!惑星アーブよ……!』

 

(感謝しても……しきれない……わね……うっ……!)

 

(もういい!喋るな!)

 

鎧のおかげで生きて帰ってこれた。が、二人の命はそう長くは保たない。

 

ゼロ距離であの爆発をまともに受けたのだ、無事なわけがない。

 

『まだ……死なない……』

 

(えぇ……!アークボガールを……この手で殺す、までは……!)

 

ツルギーーーーいや、()()()が伸ばした手を咄嗟に握るメビウス。本当にただ祈ることしかできない自分達のことを、激しく呪った。

 

『何か……何か彼らを助ける方法は……!』

 

(誰でもいい……誰でもいいから……!ツルギを、ステラを……)

 

魂すら吐き出しかねない勢いで、未来は叫ぶ。

 

(助けてくれえええええ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

天からカーテンのような光が、青い巨人を包み込むようにして降り注いできたのだ。

 

『あれは……!』

 

メビウスは何かに気づいたように立ち上がり、光の根源に視線を向けた。

 

(ウルトラマン……なのか……?)

 

メビウスやヒカリ……それとは違う何かを漂わせている。例えるなら、以前会ったウルトラの父に似た雰囲気を放つ、”女性型のウルトラマン”がそこにいた。

 

『ウルトラの母……!』

 

ヒカリと共に吸い込まれるかの如く、メビウスも光の中へと溶け込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『生きるのです、ウルトラマンとして』

 

ウルトラの母は一言そう言うと、ヒカリの身体に手をかざし、治療を開始した。

 

(そうか……、エンペラ星人の妨害が無くなって、地球に干渉できるようになったから……!)

 

 

しばらく経つと、ヒカリの身体からすうっと一人の少女が抜け出てきた。ヒカリと融合していた、ステラだ。

 

「あれ……わたし……」

 

隣に横たわるヒカリの姿を見て、何が起こっているのか理解したのだろう、ステラは若干悲しそうに顔を伏せた。

 

(ウルトラの母が治療をしてくれた。……なら、わたしはもう……必要ない……)

 

 

ヒカリの治療が終わると今度はメビウスに掌を向け、心地いい、暖かな光を浴びせてくる。

 

ーーーーウルトラの母が持つ、癒しの力。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなた達はこれで、私達の戦いに巻き込まれる必要は無くなりました。これからは元の生活に戻るのです』

 

『あのっ!待ってください!』

 

発言をしたのは、メビウスだった。

 

『未来くんを巻き込んだのは、僕の責任です……だから、こんなことを言う権利はないかもしれない』

 

「メビウス……?」

 

『でも!僕は最後まで彼と戦いたい!どうか……許可してくれないでしょうか!』

 

ウルトラの母に必死に訴えかけるメビウス。

 

未来はその姿に、ただただ視線を注ぐことしかできなかった。

 

『俺も……です……』

 

よろよろと苦しそうに立ち上がるヒカリを、ステラは気にかけるように側へと駆け寄る。

 

『まだやりたいことが残っています。だからそれまでは……彼女と共にいたい』

 

ウルトラの母は二人を交互に見つめ、そして言った。

 

『それはあなた達が決めることではありません。…………どうするのですか?』

 

そう言って視線を送った先は、未来とステラだった。

 

ーーーー答えは、前から決まっている。

 

 

「俺はやります。自分の故郷がピンチなら……俺は守りたい。友達も、街も、地球も!」

 

「わたしもヒカリと一緒にいたい。……だって、まだ死んでないもの。彼は”別れる時は死ぬ時”って言ってましたから」

 

ウルトラの母をまっすぐに見据え、返答を待つ二人の少年少女。

 

 

『……わかりました。私からそう伝えておきます』

 

未来とステラの顔が、一気に明るくなる。メビウスとヒカリも、安心したのか深いため息を吐き出していた。

 

『ただし……この先に待っているのは、これまでとは比べものにならない試練ばかりです。後戻りはできませんよ?』

 

「「わかっています」」

 

ハモったことが気に入らなかったのか、ステラはギロッと未来をにらんだ後、不機嫌そうにウルトラの母へ視線を戻す。

 

 

 

『……よき友をお持ちになりましたね』

 

ウルトラの母はメビウスとヒカリにそう言い残し、霧のようにうっすらと消えていった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ヒカリって名前だったんだな、お前」

 

『……む』

 

光の空間から抜け出した後、元の山道でステラと未来は目を覚ました。

 

気不味い雰囲気の中、未来は何か話題を出そうと思い、口にした言葉がそれだった。

 

『そういえばヒカリって……どこかで聞いたような……』

 

オレンジ色の球体に変身したメビウスがふよふよと未来の周りを漂う。

 

『自慢ではないが、スターマークを授与されている』

 

『ああ!そうだ!何かの書類で見たよ!君の記事!』

 

興奮気味にそう言葉を浴びせるメビウスに、ヒカリは若干引き気味だ。

 

『うわぁ……ごめんなさい!今まで敬語も使わずに!』

 

『やめてくれ。俺のことは呼び捨てで構わん』

 

『そんな恐れ多い……』

 

光の国事情に全くついていけない未来とステラは、顔を見合わせて苦笑する。

 

「これからは、俺達協力し合うってことでいいのかな?」

 

「……別に」

 

素っ気なく背を向けるステラは、さっさと帰るご様子だ。

 

「また明日ね…………()()

 

「ああ、また明日」

 

違和感を感じつつも、その正体がわからないまま、未来とメビウスは帰路に着いた。

 

 

 

 

 




次回からはサンシャイン3話に突入!
そういえば敵宇宙人全然出せてない……メトロン回も書きたいのに……ちくしょう。

今回の解説はオリキャラである七星ステラについて。

年は人間で言うと16歳〜17歳に位置します。
今はかなり毒のある性格ですが、ボガールの襲撃を受ける前は穏やかで内気、そして臆病という真逆の性格でした。
見た目がショートボブというのは完全に作者の趣味です。ちなみにイメージカラーは紺色です。

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