書いてるうちに13話の原型はほぼ無くなってしまいました(焦)
オリジナルの話が大半を占めているのでご了承を。
微かな予感
閉じられた門の前に立って、生徒達は校舎を見上げる。
夕焼けに照らされてオレンジ色に輝くそれを眺め、いつまでも続くことはない時間が過ぎていく。
「……閉めよう」
永遠に続くのかと思うほど長い沈黙は、一人の少年の一声によって終わることとなった。
頷いた九人の少女達がそれぞれ左右の門に触れ、最後の別れを告げようとする。
少年もまた一歩踏み出し、左腕を前に出そうとして動きを止めた。包帯で繋がれて首からぶら下げられていることをすっかり忘れていた。
使えない左腕の代わりに湿布だらけの右腕を出し、門を閉めようと力を込める。が、うまく力むことができない。
「……一緒に」
隣で笑う少女の力が加わり、門はやっと動いてくれた。
……笑顔で、そう笑顔で。
この学校との別れは笑顔で、と心に決めた。
だから————
「…………はは」
無理やり力を込めた口角が抵抗するように上下する。
自分の意思とは関係なく流れてきそうになる雫を死ぬ気で堪え、皆は浦の星学院の門を閉じた。
◉◉◉
千歌達はラブライブで優勝した。未来とメビウスの戦いも終わった。
そして卒業式を終えた翌日、未来達は海岸に集まっては宙に浮かぶオレンジ色の輝きを見つめた。
「もう行くのか?」
『うん、名残惜しいけど……いつまでも居座るわけにはいかないよ』
十人の少年少女達と視線を交差させたメビウスが言う。
『それより未来くんは大丈夫なのかい?』
「ああ……全治一ヶ月ってところらしい」
包帯の中に埋もれる左腕を見て苦笑する。
全力を超えたメビュームインパクトを放ったんだ。腕が吹き飛ばなかっただけマシと考えよう。
「それよりベリアルは……」
「そうですわ!私達、まだきちんとお礼を伝えてないですもの!」
「すーぐ帰っちゃうんだもんなあ」
ベリアルは今まで行方不明になっていた分の報告やら何やらですぐに光の国へ帰還してしまったのだ。
「お礼なら俺がみんなの分もバッチリ伝えたし、大丈夫だよ」
エンペラ星人との最後の戦いが終わった後、彼はノワールと一体化したまま光の国へ向かった。
犯罪者として連行していったのか、それとも単独で実体化することはできないだけなのか。
まあ、あいつが大人しく逮捕されるとは思えないが————
「揃ってるわね」
背後からかけられた声に反応して振り向く。
松葉杖で身体を支えながらこちらに寄ってくるショートボブの少女が一人。
「ステラもヒカリに付いていくんだよな?」
「ええ、ずっと千歌の家でお世話になるのも嫌だし」
「そんな心配しなくていいのに」
奇跡的に一命を取り留めたステラもこうして徐々に回復していっている。
本人によるとサンシャインブレイブの光を浴びてから随分と意識がはっきりするようになったらしい。
————究極の光。
かつてはただの予言だと言われてきたものが様々な奇跡を残してくれた。
『しかし安心してくれ。いつか俺が必ず、ステラを受け入れてくれる星を————』
「え?いやよ、死ぬまで一緒にいてくれるって言ってたじゃない」
『ん、んん……?なんか最初と違くないか……?』
相変わらず親子のような二人を見て笑みがこぼれる。
「そっか…………これで終わりなんだな」
エンペラ星人は倒し、黒点に覆われていた太陽も宇宙警備隊の活躍によりいつもの輝きを取り戻した。
メビウス達がこの地球にいる意味もなくなったわけだ。
一年間共に過ごしてきた仲間達は、未来のなかで想像以上に大きな存在になっていたらしい。名残惜しくて仕方がない。
……けれど、
『未来くん、みんな』
「ん?」
『————今までありがとう。君達と過ごした日々を、僕は決して忘れることはないだろう』
そう言って彼らは光に包まれ、巨人の姿へと変身する。
海のなかに立つ赤と青の巨人を見上げ、未来達は最高の笑顔で返答した。
「ああ!!」
「メビウスもヒカリも、ステラちゃんも!これから元気でね!」
(わたし達がいなくなっても、しっかりね)
テレパシーで届くステラの声を聞き、未来は強く胸元を握る。
「……大丈夫。一人で……いや、俺達だけでも行けるさ」
「どこまでもね」
横に並ぶ千歌達と顔を見合わせた後、未来は再び目の前の友達へと目を向けた。
「だから安心して、光の国に帰ってくれ」
その言葉を最後に会話は途切れた。
ゆっくりと頷いたメビウス、ヒカリが海から飛び立ち、青空のなかを——いや、光の国を目指して飛翔する。
「さようならずらーーーーっ!!」
「元気でねーーーー!!」
「身体に気をつけなさいよーーーー!!」
「向こうに行ってもしっかりするのですわよーーーー!!」
どんどん離れていくウルトラマンの背中に向けて、皆それぞれ見送りの言葉を投げかけた。
「…………っ!」
「未来くん……?」
不意にその場を駆け出す未来。
「はあっ……はあっ……!くっそ……身体が重い……!!」
海岸沿いの道路を走る。
彼らの姿が見えなくなるまで走り続け、やがてバス停の前で未来は立ち止まった。
「……すぅ」
エネルギーを溜めるように息を吸い、必殺技を放つようにそれを開放した。
「ありがとおおおおおおおおッッ!!!!」
きっとこの声が聞こえていると信じて、日々ノ未来は叫ぶ。
飛び去っていった彼らの影が空色のなかに溶けた後も、未来はその青空を眺め続けていた。
————それが、約一年前の出来事。
◉◉◉
「未来くん、梨子ちゃん、おはヨーソロー!」
「おはよう曜ちゃん」
「おはよう」
バスを降り、校門前まで歩いてきたところで曜と遭遇する。
浦の星学院で最後の卒業式が行われてから約一年。高校三年となっていた未来達にも卒業シーズンが到来していた。
「あれ、千歌ちゃんは?」
「起きないから置いてきた」
「たまにはいい薬になるわっ」
「あはは……久しぶりだね……」
今頃美渡辺りに叩き起こされている頃だろう。まあ間違いなく遅刻だ。
統合先の制服に身を包んだ未来達が廊下を歩きながら何気ない会話を咲かせていく。
「あ、じゃあ私はここで」
「じゃね」
「ああ」
別クラスである梨子と別れ、曜と未来は並んで一つの教室のなかへと足を踏み入れた。
「もう一年も経つんだね」
「そうだな……。この一年は平和でよかったよ」
当然と言うべきなのだろうが、エンペラ星人を倒してからは怪獣騒ぎも起きていない。いたって平凡な日々が続いていた。
大学受験もなんとか終え、あとはこの学校から巣立つのみだ。
「……なんだよ?」
隣の席に座る曜がにやにやとこちらを眺めてくることに気がつき、未来はおそるおそる尋ねた。
「最近、千歌ちゃんとはどうなの?」
「……なんだよそれ」
「どうなのどうなの?」
「だーもう!つっつくな!!」
からかうように小突いてくる曜の腕を鬱陶しそうに払いのけ、未来は頬をかいた。
「別に変わったことなんかないよ」
「またそれかあ。大学は別になるんでしょ?そろそろちゃんとしないと!」
「ダイヤさんみたいなこと言うなあ」
恥ずかしながら千歌との関係は一年前からほとんど進展していなかった。
お互いに気になっているのは確かだが、両者あと一歩が足りない。
————おい見ろよこれ。
————太平洋に異変?
「……ん?」
ふと周囲から聞こえてきた会話が耳に滑り込んでくる。
咄嗟に携帯を取り出してニュースサイトを開くと、「太平洋から高熱」の文字が視界に入った。
記事を読み進めていくと、やけに胸の内に引っかかる単語が出てくる。
「……太平洋のど真ん中に高熱を放つ謎の物体……生命体の可能性も——」
————怪獣、という単語が脳裏をよぎるも、すぐに頭のなかで否定した。
エンペラ星人はもういないはずだ。……なら地球を狙う他の宇宙人————
徐々に悪い方向に移っていく思考を振り切り、未来はスマートフォンの画面から視線を外した。
「……まさかな」
◉◉◉
「一年……そうか、もうそんなに……」
沼津の街を歩く青年がふとつぶやく。
清潔感のある、灰色のトレンチコートを身につけた男は街行く人々に混ざりながら、微かに匂う潮風に微笑んだ。
『……ったく、またここに来ることになるとはな』
「嬉しそうだね」
『んなわけねえだろ、はっ倒すぞ』
「君はボクのなかにいるんだ。本心を読み取るくらい造作もない」
さて、と額に触れて目を瞑る。
遠くにいる人物と繋がる感覚が走り、青年は脳内で言葉を紡いでいく。
(こっちの周囲に異常はないよ。今のところは太平洋のアレに集中したほうがいいね)
————そう、了解。こっちも同じ。どうやら後始末が必要なのは海の方だけみたいね。次の指示までぶらぶらしてていいわよ。騒ぎを起こしたら斬るから。
(了解。久しぶりに来たんだ、後で一緒にお茶でもしようよ)
————奢ってくれるなら。
その言葉を最後にテレパシーは途絶える。
青年は澄み切った空を見上げ、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まったく、まさかこんな道を歩むことになるとはね……。人生何があるかわからないね、これは」
ふと遠くに見える人影を見やる。
何やら急いでいる様子の、みかん色が似合いそうな少女。制服を着ているあたり遅刻しそうなのだろう。
何気なく腕時計を確認し、今度は気の毒そうに笑った。
「……もう九時過ぎか。ドンマイ」
涙目でバスに駆け込んでいく少女を見送った後、青年は踵を返して歩き出した。
残り数話で今作は完結となります。
アニメの方も劇場版が決定しましたが、一体どのような話になるんですかね?
もしかしたらテレビシリーズとは別にAqoursの物語を描いていくとか……?