なお前回記述した通り、今回で毎日更新は終わりです。
二対の巨人がお互いの前に立ちはだかり、張り詰めた緊張感で周囲が満たされる。
「言ったはずだ、ウルトラマンは決して余には勝てぬ……ッ!!」
エンペラ星人は再び右腕に赤黒い稲妻を集中させると、メビウスに向かって一直線にそれを放った。
「————」
刹那、メビウスは開いた右手を前に向け、眩い閃光が迸る。
皇帝の放ったレゾリューム光線は、メビウスから発せられた光の波によって一瞬でかき消されてしまった。
「……まさか、余の力を超えるだと……?」
(当たり前だ)
予想外の事態に動揺を隠せないでいる奴へと語りかける。
これは地球人とウルトラマン、両方の願い……その全てが詰まった想いの結晶。
暗黒の皇帝などが放つ孤独な力なんかに————負けるはずがないんだよ……!!
『みんな……!いくよ!!』
————うん!!!!
黄金の巨人がその場を駆け出し、エンペラ星人との接近戦へ持ち込もうとする。
「小癪な……!!」
(……!鎧が————)
周囲に転がっていたアーマードダークネスがエンペラ星人のもとへ集まり出し、次々と奴の身体に装着されていく。
ダークネストライデントを構えたエンペラ星人に接近したメビウスはその薙ぎ払いを回避し、懐に潜り込んでは光の速さで拳を打ち出す。
「ぬぅ……!!」
『(ハアッ!!)』
エンペラ星人の放った黒い火球をアクロバティックな動きで避け、距離をとった後に両腕を交差させる。
「セヤッ!」
メビウスブレスとナイトブレス。その両方から同時にブレードを展開し、二刀流の状態で再び奴へと迫った。
「ヌアアアッッ!!」
『(うおおおおおおッッ!!)』
エンペラ星人の持つ槍とブレードがぶつかり合い、しばらく凄まじい攻防が互角に続く。
やがて僅かな差を制したメビウスがエンペラ星人の胸部へと強烈な斬撃を浴びせた。
「ぐっ……!!」
奴の身を守るアーマードダークネスが裂け、血のように光の粒子が漏れ出す。
数分前の劣勢が無かったかのように、今はメビウスがエンペラ星人よりも優位に立っているのだ。
————それっ!!
拳を。
————やあっ!!
蹴りを。
————はあああッ!!
斬撃を。
ありとあらゆる方法……思いつく限りの攻撃をありったけに与えていく。
未来とメビウス……そして千歌達の本気。これまで紡いできた想い全てをぶつける。
一発一発————それぞれの輝きがダメージと共にエンペラ星人へと伝わっていった。
『(はああああああッッ!!)』
「…………ッッ!!!!」
全力を乗せたパンチが奴のど真ん中へ炸裂し、衝撃を逃しきれずにエンペラ星人は後方へ吹き飛んだ。
「……光の者達よ……なぜ闇を恐れる……!?全てが静寂に支配された素晴らしい世界を……!!」
(そんなの……決まってるよ!!)
千歌の言葉と同時に黄金色の拳が放たれ、エンペラ星人へと殺到。
(私達、寒いの苦手だしね……!!)
二体の巨人の間に距離が開き、その隙を見逃さなかったメビウスがすぐさま体勢を整えて光線を放とうとする。
『(はあああああ……!!)』
両の拳を合わせた後左腕を上に、右腕を下へ。次に流れるような動きで右腕を天へと掲げる。
そのまま手を十字に組み、二つのブレスで増幅したエネルギーを一気に解放。
「…………ッッ!!」
黄金色の光線が奴へと伸びる。
瞬時に危機を感じ取ったのか、エンペラ星人は咄嗟に両腕を前に突き出すとそれを受け止めてみせた。
「ォォオオオオオ……!!」
『(うおおおおおおおッッ!!)』
驚くべきことにエンペラ星人は凄まじい執念を発揮し、互角の状況へと持ち込んだ。
光と闇の巨人による根比べ。光線を絶えず放ち続けるメビウスと、それを受け止めるエンペラ星人。
(……みんな)
光の空間のなかで千歌達が顔を見合わせる。
お互いに同じことを考えているのだな、と微かに笑い、千歌は世界中に聞こえるような声を張り上げた。
(歌おう……みんなで!!)
(千歌……!)
今まで披露することのなかった“ウルトラマンの曲”。
ずっと前から完成していたそれを————この空間から、全ての命に向けて。
ーーウルトラの奇跡ーー
光線を放つメビウスの体内から聞こえる歌声は、まるで音楽そのものが輝いているように見えるほど美しかった。
ここまで戦ってきた未来とメビウスの想い。そしてそれを支えてきた千歌達の心。
そしてこの先に待つ輝きを願った歌。
(……私達は今まで必死に頑張って、ここまで来た!)
(そうずら。……自分を信じて、仲間を信じて!)
(自分らしさを貫いて、みんなと肩を並べて……!!)
————ひび割れる音。
(何度くじけそうになっても……這い上がってきた!)
(大好きな場所を守るために!!)
(次の世代に繋がるように!!)
————壊れる音。
(定められた運命にも負けずに、立ち向かってきた私達なら……!)
(きっと……この星だって守り抜ける!!)
(そうだよ……!私達に叶えられない夢なんか……ないッッ!!)
腕の先から徐々に崩壊していくアーマードダークネス。
悲鳴にも似た低い声をあげるエンペラ星人は、怨敵を睨むように一層強くメビウスへと視線を注いだ。
「……ちょっと……危ないかもね」
二体の巨人を見上げたノワールがふと呟く。
ここにきて皇帝の方も想定外の力を発揮している。本来ならば究極の光の前になすすべもなく倒れるはず。
それだけ光が憎いということなのだろうか。どちらにせよこのままじゃ————
『もう一押し必要……ってか?』
「ああ、生きてたのか君」
背後からかけられた声に反応してノワールは問う。
『あれくらいで死んでたまるかよ。ようやく好き勝手できるんだぜ?』
「あはは、そりゃそうか」
近くに感じる微かな生命反応と会話を交わしつつも、ノワールは巨人達の戦いを見守る。
「で、ボクに何か用?」
聞こえてくる“声”に向けて質問する。その返答は予想もしていなかった提案だった。
『今の状態じゃ実体化は無理だ。……お前の身体を貸せ』
「……は?」
思わず間の抜けた声がこぼれ、“彼”の言い放った言葉の意味を理解すると同時に吹き出してしまう。
「ボクと君が……?ご冗談を、今更舞台に上がるなんて許されるわけがないだろう。……加えてボクは汚らわしい闇だ」
自らの両手に視線を落とし、ノワールは自虐的な笑みを浮かべた。
「……ボクが触れる力は全て闇に変換されてしまうんだぜ?」
『その決め付けが、お前の成長を妨げている』
「……なんだって?」
聞こえてきた声音の言葉が耳に滑り込み、今まで感じてきたものがひっくり返るような感覚に陥った。
『自分を信じろ。自虐心を捨てろ。……そして証明するんだ、“人は誰でも光になれる”ってことをな』
「————」
『それに……お前は今までやってきた行いを貫けばいい』
徐々に存在感を増していく声を聞き、ノワールの心もまた段々と高揚していくのがわかった。
『お前は今まで、自分勝手に場を引っかき回していた。……今回もそうすればいいのさ』
目から鱗とはこのことを言うのか。
ノワールは“彼”の言葉を理解すると、胸の奥底からどっと熱がせり上がってくるのを感じた。
「はは……あはははははは!!なるほど、確かにボクらしい!!……自分勝手を貫け、か」
止まっていた情熱が再び動き出すような感覚。
ノワールは後ろを振り向くと、そこに浮かんでいた光の球体へと言った。
「いいだろう、溢れた者同士……共に行こうじゃないか」
『へっ……一緒にすんじゃねえよ……!!』
(くっ……!足りないか……!?)
ひたすらに力を注いでエンペラ星人へと光線を撃ち続ける。が、未だに奴はこれを耐えているのだ。
恐るべき執念。このまま続けても勝てるかどうか————
『……!?なんだ————!?』
すぐそばから発せられた閃光が周囲を照らす。
この星の人々はそれを見たことがあった。
ピンチの時にやってくる、永遠のヒーロー。
光と共に駆けつけてくる、ウルトラマンを————
「ジュワッ!!」
隣に立ち並び、十字に組まれた腕から光線が射出される。
メビウスは横に立つ一体の巨人へと顔を向け、それが誰なのか確認した後、驚愕するように声を上げた。
『ベリアル……!?』
(ノワールお前まで……!!)
赤と銀。かつて内浦に現れた時と同じ姿。
ノワールと一体化したウルトラマンベリアルが、そこに立っていた。
(やあみんな!さっきぶりだね!)
『よそ見をするな!僅かな油断が命取りになるぞ!!』
『(……!はいッ!!)』
ベリアルが加わり、二つの光線がエンペラ星人へと殺到する。
原型を留めていたアーマードダークネスは砂と化し、皇帝自身の黒い身体が再び露わになった。
「オオオ……!オオォォオオォオオオオ…………!!!!」
腕の先から奴の身体が焼けていく。
光に包まれるなか、エンペラ星人は曲がることなく自らの存在を強調し続けた。
「余は……暗黒の皇帝……!!光の国の一族などに敗れはせぬ……!!」
先の戦闘で受けた傷が開き、黒い肌の隙間から眩い光の粒子が漏れ出す。
(今だ、みんな!!)
『ガキ共!!お前らの全力を……奴にぶち込んでやれッ!!』
『(…………ッッ!!)』
両腕のブレスが輝き、メビウスの身体が消える。
————いや、これは消えたのではない。“光”になったのだ。
「ぬぅ……!?」
一筋の閃光となったメビウスがエンペラ星人へと特攻を仕掛ける。
(————届け……!)
(俺達の……!)
(私達の……!!)
————光!!!!
サンシャインブレイブが放てるなかで最強の威力を誇る特攻技、メビュームサンシャイン。
不死鳥の姿を形取った光が皇帝の胴体を貫き、闇を払うようにそれは輝く。
「ガハッ……!!」
奴に攻撃を浴びせた後、メビウスは背後にいるであろうエンペラ星人がまだ倒しきれていないことを瞬時に察知した。
あと一撃。それさえあればエンペラ星人は完全に消滅するはず。
(…………ッッ!!)
振り向きながら思考を巡らせる。
この体勢、このタイミングから、放てる技は何か————
……思い浮かんだのは、一つだけだった。
『(はあああああ…………!!!!)』
どうせこれが最後なんだ。ありったけを……今ある全ての力を注ぎ込んで叩きつけてやれ。
左腕のメビウスブレスにエネルギーを……溜めて。
溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて————!!
『(メビューム…………!!)』
振り返り際に拳を引き、向こうもこちらを振り向いたことを確認して、エンペラ星人の腹部へと狙いを定める。
『(インパクトォォオオオオッッ!!!!)』
絶大な衝撃を備えた炎の拳が皇帝へと放たれる。
身体を突き抜けて天へと昇っていく炎の柱。
「オオォオ……ォォォオオオオ…………!!!!」
最後の一撃を喰らい、エンペラ星人は苦しそうに身体を揺らしては震える声音で口にした。
「なぜだ……!なぜ貴様らはのうのうと太陽に照らされているこの星を救おうとする……!?」
『それは違う。……光があるから闇が生まれる。闇があるからこそ光が存在できる。どちらかに偏った世界なんて、あってはならないんだ』
ベリアルの言葉を聞いて、何かを悟ったようにエンペラ星人は黙り込んだ。
誰もが持っている光と闇の一面。
一度は闇に堕ちかけたベリアルがこうして光の戦士として立っているのも————
「……そうか、余は……ウルトラマンに負けたのではなく——」
奴の全身が仄かに輝き始め、徐々にその身体は光へと変換されていく。
「ウルトラマンと……人間の絆に……負けたのか……」
黄金色の粒子となって空へと消えていく皇帝の姿を見送る。
「余が……余が……光になってゆく…………」
暗黒宇宙大皇帝として恐れられた者の最期。
安らかにも見える彼の様子を見て、ノワールは静かに口にした。
(君の役目は終わった。……これからは次の世代が、世界を作っていく)
暗雲が晴れる。
青い空と共に現れた太陽は————いつも通りの輝きを放っていた。
メビウス本編ではゾフィーが駆けつけてくれましたが、今作ではベリアルアーリースタイルが登場。
長かった戦いもひと段落つきましたね。
解説は今回で最後になるかな……?
アーマードダークネスの呪縛から解き放たれ、ノワールと一体化して元の姿を取り戻したベリアル。
ウルトラの父と同期だったこともあり凄まじい力を秘めています。
ノワールに関しても最後の最後で光を手にすることができましたね。
作者としても少しは報われてよかったと思います(笑)
次回から13話分になりますが、アニメのサンシャインとは違った終わり方になる予定です。
そして忘れてはいけないのが……今も海で力を蓄えているあの人。