ウルトラマン達が宇宙人に敗北したという情報はすぐに世界中に知れ渡り、人々は絶望の淵に立たせれていることを自覚する。
避難所から三人の戦士が消滅する瞬間を見ていた千歌は、青ざめた顔で口元を手で覆った。
パニックになる人間達のなか、脱力したように座り込んだルビィが不意にこぼす。
「……死んじゃった……の?」
目に涙をにじませるルビィの肩に触れるダイヤだったが、気持ちは皆同じ。
どうしようもない状況のなか、唐突に千歌がその場から駆け出した。
「千歌さん!?」
「千歌!?」
咄嗟に彼女へと手を伸ばす聖良と千歌の母。
一人避難所の外に向かって走り出した千歌の背中を見て、Aqoursのメンバー達はお互いに顔を見合わせると了承するように頷き、その後を追った。
「未来くん!!未来くーーーーんッッ!!」
「ステラちゃーーーーんッ!!」
半壊した街中で必死に声を張る。
呼んでも一切の返事をよこさない彼らを探して、千歌達は瓦礫のなかを走り回った。
「……!ステラちゃん……!!」
建物の壁に背中を預けて倒れていたステラを発見し、急いで彼女のもとへ駆け寄る。
腹部にはひどい出血が見られ、放っておけば命に関わることは素人の目にも明らかだった。
「……ばか……なんで……こん……とこ……に……」
「喋っちゃダメ!」
途切れ途切れに口を開くステラの身体を診る。千歌達の手では到底治せない傷だ。
次々に流れてくる血をどうにかして止めようと、梨子はポケットに入っていたハンカチを使って腹部にあてがう。
「どうしよう……こんなに血が……!」
「未来くんはまだ見つからないの……!?」
「救急車とか……」
必死に自分を助けようとしている少女達の姿を見て、ステラは消えそうな声で言った。
「わた、しは……もう……手遅れ……」
「……違う!絶対助かるよ!!ねえ、そうでしょヒカリ!?」
曜はステラの体内にいるはずのヒカリへと問うが、彼からの返答はなかった。
気休めでもなんでもいい。まだ助かる道はあると言って欲しかったのに。
「……もう、終わりなのね……」
「……!」
不意に善子がこぼした言葉でずしり、と空気が重くなるのを感じた。
「やめるずら!!」
「……ごめん。でも————」
声を震わせる善子が周囲の惨状を見渡して口にした。
「————どうするっていうのよ……?」
その質問には誰も答えることができなかった。
皆現実から目を背けるように俯いている。
…………ただ一人を除いて。
◉◉◉
————俺が死ねば、千歌達を救うことができる。
心臓の鼓動が早くなるのがはっきりとわかった。
もうメビウスはいない。ステラとヒカリ、ザムシャーの力を借りても歯が立たなかった。
エンペラ星人を倒すことは叶わなかったのだ。
「……あ……はぁっ……はぁっ……!!」
恐怖が全身を支配する。
何度も息を吸い、今ある生を実感しようと必死になった。
自分がいなくなっても————それでみんなが生きていけるなら、喜んで命を差し出そう。
…………だけど。
「……くそ……!くそおおおおおッッ!!」
地面を殴り、叫ぶ。
自分の身代わりとなって…………メビウスは死んだ。
エンペラ星人は未だ健在。大したダメージを与えることすらできなかった。
————なんだこの様は?
正義のヒーロー、ウルトラマンが聞いて呆れる。自分は今まで何をやってきたのか。
「……千歌……みんな……」
あの美しい日常を守るためにウルトラマンとして戦ってきた。その果てに得たものがこの絶望か。
「…………」
何もかもに嘆き、頭が真っ白になった時。
未来はほとんど無意識に、両手を自分の首に回していた。
————俺が死ねば、みんな助かる。
(…………さよなら、みんな)
心残りがないわけではない。できることなら最後にもう一度だけ、彼女に————
「まったく世話の焼ける」
「え————」
手に力を込めようとした直前、横から放たれた蹴りが未来の頬に炸裂した。
勢いよく裏路地を転がった身体は壁に激突し、鈍い音が響く。
「いっつ……!?」
頭を押さえて顔を上げた先にいた人物に、未来は目を見開いて驚愕の声を上げた。
「お前……!」
「やあ未来くん、今何をしようとしてたのかな?」
頭から足まで全部が黒い。
コートを翻した青年はゆっくりとこちらに歩み寄ると、膝を曲げて未来と視線を合わせた。
「ノワール……何しに来た……?」
「先に質問したのはボクだよ」
「うっ……!?」
未来の胸ぐらを掴んだノワールは静かに怒りを宿した瞳を彼へと向ける。
「答えたまえ、今君は何をしようとした?」
「……!それは————!」
黒い瞳の奥底に垣間見えた真剣さに圧倒され、未来は小さな声で答える。
「……エンペラ星人に言われたんだ。俺が死ねば、他のみんなには手出ししないって……」
「…………」
細めた目でじっと未来の曇りきった表情を観察した後、ノワールは大きなため息を吐き出して彼から手を離した。
「……君に失望するのはこれで二度目だ」
尻餅をついた未来の前に立ち、ノワールはいつもの軽い口調で言葉を発する。
「馬鹿か君は、たとえ命が助かったとしても地球は闇に閉ざされたままだ。そんな世界で生きていて、彼女達は本当に幸せだと思っているのかい?ボクは御免だね!」
「そんなこと……わかってるよ!!」
痛む身体を押さえつつ立ち上がった未来は、ノワールの眼前に歩み寄って言い放つ。
「だけどもうそれしかないじゃないか!!俺はもうウルトラマンじゃない……他にみんなを救う方法なんて……っ!!」
「………………」
弱音を吐く彼を見下ろし、ノワールはもう一度大きなため息をつく。
「変なところで現実的になるのは君の悪い癖だ」
「えっ……ちょっ……!!」
ノワールは前触れもなく未来の腰を抱えるとそのまま跳躍して壁を蹴り、近くにあった建物を踏み台にしながらどこかを目指して移動しようとした。
突然のことに未来は抵抗しながら抗議の言葉を吐く。
「何すんだよ!!離せ!!」
「暴れると落ちるよ」
今はもう未来の身体は通常の人間と同じだ。メビウスがいなくなった今、高所から落下すればたちまに命を落とすことになる。
それに気がついた未来は暴れるのをやめ、自分が死にたくないと思っていることに自虐的な笑みを浮かべた。
「…………どうすりゃいいんだよ」
かつての宿敵に抱えられたまま、未来は片手で自分の顔を覆った。
◉◉◉
「……!あれって……!!」
意気消沈していた皆が果南の指差した方へと視線を移す。
空からこちらへ飛ぶような速度でやってきた人影を見て、揃って声を上げた。
「うわっ……!!」
抱えていた未来がノワールに放り投げられ、千歌達の足元まで転がってくる。
「未来くん!」
彼の顔を見た千歌は安心するように名前を呼ぶと、彼のもとへ駆け出した。
しかしすぐにノワールの存在に気がつき、その黒い風貌の青年を見上げては小さく呟く。
「あなたは……」
千歌達の顔を見やり、少しだけ気まずそうに笑った後、ノワールは静かに彼女達へと言い放つ。
「ボクにここまでさせたんだ、君達には必ず……最高の輝きを見せてもらうよ」
そう言い残して地面を蹴り、薄暗い街中へと彼は消えていった。
「……!ステラッ!!」
後ろに座り込んでいる弱々しい少女の姿を見た未来は、すぐさまその場を飛び出して彼女のそばへと走る。
「……生きてた……のね」
「あ、ああ……!それよりお前、その傷……!!」
ヒカリの力でも治しきれないのか、ステラの腹部は見ることも躊躇するような痛々しいものだった。
頭部と口元からも鮮血が流れ、虚ろな瞳で彼女は口を開く。
「ちょうど、よかった……未来……身体はまだ……動かせる……?」
「……!?何を————」
おもむろに右腕を差し出してきたステラ。
今にも消えそうな声音で、彼女はとある頼み事を言った。
「ヒカリ……、未来と一体化して……たたかっ……て……」
『……!!』
「おねが、い……」
自分はもう助からないとわかっているのか、ステラは小さな声でそう頼む。
しかしヒカリとの融合を解除すれば間違いなく彼女は数分で命を落とす。自分でもそれは理解しているだろう。
それなのに————
「わたしの……わがまま……きいて……くれる……?」
『…………』
ヒカリは何も言わずに、黙り込んだまま彼女の右腕から未来の身体へと移ろうとする。
『……いくぞ、未来』
「いくぞってお前……!ステラはどうなるんだよッ!!」
『彼女の!!』
いつになく声を張ったヒカリの声はひどく震えている。
『……ステラの、意志を汲んでやりたいんだ……!』
「…………っ」
ぐっと涙をこらえた未来は青い光を受け取ると、勢いよく立ち上がって右腕にナイトブレスを出現させる。
「……ありがとう」
静かに礼を言ったステラは眠るように瞼を閉じる。
一歩踏み出した未来を見て、鞠莉は彼に問いかけた。
「戦うの?」
「…………ああ」
「敵わなかったのに……?」
強く拳を握り締める。
ステラが繋いでくれた希望を、ここで形にしないと。
……ああ、やっと決心がついた。死ぬなんてやっぱり馬鹿げている。
「俺達はウルトラマンだ」
強く踏み出した彼の手を————千歌は掴んで、引き止めた。
「二人だけには行かせない」
「千歌……?」
暖かな感触が伝わる。
太陽の光が届かない闇のなかで、未来は微かな光を彼女達から感じ取った。
「前に言ってたよね、私達に眠る力のこと」
「光の欠片……か?」
今まで千歌達を守ってくれた光の欠片。地球人だけが宿すと言われているエネルギー体。
曜や梨子、他のみんなも未来の周りに集まり、引き締まった表情を向けてくる。
「まだ終わりじゃないよ」
「そうですわ。……それに」
「うん、さっきから聞こえてるもん」
果南、ダイヤ、鞠莉の言葉に首を傾ける未来。
————ん
「リトルデーモンがこんなに頑張ってるんだもん、弱音吐いてる場合じゃないわね!」
「さっきのは聞かなかったことにするずら〜」
「サファイアちゃんが守ろうとしたもの……ルビィも守りたいから!」
————くん!
「ちゃんと聞こえるはずだよ」
「耳を澄ましてみて」
「うん。…………ほら!」
————未来くん!!
直後、右腕に宿るナイトブレスから聞こえてきた声に驚愕する。
聞き間違えなどするものか。いつも一緒にいた仲間の声だから。
そばにいてくれた友達の声だから————!
「メビウス……?メビウス……なのか……!?」
————また一緒にいこう。……僕達の、最後の戦いのために!
ナイトブレスから発せられる声に驚きつつ、そのワケをメビウスへと尋ねる。
「お前、どうして……!」
『……そうか、これも……!』
ヒカリは何かに気がつくように声を上げると、メビウスの身体が再構成されている理由を話し出した。
『以前ステラの両親の魂が一時的に呼び戻されたことがあった。……おそらくはこのナイトブレスを生み出した、ウルトラマンキングの力』
「と、とにかく!メビウスはまだ生きてるんだよな!?幻じゃないよな!?」
————うん!
もはや懐かしくも感じる彼の声を聞き、未来は自然と目に涙をにじませていた。
その様子を見て微笑む千歌達が未来の隣に立ち、街中にそびえ立つ暗黒の皇帝を見上げる。
「皆さーーーーん!!」
「何やってるのよ!!」
避難所から追ってきたのか。聖良と理亞の二人がこちらへ駆けてくるのが見えた。
「二人とも!!」
「ステラちゃんを頼みます!!」
「「えっ……?」」
呆然とした様子で千歌達を見た後、その近くで倒れているステラに気がついては慌てて彼女のもとへ走りだす。
「……いこう、私達……九人も!」
千歌の言葉に頷いたみんなが未来の周りで円を組む。
未来が右腕に出現させたナイトブレスを操作し、エネルギーを充填。その手を中心へと伸ばす。
重なっていく十の手から仄かに光が生まれ、徐々にその強さを増していく。
「……!」
そして未来の目の前に————左腕にメビウスブレスを宿した一人の青年が現れた。
赤と青。二つのブレスを中心に光の勢いは周囲へと広がっていく。
「……あたたかい」
瞼を閉じていたステラは小さくこぼし、目の前で生まれようとしている最高の輝きに視線を注いだ。
「イチ!」
「ニ!」
「サン!」
「ヨン!」
「ゴ!」
「ロク!」
「ナナ!」
「ハチ!」
「キュウ!」
「ジュウ!!」
一から十、全ての光の欠片が集結し、同調する。
増幅されていく光のエネルギーが最高潮に達し、未来と千歌は声を揃えて叫んだ。
「「Aqoursァ!!」」
————サンシャイン!!!!
花丸、善子、ルビィ、ダイヤ、鞠莉、果南、梨子、曜、千歌、未来、メビウス、ヒカリ。
全員で同時に天へ向かって拳を突き出し、高らかに言い放つ。
————メビウーーーース!!!!
◉◉◉
地上から天に向けて伸びた光の柱を視認し、エンペラ星人はそのあまりの眩しさに目を隠す。
赤と青に金。炎を形取った模様に————太陽の如き黄金色の輝きを全身から絶えることなく放っている。
光の欠片の力と、ウルトラマンの力が掛け合わされた姿。
ウルトラマンメビウス————メビウスサンシャインブレイブ。
(これが究極の光……即ち、無限の輝きだ!!)
両腕に宿るメビウスブレスとナイトブレスを構え、エンペラ星人と再び対峙した。
エンペラ星人との最後の戦いです。
ついに実現した究極の光。正反対の力を持つ巨人達の戦いの行方は……!?
今回の解説はサンシャインブレイブについて。
外見は黄金色に輝くフェニックスブレイブといった感じです。
絶対的な闇に対抗できる絶対的な光。
ヒカリや未来の他にAqoursのメンバーとも融合した今作におけるメビウスの最強形態の一つ。
使用する技はフェニックスブレイブのそれに酷似したものが多いです。
明日で毎日更新は終わりで、それ以降は不定期更新になります。