メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜   作:ブルー人

108 / 113
エンペラ星人との直接対決です。
絶対的な力を前にした未来達は……⁉︎


第95話 絶望の狭間

懐かしい感覚、それも極めて不快な。

 

一切の希望が存在しない閉ざされた静寂の世界。

 

恐怖で身体が動かない、闇に包まれた空間のなかで未来は思う。

 

————初めて怪獣と遭遇した日も……こんな感じだったっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ……う……)

 

「ぐぅ……っ!」

 

後ろで倒れているヒカリとザムシャーの苦しそうな声だけが聞こえてきた。

 

数メートル先に立つ暗黒の皇帝を前にして、メビウスは完全に動けないままでいる。

 

どれだけ決意を固めても、どれだけ感情を高ぶらせても、実際にその“死”を体験してしまっては簡単には行動に移せない。

 

身体が震える。以前の恐怖と絶望、そして痛みが身体に現れている。

 

(……何してるんだ……戦わないと……!!)

 

小鹿のような足で小刻みに震える身体を支える。

 

痺れたように言うことのきかないそれを死に物狂いで前に出した。

 

「怯えているな、光の者よ。無謀と勇敢の区別がつかないのはお前達の悪い癖だ」

 

(だま……れ……!!)

 

動け、動け、動け。

 

何のために今まで戦ってきた。ここで勝たなきゃ全てが無駄に終わるぞ。

 

立ってくれ未来、みんなと一緒に歩んできた一年は————今日この時のためにあったんだろ。

 

「ふん……!!」

 

(————っ!)

 

エンペラ星人の放つ念動力が空間を歪め、メビウスを地面から離すと、そのままヒカリとザムシャーが伏している場所まで戻されてしまう。

 

『ぐあっ……!!』

 

一発喰らっただけでも全身にガタがくるほどの威力。

 

触れるどころか近づけさえもしない。自分達では皇帝の前に立つことすら許されないのだ。

 

(このっ……!このォ……ッ!!)

 

(……!ステラ……!!)

 

やっとの思いで立ち上がったヒカリがナイトビームブレードを奴に向けて走りだす。

 

凄まじい剣幕で斬りかかってきた戦士を、皇帝は羽虫でも払うかのように左手を振るった。

 

(きゃ——ぅ…………!!)

 

『ステラ!!』

 

(…………!!)

 

飛ばされたヒカリを受け止めようとするも、予想以上の勢いに勝てずメビウスまでもが建物を巻き込んで後方へと退けられる。

 

(がふっ……!)

 

『未来くん……!』

 

ヒカリが装着している勇者の鎧すらも意味を成さない。

 

————これが暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。この宇宙に君臨する闇の巨人……!!

 

「おのれエンペラ……!!」

 

刀の先を地面に突き立てて支えとし、ザムシャーが再び立ち上がる。

 

……ダメだ。彼が向かっても念動力で吹き飛ばされるだけだ。本人もそれはわかっているだろう。

 

それなのに————

 

(……ザム……シャー……)

 

ぼやけた頭と目を凝らして目の前の光景を見る。

 

立ち向かい、その度に退けられる戦士の姿が瞳に映った。

 

「はああああああッッ!!」

 

「ふん…………ッ!!」

 

簡単にエンペラ星人の前に倒れてしまうが、一向に諦める気配もなく突き進んでいく。

 

何度倒れても再び立ち上がり、星斬丸を振りかざす彼の姿を見て、メビウスとヒカリ————そしてエンペラ星人までもが驚愕の声をあげる。

 

「光の者でもないお前がなぜ……!?」

 

「………………」

 

皇帝の質問には答えず、無言で刀を構えたまま敵を睨みつけるザムシャー。

 

ベリアルとの戦闘から続いての連戦。彼の身体は既に限界を突破している…………そのはずなのに。

 

「トアアアアアアッッ!!」

 

どうしてそこまで頑張れる。

 

動けないヒカリとメビウスの前に立ち、盾になるように彼は皇帝へと立ちはだかる。

 

『ザムシャー……!』

 

まともに動かすことも叶わない身体を無理やり立ち上がらせようとヒカリが動く。

 

エンペラ星人は一方的に、そして一歩も動くことなくザムシャーを痛めつけている。

 

「余に楯突く者は許さぬ……!」

 

「ぐああああああッッ!!」

 

奴の放った波動が直撃し、悲鳴を上げながらもザムシャーは何度も————何度も、何度も立ち上がった。

 

『よせザムシャー……!それ以上はもう……お前の身体が保たない……!』

 

「断る」

 

星斬丸の刃を閃かせ、そう口を開くザムシャー。

 

「貴様らは言ったはずだ。……守るべきものがあるから、強くなれると」

 

『(…………!)』

 

「なら俺は……貴様らを守り通して、真の強さとやらを手に入れてみせる……!!」

 

————何かが、未来のなかで音を立てて壊れた。

 

「ぬああアアアアッッ!!」

 

星斬丸を地面に向けて叩きつけ、その衝撃波によって土煙が巻き起こる。

 

その瞬間を狙ってヒカリとザムシャーは同時にその場を駆け出した。

 

エンペラ星人の視界が塞がれる一瞬の隙を狙って、二人はそれぞれの剣を掲げて走る。

 

 

(……俺の……馬鹿野郎……!!)

 

メビウスは痛む身体で這ってとある場所を目指す。

 

(メビウス……付き合ってくれるか……!?)

 

『……!うん……うん……!!』

 

未来の意思を汲み取ったのか、メビウスはしきりにそう返事をした。

 

 

 

 

 

 

「「デアアアアアアッッ!!」」

 

二つの刃が皇帝へと振り下ろされる。

 

その直後、ヒカリとザムシャーの表情に絶望の色が入り混じった。

 

「……ぬ……ぐ……ッ!」

 

(なんて奴……!!)

 

左手一本。奴が防御に使ったのはそれだけだ。

 

小惑星すらも粉砕する一撃————その二重。

 

宇宙に名を馳せる強者達による渾身の斬撃を…………エンペラ星人はいとも容易く受け止めてみせた。

 

「ふんッ……!!」

 

ギィン!!と跳ね返される音が響き渡り、ヒカリとザムシャーは同時に後退させられる。

 

直後、間髪入れずに放たれた念動力によって二人は虫ケラのように吹き飛ばされた。

 

(あぁ……ぐ……っ)

 

『……!!』

 

「消えろ、光の者よ……!!」

 

皇帝の左手から放たれた必殺の一撃がヒカリを貫こうと迫る。

 

避ける術はない。死を覚悟する暇もなくそれは残酷にも————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(…………!?)』

 

閉じていた瞳を開く。

 

死が訪れない、その理由を自らの目で受け止めることとなる。

 

両手を広げてヒカリとステラの盾となったザムシャーが————目の前に見えたのだ。

 

「ぬ……ぅ……ッ!!」

 

(ザムシャー……どうして……!!)

 

やがて力なくヒカリの腕のなかへと倒れたザムシャーは、虚ろな瞳を眼前に見える彼————そして彼女へと向けた。

 

 

 

 

 

「……ここまでか」

 

『何をやっている……!!ザムシャー!!』

 

「……無念だ、お前達ともう一度……戦う時を待ち望んで……これまで生きてきた——」

 

(そうよ……!あなたはまだ生きなきゃならない……!!生きてわたし達と戦うんでしょう!?)

 

「——ああ」

 

天に向けて手を伸ばしたザムシャーの手を強く握り、ヒカリとステラは必死に彼に呼びかける。

 

『逝くなザムシャー……!おいッッ!!』

 

(お願いザムシャー……死なないで……!!)

 

自分の名前を呼ぶ二人の戦士を見てザムシャーは思う。

 

かつて戦いのなかでこんなにも心が和らぐ時間があっただろうか。

 

死の足音が近づいているというのに、なぜだか自分はひどく落ち着いている。身体の熱が消えかけているというのに心はこんなにも熱い。

 

「————一生の不覚だな」

 

宇宙最強を目指してここまでやってきた。だが今はこうして、暗黒の皇帝になすすべもなく倒れている。

 

好敵手の腕のなかで、このような心持ちで逝ってしまうことがとても残念だ。……残念だが————

 

『……ザムシャー……!?』

 

(…………!!)

 

自らを犠牲にして他の命を救う。

 

絶望に包まれたこの空間のなかで、不思議と悪い気はしなかった。

 

「これが————“守る”ということなのだな」

 

光の粒子となって霧散していくザムシャーを看取り、ヒカリとステラはゆっくりと身体を上げる。

 

 

 

 

「…………愚かな」

 

傍に転がっていた星斬丸を拾い上げ、両手でしっかりと握り、黒い巨人へと突きつけた。

 

(エンペラ星人……!!お前ええええええッッ!!)

 

殺意に満ちた蒼き騎士が皇帝へと迫る。

 

近づけさせまいと左腕を振るった奴から衝撃波が殺到した。

 

『(踏ん張れ…………ッッ!!)』

 

地面から浮こうとする足裏に力を込め、ヒカリはその場で踏み留まる。

 

どんな攻撃も寄せ付けないはずのアーブギアがひび割れ、徐々に音を立てて崩れていく。

 

(まだ……!まだ……っ!!)

 

どこかの内臓が壊れた。腹の中を掻き回されるような痛みが迸る。

 

————だがまだ動ける。

 

念動力に逆らって皇帝との距離を縮めていくヒカリの執念。ザムシャーを殺されたことによる怒り故か、それとも————

 

『ぐっ……!!』

 

(ゴフッ……!)

 

何かが弾けた。これ以上動いたら死ぬかもしれない。

 

————でもまだ生きている。

 

文字通り死ぬ気での特攻。これくらいの覚悟がなければ暗黒の大皇帝には一矢報いることもできない。

 

ザムシャーは死ぬ覚悟で自分達を守ってくれた。ならばこちらもそうしよう。

 

『借りるぞザムシャー……!』

 

構えていた星斬丸を振り上げ、眼前に迫るエンペラ星人へと浴びせた。

 

「…………ッ!」

 

ヒカリが通り過ぎたことで起きた風圧が奴のマントを巻き上げ、その漆黒の身体の隅々が露わになる。

 

刻まれた傷は()()。一つはたった今ヒカリとステラ、そしてザムシャーが付けたもの。

 

(……なんだ、わたし達が初めて……ってわけじゃないのね)

 

今にも消えてしまいそうな声で語るヒカリを睨み、エンペラ星人は自分の顔に泥を塗った輩を始末しようと腕を振り上げた。

 

「ォォォオオオオ…………!!」

 

怒りに震える皇帝の衝撃波がヒカリへと迫り————

 

 

 

 

そして、防がれた。

 

『……無茶をする』

 

(それがこの二人だもの)

 

再びヒカリの盾となった巨人。赤い身体に()()()()()()()()()()()()が混ざっている。

 

胴体から右腕にかけてアーマードダークネスを装着した————ウルトラマンメビウスがそこに立っていた。

 

「貴様…………」

 

(……エンペラ……星人……!!)

 

一歩前に踏み出す。

 

ベリアルを倒した後に残っていた鎧の一部を身につけたのだ。

 

沸き上がる闘争心を目の前に立つ皇帝へと向け、メビウスは呪いを背負いながら歩き出した。

 

「その鎧をまとって余の前に立つとはな。……クク、ハハハハ……!!」

 

『(おおおおおおおッッ!!)』

 

黒い拳を奴へと突き出す。が、放たれた衝撃波に阻まれてエンペラ星人の身体まで到達できない。

 

「はあッ!!」

 

(ぐっ……あ……!!)

 

一部だけでも意識を持っていかれそうだ。ベリアルはこれを全身に装着して今まで正気を保っていたのか。

 

————危険なんてことは百も承知だ。だけど今はこれ以外に方法はない……!!

 

『いけるかい、未来くん……!!』

 

(ああ……!!)

 

みんな必死に戦ってる。これくらい耐えないと奴には通用しない。

 

闇にはならない。この鎧を制して俺は————!!

 

(うっ……!があああアアアア!!)

 

右半身の言うことが効かない。

 

メビウスの身体に焼けるような痛みが走るのを見て、エンペラ星人は面白がるように笑った。

 

「おもしろい。ではどこまで耐えることができるのか……余が試してやろう……!!」

 

凄まじい闇の波動が全身を貫く。

 

倒れちゃダメだ。奴を倒さないと。

 

進め、進め、進め————!!

 

『(うおおおおおおおおおッッ!!)』

 

手慣れた動作を瞬時にこなす。

 

左腕のメビウスブレスのサークルを回転させ、頭上でエネルギーを増幅させてから腕を十字に組む。

 

『(セヤアアアアアアッッ!!)』

 

光と闇が交差する光線がエンペラ星人へと殺到。

 

アーマードダークネスの力で何倍にも膨れ上がった威力のメビュームシュートが、奴の胴体を直撃した。

 

「……!」

 

至近距離での攻撃に対応しきれなかったのか、エンペラ星人の足は衝撃を逃がすように一歩後退した。

 

『はあっ……はあっ……!』

 

(こんだけやっても……一歩引かせるだけかよ……!!)

 

「ふむ……」

 

一瞬、暗黒の皇帝の視線がメビウスの身体を通して————未来だけを捉えたような気がした。

 

「これだけの力がまだ残っているとはな。戯れに仕向けた四天王を退けただけのことはある」

 

奴の右腕に赤黒い稲妻が集中し、それは一筋の光線となってメビウスへと放たれた。

 

「————しかし、もう終わりだァ!!」

 

(————…………!!)

 

反射的に展開したバリアでそれを受け止めるも、それすら通り越してメビウスの身体を破壊していく暗黒の光線。

 

(ぐっ……ああああアアアアアア!!!!)

 

死を痛みに変換したような激痛が両腕から全身へと伝わる。

 

腕の感覚がなくなっても痛みだけが残り続け、メビウスと未来の身体を蝕んでいく。

 

 

 

 

 

(……千……歌……)

 

ふと一人の少女の顔が浮かんだ。

 

怒った顔。悲しい顔。笑った顔。

 

自分の日常を美しく彩ってくれた少女の顔が————こんな状況で頭に浮かんできた。

 

(まだ……シねなイ……っ……!!)

 

前方に広げた障壁が崩れ始めた瞬間、メビウスの声が聞こえてきた。

 

『……未来くん』

 

(……!メビウス……?)

 

『君と僕の融合を解除しよう』

 

(……!?ばっ……!そんなことをしたら……お前は……!!)

 

今受けているレゾリューム光線は純粋なウルトラ一族の肉体を瞬時に分解するもの。未来との一体化を解除すればその時は————

 

『このままじゃ二人とも死ぬよ。……せめて、今は君だけでも』

 

(おい……!待て、やめろメビウス……!馬鹿野郎!!そんなことしてみろ……!!絶対に許さないからな……!!)

 

『大丈夫。君達なら、きっと————』

 

直後、未来の身体が弾かれるように巨人の身体から排出される。

 

メビウスの背中が視界に入り、未来は必死に彼へと手を伸ばした。

 

「————っ!!メビウスううううううッッ!!!!」

 

相棒の身体が、アーマードダークネスだけを残して砂のように消滅していくのが見えた。

 

裏路地に倒れこんだ未来は、血の気の引いた顔で黒い巨人を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそ……!!』

 

(……っ!うあああああああッッ!!)

 

そばで倒れていたヒカリが最後の力を振り絞ってエンペラ星人へと特攻する。

 

「はあッ……!!」

 

腕の一振りで吹き飛ばされ、徐々に青い身体が薄れていくのが見えた。

 

「わかっただろう、ウルトラの一族は……決して余には勝てぬと」

 

 

◉◉◉

 

 

消滅していくヒカリを一瞥した後、人間の姿となって街中に消えた未来に対してエンペラ星人は言った。

 

テレパシーを使って、彼だけに伝えたのだ。

 

 

————日々ノ未来。地球人の身でありながら光を宿す者よ。

 

「……!?」

 

路地で苦しそうに表情を歪めながら座り込んでいた未来に、エンペラ星人の声が届く。

 

————貴様の執念はウルトラマンが消えたとて充分に脅威だ。……そこでもう一度、今度はお前に直接問いかける。

 

皇帝の口から言い放たれる要求に、未来は大きく目を見開いた。

 

————自ら命を絶て。そうすれば他の地球人の命だけは見逃してやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自ら……命を……」

 

何もなくなった両手に視線を落とす。

 

メビウスブレスが消えた左腕が、未来の胸を抉った。

 

————自ら命を絶てば、他のみんなは助かる。自ら命を絶てば…………。

 

 

 

 

「俺が死ねば…………千歌達を助けられる……」

 




絶体絶命な状況に加え、再び下されるエンペラ星人からの要求。
もう後がありませんね。

では解説いきましょう。

アーマードダークネスを装着した状態のメビウスは内山まもる先生の「ジャッカル軍団大逆襲」で登場しました。
そちらでは色々あって制御可能になりましたが、今回はそれも無理な状況だったのでコントロールはできませんでしたね。

そして次回はついに第2章のクライマックス。
残酷な選択を迫られた未来は……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。