さて、今回はついにあの方が…………。
————ウルトラマンについてどう思いますか?
怪獣騒ぎが起きて以来、しばらくの間小学校の周りをマイクや大きな機械を持った大人達がうろつくようになった。
教員に止められても隙を見て子供達に同じ質問していく人達。みんなわけもわからずに思い思いの言葉を口にしていく。
「かっこいい!」
「なんか怖い」
「怪獣倒してくれた」
「ちょっとかわいそう」
「ビーム撃ってた」
学校からの帰り道。
未来が幼馴染と共に下校していた途中の出来事だ。
————ウルトラマンがやってきた日のこと、詳しく教えてもらえる?
マイクを向けられてはそんなことを聞かれた。
未来と一緒にいた二人の少女が口ごもっているのを見て、やがてそれは未来へと向けられる。
「あ、あの……未来く——その子はパパとママを……」
気まずそうにそう語る少女の言葉を聞いて、なぜだか大人達は嬉しそうな表情へと変わった。
————どんな気持ちだった?
良くも悪くも世間はウルトラマンの話題でいっぱいだ。
彼を祭り上げる者。陥れようとする者。この時の未来はどちらだっただろうか。
人々からウルトラマンと呼ばれている宇宙人は、街を壊す怪獣を倒し、救ってくれた。
もちろん助けられなかった命も多く存在する。未来の父と母もその内の人間だ。
「……そうですね————」
◉◉◉
「千歌さん!」
「……!聖良さん!理亞ちゃん!」
避難所で座り込んでいた千歌達のもとへSaint Snowの二人が血相を変えてやってきた。
「よかった……二人もここに避難してたんですね」
「ええ……。内浦の人達も心配して……一緒に皆さんを探してたんです」
「無事でよかった……」
胸をなでおろす聖良と理亞の後ろから駆け足でやってくる人影が見える。
「みんな!!」
「お母さん!!」
皆の母親達が走ってきたのを見て一斉に安堵のため息をつくAqoursのメンバー。
それぞれ再会を果たすと、千歌の母は疲れ切った顔で口を開いた。
「心配したよ……。まだ未来くんとステラちゃんが見つかってないの!千歌達一緒にいたんでしょ……?何か知らない!?」
「え————」
無意識に千歌達の視線が窓から見える外へと流れる。
避難所から見てもわかるほどに————巨人達の戦いは熾烈を極めていた。
『(はあああああああッッ!!)』
三方向から同時に放った斬撃すらも槍で完全に捌かれ、戦慄する。
あらゆるタイミング、角度から繰り出される攻撃を完璧に防いでくるのだ。
「フッ……!!」
(だぁぁあッ!!)
(ハッ!!)
三対一でやっと互角に戦えているのが現状だ。
「デリャァア!!」
(…………!!)
戦闘を続けているうちにベリアルの攻撃も読めるようになってきた。が、それもヒカリとザムシャーと共に欠点を補い合っているからこそ保てる。
槍を防ぎ、弾き、攻撃を与える————!
「フン……ッ!!」
((そこだッ!!))
ザムシャーが槍を切り上げた隙を突き、メビウスとヒカリで的確な斬撃を加える。
ギャリィ!!と擦れる音が街に響いた。やはり鎧のせいでダメージはあまり蓄積されない。
(でも、いける……!このまま押し続ければ……!)
「クハっ……!」
対峙する三人の戦士を見てベリアルは唐突に笑い声を発した。
(……何がおかしいの?)
「お前らの馬鹿さ加減にだよ」
ベリアルの手の中に握られていた槍が天へと向けられ、猛スピードで竜巻のごとく回転。
赤黒い稲妻がそこへ集中し、次の瞬間————
「ハアッ!!」
禍々しいエネルギーが解放。
地面を抉りながら突き進んでくる光線をすんでのところで回避した。
『…………ッ!』
通常のものよりも強化された————ギガレゾリューム光線。
今のは掠めただけでも危ない。尋常ならざる緊張感が三人に走った。
「オラァ!」
(くっ……!)
固まっているメビウスのもとにベリアルが接近し、腰にさしていた剣————ダークネスブロードを引き抜いて振り下ろす。
瞬時にメビュームブレードで対抗するが、あまりの腕力差に簡単に膝をついてしまう。
(未来ッ!!)
横から助太刀に入ったヒカリが右腕の剣を振るうが、今度は槍で防御される。
それを見て逆方向から迫ったザムシャーがベリアルに向けて星斬丸を突き立てようとした。
しかし————
ベリアルはヒカリの剣を弾き返し、片手に持っていたダークネストライデントで三人を同時に薙ぎ払う。
(きゃああッ!!)
(ぐあっ……!!)
「ぬぅ……ッ!!」
吹き飛んだ三人の戦士を見やり、ベリアルは肩を上下させながら高笑いを響かせる。
「ハハハハハハ!!……ハ……!!————うっ……!!」
(……!?)
直後、ベリアルは突然頭を抱えては苦しそうに呻き声をあげた。
(……急にどうしたの……?)
『鎧の魔力が暴走しているのか……!?』
『でもベリアルはもう……!』
(…………ッ!!)
ベリアルの動きが止まった隙を見てその場を駆け出し、メビウスは奴の手からダークネスブロードを奪い取った。
「……ぐっ……!!」
(ぜあああああああッッ!!)
そのまま身体を回転させ、漆黒の鎧に向かって刃を振るう。が、装甲に到達する前に槍で防御され、そのまま鍔迫り合いの体勢となった。
「調子に乗るなよガキィ……!!」
(…………ベリアル)
……まさか、この状況でも。こんな状態になってもまだ足掻こうとしているのか?
完全に鎧に正気を奪われても、無意識のうちに自らの身体を取り返そうとしているのか?
(…………ッッ!!)
ベリアルから離れ、黒い剣片手に彼を見つめる。
走馬灯のように数々の記憶が頭のなかによぎった。
「死ねえッ!!」
(未来!!)
『メビウス!!』
————ベリアル。それが彼の名前だ。
————ベリアル……、ウルトラマンベリアル、か。かっこいい名前だな!
————あのウルトラマンは私達にそう言ったの。……何か、できることがあるはず。
肉薄してきたベリアルの繰り出す槍を回避し、メビウスは剣を構える。
『未来くん!』
膝をつくヒカリとザムシャーが横で見守るなか、メビウスとベリアルによる一対一の攻防が繰り広げられる。
ベリアルの動きが先ほどよりも鈍い。……
(……っ!うおおおおおおッッ!!)
ベリアルの横を通り過ぎる直前、全力で腕を振ってアーマードダークネスの腰の装甲を切り裂いた。
振り返り際に今度は背中へ十字の斬撃を浴びせる。
————そうですね————
「クソ……!!」
メビウスを始末するためにベリアルは両腕にエネルギーを集中させて光線を放とうとするが、寸前で飛び出したヒカリとザムシャーによって羽交い締めにされたことで動きを止めた。
『今だメビウス!未来!』
「さっさと斬れ!!」
(未来ッッ!!)
鎧の隙間から漏れる微かな光。
————少なくとも彼は————
僅かに切り開いた奴の弱点めがけて————メビウスはダークネスブロードを突き刺した。
「貴様らァァアアアア…………ッッ!!」
溢れんばかりの光が鎧の中から漏れ出し、血のように吹き上がる。
(俺は今まで……あんたに言いたいことがあったんだ)
さらに腕に力を込め、全身を使って剣を深く彼の身体へと押し込んだ。
(あの日……内浦に怪獣が現れた時————俺を……千歌を……みんなを……!!)
————みんなの命を救ってくれました————
(助けてくれて……ありがとう……ッ!!)
「ぐおおォォオオオおおお…………!!!!」
爆発するように鎧のなかの光が弾け飛び、抜け殻のように空っぽになったそれが街に音を立てて崩れ落ちた。そこにベリアルの姿はない。
消えた彼の断末魔が耳に残る。……最後の最後まで、自分は彼に助けられてばかりだった。
(……うっ……!)
今まで溜め込んできたダメージが一気に痛みとなって全身に走った。
倒れかけたメビウスをヒカリが支え、ザムシャーは構えていた刀を下ろす。
『未来くん……大丈夫……?』
(俺は平気だ……。他のみんなは……?)
ヒカリとザムシャー。二人とも目立った負傷はしていないことを確認すると、安心するように溜息を吐く。
(あなた達が一番重傷よ。早く手当てを————)
言いかけたところで何やら重苦しい雰囲気を察知し、ヒカリはふと天を見上げた。
同じように何かを感じ取ったのか、ザムシャーも下ろしていた星斬丸を高く構え直す。
(みんな……?)
「どうやら……まだ戦いは終わっていないようだな」
『……!避けろッッ!!』
刹那、上空から降り注ぐ黒い火球を視認したヒカリが叫んだ。
三人が立っていた場所めがけて恐ろしいほどの威力を備えた火球が激突し、大爆発を起こして辺り一面を吹き飛ばす。
『(ぐあああああ……!!)』
衝撃によって後方へと吹き飛ばされたメビウスは、うつ伏せになって倒れた後に咄嗟に空を見上げた。
黒い雲のなかから一際禍々しい炎がゆっくりと地上めがけて降りてくる。
『(…………!)』
背筋に悪寒が走る。逃げろと身体が叫ぶ。逃げても無駄だと心が教える。
闇の巨人は漆黒のマントをなびかせながら、人が築き上げてきた街のなかへと足を付けた。
直後、周囲の建物が爆風で吹き飛び、火の粉が熱の波となって宙を舞う。
だが光を発するものは不要。その巨人は背中のマントを翻すと、辺りに燃えている炎を全て消してみせた。
「……来たか」
数百メートル離れた場所にあるビルの上から戦況を見下ろす黒い青年が呟く。
その姿を見て恐れない人間は誰一人としていなかった。
瓦礫の山と化した文明の結晶には見向きもせずに、暗黒宇宙大皇帝は降臨した。
「余は……暗黒の支配者……!!」
名乗りを上げるエンペラ星人を前にして、三人の戦士はすぐには動けなかった。
自分がまだ生きていることを、心臓が動いていることを確認し、やっとの思いで恐怖の塊のようなそれを睨む。
「ウルトラマンよ……光の者達よ……!ついに…………かつての決着を付ける時がきた!!」
闇の皇帝が天を指し、もはや勝利は決定付けられたとでも言うように口を開く。
黒点に侵食された恒星の姿がそこにあった。
「見るがいい、既に太陽は燃え尽きつつある。今こそ全ての光は閉ざされ……そしてこの星は息絶えるのだ……!」
まだ身体は動く。思考もクリアだ。きっと大丈夫、ヒカリとザムシャーだっている。
「ウルトラマンよ、光の者達よ……!愚かな選択をした全ての命諸共、漆黒の闇となれ。……滅びされェッ!!」
相手はエンペラ星人ただ一人。恐れるな。
固まるな立て動け足に力を入れろ構えろ止まるな怖がるな前を見ろ目を背けるな敵を捉えろみんなを守れ戦え————
「余が降臨した以上……この星に————未来はないッ!!」
(エンペラ……!!)
硬直しているメビウスよりも先に、ヒカリとザムシャーがその場に立ち上がった。
「参るッッ!!」
ナイトビームブレードと星斬丸を構え、
(待てみんな……!!そいつは————!!)
エンペラ星人の腕輪が
皇帝は左手を軽く前に突き出した次の瞬間には————
「な——」
(に)
メビウスの真横を後方に向かって二つの人影が通り過ぎる。
ヒカリとザムシャーは奴に触れることもできずに————自分達が対峙している者の強大さを知ることとなった。
「さあ……」
二人を吹き飛ばしたエンペラ星人はメビウスを視界の中心に捉え、嘲笑するような口調で言い放った。
「……どうする?」
ついにベリアルとの決着……?
1章3話で名前が登場してからここまで長かったですね。
そして同じく物語序盤から名前が登場していたエンペラ星人のお出ましです。
今回は今後の展開をネタバレしない程度に紹介します。
エンペラ星人との戦いはもちろん注目すべきところですが、他シリーズからもシチュエーションを一部借りてきたりしています。
外伝作品なども追っている人にはにやっとできるシーンもあるかもしれません。(もっと詳しく言いますと漫画作品とか……)
あとは今まで謎が多かった「光の欠片」の真の力ですね。この作品を書くきっかけとなったシーンがそろそろ近くなってまいりました。
ではまた次回。