ついに開幕した最後の戦い。
アーマードダークネスをまとうベリアルに未来とメビウスの攻撃は通用するのか……。
「80とユリアンは左、グレートは右から攻めてくれ!パワード、今だ!!」
ゾフィーの指揮で四人が連携し、怪獣軍団めがけて光線を発射。数十体を同時に消滅させる。
戦闘が始まってからしばらく経つが、これだけの大部隊を率いて来ても数で押されている。
「これでは太陽が……!」
太陽の黒点はエンペラ星人が現れたのと同時に侵食の勢いを強めていた。
このままでは完全に光が遮られ、地球が闇に覆われてしまう。
「シュアッ!!」
後方から繰り出された光線がゾフィーの横を通り過ぎ、奥にいる怪獣を爆発させた。
「ゾフィー兄さん!」
「状況は!?」
「……!来たか!」
地球で任務を行っていたウルトラマン、セブン、エースが駆けつけ、ゾフィーのもとへ集合。
ウルトラの父も加わっていることに気がつき、皆驚きを隠せていない様子だった。
「数はまだ向こうの方が多い。タロウ、ジャックと組んで殲滅に当たってくれ」
「「「了解!!」」」
ウルトラ兄弟達を総動員しての戦いだ。
おそらくはウルトラ大戦争以来の凄まじい戦いが予想される。
「やることは前と変わらない!!我々はここで怪獣達を食い止め、地球への侵攻を阻止する!!
◉◉◉
混乱する人達が集められた避難所。
黒い巨人とメビウスの戦いが行なわれている今、人々は地響きに怯えながら遠くに見えるその様子を見守っていた。
「……未来くん、メビウス……!」
『(はあああああああッッ!!)』
凄まじい攻防が繰り広げられる。
殺気が込められた槍の切っ先を回避し、反撃に出ようとするが————
(…………ッ!)
追撃は許さないとばかりにノールックの回し蹴りが放たれ、ギリギリで間に合った急場凌ぎの防御で対抗。
(がっ……ア……!?)
みし、と骨が軋む音が聞こえた。
大砲のような蹴りが腕の盾を無に帰してメビウスの身体へと炸裂する。
簡単に吹き飛んだ赤い巨人は東京の建物を巻き添えにしながら倒れ伏した。
「ハハッ……ハハハハハハ!!!!」
不気味な笑い声がベリアルの口元から漏れる。
完全に正気を失っている。鎧の魔力に取り憑かれているんだ。
『大丈夫か……!?』
(あ、ああ……。くっ……!)
あらゆるスペックが自分達を上回っている。
経験も、力も、スピードも————そして、
「セヤッ!!」
「デリャァアア!!」
技も。
メビュームシュートとデスシウム光線が激突し、数秒も保たずにメビウスが押し負けてしまう。
『(ぐああああああッ!!)』
火花を散らして膝をついたメビウスに向かって、ベリアルは間髪入れずに三叉の槍————ダークネストライデントを振り下ろしてきた。
(ぐぅ……!)
なんとか肩でそれを受け止め、敵であるベリアルを睨んだ。
「楽しい……楽シイなァ……!メビウス……!!」
(こっちは全然……楽しくないんだよッッ!!)
隙を見て抜け出したメビウスは瞬時にバーニングブレイブへと姿を変え、強烈な拳を奴の鎧に叩き込んだ。
「……ハハ。響かねえんだよ……!」
(そんな……!!)
全力で放ったはずのパンチはベリアルにダメージを与えることなく鎧に衝撃を抑えられてしまう。
ベリアルの力に加えてアーマードダークネスの耐久力————
『……!未来くん!!』
(はっ……!)
眼前に迫った膝蹴りがメビウスの顔面を直撃し、バランスを崩したところで槍による横薙ぎの攻撃が襲う。
(あっ……ぐぅ……ッ!!)
考える暇すら与えられない状況だ。
力なく倒れたメビウスを見下ろし、ベリアルは彼の顔を踏みつけては言った。
「まさかこれで終わりとか言うんじゃねえだろうな?もっと戦わせろ……俺に……!タタかわセロ……!!」
(……ッッ!)
上から迫る槍の突きを身体を転がすことで回避。
そのまま身体を起こし、背後に回り込んで渾身の蹴りを放つ。
「効かねえよ」
(わかってるんだよそんなことは……!!)
奴の反撃を回避し、一旦距離をとって隙をうかがう。
……まずはアーマードダークネスだ。あれをなんとかしないとダメージすら与えられない。
しかしこちらは実力でも手数でも劣っている。
(…………!)
ふと視線を落とすと、鎧の腰に一振りの剣が収められていることに気がついた。
(あの剣を奪い取って、なんとかして鎧に傷をつけよう。その隙間から本体に攻撃だ)
『わかった。……でも』
未来は一体化しているメビウスの言わんとしていることを察していた。
自分達だけでは一方的に痛めつけられるだけだ。せめて誰かあと一人————いや、最低でも三人がかりで臨みたい。
『……未来くん、その前に聞いておきたいことがあるんだ』
(……?)
『彼を————ベリアルを、本当に倒してもいいんだね?』
未来が考えないようにしていたことを、メビウスは迷った末に聞いた。
かつて内浦に現れ、未来や千歌……みんなを助けてくれた恩人。
だけど今は————
(……前に言われただろ。今度戦う時は、全力でこいって)
強く拳を握りしめ、目の前に立つ“敵”を見据える。
(……本当に……本当にベリアルが、地球を滅ぼそうとするのなら————止めてあげないと)
こんなの残酷すぎる。……そうだ、残酷なのがエンペラ星人のやり方だ。
だけど千歌達を……みんなを守るためなら……!!
(戦いたくなくても…………戦わなければいけないのなら、そうするしかないんだ……!)
再び足を前に出して駆ける。
「オラァ!」
上から迫る槍の切っ先を上体を下げることで避ける。
すれ違いざまに奴の腰へ手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。
(うっ……!)
すぐにバク転で後方へ下がり、牽制のメビュームスラッシュを放つ。
しかし予測通り簡単に防御されてしまい、直後に槍の先から発射された赤黒い光線がメビウスへと殺到する。
『(…………!)』
息を整える暇もなく身体を横に逸らす。
今ベリアルが繰り出したのはレゾリューム光線。純粋なウルトラマンの身体を分解する力を持つ恐ろしい技。
今は未来と一体化しているとはいえ油断はできない。単純な破壊力でも充分に脅威だ。
『今の光線だけは……絶対に受けちゃダメだ』
以前のように一瞬で行動不能に陥るか、あるいは死。どちらにせよ喰らうわけにはいかない。
(……るもんか)
ボロボロの身体を引きずって拳を構える。
(負けるもんか……!!)
————俺が止めないと。
ベリアルを倒さないと地球は滅びる。みんなが死ぬ。それは絶対に嫌だ。
ベリアルを……倒さないと……!!
(うおおおおおおおッッ!!)
「何度やっても無駄だ」
メビウスブレスに全エネルギーを集中させ、構える。
ベリアルもそれを察したのか、既に槍を前にかざして警戒態勢に入っていることを確認し————
(せやああああ!!)
左腕を突き出したその直後、奴が盾として突き出した槍の持ち手に触れる前に閉じていた拳を
「……フェイント……!?」
そのままベリアルの腕を掴み取り、動きを封じたところで今度は右腕にエネルギーを集中させる。
「ハッ!!」
「……!」
全エネルギーを集中させることで左側に注意を逸らし、次に右の拳で体勢を崩す。
そして————
(入る……ッ!!)
再び左腕に力を込め、ガラ空きになったベリアルの顔面を思い切り殴り飛ばした。
「……!?」
(うおおおおおおッ!!)
一発入ったことで勢いがついたのか、少しだけ攻撃が通るようになってきたメビウスを見て人々が歓声を上げる。
千歌達もまた数キロ先に見えるその光景を見守っていた。
「やった!」
「いけるよ、これ!」
避難所の中が歓喜の渦に包まれるなか、外で戦闘を眺めていた者が表情を曇らせる。
「これは……まずいな」
メビウスは上手く立ち回っているが、こうも頭部ばかり狙っていると攻撃パターンもやがて読まれる。
相手はあのベリアルだ。同じ攻撃が通じる相手じゃない。
ノワールは気づけばその場を離れ、戦闘が行われている場所へと向かって走り出していた。
(よしッ!これで————!)
振るわれる槍を回避しつつ頭部へのダメージを狙う。
————と、思わせておき、実際に目当てなのはベリアルが腰にさしている剣だ。上へ注意を逸らし、懐へ潜り込んで手を伸ばす。
『(届く…………!!)』
黒い剣にメビウスの手が触れようとしたその時、
「ワンパターンなんだよ、お前は」
(————ッ!?)
直後、凄まじい鈍痛が腹部を貫いた。
ベリアルがダークネストライデントを真下から振り上げ、メビウスの土手っ腹に炸裂。
『(がはッ…………!!)』
空中に弧を描いて街中へと倒れる赤い巨人。
————読まれていた。自分達が剣を狙っていることも全部。
(ぐっ……う……!)
「ダメージを与える手段が限られているのなら……それをカバーするのは容易い」
眼前まで歩み寄ってきた漆黒の戦士を見上げる。
…………格が違う。エンペラ星人にたどり着く前にこの調子じゃ————
「ただのガキにしては楽しませてもらった。……どうだ?今すぐに融合を解くというのなら、お前だけは生かしてやってもいい」
『……!』
ほんの一瞬、メビウスの心に迷いが生じたのを…………未来は見逃さなかった。
「このまま二人とも死ぬか、それとも一人生き残るか。……お前もよく考えるんだな、メビウス」
(ダメだ、メビウス……!耳を貸すなッ!!)
このままいけば敗北は確実。ならば未来だけでも救おうという思いが微かにメビウスのなかで渦巻いている。
『……僕は……』
(メビウス……!)
数秒の沈黙の後、禍々しいエネルギーが空間に走ったのを感じた。
その直後にベリアルの雰囲気がさらに荒々しいものになり、猛烈な殺気がこちらに向けられるのがわかる。
「ハハハハハ……!!時間切れだ、諸共に死ねぇ!!」
三叉の槍がなすすべもないメビウスの頭部へと突き立てられ————
ギィン!と甲高い音が耳朶に触れる。
刃と刃が激突したかのような凄まじい衝撃と空気の振動。
(……まったく、やっぱりわたし達がいないとダメダメね)
「貴様らは……!?」
二つの刃が交差してダークネストライデントを受け止める。
そのままベリアルごと弾き飛ばし、倒れ伏すメビウスから距離をとらせた。
(いつまで寝てるのよ。ほら、立って)
(……!?)
二つの人影がぼやけた視界に映る。
やがてそれは青い身体の巨人と鎧姿の宇宙人だということに気がつき、メビウスは驚愕の声を上げた。
(ステラ……ヒカリ……!?)
『ザムシャーまで……!』
「細かい話は後だ」
(そうね、上の方も忙しいみたいだし)
『上……?』
ふと上空に意識を向けると、時折爆発するように閃光が走るのが目に留まる。
宇宙空間で怪獣達と戦闘中の光の戦士達。それを目撃したメビウスは安心するように息をついた。
『みんな……!来てくれたんだ……!』
(すごい……!)
(感心してる場合じゃないでしょ)
ヒカリはアーブギアを装着してナイトビームブレードを、ザムシャーは星斬丸をベリアルへと構える。
メビウスも両の拳を前に突き出し、目の前に立つ敵へと身構えた。
(ここから先は総力戦よ、ついてこれる?)
(ああ!……いくぞ、今までの決着を————ここで付けてやる!!)
ヒカリとステラ、ザムシャーも加わっていよいよ反撃の時。
そして戦いを見守る人々の運命は……?
では解説です。
本来はエンペラ星人が装着する予定で造られたアーマードダークネス。皇帝以外が身につければたちまちに身体を支配されてしまうという恐ろしい鎧ですが……。
メビウス本編では装着しないまま地球へ訪れたエンペラ星人。
今作の最後には誰の手に渡り、どのような結末を迎えるのか。