12話です。
最後の戦いが近いということで、サンシャイン本編の明るい雰囲気とは違い不穏な空気が漂っています。
「準備はいいのか?」
「うん」
他に誰もいない教室の中、未来と千歌は向かい合う。
色々あったが、閉校祭の最後には笑顔でこの学校と別れを告げることができた。
あとは————
「いよいよ決勝……なんだね」
自然と拳に力が入る。
これから挑む最後の舞台を想像し、千歌は身体を震わせた。
「大丈夫!」
廊下の方から駆け寄ってきた曜と梨子が強くそう言った。
「この時のために……すっごく練習したんだもん!」
二人の言葉に頷きつつ教室を出ると、他のみんなも静かにその場で待っていた。
「…………確かに、毎日朝の早くから、夜も遅く、暗くなっても」
「がんばルビィしたから!」
「それでも、みんな一度もサボらなかった!」
「弱音は言ったけどね」
「とにかく朝は眠かったずら。ね、善子ちゃん」
「ヨハネ!さすが我がリトルデーモン達……褒めてつかわす!」
「ありがと!」
努力した分の実力は裏切らない。だから安心してライブに臨める。
ラブライブ。スクールアイドル達の憧れ。目標。
その舞台に今、彼女達は進もうとしているのだ。
(千歌達なら……きっと————)
連れて行ってくれるだろう。この学校の名前と共に。最高の舞台、その向こう側へ。
————行ってきます!!
校舎に向かって挨拶する千歌達。
さあ、ここから先は————自分達の番だ。
◉◉◉
「…………」
(どう?)
地球から少し離れた宙域。
ヒカリはデブリのなかに紛れていた棒状の装置を発見し、ジャックに鑑定してもらっていた。
「……間違いない。この物体から時空波が発生させられていた————その形跡がある」
『形跡……?今は機能していないというのか?』
「ああ。どういうわけか……現在は何の電波も発していないガラクタだ」
(どういうこと……?)
長い時間をかけてやっと見つけたお目当ての物は、とっくに役目を終えた宇宙ゴミと化していた。
「とりあえず本部に連絡だ。……もしかしたら既に————」
(……!危ないッッ!!)
遠くから発射されたレーザーに反応し、ヒカリとジャックは同時にその場から離脱する。
瞬時に体勢を立て直し、前方に見える無数の点を視界に捉えた。
『なんだ……!?あれは……!!』
(まさかこれって……)
「…………最悪の事態だ」
遠くに見える数え切れないほどの“点”。その一つ一つがこちらに向かってくる怪獣だと認識した瞬間、ヒカリとジャックに悪寒が走った。
(どうして急にこんな……!)
「……エンペラ星人め……既に時間稼ぎは完了していたということか……!?」
このタイミングで発見されることも予期していたのか、敵の軍勢はもう既に完成している状態らしい。
ジャックとヒカリの背後を進んだ先には地球がある。考えるまでもなくそこへ侵攻する気だろう。
『どうする……!?』
「くっ……!ひとまず足止めだ!ヒカリ、本部にウルトラサインを!!」
『了解ッ!!』
空中で光の文字を描き、それを遥か遠くの惑星に向かって飛ばすヒカリ。
————あとは増援が来るまで、この軍団を止める……!!
「いくぞッ!!」
『ああ!!』
(ええッ!!)
その場を飛び出し、ナイトブレスからブレードを伸ばして怪獣の軍団へと立ち向かっていった。
一方地球にいる未来達は、東京に着くと千歌からの提案で神田明神にお参りをすることになった。
階段を勢い良く駆け上がり、しばらくぶりに本殿と対面する。
「オウ!変わらずビューティフォー!」
「急な階段だったずらぁ」
「でも、前来た時に比べたら楽じゃなかった?」
「みんなそんなに息も上がってないしな」
「成長って、気づかないうちにするもんだよ」
以前までの自分達と比べて備わっている体力も違う。
数々の苦難を超え、千歌達は確かに成長している。
「よし!じゃあお祈りしようか!」
賽銭を投げ入れた後、手を合わせては思い思いの願いを口にしていった。
会場の全員に想いが届きますように。全力を出し切れますように。
緊張しませんように。“ずら”って言いませんように。全てのリトルデーモンに喜びを。
浦の星のみんなの想いを、届けられるような歌が歌えますように。明日のステージが最高のものになりますように。
————ラブライブで優勝できますように。
九つの願いを届けた後、未来もまた目を閉じて口にする。
「……奇跡が……起きますように」
今まで紡いできたものには、きっと意味があるのだと信じて。
彼女達を見守ってきた者として、未来は最大限の応援と願いを込めて————そう言った。
「ずらぁ!」
「ん?」
花丸が声を上げたことに反応し、絵馬が掛けてある場所へ足を運ぶ。
「なに?」
「これ!」
ルビィの指差した絵馬を見ると、「Aqoursが優勝しますように」と浦の星学院の有志達によって書かれたものがそこにあった。
その他にも千歌達の勝利を願う絵馬がところどころに見られ、彼女達の表情も明るくなっていく。
「……あ」
しかしふと視線を外したところで目を留める。
他のスクールアイドル達の優勝を願った絵馬————それも数え切れないほどに確認できた。
「……私達だけじゃない。みんな勝ちたくてここに集まってる」
「……ん?」
端の方へ目を向けると、やけにドス黒い文字で書かれている絵馬が視界に入った。
なぜだか引き寄せられるように膝を折って、未来はそれを見る。
「……“どうか彼に安らかな終焉を”……」
名前は書いていない。ただ一行、そんなことを書かれた絵馬。
「お久しぶりです!」
横から飛んできた声に反応して身体を向き直す。
階段のある方向に立っていた二人の少女を見て、千歌達はその名前を呼んだ。
「聖良さん!」
「理亞ちゃん!」
Saint Snowの二人。
彼女達も応援にここまで駆けつけてきたのだろう。
「ついに、ここまで来ましたね」
「ビビってたら負けちゃうわよ!」
「わかってるわよ!」
「アキバドームは、今までの会場とは違うずら……」
「どんなところか、想像できない……」
これから自分達が踏みしめるステージを想像し、花丸とルビィはか細い声でそう言った。
「私も……あのステージで歌えたことが、今でも信じられない」
「自分の視界……全てがキラキラ光る。まるで……雲の上を漂っているようだった」
「雲の上…………」
以前メビウスとヒカリの手のひらの上で見た光景を思い出す。
思わず息を呑む圧倒的な周囲の景色。自分達がちっぽけな存在に感じるほどだ。
……でも、今回はそうも言っていられない。
「だから!……下手なパフォーマンスしたら、許さないからね!」
「あ……当たり前だよ!がんばルビィするよ!」
二人の話を聞いて、決勝への覚悟がさらに深まる。
「————あ」
木陰に身を隠してこちらを眺めている者が一人。
その存在を察知し、未来は一言断ってからその場を駆け出した。
「ちょっとごめん!」
「未来くん?」
大急ぎで階段を降りようとする彼の背中に手を伸ばしかけるが、“いつもの”事情だろうと千歌はすぐに腕を下ろした。
◉◉◉
「ノワール!!」
「……あれ?」
追いかけてきた少年を見て、黒ずくめの青年は驚くような様子を見せた。
「べつにただ見てただけだから、追いかけてこなくてもよかったのに」
「……あの絵馬」
「うん?」
未来は先ほど神社で見た絵馬のことを思い出し、肩を上下させながら聞く。
「あの隅にあった絵馬、お前が書いたやつだろ」
「絵馬…………ああ、そういや君達が来る少し前に掛けておいたっけ」
「あれ……どういう意味だ?」
ノワールは少し照れくさそうに頬を掻いた後、小さな声で答えた。
「特に意味はないさ。ボク自身の、そうであって欲しいというささやかな望みだよ」
「誰に向けて書いたものだよ……?」
少なくともあそこに書かれていた“彼”とは自分のことではない、と未来は確信していた。
それに“終焉”という言葉も気になる。
「悪いけどそれは教えたくない。君にだってプライバシーというものがあるだろ?」
ノワールは一拍置いて、どこか遠くを見つめながら儚げに口を開く。
「……どれだけ寂しかったか、どれだけ恐ろしかったか、それはボクにしか理解できない。ボクは
「……それは————」
「誰に言ったかは忘れたけど、ボクは同じ言葉を何度か口にした。……“向こうがどう思っているかはわからないが、少なくともボクは友人として彼と関わっている”からね」
ノワールの言っている言葉の意味がわからずに首を傾けていると、奴は笑って両手を左右に振った。
「なに、独り言さ。気にしないでくれ」
不意に空を見上げ、一点を見つめたままノワールは言う。
「……選んだ道がもう少し明るければ、こうはならなかったはずなのにな」
最後にそう言い残したノワールが黒い霧となってその場を去る。
彼がいなくなった地面を見下ろす未来に、メビウスは静かにつぶやいた。
『……戻ろう、未来くん』
「……ああ」
どこか引っかかるノワールの態度が心に焼きつく。
(……なんでそんなに、悲しそうな顔をする)
◉◉◉
今夜泊まる宿へとやってきた一同。
部屋の作り。匂い。何もかもが、前に東京に来た時を思い出させる。
「なんかまた、修学旅行みたいで楽しいね!」
「未来くん、どうかしたの?」
梨子はベランダの方で立ちながら外を眺めている未来を示して、千歌に聞いた。
「……?さあ……カッコつけてるのかな?」
「ちっげーよ!考え事だよ!」
「そんなとこにずっといたら、風邪を引きますわよ」
「わかってるよ。……まったく」
騒がしい声を背に未来は空を見上げた。東京は明かりが多いので星はあまり多く見えない。
『何か気になることでも?』
「……なんか、怖いんだ」
きゅっと胸を締め付ける不安感。
何かを予期するように身体が震えている。これは強大な敵と対峙する時にも何度か体験した。
「終わりが近いって……ヒカリは言ってた。俺もそんな気がするんだ。それもそう遠くない内に」
ノワールと話したからだろうか。あいつの今にも死にそうな弱々しい姿を見て思ったんだ。
「……前に一度、エンペラ星人と戦った時……まったく歯が立たなかった」
『でもあの時君は……“立った”じゃないか。勇敢に』
「……メビウス、俺が話してるのは感情論の話じゃない。単純な実力の差だ」
未来は下を向き、柵に額を付けて目を瞑る。
「なあメビウス、俺は————俺達は…………エンペラ星人に勝てると思うか?」
『……さあね』
冗談混じりの笑いを含めた物言いにカチン、と少々怒りが湧く。
「ちょっ……俺は真面目に————!」
『ダメかもしれないし、勝てるかもしれない』
「……え?」
メビウスは静かに、それでいて強い圧力のこもった声で言った。
『……“最後まで諦めず、不可能を可能にする。それがウルトラマンだ”』
「……!」
『過去は過去、今は今だ。次に戦う時はどうなるかわからないさ』
闇の皇帝の力は凄まじい。……その凄まじい力を前にして、未来とメビウスは他人の助力を得ながら生き延びた。
生きている内はまだ、可能性がある。
『未来はいつだって前にしかない。……君は一生懸命特訓をして、僕と一緒に戦ってきたじゃないか。だからきっと————』
「————大丈夫、か」
ああ、弱気な自分が恥ずかしくなってくる。
相棒がこんなにも頼もしくいてくれるというのに、相方の自分がこんなんでどうする。
————鞠莉・シャイニングトルネーーーード!!
「……はは、結局はそんな理屈になっちゃうか」
————やったわね!!
「そうだな、ごめんメビウス。俺も————」
————甘いですわ!!
「俺も…………」
背後から聞こえる騒音に気を散らされ、未来はとうとう振り向いては注意しようと口を開いた。
「おい、ちょっと静かに————ぶっ!?」
未来の顔面に投擲された枕が直撃。
それを見た曜は「どうだ!」とガッツポーズをして見せた。犯人はお前か。
「……クク、いいだろう。お望み通り枕の海に沈めてやるわァ!!」
「ちょっと堕天してない?」
「いくぞォ!!」
『危ないから僕は離脱してるね』
「え?」
スーッと未来の肉体から抜けていくメビウス。同時に未来の身体能力も並のそれに変わる。
「お前裏切っ————ぐはっ!」
『フェアじゃないからね』
やれやれ!とみんなから集中砲火を受ける未来。
楽しそうにしている千歌達の雰囲気にあてられて、未来も自然と口角を上げた。
「やってやろうじゃねえかああああ!!」
「普通怪獣ミラミラが来るよ!構えて!」
「変な名称付けんな!!」
全員が疲れ切るまで続く枕投げ。
終わった頃にはもう————感じていた不安のことなど忘れ去っていた。
ついに攻めてきた怪獣軍団。
ラブライブ決勝の裏でエンペラ星人との戦いも終わりが近づいています。
では解説です。
怪獣達の詳しい数はご想像にお任せしますが、百どころではないことは最初に言っておきます。
当然ヒカリとジャックだけでは対応しきれません。そこでこの状況を突破するのは……。
次回ではついにあの人達が再登場です。最後の戦い、その前座に相応しい者がやってきます。
次回もお楽しみに。