ストレンジャーズ   作:philo

7 / 25
05 初顔合わせ

「揃ったようだな」

 前回と同じイリーレストの座席で、惣一は紫と、新たに加わった二人の少女を見渡した。

 黒いつなぎと安全靴に身を固めた黒髪の少女、霧間凪。

 ホットパンツにパーカーのラフないでたちの赤髪の少女、佐倉杏子。

 紫ともども、三者三様の美貌を誇る少女たちに対して、惣一は大した感慨も見せず、言った。

「自己紹介しておくか。俺は河内惣一。このクルセイド学園の治安維持生徒会、クルセイド騎士団の団員をしている」

「オレはあんたのこと知ってるよ。あの三代目銀腕卿・源氏政行を支えて戦ったんだろう?」

「ほう……? よく知ってるな」

「下調べぐらいするさ。あんたのことは、ここの学園新聞やHPにもよく出てたからね。オレは霧間凪。本土の深陽学園に通う高校生だよ。特技はパソコンとサバイバル技術全般、ほか色々だよ。まあ、邪魔にはならないと思うよ」

「あてにしている、と言っておこう。……そっちの貴様は中学生か? 本当にこんなガキが役に立つのか、八雲紫」

 惣一はじろりと杏子を見て言った。

「んだとてめー! いきなりずいぶんな挨拶じゃねえかよ」

 たちまち杏子がいきり立った。

「ガキって言うな。あたしには佐倉杏子ってちゃんとした名前があるんだよ!」

「杏子でも涼子でもいい。貴様は何ができる。使えん奴ならチェンジを申し込むぞ」

「こ、この野郎……!」

 眉一つ動かさない惣一に、杏子は歯ぎしりをしながら立ち上がろうとする。それを紫が制して、

「まあまあ、二人とも。河内さん、魔法少女は知ってるかしら? この島にもいる、魔法能力者とは違う、一般には知られていない意味だけど」

「……。なるほど、未知の要素というわけか」

「なんだ、お前も知らねえんじゃねーか。それでよく偉そうな口聞けるもんだな」

 杏子の嫌味にこれまた惣一は反応を返さず、淡々と質問した。

「ごたくはいい。魔法少女とはなんだ。少なくとも戦闘能力はあると解釈していいんだな?」

「まあ、な。これでも場数は踏んでるからな」

 杏子も鼻を鳴らして答えた。

「紫から聞いたけど、この島にはモンスターとかがたくさんいるんだろ? そんなの魔女に比べればちょろいもんだぜ」

「モンスターだけとは限らないわ。魔女はいないと思うけど、人間の悪者やよその世界の魔族が関わっている可能性は高いわね。ルーミアの行方がわからなくなったところを見ると、何らかの隠蔽魔術が使われたと見るべきでしょうし」

「人間と魔族の共犯もあり得る、か。フン、全く面倒なことだ。まあ、手に負えないレベルの大物魔族が、こんな小さい事件にからんでいるとはさすがに思えんがな」

「小さい事件、ね。本当にそう言い切れるかしらね。不安定な世界同士とはいえ、なぜ幻想郷とSRC島がつながったのか、その謎も解けていないのに」

「それを調査するのは貴様の役目だろう?」

 難しい顔の紫に、やはり惣一は動じずに言った。

「俺に話を持ち込んだのは、ルーミアの探索で手を取られないようにするためだ。違うか?」

「まあ、そういうことになるわね。河内正騎士、貴方を信用して幻想郷の住人を任せたのよ。失敗は許されないわ」

「フン……引き受けた依頼は果たすだけだ」

 真正面からの紫の視線を、惣一はやはり平然と受け止めた。

「最善を尽くすさ。言うまでもないけどね」

 凪も微笑して言った。

「かったりー仕事はとっとと終わらせて、メシでも食いに行くに限るぜ」

 杏子は快活に言った。

 三者三様の応答を、紫は満足げに見やった。

「よろしく頼むわね。無事に終わったら、豪勢な食事でもおごらせてもらうわ。それでは私は忙しいから、河内さん、後はよろしくね」

 言い終えると、紫はすぅっと座席から姿を消した。

 チャリン、とテーブルの上に紫の分の紅茶の代金が落ちる音がした。

「き、消えた!?」

 目を見張る杏子に凪が、

「アイツは力のある妖怪だからな。テレポートの能力ぐらい持ってても不思議じゃないだろうよ。魔法なのか超能力なのかはわからないけどな。まあ、今はどうでもいいことだろう」

「その通りだ。俺達にはそう時間は残されていない。ルーミアは誰かに拉致された可能性もあるのだからな。発見したらすでに死体でした、では笑い話にもならん」

「チッ……一々気にさわる言い方をする奴だな」

「まあ、そう言うな。別に河内さんは、間違ったことは言っちゃいないんだ」

 舌打ちして言う杏子を凪がなだめた。

「早速捜査を始めよう。河内さん、何かあてはあるのか? この島に一番詳しいのはあんただからな」

「まあな。伊達に長く島にいたわけではない。まずは情報収集だ。島にいる人間やモンスターで、明らかに外部の者とおぼしき者を探す。この島は二万人程度の人口はいるはずだが、学園都市と同じような街だから、そこまでよそ者が多くはない」

「東京の人口は約1322万人、大阪の人口は約287万人、学園都市の人口は約230万人だったな」

 凪が言った。

「東京や大阪のような大都市で探すとなれば、さすがにお手上げかも知れないが、この小さな島を探すならな。島にいる人間の大半は学生、残りも教員や警備員、船員など限定された職種がほとんどだ」

「あの学園都市と条件は同じ、ってことか?」

「だいぶ違うな。あそこは無数の学校を持つ文字通りの都市なのに対して、ここはわずか3つの学校のみだ。3校ともかなりのマンモス校だが、やはり3校だけの孤島では、陸と地続きの学園都市とは条件が違う」

「島にある施設は学校、商店街、居住区。それに使われてない建物がいくらかと、あとは伝説の樹海だ。ルーミアは伝説の樹海で行方不明になったそうだ。だからといって樹海にいるとは限るまい。よそ者が隠れるには一番の場所だろうがな。同時にモンスターの襲撃の危険もあり、設備も揃っていない不便な場所でもある」

「『能力科学研究所』はどうだ? あそこは三財閥の出資を受けた研究所でありながら、人体実験なんかの黒い噂の絶えない施設だろう」

「その線は一応除外する。悪名が高い分、何かあったら真っ先に疑われる場所だ。そしてあの八雲紫を敵に回して無事でいるほどの戦力は、あの場所にはない」

「この島の外の誰かが乗り込んできて、島のどこかへルーミアを隠したって考えてるのか?」

「おそらくはな。島にも悪い奴は多いが、学園都市の暗部ほどの規模はない。島原産の悪党といえば、せいぜいが不良グループや能科研、それにモンスターがいるぐらいだ。そうした連中が、幻想郷の住人をさらって利用しようとするとは考えにくい。まあ、不良どもに捕まって慰み者にでもされているとか、モンスターに食われているという可能性も……」

「おい!」

 怒声を上げる杏子に、言葉を遮られた惣一が不快げな視線を向けた。

「何だそのツラは。可能性ぐらい考えるのは当然だろう」

「まあ落ち着けよ、杏子。多分、河内さんの言ったようなことはないと思うよ。幻想郷の妖怪は、みんなある程度の戦闘能力を持ってる。いくら呑気な奴でも、大人しく捕まりはしないだろ。紫から聞いたルーミアの特徴からすれば、騙されて連れて行かれた可能性が高いんじゃないかな」

「だとすれば、敵はルーミアの価値を知っているわけか……」

 惣一は、あごをつまんで考えた。

「ルーミアという娘には何か秘密があるようなことは、八雲紫も言っていたがな。詳しいことは言えないようだしな」

「……それで、結局どこを探すんだ? 相談するのも良いけど、早く行かないとヤバいんだろ?」

「せっかちなガキだ。だがまあ、一理あるのも確かだな。まずは市街地の施設を中心に見慣れない人間やモンスターの情報を集めるとしよう。よほどうまく潜伏していない限り、この小さな学園島で完全に隠れるのは不可能だろうからな」

 そう言って、惣一は恭祐に代金を支払い、二人を促して店を出た。

 捜査はまだ、始まったばかりだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。