ストレンジャーズ   作:philo

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11 突入

 SRC島市街地樽田セキュリティサービス第6事務所。

 中央商店街からやや離れた場所にある、地味な建物だ。一見したところなんの事務所かよくわからない、道端の石ころのようなビルであり、まただからこそ、木原たちが潜り込んで悪事をたくらむにはうってつけの場所だった。

 その悪の巣窟に、いま喚声と悲鳴、激しい物音が響き渡った。

「な、なんだ貴様!? ……ぐッ」

 驚いて誰何した兵士が、鳩尾を蹴られて意識を失い。

「し、侵入者だ! 早く連絡――あばばば!」

 あわてて携帯電話を取り出そうとした兵士が、電磁警棒の一撃を浴びて失神した。携帯電話も、電撃で完全に壊れた。

「一丁あがり、っと。正門の見張りはこれで全部かな」

 ドサリと人が倒れる音を効果音に、凪は長い黒髪をかきあげた。

 そして携帯電話を取り出し、

「もしもし、河内さん。こっちはいったけど、そっちはどうだい?」

『制圧した。兵員控え室に睡眠ガスを流し、全員無力化して縛り上げてある』

 電話口からは、惣一の返事が返った。荒事をこなしたばかりとは思えない、淡々とした声だった。

『番犬の陽動に向かった佐倉からも、全部片付けたという報告があった。これで1階の敵は始末したはずだ』

「杏子も大したもんだね。さすが、あの紫が手配した人材だけのことはある。立ち居振る舞いから戦い慣れしてることは見て取ったが、河内さんも使えることはわかってたのかい?」

『まあな。そうでなければ、こんな任務に中学生を使ったりはせん。無駄話はそこまでだ。2階への階段は一つしかない。全員で合流し、一気に制圧する!』

 惣一の声に歴戦の騎士らしい覇気がこもり、

「了解……!」

 凪もその両目を強く輝かせた。

 

 樽田事務所の一階ホール。

「二人とも!」

「無事か」

「フン、当然だ」

 三人の戦士は、それぞれ敵を倒して合流した。まだ前哨戦だ。三人とも息ひとつ乱していない。同時に、敵にもほとんどダメージと呼べるほどのものは与えていないだろう。肝心のルーミアにも、まだ辿り着いていない。

「前哨戦で損害は出さん。……二階へ行くぞ」

 惣一が言った。

「今のところ敵はまだ出ていない。俺が前面に出て、敵を迎える。俺のフェイティア『キャッスルガード』ならバズーカの直撃にも耐えられる。その陰から凪が撃て」

「了解」

「よし……行くぜ!」

 凪が冷静に短く、杏子が気合を入れて、それぞれ返事をした。三人は、一気に二階への階段をかけ上がった。事務所の二階は、人気がなかった。三人は、それを疑問に思わなかった。戦力を集中させて、待ち伏せているのだ。

「あそこか……?」

 杏子が、会議室かちょっとした講堂とおぼしき二枚の扉の前で身構えた。警備会社の社員たちの集会所として、支部長の訓示を与えたりする部屋なのだろう。

「俺の気配察知能力では、この大扉以外から敵を感じない。扉の奥は、山ほど気配がある。十五、六人は下るまい」

「こっからが本番ってとこか。ルーミアを人質にとられたらどうする?」

「手の打ちようはある。注意は俺と佐倉が引くから、霧間がなんとか打開しろ」

「気安く言ってくれるね……まあ、弱音を吐く気はないけどさ。さてと、地獄の一丁目に行ってみますか……」

 凪がそこまで言いかけた途端、

『元気かなーん、お客様方。ぎゃははははッ!!』

「――――!!」

 扉の隙間から、嘲笑と哄笑が響き渡った。

 惣一たちの到来は、予測されていたのだ。

 三人は顔を見合わせ、そして――突入することを決めた。

 杏子が走り寄って扉をガラリと開け、三人がそれぞれ壁に身を寄せる。内部からの不意打ちがないことを確認して、一斉に駆け込んだ。

 広い室内に待ち受けていたのは、十五、六人の人影だった。木原の部下の猟犬部隊とおぼしき兵士が五人。ファンタジー・ゲームに出てくるような戦士姿と魔法使い姿がそれぞれ三人ずつ。それに翼ある蛇の魔物・キメラ、生きて動く鎧の魔物・さまよう鎧。その中心にザボエラとエトナを従えて、木原が立っていた。


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