ストレンジャーズ   作:philo

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08 実験開始

「この機械を頭につけて寝ればいいの?」

 冷蔵庫ほどの大きさの機械に接続された、あからさまに怪しげなヘッドギアを手に、ルーミアは無邪気に聞いた。

「ああ。妖怪の脳波を調べたくてな」

 木原は友好的な笑みのままで言った。

「このデータをもとに、医学の進歩を目指すのさ。お前のやってることは人助けだぜ。なぁに、痛いことはなにもねぇ。お前はただ、気持ちよーく寝てりゃいいのさ」

「うん、わかったー」

 と言ってルーミアはヘッドギアを頭からかぶり、機械のそばのベッドに横になった。

「…………ぐーすか、ぴー」

「うわぁ、速攻で高イビキだわ」

「いいのか、木原?」

「全く問題はねえよ。むしろ好都合ってぇもんだ」

 ザボエラの問いに木原は満足げに言い、そしてニヤリと顔を歪めた。

「脳ミソいじくる時に起きてられたら、泣き喚かれてウルサイからなぁ。ひゃははははははは!」

「ほんっと、あんたって外道よねー」

 狂ったような高笑いを上げる木原に、エトナが呆れた声を出した。

「ま、別にいいけど。で、あたしらは何をすりゃいいわけ?」

「ザボエラはこのガキの魔術的な分析だ。魔術の領域は俺の専門外だからな。お前の魔導科学者としての実力は魔界に響き渡っているだろう? バランだのミストバーンだの、戦うしか能のねェ脳筋共には出来ねえ技術がお前にはあるんだよ、ザボエラ爺さん」

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ワシをあまり褒めると、思わず木に登ってしまうぞい」

 所属している魔王軍ではいまいち扱いのよくないザボエラは、おだてられてサルのようにしわくちゃな顔をさらに笑みで歪めた。

「だがまあ、確かに興味深い研究材料じゃ。幻想郷の妖怪は、『弾幕』という特殊な魔法を使うようじゃからの。ミストバーンの放ったスパイの報告では、幻想郷の住人は『魔法を操る程度の能力』『氷を操る程度の能力』といった固有能力を……」

「そんなことは俺だって知ってる。その上でな、このルーミアというガキは一番都合が良いのさ」

「こんなマヌケ面したガキに何があるわけ? どう見てもそのへんの池でドジョウでも取ってそうなしょーもないガキじゃない」

「だからこそ、だよ。重要人物じゃあねえから、ガキ一匹には幻想郷も大きい動きは起こせねえ」

 木原はずるそうに笑い、それから声をひそめた。

「それに、これは未確認情報だが……このルーミアというガキ、何か秘密があるらしい。試しにそいつの頭のリボンを外してみな、エトナ」

「そんなの簡単じゃん。……? と、取れない?」

 無造作にルーミアのリボンを取ろうとしたエトナは、その硬い手ごたえに、狼狽の声を上げた。

「ご覧の通りだ。そのリボン、何らかの封印だ。封印を解くと何が起きるかは知らねえがな。こいつがただのチビ妖怪じゃねえってことは確かだ。こいつの肉体と脳味噌を分析し、可能ならば秘められた力を抽出してやろうってのが俺の計画さ」

「なるほどのう! そりゃあ確かに、心ひかれる素材じゃわい」

 木原の説明に、ザボエラが狂科学者の歪んだ笑みを浮かべた。

「ではひとつ早速、服をぬがせてメスを……うひひひ」

 涎をたらしながらルーミアの服に手をかけようとするザボエラを、木原がたしなめた。

「落ち着け、間抜け。何のために学習装置(テスタメント)につないで寝かせたと思ってやがるんだ」

「そういや、このヘンテコな機械は何なわけ?」

 ベッドの横の機械を指さして問うエトナに、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに木原が満面の笑みを浮かべた。

「学園都市謹製の、脳をいじる装置さ! 脳の中身をのぞくのもお手のもの、脳にウイルスをぶち込むのもお安い御用だ。俺もずいぶんと大勢の脳味噌を料理してきたがよぉ。この装置に出会った時には、失業するかと冷汗もんだったぜ。時間の許す限り徹底的に、このガキの脳を調べつくし、吸い出せるだけのエネルギーを吸い出す。こいつの固有能力は『闇を操る程度の能力』。応用力バツグンの、利用価値満点の能力だぜ!」

「うほほ、夢がふくらむのう!」

 木原の残忍な行為の説明に、ザボエラは顔をほころばせた。

「では早速分析にとりかかるかの。魔術的な観点からの解析はワシに任せとけ」

「エトナはこのアジトの警備をやれ。バカが紛れ込まないように見張っておくんだ。このちっぽけな島のことだから、どこでどんな間抜けがうろついてないとも限らないからなあ」

「ちぇー、なんかあたしだけ地味な仕事よね」

「グダグダ言うな役立たず」

 木原の指示に、エトナが頬を膨らませた。それへ取り合わず、木原はルーミアに、獲物を狙う狼の笑みを向けた。

「さあ、早速お仕事の時間だぜルーミアちゃん。武運つたなく殉職したとしても、あなたの事ァ二秒ぐらいは忘れませんってなぁ。ギャーッハハハハハ!!」

 狂笑とともに、木原の指が狂気の機械のスイッチを押した。自身に迫る毒牙にも気付かず、ルーミアは健やかな寝息を立てていた……。


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