帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

シェーレ「超逃げて」


後半戦、千文字くらいになるかと思ったんですけど意外と超えましたね……


首斬りを斬る! (後編)

シェーレはタツミを抱えたまま、路地裏を駆け、ときに屋根から屋根へ飛び移り逃げていた

タツミは痛む傷を押さえながらシェーレに噛みつく

 

「なんで逃げるんだよシェーレ!あの場面、絶好のチャンスだったじゃねぇか!」

 

「……タツミは気付きませんか?」

 

「何にだよ?」

 

「血痕が残っているにも関わらずザンクが私達を追ってこないことです」

 

タツミはハッとして後ろを振り返る

そこにはザンクに斬られた傷からタツミの血が零れている

これではどうぞ追ってくれというようなものだ

それなのにザンクの姿は見えない

追ってきている気配もない

 

「ザンクが頑張っているうちに手当してあげますね」

 

「は?」

 

タツミにはシェーレの言葉の意味が分からなかった

シェーレはうっかりしていて視野が狭いようで広い

ザンクが隙を見せたとき戦いに乱入者が現れようとしたのにシェーレだけが気付いた

こちらの顔を向こうに見られる前に(エクスタス)を使って逃走した

自分は手遅れだったかもしれないが倒れていたタツミの顔は隠し通せた

帝国の帝具使いアカメ

連戦で彼女と交戦するのは好ましくない

帝国側としてもザンクは捨て置けないはず

標的と帝具を取られるのは痛いがザンクには囮になってもらった

血痕が帝都警備隊に気付かれる前にマインに合流しタツミの手当をしてアジトに戻るとしよう

ザンクは生きて朝を迎えれまい

 

「……ッ!」

 

何より、シェーレは一刻も早くマインの顔が見たかった

スペクテッドの『幻視』は強力無比

(エクスタス)を使った瞬間、シェーレの視界に移っていたのは急速接近してくるアカメと血を流すマインの姿だった

催眠が解けた今でも大切な仲間を傷付けてしまった光景が網膜に染みついて離れない

マインの姿をしたザンクにトドメを刺すなど出来る精神状態ではなかった

無事なマインの駄目出しを聞いて安心したい

自分は仲間を傷付けてなどいないのだと確証が欲しい

シェーレは足を速めた

 

※ ※ ※

 

ザンクはナイトレイドとの鬼ごっこを中止した

背後から新しい客が来たことに気付いたからだ

その身に纏う殺気はナイトレイドの女よりどす黒い

 

「愉快愉快♪こっちの方が美味しそうだ!」

 

「その目の帝具。お前がザンクだな」

 

ザンクの傷が新しい

アカメはザンクが既に何者かと交戦した後であることを知る

ここに辿り着く前に眩い閃光があった

手練れに違いないが不利を悟り逃げたとアカメは予測する

 

「噂の暗殺部隊のアカメに知って貰えてるなんて嬉しいねぇ」

 

「……」

 

「何故、知っている……と考えたろ?」

 

「……その帝具、心を読むのか」

 

「ピンポーン!正解の褒美に」

 

「葬る」

 

「おっと!お喋りもしてくれないなんて悲しいねぇ!」

 

ザンクはアカメの不意打ちを軽く受け流す

心を読めるザンクにはそれが不意打ちのつもりがないのが分かる

アカメは初撃が受けられるのは予測済み

初撃を放った時点で思考が追撃にシフトしている

しかもザンクに心が読まれていること前提で攻撃している

 

「愉快愉快♪強いなアカメ!」

 

心を読まれた状態で互角

アカメは心を無にする

しかし攻撃の精度は損なわれない

 

「ほう、暗殺者ってのはどいつもこいつも無心になれるのか!?」

 

筋肉の機微でアカメの次の行動が手に取るように分かるザンクには意味のないことだ

ザンクは掠り傷すら致命傷となる村雨に、防御を許さないエクスタスと違ったやりにくさを感じる

しかし、自分の有利を信じて疑わない

剣を何度も何度も振るい火花を散らし漸くザンクがアカメに一太刀入れたところで大きく後退する

一撃を貰ったアカメが無心を解いたところ自分とお喋りしてくれるのかとザンクは嗤う

ザンクはアカメに聞いてみたいことがあったのだ

アカメを知ったのは偶然だ

辻斬りをしているとき獲物の一人がアカメのことを喋ってくれたのだ

ザンクはその話に興味を持って少し調べてみた

暗殺部隊のアカメ

帝国に仇名す者を影より始末する部隊

その殆どが薬と洗脳によって作られたつまらない連中だったがアカメだけは違った

アカメは正気で人を殺して殺して殺しまくっているのだ

アカメならばザンクは自分の抱える悩みを分かち合えると考えた

 

「なぁ、アカメ……、お前、声はどうしてる?」

 

「……声?」

 

「ホラ……黙ってると聞こえてくるコレだよ」

 

ザンクは、元は帝国最大の監獄で働く首斬り役人であった

毎日毎日、繰り返し繰り返し、命乞いする人間の首を斬り落としていたザンクには殺してきた人間達の声が聞こえるようになった

大臣のせいで処刑する数が膨大になり彼等の最期の言葉を、彼等の怨嗟を間近で何百何千と聞き続けたザンクは狂ってしまった

 

「地獄からの呻き声だ。俺を恨んで、早く地獄(こっち)へ来いって言い続けている」

 

刑場で来る日も来る日も聞いてきた罪人達の最期の言葉が頭から離れなかった

精神を落ち着けるために薬を飲んでいた

それが悪かった

適切な使用量を守らず服用してきた薬は毒となり、ついに幻聴が聞こえるようになった

ザンクはそれを幻聴と思わなかった

否、思えないほどに追い詰められていた

だから、獄長を殺してスペクテッドを奪って逃げだした

けれど怨霊は彼を逃がしはなかった、許さなかった

日に日に怨嗟の声は酷くなる

死にたくないから首を斬るのだ

ザンクはこれからも自分の代わりを地獄に送り続ける

 

「俺は喋って誤魔化してるが、お前はどう対処してる?」

 

アカメは無言だった

ザンクもアカメが何か言うのを静かに待つ

スペクテッドで心を読むなど無粋はしない

沈黙したザンクに呻き声は声高々に謳う

やがてアカメは口を開く

 

「私は彼等の憎しみを正当なものだと思う。無実の者も有罪の者も死にたくなかった筈だ。それを私達は()()()に殺戮した。だから、拒絶しない。だが、従ってやるつもりもない」

 

それがアカメの出した答えだ

スペクテッドを使っていないザンクにはアカメがザンクと同じように声が聞こえているかどうかの真偽は分からない

重要なのは真偽ではなくアカメの出した答えなのだから

 

「……なんと、この声を受け入れてるのか。強いねぇ!」

 

「!」

 

アカメとなら、この苦痛を分かち合えると思ったが違う

アカメは強い

肉体的にも精神的にも

全力で相手をしないと失礼というものだ

スペクテットの目を開く

幾等強いといってもこれは敗れまい

ザンクは口元を弧にする

アカメの前に最愛が幻影として現れた

 

「クロメ……?」

 

どういうことだ

今、自分はザンクと戦っていたはずだ

ザンクはどこに消えた

幻影のクロメが八房を抜く

それを見てもアカメは村雨を抜けない

 

「愛しき者の幻影を見ながら死ね!アカメ!!」

 

アカメはクロメ以外なら自分でも斬れた

最愛(クロメ)だけは斬れない

アカメ自身が死ぬことになろうともだ

ザンクは両腕の剣でアカメの首を刎ねようと接近する

まさにアカメの首に剣が食い込んだ

その瞬間だった

 

「――――何をしてるの」

 

寒気

アカメの背後に何かがいる

否、背後には誰もいない

なのに度し難い恐怖があった

ザンクは恐怖に抗うことなくバックステップをいれる

次いできたのは痛み

肩を斬られた

痛みも感じるより早く血の気が引いた

下がっていなければ首を斬られていたからだ

 

「誰だ!?気配がなかったぞ!」

 

気配がないのは当然だ

ザンクは遠視で漸くそれを見つけた

ザンクの肩を抉ったのは臣具『トリシュラ』

帝具に及ばないが高い性能を持つ臣具

トリシュラは際限ない伸縮機能を持つ

欠陥としては伸縮させた分だけ重量が増し小回りが利かないこと

その臣具の使い手をアカメは知っている

トリシュラは、今は亡きかつての仲間ナタラの臣具だ

アカメの心を読むことでザンクも知った

トリシュラの上を軽快に駆けて二人の間に参上したその女は

 

「クロメ」

 

「うん、私だよ。大丈夫お姉ちゃん?怪我してるよ?あっ、そっかー!……あいつが私のお姉ちゃんに手を出したんだ?」

 

クロメの目は昏く淀んでいた

クロメの眼光に貫かれたザンクは無言で後退る

クロメは既に日本刀型の帝具『死者行軍八房』を起動している

八房はその刃で葬った相手の死体を操る帝具

地面が盛り上がりクロメに殺された骸人形が起立する

 

「ロクドウ。ドーヤ。そいつ殺して」

 

骸人形は何も言わず忠実にクロメに従う

死体なのだから思考などしない

表情も変わらない

故に洞視は意味を成さない

片方の肩は抉られて使い物にならない

幻視はアカメに使っている

こんな状態で限界のない骸人形と戦っても勝機はない

 

「ぐ……っ!まだだ!」

 

ザンクは突破口を探すためにクロメの心を読んだ

深く読んでしまった

 

『お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチ』

 

「う、うおおおああ!?なんだお前!?何故、そんな狂ってるんだ!?」

 

余りの悍ましさにザンクは洞視を解いた

クロメの心はアカメ一色で染まっていた

歪み過ぎて歪みが無い

怨嗟の声より恐ろしい

あんなものを抱えて生きれるわけがない

ザンクはクロメが恐ろしくて仕方ない

クロメはアカメの目を後ろから抱き付くように手を添えて覆っている

単純だが幻視を破るには十分効果的な手だ

しかし、ザンクの目にはクロメがアカメを捕食しようとしているように映った

 

「何を言ってるの?私はただお姉ちゃんが大好きなだけ」

 

突破口を開くためにクロメの心を読んだというのにそれが返って大きな隙となった

ロクドウの鞭は音を裂きザンクの足を砕いた

ドーヤの銃弾はザンクの腹に穴を開けた

骸人形はそれだけでは止まらない

 

「ぬうああああ!!死んでたまるかああああ!!」

 

ザンクは命掛けで力を振り絞る

ロクドウの鞭を裁き剣が折れ、ドーヤの銃弾を役に立たなくなった腕を捨てて防御する

決死の攻防にクロメは怒りを忘れて感嘆する

だが、それだけだ

ドーヤに撃たれた傷口から留めなく血が流れる

血を失い過ぎた

ザンクの意識が遠のく

足元が覚束ない

視界が霞む

最期に映る景色はやけに地面が近かった

 

「ねぇ、首と胴が離れるってどんな気分?」

 

 

 




他の二次創作だとあっさり殺されてるザンクさん
タイマンなら結構強いと思うんですよ
この作品の中ではシェーレとアカメに勝ってるようなものです
クロメはアレだ相性が悪かったのだな
タイマンだったらクロメはザンク見ないでお菓子食ってナタラが護衛
その他骸人形でリンチですよ
相性大事だなぁ……(白目

余談というか蛇足
逃げたシェーレはマインと合流するなり抱き付きました
不意打ちに反応が遅れたマインはシェーレの胸に埋まり無事窒息
最期の言葉は力無い「覚えてなさいよ」

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