帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ
タツミ少年、就職する

今回は原作より前の話になります
具体的に言うとエスデス様が北方異民族の征伐に向かうより前です




模擬戦を斬る!

 

暗殺部隊の朝は早い

 

「……えちゃん。お姉ちゃん朝だよ」

 

いつも一緒に寝ているクロメに起こされてアカメの一日が始まる

その際、クロメの頬が紅潮させてアカメに覆いかぶさっているが可愛いから気にしない

クロメは起こす前に着替えているのでアカメが着替え終わるのをじっと待っている

クロメは瞬きをせず刹那たりとも視線を外さないがアカメは気にしない

 

暗殺部隊は(殆ど)鍛錬を欠かさない

投薬していない暗殺部隊は脅威は低く朝練ではいつもアカメが一人無双するお約束である

投薬していてもアカメの一人勝ちなのは経験の差だとアカメは言う

カイリ以下男子勢は懲りずにアカメにボディータッチを試みてはクロメ以下女子勢にお話し(物理)を受ける

 

朝の運動で空腹感を得たアカメは朝食を沢山食べる

クロメも負けずに沢山食べる

暗殺部隊は見ているだけで胸焼けを起こす

暗殺部隊の女子が残したご飯もアカメとクロメが処分する

男子は頑張って食べる

朝の献立はエビルバードの親子丼だ

 

アカメとクロメは食べた分の運動をこなすために山もしくは川に向かう

危険種が一杯だ

鍛錬のついでに昼食も確保できる

ただ狩りすぎて絶滅しかけたことがあるので加減が大事だ

今日はマグロの気分なので川でどちらが多くマグロを確保するかクロメと競争した

僅差でアカメが勝った

殺気を殺すのはアカメの方が得意だ

 

マグロは生で良し焼いて良し

食事中が至福である

暗殺部隊は昼間に仕事が少なく割と自由に生きている

ただ日に日に人数が減っていく

いつまで経っても仲間が消えていくのは慣れない

アカメよりマグロ狩りが上手かったクイオはもういない

 

拠点に戻ると日が落ちかけている

仕事がなければ街をぶらぶらするかクロメと昼寝をする

仕事ならきっちりこなす

 

夜は料理好きの仲間が作ってくれる

色々な試作品を試したい仲間と美味しいご飯が食べたいアカメとクロメ

日々、仲間の腕が上達していく

もう一人立ちして店を出せるくらいだと判子を押す

 

女子勢の水浴びの時間

男達は楽園を目指し戦地へ向かう

迎え撃つ女は一切容赦がない

水浴びのついでに鍛錬というには両者、余りにも本気すぎる

殆ど実践だが最後の砦クロメの骸人形を突破する猛者は未だ現れない

帝具を使用している間、クロメは脱力してアカメに寄り添う

その姿を見てガッツポーズを取る仲間もいれば早くなんとかしないと、と余計な世話を焼こうとする者もいる

皆が楽しい仲間であることに違いない

 

「アカメっち、クロメっちに気を付けろよ」

 

「油断するな」

 

「いつか食べられるよ。というか食べられてないよね?」

 

就寝前になるとカイリや暗殺部隊の皆が酷く真剣に警告してくる

なんのことかアカメにはさっぱりわからない

警告していく仲間を見るクロメの目が据わっているがそれも可愛い

どんなクロメもアカメは愛おしくて仕方ない

 

「おやすみクロメ」

 

「うん。大好きだよお姉ちゃん」

 

同じ布団で眠る

 

アカメの一日はおおよそこの繰り返しである

 

※ ※ ※

 

その日はいつもと違った

その日でいつもが終わった

 

「……静か過ぎる」

 

「皆まだ寝てるのかな?」

 

広間からいつもなら早く起きている仲間が鍛練を始めている

今日はその騒音が一切聞こえてこない

アカメの足が無意識に早歩きになる

クロメは心配性だなと呑気に笑いながらアカメを追う

アカメの勘が良くも悪くもよく当たることをクロメは本人より知っている筈なのに

 

「よぉ、遅かったじゃねぇか!」

 

闇より用心を殺す最強の暗殺部隊

その精鋭達はアカメとクロメを残し死んだとはいえ暗殺部隊は帝都の警備兵如きに遅れを取るような柔な集団ではない

その暗殺部隊が集っていた広間はたった三人の男に蹂躙されていた

暗殺部隊を相手にその男達は無傷で呼吸も乱れていなかった

 

「あ、僕あのお姉さんの顔剥ぎたいなー」

 

「殺しは許可されていない抑えろよダイダラ、ミャウ」

 

「ちぇ、少しくらいいいじゃんリヴァのケチ」

 

「殺さないように加減して戦うのもいい経験値稼ぎになるぜぇ!」

 

リーダー格の男から仲間が殺されていないことがわかった

確かに全員倒れているが身動ぎしていたり呻き声が聞こえるところ命に別状はないと思われる

そんなことよりダイダラ、ミャウ、リヴァ

アカメはその三人の名前に聞き覚えがあった

 

「エスデス軍の三獣士が何の用だ」

 

「知っていたか。紹介の手間が省けて助かるなアカメ、クロメ」

 

三獣士が笑う

好戦的な笑い方だ

三獣士は全員が帝具使いと聞く

帝具使い同士の戦いになればどちらかが死ぬ

三獣士を殺せても三獣士の上司のエスデスには敵わない

アカメの体に緊張が走る

それはクロメも同じようで頬には汗が伝っていた

 

「そう身構えるな。暗殺部隊の実力を図ってこいと主から命じられてな」

 

「使い物にならないようなら殺していいって言われてるからな頑張れよ!」

 

「そのときは僕のコレクションに加えてあげるから安心してね」

 

「帝具は使うなよ。互いに怪我で済まなくなる。特にお前が持っている『一斬必殺ムラサメ』はな」

 

アカメとクロメはリヴァから投げられた剣を受け取る

アカメの帝具『一斬必殺ムラサメ』は傷を付けた相手を殺す帝具

どんな掠り傷だろうと即座に呪詛が心臓にまわり死に追いやる

逃げる術は斬られた場所から呪いが心臓に届く前に傷口を削ぎ落とすくらいだろう

 

「殺し合いではないのか」

 

「同じ帝国の兵だ。殺し合って損害になりはしても得がない。だが、相手が帝具を所持していることを想定し戦え、模擬戦とはいえ死ぬことになるぞ」

 

「そういうこった。じゃあ、始めようぜぇ!」

 

ダイダラは開始の合図として斧をぶん投げる

帝具ではないがその斧は少女の体を分断にするには十分な威力と速度がある

この程度で死ぬならそこまで

当然、この程度を躱せない姉妹ではない

身を低くして飛来する斧を潜り抜けるアカメ

ミャウは斧の影から出てきたアカメに飛びかかる

が、ミャウより後から、しかし、高く跳ねていたクロメのかかと落としをまともに貰う

 

(ほう、速度だけならエスデス様に引けを取らんか)

 

リヴァは観戦し動かない

身軽ですばしっこいのが取柄のミャウに頑丈さは足りず、勢いよく地面に叩きつけら、その上に落下してきたクロメの足蹴で気を失った

それをダイダラは見ていた

アカメがクロメとミャウに一瞥もくれずダイダラに突っ込んでくるのを

それはダイダラの必勝形態

 

「経験値いただきだああああ!」

 

投擲した斧とは別に持っていた斧をアカメに振り下ろす

記憶力の悪いダイダラは模擬戦だということを忘れて殺す気の一撃を振り下ろしたのだ

その一撃をアカメは後ろに軽く下がり避けた

そうくるだろうとアカメには読めていた

 

「……あ?」

 

何故、アカメは生きていると呆然とした

ダイダラは本当に記憶力が悪かった

今、ダイダラが使っているのは、帝具『二挺大斧ベルヴァーク』ではなく変哲のないただの斧なのだ

ベルヴァークのように投げた斧が敵を追跡しないことを失念していた

仲間の失態にリヴァは顔を覆う

アカメはダイダラの惚けた顔に剣を叩きつける

鞘から抜いていないためただの打撃となったがダイダラを地に伏せさせるには事足りた

 

「こちらの準備運動は済んだ」

 

「二体一だけど文句言わないでね」

 

「文句など言わんよ。理不尽に嘆くようでは戦場で生き残ることは出来んからな」

 

ここからが本当の闘いだった

アカメとクロメ、リヴァは剣を抜き火花を散らす

姉妹を相手にリヴァは一歩も引かず応戦してみせた

模擬戦は姉妹が空腹の限界を迎えるまで続いた

 

※ ※ ※

 

暗殺部隊は痛む体に鞭打ち昼食の準備を始めた

姉妹が朝飯を抜いたのだ

空腹の獣が何を仕出かすかわかったものではない

自分達をボコった三獣士は全員痛い目を見たようだし溜飲は下がった

ミャウは背中がまだ痛むらしく寝転がっている

ダイダラはダメージこそ見えないが顔を赤く腫らしている

リヴァは致命傷こそ負っていないものの全身に掠り傷を刻まれていた

アカメとクロメも同様に裂傷を負っている

 

「ふ、悔しいが完敗だ。帝具戦なら死んでいた」

 

「帝具戦ならこうも簡単に二体一に持ち込めなかった」

 

「謙遜することはない。お前達、姉妹は強い。エスデス様の元に仕える資格があるというもの」

 

「……引き抜きか」

 

「その通りだ。私達と共に来いアカメ」

 

使い物にならなくなれば処分される暗殺部隊から帝国最強のエスデス軍への引き抜き

かなりの出世だ

聞いていた仲間達は我がことのように喜ぶ

だがアカメは素直に喜べない

 

「……」

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

押し黙る姉の顔を覗き込むクロメ

アカメはそんな妹を愛おし気に見返す

喜べない理由

それは

 

「リヴァ。引き抜きは私だけか?」

 

「そうだ。クロメまで取ってしまったら暗殺部隊は機能すまい」

 

リヴァはアカメを指名した

姉妹ではなくアカメを

三獣士が引き抜きに来たのはあくまでアカメ一人だということ

クロメと離れ離れになる

それはアカメにとって好ましくない

 

「そんなの嫌だ!お姉ちゃんと死ぬまで一緒だもん!」

 

クロメも同様に姉が一人で遠くにいってしまう知るや否やアカメの体に強く抱き付く

加減なく全力で抱き付くものだからアカメの体が軋んでいるがクロメは気付かない

 

「悪いが拒否権はない。既に責任者に話は通しているのでな」

 

「だろうな」

 

アカメの中で諦観と拒絶が鬩ぎ合う

帝国に逆らえば無事では済まないという理性と最愛の妹から離れたくないという欲望がアカメを苛む

そんな姉妹の様子を見てダイダラは何気なく爆弾を投下する

 

「別に姉妹連れて行けばいいじゃねぇか。ちまちま暗殺するのは雑魚ばっかだろ」

 

「上等だ逝くぞオラァ!」

 

「やってやんです!」

 

「表出ろぉ!もう表だったわ!」

 

暗殺部隊と三獣士(ダイダラ個人)が第二ラウンドに突入し、ダイダラの蹂躙を尻目に姉妹は昼食を貪り食う

姉妹の旺盛な食欲にミャウは引き気味だがそんなことを気にする姉妹ではない

カイリはこれだけ元気なんだ姉妹が暗殺部隊を抜けてもやっていけるさと遠い目をしていたが食事を止める姉妹ではない

カイリはダイダラの拳に沈んだ

結局のところアカメとクロメ揃ってエスデス軍配属されることで話は纏まった

そういえば、とリヴァは思い出したようにアカメに問う

 

「――――暗殺部隊には一般人に毛が生えた程度の人間もいるのか?あれでは暗殺などとても出来まい」

 

リヴァは疑問に思った

訓練を受けた暗殺部隊にしては弱すぎるのが混ざっていた

あれは一般人に毛が生えた

否、一般人そのものだ

 

「……そうでもないさ。そのための投薬だ」

 

「なるほど、そういうことにしておこう」

 

アカメの顔に翳りが落ちた

その表情からリヴァは気付いた

暗殺部隊が皆同じような仮面を被って顔を隠している理由

暗殺部隊に無関係の人間が数人紛れ込んでいる

何らかの理由で匿っているといったところだとリヴァは推測する

暗殺する対象に情けでも沸いたか

リヴァは確たる証拠もなしに踏みいるべきではないと判断し見逃すことにした

アカメとクロメは敵に回すとかなりの脅威になりかねない

味方に出来たのは僥倖

藪蛇を突くのは愚行でしかない

 

 

 

 




行き過ぎた親愛故にアカメがクロメに食われないか(意味深)気が気でならない暗殺部隊の皆さん
彼等のおかげもあってか今のところは無事
しかし食われそうな当人は影での戦いに気付いていない


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