帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

サヨ、作者にメシマズ設定を捏造される

サヨ「実に遺憾である」




侵入者を斬る! (後半)

 

少し、昔

反国家思想を危惧した帝国は暗殺専門の部隊を設立

無垢な子供達を兵器として育てるプロジェクトを三つ動かしていた

金で帝国に売られた子供をふるいにかけ、生き残った者を計画に使用した

一つは、アカメが属していたゴズキによる教育

一つは、クロメが属していた洗脳と薬物投与によるドーピング

そして、頓挫して消えた改造計画が存在していた

今は、もう存在しない、その身に危険種の特性を宿していた特殊な一族がいた

帝国は自分達で危険種に相当する戦力を作り出せる魅力的な玩具を元に実験を開始した

一応、手術は完成したが、成功率は極めて低く、手術を施せる者は幼い子供に限定された

被検体はほぼ死んだ

プロジェクトで試練を越せず、しかし、生き残った落ちこぼれにその手術を施した

手術に耐え抜き、危険種の特性を発現させた子供は一割

残り九割は死に、あるいは使い物にならず、廃棄処分とされた

残った一割の子供は施設で、訓練を積み、洗脳し、帝国のために命を捧げる暗殺者となるはずだった

だが、そうはならなかった

何故か?

子供達が一斉に叛乱を起こしたのだと()()()()

当事者の、子供達、研究者、警備、残らず死んでいたのだから

真相は闇の中だ

 

ただ一人を除いて

クビョウは真相を知っている

当事者であり、唯一の生き残りで、施設を終わらせた張本人であるクビョウは覚えている

クビョウの持つ危険種の特性は『危険を察知する』という誰も見向きもしない雑魚特性で、本人の身体能力が向上するということは一切なく、ベースとなったゼルテネスラビットも希少で滅多に捕まらないだけの小動物だった

当時、そんな彼女を危険視する者など誰もいなかった

死んでも思わなかっただろう

 

施設を抜け出し、帝国から逃げ仰せたクビョウは山で危険種を狩り、安息の地を得たが生態系の変化に気付いたシナズに拾われた

拾われる際に抵抗(殺そうと)したが逆に気に入られてしまったらしい

臆病であり、生存能力に長け、危険な相手を殺せると判断すれば、必ず殺す少女を

 

※※※

 

クビョウは危険を感じ、自身に害をなそうとする存在を消すために森を駆けていた

前方に大男が立っていた

クビョウはその大男が敵意を持っているようだから、ためらいなく斬った

 

「……!」

 

しかし、手に返ってきた感触は人を斬ったときのそれではなく、岩に弾かれたような痺れだった

クビョウは反撃を怖れて下がる

巨漢は追撃せずに言葉をかけてきた

 

「よぉ、そんなに急いでどこ行くんだ嬢ちゃん?」

 

「あの……邪魔なんですけど、退いてもらえませんか?」

 

「連れねぇこと言うなよ。嬢ちゃんの相手は俺なんだからよぉ!」

 

※ ※ ※

 

 

『歩』は侵攻する

数で圧倒している彼等に恐れはない

帝具使いであろうと圧殺してみせよう

さぁ、アジトが見えた

あぁ、敵が見えた

いざ、闘争だ

愛を、寵愛を得るために

或いは、自由を得るために

眼前の敵をいざ屠ろう

『歩兵』の進軍を前に、シナズは『蠢くもの』に指示を出した

 

「……!」

 

彼等の敗因は揃いも揃って、功を焦り、足元がお留守だったことだ

草に隠れて見えなくなっている蟻に気付けなかったことだ

 

蟻が一斉に弾けた

 

『歩兵』は宙を舞う

奇襲を仕掛けるはずだった彼等は足元からの奇襲を諸に食らう

足が千切れた

腕がもげた

首が飛んだ

臓腑が零れた

被害は増大

傷の浅い者もすぐには動けない

けれど、まだ生きている

スタイリッシュの命令に愚直に従い、芋虫のように『歩兵』は這う

 

「同じ轍は踏まないわ」

 

『蠢くもの』の容赦のない追撃が『歩兵』の頭部を抉った

一瞬で半分以上の『歩兵』が減らされた

 

「……?」

 

そのとき、シナズは不自然な風の流れを感じた

 

風で乱れた髪を整える女が恐ろしいものに見える

こちらも怪物を投入しているが、アレはどう動くかわからない

影で潜伏していたトローマは息を飲む

ナイトレイドに勝てるのか……?

 

そのとき、ナイトレイドのアジトに衝撃が走る

 

※ ※ ※

 

獣は巨驅だった

無駄な肉を削がれてなお、三メートルは下らない

『歩兵』はシナズに残らず足止めされた

しかし、爆発などなかったかのように獣はアジトに侵入した

シナズに気づかれることなく、その頭上を飛び越えて、その巨体をもってアジトに穴を開けた

 

透明化

 

怪物の姿はシナズの目に映っていなかった

爆発がなければ足音をとらえれただろう

怪物に与えられた命令が『あの建物の中にいる人間を食べちゃいなさい。あ、駄目。やっぱなし。生け捕りよ!

いい?』でなければシナズに向かっていた

その闘気に感づかれカウンターをもらっていただろう

しかし、それはたらればの話

怪物はアジトに踏み入り、侵入する際に巻き添えをくい吹き飛ばされていたタツミを発見し、爪を降り下ろした

 

「……ッ!」

 

いかにタツミが未熟な身であろうと駄々漏れの闘気に気付けないわけがない

何よりタツミはエスデスを魅せた才能の塊である

 

「オラァ!」

 

見えない爪撃を転がってかわすだけでなく、素早く跳躍して見えざる侵入者の首に剣を添えた

 

「グォ……!」

 

「……ッ!?」

 

人のものではない悲鳴が溢れる

されど、首を落とすに至らず、それどころか怪物は無傷でその姿を晒した

四つん這いのその怪物はタツミのよく知る鎧に身を守られていた

 

「その帝具はお前のもんじゃねぇだろ……ッ!」

 

「グルォォ」

 

鋭い闘志を燃やすタツミに怪物は低く唸る

 

※ ※ ※

 

 

「あら、やだ。大打撃じゃない」

 

『歩兵』の体内には爆弾が仕込まれている

不利になれば爆破する手があったが、爆発の範囲内にナイトレイドはいない

『歩兵』に仕掛けた小細工がおおよそ無駄になってしまった

スタイリッシュは『歩兵』が壊滅状態にあっても「勿体ない」程度の感想しか持っていなかった

兵隊の替えなどいくらでも効く

 

「奮発してきてよかったわ。第二陣、前へ」

 

今回持ってくる予定がなかったのはインクルシオを纏っている『フリークス』

もう一つは『フリークス』を元に改造した強化兵

 

「いいんですかスタイリッシュ様!?」

 

「あの一斉爆破は一度きりの初見殺しよ。二度目はないわ」

 

おそらくだけどね、と心の中で付け加える

 

「『と金』部隊、スタイリッシュに圧殺さない!」

 

※ ※ ※

 

「なぁんだ。クビョウが慌てて出ていったからどんなのヤバい奴かと思ったら雑魚ばっかじゃない」

 

「そうですないみたいですよ」

 

それは異形だった

殆どは二足歩行だったが、四つん這いのものがいれば四本腕だったり、腕も足もないものもいる

『フリークス』を元に改造された囚人共の成れの果ては己の空腹に従い、前進する

 

「何よあいつ等!?危険種!?こんなときに!?」

 

「ここ周辺の危険種は狩り尽くしましたし、敵の戦力じゃないですか?」

 

※ ※ ※

 

クビョウは背後から強化兵が詰めてきていることを感じ取っていた

あれは死を恐れない死兵だ

怖いから正面から相手にしたくない

下がることが出来なくなったクビョウはジリジリと前進する

カクサンの横を通り抜ければまだ時間は稼げる

しかし、不本意であり、やがてじり貧になる

カクサンの口角は吊り上がる

何度か剣を当てられたが、薄皮一枚にも届かない

逃げ道も『歩兵』で封じた

この相手は詰みだ

だから、とどめを刺そう

 

「おおおお!!」

 

カクサンは体を大きく広げ、クビョウを押し潰そうと全身を叩きつけた

カクサンが決着に出たことが分かっていても、クビョウは後退を許されず前に出るしかなく

水竜の剣は

 

 

「うぇ……?」

 

 

「全身を鍛え上げているって言ってましたけど、口内はそうでもないみたいですね」

 

カクサンの口内を刺し貫いた

 

「は、はんで……?」

 

カクサンは、なんでと言いたかったが舌を斬られまともに発音できない

 

「答えましょう。本当に貴方の全身が鋼鉄のようであれば私に勝機はなかった。それなら私は貴方に恐怖を抱く、しかし、なかった。穴の在る鎧など怖くないでしょう?」

 

最後までカクサンはクビョウの答えを聞いた

何かを言おうとして、そして、死んだ

 

「でも、貴方が強化兵のような死兵であれば私は狂っていたかもしれませんね」

 

クビョウの独り言を強化兵だけが聞いたが、そんな言葉に意味はない

クビョウは風のように強化兵の合間を走り抜けた

 

※ ※ ※

 

「カクサンが……やられました」

 

「は?」

 

いやいや、いくらなんでも早すぎでしょう

カクサンに当てた相手はリミット付きの身体強化が精々の筈

剣を通さないカクサンを数分で倒すなんてどんな裏技を使ったというの!?

 

「敵が強化兵を無視して近づいてきます!」

 

「ご安心を!私達は将棋で言うところの金銀!」

 

「お守りします!」

 

いやいや、無理でしょう

アンタ達は諜報用

戦闘用じゃないでしょ

毒で止める?

毒が体に回る前に仕留められる

背を逃げる?

向こうの方が早いから追い付かれるのがオチね

奥の手を使う?

これしかないじゃないの?

 

「迷わず使えば死なずに済んだのに」

 

「え」

 

それは誰の声だったか

自分のか『耳』や『目』か

投擲された剣が顔に突き刺さったスタイリッシュには確認することは出来なかった

 

「ああ、怖かった」

 

スタイリッシュを殺したクビョウは安堵の息を吐き、自身に害をなすかもしれない雑兵の掃討戦に移った

それにアジトにいる敵は相手したくない

もしも、シナズ達が負けても、この距離ならば安全に逃げきれる




正直、スタイリッシュ戦はカットしたかったんです
アカメの活躍ないし、百合もないし
でも、仕方ないじゃない
アレをここで登場させずにどこで出すというの
あ、『と金』は原作で登場してたスタイリッシュの遺産です
顔にバッテンつけた変な屑野郎が玩具にしてた危険種です

スタイリッシュの活躍?
奴は犠牲になったよ
作者が楽するための犠牲にな

クビョウは臆病なんでスタイリッシュに毒使われたり、危険種イッパツ使われる前に始末に行きました
あの男、活きのいい実験体逃がす気ないですから
逃げれないなら殺すしかないネ!

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