帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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出逢いを斬る!

『ナイトレイド』

名前の通り帝国の重役や富裕層の人間を標的に夜襲する殺し屋集団

全員が帝具使いの小数精鋭だという

暗殺部隊に所属するアカメの耳にまでその名は届いていた

アカメのナイトレイドへの心証は悪くない

彼等が暗殺しているのは帝国が裁かぬ人の皮を被った魑魅魍魎共だけ

殺されて当然の屑ばかり

アカメはどんな理由があっても殺しは許されないと甘えたことをいう偽善者ではない

彼等は殺すことで無辜な民草を救っている

そもそもアカメは革命軍自体応援している節もある

アカメが選んだのは帝国ではなくあくまでも妹ただ一人なのだ

革命軍などそのうち制圧されることだろうと思っていたアカメだったが予想外のことに革命軍は数年も帝国に苦汁を嘗めさせて続けている

帝国から革命軍に寝返る者、帝国の内から革命軍を手引きする者、革命軍の行動に目を瞑る者などが後を絶たない

帝国の腐敗はそれだけ根強く千年続いた帝国の終焉を多くの帝国民が心の底から望んでいるのだ

かくいうアカメもまたに見つけることがある革命軍のスパイなどを見逃している

歩き方から素人でないことがわかる者が増えている一般の兵士になら気付かれないだろうがアカメ程度の使い手にはただの旅行者ではないのが一目同然だった

焼け石に水とわかっているが彼等には頑張ってもらいたい

仕事で標的にならない限りの話だが

仕事になればアカメに一切の容赦はない

標的を迅速に葬ればそれだけクロメの負担が減る

重税に耐えかねて一揆を起こした村を皆殺しにすることも厭わず行った

革命軍の刺客に襲われることもあったが自分とクロメに仇なすなら葬るだけのこと

アカメとクロメは標的のリスト入りしているらしい

この事から暗殺部隊とナイトレイドがぶつかるような事態を危惧していたが今の暗殺部隊の頭が無能で助かったと言える

奴は暗殺部隊を道具としか見ておらず不正で得た金で贅の限りを尽くしているが大臣に与えられる以上の仕事はしようとしない

悪事を積極的に行わない限りは革命軍が優先的に自分とクロメを襲ってくることもナイトレイドを送り込んでくることもないはずだ

クロメ達を薬漬けにしたビルならデータを取るためという口実で暗殺部隊とナイトレイドをぶつけたかもしれない

そうなれば暗殺部隊の仲間を見捨てクロメと逃亡していた

クロメに恨まれることになってもアカメは妹の無事を優先する

今のところ逃亡する心配はないが時間の問題だと思っている

約千年前に始皇帝が自分の死後も帝国を守りたいと莫大な財、権力、叡智を集結させて製造させた48しかない兵器『帝具』

その規格外の性能ゆえ帝具の数で勝利の有無が決まると云われている

帝国を守りたいという願いで作られた帝具が帝国を滅ぼさんとする革命軍を支えているのだから皮肉なものだ

アカメとクロメは貴重な帝具使いだ

まだ戦力差があるためか力を蓄えてある革命軍が雌伏を終えたとき全面戦争が勃発するだろう

戦争になれば間違いなく駆り出される

それでなくてもクロメは薬によって体がズタボロなのだ

長くはない

仲間のカイリなど同年代にも関わらず老人のような出で立ちになっている

自慢の妹クロメも遠くない内に老婆になるかもしれない

尤もクロメは老婆になっても可愛いに違いないが

……老化はマシなほうだ

生きているのに変わりはない

酷い場合は衰弱し死ぬ

そうなり処理された仲間は腐るほど目にしてきた

実験台の中でも優れていたアカメを含む七人は元羅刹四鬼ゴズキに引き取られ天然の暗殺者として育った

帝国の真実を知ったアカメは薬による制限も洗脳による忠誠心もない

帝国を裏切るのは難しくない

だがクロメを守りながら逃げ切れる訳でもない

優先するべきは帝国と革命軍の行く末ではなく、最愛のクロメ

クロメを救うためにはどうすればいい?

薬を止めさせる?

否、半日ごとに服用しなければ禁断症状が出る

妹の苦しむ姿は見たくない

クロメを薬なしで生きていける真っ当な体に戻す手段

それを探す

いや、もうずっとずっと探している

革命軍の手を振り払ったあの日から

柄にもなく思考の海に身を沈めることが多くなったアカメは視野が狭くなった

故に起きた悲劇だった

 

「あ、すいません」

 

「……ッ」

 

道行く人にぶつかってしまった

それより重大なのはぶつかった拍子に手に持っていた食料(にく)を落としてしまったことである

昔のアカメなら有り得なかった失態だ

これが刺客ならば今頃アカメは亡き者になっていた

いや、言い訳がましいかもしれないが殺気だったならば咄嗟に身を翻せていた筈だ

思考と肉の至高のダブルサンドはアカメをここまで耄碌させたのだ

 

「私は……私はぁ……ッ!」

 

アカメは膝を突き慟哭の涙を流す

愚かな過去の自分を殴ってやりたい

肉よ

どうか愚鈍な私を罵ってくれ

お前から目を離してしまった不甲斐なさを笑ってくれ

こんなことで妹を守れるというのか

いあや、肉一つ守れない者に明日などこない!

 

「えっ?ちょ、泣かないでよ!変に注目されちゃうから!ほら、お詫びにお肉奢るから!」

 

慌てふためく少女に腕を引かれアカメは肉の前から姿を消した

アカメがその肉と出逢うことは、もう二度とない

 

※ ※ ※

 

「貴女、女の子なのによく食べるねぇ……」

 

「そうか?」

 

アカメの前には皿が高々と積み上げられていた

ぶつかってきた相手に非があるとはいえ容赦のない喰いっぷり

食べ物の恨みは何より恐ろしい

 

「しかし、これだけ食べてお金はあるのか?」

 

「あはは、心配なら食べる手止めるくらいしてくれてもいいんじゃないかにゃー」

 

「そうか……」

 

「あ、大丈夫!私、宮殿で侍女やってるからお金は結構あるからさ!そんな捨て犬みたいな顔しないで!食べた食べた!」

 

「そうか!」

 

「うん、なんていうか分かりやすい子だねー」

 

同じそうか、という言葉なのにニュアンスの違いが手に取るようにわかるくらいにわかりやすい

それが美点だとは妹の談

そして同じことをアカメは妹に言っている

やはり姉妹である

 

「宮殿か……」

 

アカメは考える

肉を奢ってくれる優しい少女が宮殿に跋扈する人外共の毒牙にかかる可能性

妹に比べれば当然見劣りするものの少女は美しかった

風に靡く白髪など作り物のように思えるほどだ

 

「へー、心配してくれるんだ。君は優しいね。でも、心配ご無用。私は戦闘は得意じゃないけど素人ってわけじゃないから面倒事はうまく避けてるの。慣れれば地獄だって都だからさ」

 

白い歯を見せて笑う姿はなるほど確かに図太く生きていけそうだ

そこでアカメはふと気付く

 

「そういえば名前を聞いてなかったな」

 

「そうだっけ?――――私はチェルシー。また合う事があったら仲良くしましょ」

 

それが帝国に仇なす敵との邂逅だったことをアカメは知ることはなかった

 

※ ※ ※

 

「あら、遅かったじゃない。デート?」

 

「ぶぶー、不正解。残念ながら相手がいないからさ。ちょっと、()()()とお茶してたの」

 

女はひどく真剣な表情でチェルシーの顔を覗く

 

「――――そのお友達は女の子かしら?」

 

「そんなことどうでもいいじゃん」

 

「よくないわよ。重要なことよ。チェルシーが目覚めくれたならこれ以上嬉しいことはないわ。今夜はお赤飯にしましょうか?」

 

僻々とした様子のチェルシーに気付かず女は一人盛り上がる

こうなったら暫くトリップして帰ってこないのでチェルシーに手頃なソファーに寝転がり棒付きの飴を口の中で転がす

聞いてないとは思うが一応形だけ報告しておくことにした

 

「皇帝の暗殺自体は簡単なんだけど、大臣は無理。あれで以外と警戒心強くてさ。私が殺せる範囲まで入れてくれないし護衛の羅刹四鬼が目を光らせてるからね。それに皇帝を殺した後、私が無事じゃ済まない」

 

「それくらい自力でなんとかしていただきたいものですけど引き続き潜入をお願いしますわチェルシー」

 

「なんで先輩に上から目線なのかなー?」

 

(わたくし)が誰に対しても不遜なことはご存知でしょう?」

 

「あ、後が怖いから止めましょうよライラちゃん」

 

「はッ、私はチェルシーよりクビョウの方が怖いですわ」

 

「おやおや?そんなこといっていいのかなー?私に泣き顔見せてたのはどこのお嬢様だったかなー?」

 

「それは私が()()()()()()に入って間もない頃のことですのよ!」

 

四人の死神オールベルグ(傭兵)は明るく笑う

傍から見ればそれは異質な光景だった

彼女等は築かれた死体の山に腰掛け、返り血が飛んだソファーに寝転がり、まだ新しい死体を蹴飛ばし、笑っているのだから

 




はいはいはいはい!『アカメが斬る!零』に出演していた『オールベルグ』
彼女等はチェルシーを除いて全滅するんじゃないかと思うんですがね
ここでちょいとオリジナル設定を加えさせていただきました!
彼等は滅びず立て直したという感じで!
ナイトレイドにアカメがおらずイェーガーズにアカメが入るんですからこれくらいのハンデは必要ですよね?

あぁ、アカメとチェルシーはコルネリアとタエコみたいにならないといいですね(ニッコリ

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