帝国で斬る!   作:通りすがりの床屋

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前回のあらすじ

フランスパン



ちょっと、幕間と時系列が前後します

無理だけど、「私とレオーネでは体重に大きな差がある」のシーンを入れたかった
アカメは他意なく言ったわけですがレオーネにぶたれ、ぶたれた理由が分からないと涙目で困惑するアカメ
可愛すぎか!




結成を斬る!

 

その日、ナイトレイドに持ち帰られたのはブラートによる吉報ではなく、帝都に潜入している密偵から齎されたブラートがエスデスに殺されたという凶報だった

ナジェンダはシェーレが殺されたと聞かされたときのように取り乱すかと思い、タツミを見る

歯を食いしばり、血が出るほど強く拳を握っているものの敵討ちだと言い出す様子はない

 

(成長したなタツミ)

 

ナジェンダは少なからず、ブラートを失った悲しみで勘が鈍っていた

タツミが決定的に道を踏み出すのを止めれなかった

タツミの中に炎が生まれ、(くすぶ)

相手は帝国最強

ブラートを殺した相手

無策で勝てる相手ではない

取り乱すな

今はその時ではない

だが……

 

(エスデス!お前は俺が必ず斬る!)

 

憎しみの焔がタツミの心を焦がす

純朴だったはずの少年を正しい道に戻してくれる兄貴はもういない

もし、ブラートの最期に立ち会っていたならばタツミはブラートの熱き魂を受け継いだことだろう

結末は変わったかもしれない

けれど、回り始めた歯車は止まることなく狂いだす

シナズは静観する

タツミが女であったなら止めるなり手を貸すなりしていただろうが、彼は男だ

だから、必要以上に干渉はしない

数週間後、ナジェンダは帝具の運搬とメンバーの補充を兼ねて革命軍本部に発った

その間、ナイトレイドのボス代理はシェーレ

不安がないといえば嘘になるとはナジェンダの談

 

※ ※ ※

 

帝都メインストリート

一人の青年が道を行く

彼の名はウェイブ

地方の帝国海軍で戦ってきた海の男

ウェイブは数少ない帝具使いのため、帝国の特別警察から招集がかかった

間違いなく出世だ

ただ、地元でウェイブの強さは三番目

帝具使いというか肩書を買われただけじゃないかと散々からかわれた

上二人が強すぎるだけで帝具抜きでもウェイブは強い

都会は華やかだが、主婦が護身用か武器を持っているところ、治安が悪いのは本当らしい

その主婦達の視線がウェイブに集まっている

何かやらかしたかと不安になる

活きのいい海産物のせいで目立っていると彼は気付かない

主婦達はウェイブを通報するか相談しているが、彼が警察になるとは思いもしないだろう

 

集合場所までスムーズに辿り着けたウェイブ

中々に運がいい

まだ見ぬ同僚に心弾ませる

最初が肝心

舐められないように

 

「こんにちは!帝国海軍から来まし――――

 

「ねぇ、お姉ちゃん。チェルシーって人はお姉ちゃんにとってのナニ?」

 

「チェルシーはただの友達だ」

 

「トモダチ?トモダチ、友達、そっかー、友達かー。なら、安心だ。死ん――――

 

ウェイブは静かにドアを閉じた

 

(え?何これ修羅場ってやつか!?)

 

ウェイブは、部屋を間違えたかもしれないとその場を後にしようとしたが、

 

すぐ背後に覆面の大男が立っていた

 

「………」

 

「………」

 

しばらく見つめ合い、ウェイブは道を譲った

覆面の大男は一礼し、部屋に入っていった

ウェイブは集合場所が記載された書類を読み返す

特別警察会議室とある

今、拷問官のような趣きをした大男が入っていった部屋で間違いない

 

(ってことはアレが同僚かよ!!流石、帝都!きょうび海賊だってもっとまともな格好してるわ!!)

 

というかまじで殺しちゃう五秒前みたいな目の逝っちゃった女の子も同僚ということになる

ウェイブは既にホームシックを起こしていた

都会に出世とか浮かれていた昔の自分を殴りたい気分だ

都会の荒波の前に為す術もなく、メンタルが削られるウェイブだった

覚悟決めて部屋に入り、適当な椅子に腰かける

覆面の大男は何も言わず、ウェイブを凝視してくる

ヤバい娘は虚ろな目でお菓子食べてるし、姉と呼ばれた方は慈しむような目で見てるけど、積み上げられた皿で大食いの印象しか抱けない

ウェイブ君は涙が出そうです

でも、泣きません

こんなことで悲観していたら故郷の姉貴に投げ飛ばされてしまいます

 

「失礼します!帝都警備隊所属セリュー・ユビキタス!&コロです!」

 

バターン!と扉を開け放ち、ビシッと敬礼する女の子

足元の動くぬいぐるみとか、手に薔薇の花束とか気になることはあるが、今度こそまともそうな娘だ

と、油断したのも束の間、手に持った花束を勢いよく振り、薔薇を撒き散らす

 

「Dr.スタイリッシュ、準備が出来ました!!」

 

カッ、その男は堂々と入室する

 

「第一印象に気を遣う……それこそがスタイリッシュな男の嗜み」

 

凄く、オカマだった

 

「アラ!見るからに田舎者だけどアナタなかなかイケメンじゃない!」

 

しかも、オカマはウェイブを気に入ったようだ

そんなに田舎者っぽいだろうかなど気にしている余裕はなかった

 

「Dr.スタイリッシュ」

 

妹だけを見ていた娘もようやく戻ってきたようで、オカマの名を呼ぶ

もしかしたら、今の今までトリップしていてウェイブの存在に気付いていなかったまである

 

「はーい、アカメちゃん。これからは同僚なんだし仲良くやりましょうね」

 

どうやら顔見知りのようだ

表情の変化は殆どなく、表情からは二人がどういった関係かは窺えない

妹の方はまだ戻ってこない

一心不乱にお菓子を齧っていた

 

「こんにちは」

 

重い空気の中、濃い面子ばかりの特殊警察、最後の者が扉を開けた

どうせ、この人も一癖あるに決まっている

ウェイブは僻々と挨拶を交わす

 

「よぉ、よろしくなウェイブだ……」

 

「ランです。こちらこそよろしくお願いします」

 

ランはニコっと挨拶を返す

それだけだった

見た目がヤバいわけでもなく

目の奥がヤバいわけでもなく

オカマでもなく

普通だった

 

(ようやく最後にまともな奴がきた!)

 

神はウェイブを見捨ててはいなかった

あまりの感動に涙が出そうだ

 

この後、上司に不意打ちで蹴りを貰うが、それがウェイブの宿命ということだろう

故郷でも大体、そんな感じだった

 

※ ※ ※

 

「さきほどの趣向は驚いたか?普通に歓迎してもつまらんと思ってな」

 

エスデスは仮面を被り、歓迎としてウェイブ達の腕を試した

ウェイブとセリューは投げ飛ばされたが、クロメがエスデスの仮面を斬り、良しとなった

アカメとしては仮面を被った程度で変装しているつもりなのかとツッコミたくあった

 

「荒々しいのは慣れてますから」

 

「寧ろ、ご指導ありがとうございます」

 

現在、アカメ達はスーツを着用し、宮殿を歩いている

 

「よし、では陛下と謁見後パーティーだ」

 

「い、いきなり陛下と!?」

 

「初日から随分飛ばしているスケジュールですね」

 

アカメは皇帝がお飾りなのを承知している

謁見は形だけのものであり、実質、大臣への顔合わせである

 

「面倒事はチャッチャと済ませるに限る」

 

「それよりエスデス様。アタシ達のチーム名とか決まってるのでしょうか?」

 

名前なんてどうでもよさそうなものだが、このオカマ、決まってないならスタイリッシュなチーム名を勝手に付けるつもりである

エスデスは笑って答えた

 

「うむ、我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群を容赦なく狩る組織……故に、特殊警察『イェーガーズ』だ」

 

この日、イェーガーズとナイトレイドの帝国の行く末を掛けた戦いの火蓋が落とされる

いや、イェーガーズとナイトレイドだけではない

もっと多くの、大きな、戦いの、火種となる

それをこの時、予想していた人間はどれほどいただろうか

少なくとも、エスデスはその予感を感じ取って、笑っていた


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