カールスラントの魔術師はISと翔る(かける) 作:ミヤフジヨシカ
今回でプロローグのリメイク終了です。
見つかった男性操縦者がお前の弟『織斑秋十(おりむら あきと)』ってことだ。
織斑秋十
イチカがイチカ・ハルトマンではなく、織斑一夏として生きていた頃の家族の一人。
『織斑の面汚し』や『無能の織斑』etc……
天才だった姉の織斑千冬や弟の織斑秋十と比べられて、毎日を虐めと罵声、暴力ばかりだった一夏にとって、千冬や秋十は家族であって家族では無かった。
どんなにテストで良い点数を取っても、
「取れて当たり前だ」
「秋十を見習え」
など、姉の千冬からは一度も褒められた事は無かった。
逆に秋十がテストで良い点数を取った時などは
「良くやった」
「流石は私の弟だ」
と褒める千冬を見て何度悔しさで泣いたか分からなかった。
弟の秋十からも
「こんな簡単な事も出来ないなんて、なんでお前なんかが織斑なんだよ?」
と言われたとこもあった。
家では一夏は最底辺。
家事などは全て一夏の担当で、そのせいで余計に勉強に時間が割けず、テストの点数が低くなる悪循環だった。
なぜか習わされた剣道でも、何もかも劣っていた一夏にとって、秋十は他の大勢と同じ自分を見下す人間だった。
あの日、イチカが一夏として死んだ日、誘拐現場で見たテレビの映像。
『今一番に会いたいのは最愛の弟ですね。』
そう言って秋十と抱き合う千冬を見て、一夏は悟った。
『自分は織斑として見てすらもらえなかった』
その時『一夏』は織斑では無くなった。
織斑一夏の心が死んだ瞬間だった。
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「イチカ君、大丈夫かい?」
ゲーリング中将が心配そうにイチカをみていた。
どうやらまた物思いにふけっていたらしい。
今日は良く昔を思い出す日だ………………イチカは心の中で自嘲する。
自分はまだ『織斑』に未練があるのか…………と。
「いえ、ゲーリング中将大丈夫です。」
なおも心配そうにイチカを見ているゲーリング中将。
最早先程の怒気は欠片も残っていない。
「まぁいい、イチカ。
予定が大幅に180°くらい狂っちまった。
当初の予定ではどうやってお前さんを世界から隠すかって話だったが、こうなったら最早無意味だ。
前例がある以上、他にもいるかもしれないと各国が躍起になって探すだろう。」
そうなればお前さんを隠し通すのは不可能だ。
フォムト中将もゲーリングも同意見なのだろう。
ゲーリング中将に至っては手のひらから血が出るくらい握り締めている。
「織斑秋十は恐らくIS学園に強制入学になるだろう。
年齢も今年で16だから問題無いしね。」
まぁ、女の花園に男一人ってのが問題じゃ無かったらな、とフォムト中将は冷やかすが。
イチカとしては、既に秋十の事などどうでもいい。
それよりもずっと大切な家族を手に入れたから。
「イチカ君、そしてラウラ君。」
ある程度落ち着いたゲーリング中将がイチカとラウラに話しかける。
「正直、今のドイツは、いやイギリスもフランスもこの事態にどうしていいか判断を下しかねている。
元々、どうやったら世界からイチカ君をうまく隠せるか、と言うのが上の判断だったからね。
上が決めかねている以上、私達にはどうすることも出来ない。」
どうするべきか…………
この場にいる5人(デュノア社長、フォムト中将、ゲーリング中将の部下はとっくの昔に部屋から逃げてる)は頭を傾ける。
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁ!」
それは偶然だろうか。
咄嗟に後ろに跳んだイチカがいた場所に何かが降ってる来た。
どうやら天井の換気口らしい場所のフタが降ってきたのだ。
一歩間違えば大怪我は免れなかっただろう。
そんなことよりも、イチカの脳裏に先程の声が引っかかった。
もう何年も会っていない、イチカが一夏だった時に唯一一夏に優しくしてくれた心の拠り所の人物と同じ声。
「いぃぃぃぃっくぅぅぅぅん!」
あぁ…………やっぱり…………
「束さん…………」
換気口のフタを壊して降ってきた人物。
ISを作り上げた張本人にして世界のオタズネモノ、天才にして天災の科学者。
『篠ノ乃束』
その人だった。
「いっくん!本物のいっくんだ!
ごめんね直ぐに見つけて上げられなくて、束さんがもっとしっかりしていればあんな事させなかったのに。
いっくん怪我は無い!?今まで酷い事されて無かった?
束さんでも見つけれなかったからどんな場所にいたのsan………………」
相変わらずだなぁ…………
篠ノ乃束に抱きつかれたながらイチカはそう思う。
何時も何時も、一夏だった頃はこうやって抱きしめられて励まされたものだ。
それから、未だに色々と抱きしめながら涙する束を落ち着かせ、突然の篠ノ乃束の乱入に色々修羅場と化した会議室を沈静化するのに数十分かかった。
どうやら、イチカが誘拐された時、篠ノ乃束は世界中を探し回ったらしい。
織斑千冬とは第二回モンドグロッソ以来会っておらず、会話すら殆んどしていない絶縁に近い状態らしい。
何年も探し回っても痕跡すら掴めず、もう諦めかけた時に、たまたま飛ばしていたドローンの1つが洋上を飛ぶイチカを捉えたらしい。
見た目も声も何もかも違って居たが、束はひと目でそれが一夏だとわかったらしい。
そうして、こっそりシャルル・ドゴールに忍び込んでここまで付いてきたらしい。
イチカは束に自分の全てを話した。
あの日あった事、どうしてここにいるのか、そして『あの世界』の事。
束はその全てを信じた。
イチカが嘘かもしれないですよ?
と、信じた束に聞き返した時
「いっくんの事は直ぐにわかるよ」
と束が笑顔で後に言ったことだ。
それぐらいイチカの事を大切に思ってくれていた。
イチカは姉より姉らしい束にギュッと抱きついた
「今まで会いに行かなくてごめん。」
実際は会いたくても場所が分からなかったのだが、それでもイチカはそう言いたかった。
「いいんだよ、いっくんそんな事は。
それよりいっくんお願いがあるんだよ。
IS学園に入学してくれないかな?」
あいも変わらず唐突に、束はイチカにそう言った。
イチカはこうした束の性格には慣れっこだが、ゲーリング中将達は可成り焦った。
「し、しかし篠ノ乃博士!?
IS学園にはあの織斑秋十が!」
珍しいゲーリング中将の焦った態度。
普段は冷静温和で親馬鹿(イチカとラウラのみ)なゲーリング中将には珍しい事。
それだけ束が提案した事はゲーリング中将を含めたデュノア社長、フォムト中将、ひいては英仏独の三国にとっても危険な賭けだった。
「勿論理由があるんだよ!
今、いっくんの事を世界に広めれば、確かに英仏独には多少批難が来るだろうね。
だからこう言っちゃえば良いんだよ。
『私達は織斑秋十に接触しないしデータも必要ないって』
勿論、それじゃ他の国はまず納得しないだろうね。
けど良く考えてみて?
いっくんが乗ってるのは普通のISじゃ無いんだよ?
言わばいっくんが乗ってるのは第三世代を超えた第四……いや、世代では表せない新たなる可能性だよ。
でも他国はそんなの知らない。
ただのヘンテコなISとしか見れないよ?
一般的なISでは絶対活用出来ないデータ、もしかしたらすこしくらい使えるデータもあるかもしれないけど…………とにかく、他国が手に入っても使えないデータを一緒にちらつかせれば、アメリカやロシアみたいな自称先進国さん達は喜んで食いついて来るよ。」
「しかしそれと自分がIS学園に行くのと何の関係が?」
「簡単だよいっくん!
いっくんがここにいるよって世界にわかるようにする為だよ。
下手に欧州、しかも英仏独の三国だけで秘匿するよりかは遥かに安全になる。
IS学園は他国の干渉を一切受けない世界から隔離された場所。
それが表向きだけだとしてもね。
居ると分かっていても手が出せない。
出したら出したらで合法的に潰せるしね。」
うふふふふと笑顔で言う束。
潰せるのは束さんだけですとはとても言えないイチカ…………
それとは別に、ゲーリング中将やデュノア社長、フォムト中将は束の話に食いつき気味だ。
「それもありか…………しかしそうなるとイチカ君は一応我がドイツに所属している事になるからイギリスとフランスが多少不利になる……」
「いや、ここはイチカ君がいた『あの世界』みたいに複数国で統合した1つの部隊にすれば…………」
「となるとイチカとラウラ嬢ちゃんの他にも人数がいるな…………
うちからは代表候補のセシリア辺りを…………」
「フランスは私の娘のシャルロットかな…………シャルロットも代表候補生だし歳も同じだから……」
何だか知らぬ間にどんどん話が進んでいるらしい…………
最早何を言っても無駄だろうと、開き直ってイチカはラウラと束と共に紅茶を楽しんだ。
一週間後、世界にまた大ニュースが流れ込んだ。
『二人目の男性操縦者現る』
名前はイチカ・ハルトマン。
イギリス、フランス、ドイツのIS操縦者で設立した
『第343統合戦闘航空団』司令官にしてドイツ軍IS隊の中佐である。
『一人目の男性操縦者』こと、織斑秋十と同じくIS学園に入学予定、
しかも、『第343統合戦闘航空団』には、自称『整備士兼科学者兼保護者兼天災お姉さん』の篠ノ乃束博士も所属している模様。
某朝で日な新聞より一部抜粋………………
WTしたいです(´・ω・`)