カールスラントの魔術師はISと翔る(かける)   作:ミヤフジヨシカ

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遅れてしまいました。大変申し訳ありません。
仕事が忙しく、北から南、果ては海外までいっておりました。
これからも、鈍足ウェリントン投稿となりますがそれでも楽しんで頂ければ幸いです。

なお、空戦描写はWarThunderをイメージしていただけたら幸いです。


あ、因みに筆者は零戦&紫電改教です。



12翔

青い、蒼い空をキャンバスに3機のISが白い飛行機雲を引きながら高空を翔る。

既に5機の米軍IS、『F3F フライングバレル』を叩き落とし(撃墜判定)、私は残りの2機を撃ち落とすため緩やかに左旋回した。

どうやら残りの2機は新型のストライカーユニット型IS『F6F ヘルキャット』らしく、シルエットは他に比べて幾分小さい。

僅かに左半身を下へロールさせ、数回のヘッドオンで既に加速力、中高度での上昇力ではヘルキャットの方が優れているとわかった為、速度減衰を少しでも防ぐためにストライカーユニットの速度が落ちないギリギリの旋回で進路を変え、銃弾を躱し、相手の隙を伺う。

20㎜機銃の残弾は残り60発、予備の弾倉に変える余裕は殆んどない。

既に2機の米軍ISはかなりこちらに近づいてきている。

距離はおよそ1000m程だろう。

高度はほぼ同じ3000m、速度はあちらが有速だと思われる。

右へロールした後、直ぐ様大きく左へとバレルロールしてまずは軽くヘッドオンを回避する。

すれ違い様2番機(実力は中の上位だろう)が私に向かってM240軽機関銃を撃ってくるが狙いは甘く一発も私をかすることすらない。

1番機のバルドー少佐は一発の銃弾も撃ってこない。

しかし、その鷹のような鋭い目線は上昇しようが下降しようが、バレルロールしてオーバーシュートを狙ってもなお、片時も私を離さない。

相対速度は700キロを超えていただろう。

再度ヘッドオンを回避した瞬間に私は体を捻らせ相手に向かって九九式20㎜機銃を撃つ。

バルドー少佐は軽々と20㎜の弾丸を機体を右へと滑らせて回避する。二番機に数発は掠めたがそれは撃墜判定になることはなく、ヘルキャットの防弾性の高さを知った。20㎜クラスの機銃でも恐らく下手に撃てば弾かれてしまうと思う程の防弾性に内心羨ましく思う。

2機は左右に散開して私を挟み撃ちにし、5.56㎜機銃と7.62㎜機銃で攻撃してきた。

無論、彼女達の射撃は全て避けるが、旋回して片方の後ろにつけばもう一人が私を射撃してくる。

お互いをカバーしつつ、確実に私を撃ち落とす戦法をとってきたのだ。

節約しているが少しづつ20㎜機銃の弾が減っていく。

このままでは撃墜する前に弾切れになるだろう。

弾倉を交換しようと固有魔法により異空間から弾倉を出せばバルドー少佐が的確にそれを撃ち落としてくる。

流石米海軍最強のISパイロットだ。

実力ならあの世界のシャーリー大尉と同等だろうと思う。

…………血が熱く沸騰するのがわかる。

体は震え、頭はアドレナリンがドバドバ出ているだろう。視界は更に鮮明になり、思考は考えられないほど素早く次の手、次の手を考えて行く。

ネウロイ相手に死戦を幾多も潜り抜けても感じなかった興奮がこの身を駆け巡る。

 

 

さぁ、思いっきり飛ぼうか!

 

私は左にロールし逆さ落としの要領で一気に急降下態勢に入る。降下角90度の垂直降下だ。

バルドー少佐とその2番機も私の後ろ、300メートル程を追いかけてきている。どうやら降下速度は彼方の方が上らしく、その距離も少しずつ詰まってきている。

 

チュイン…………チュイン…………

 

耳もとを掠めて行く弾丸が嫌な音をたて、私の恐怖心をゆっくりと煽ってくる。しかし、ここで大きく機体を動かせばそれこそ後ろの敵機(役)に撃墜判定を貰ってしまうことだろう。恐怖心を無理矢理心の奥に捩じ伏せ、極僅かな回避運動で弾丸を回避することに専念する。

海面まで後数百メートル、敵機は後方約100メートル前後だ。私は懐から手榴弾(無論、束さん特製)を取り出し、ピンを抜いてから魔力に物を言わせ後ろの二人にばれぬ動きで思いっきり海面目掛け投擲した。

魔力により増強された投擲は、重力による加速も合わさり下手をすれば700キロ近い速度が出ているであろう。

手榴弾は、一気に海面にぶつかっては、その小ささに似合わない大きさの水煙を上げた。

水煙でバルドー少佐達は違和感を感じただろう。

だが、気づいた時にはもう遅い。私は一気に機体を引き起こした。保護魔法で守られているとは言え、体に掛かる重力までは打ち消せない。猛烈に掛かる負荷に意識を暗く、ブラックアウトしそうになりながらも何とか繋ぎ止め、今度は90度真上に急上昇する。

行動が1歩遅れたバルドー少佐達は私を通りこし、こちらを追いかけようと機体を反転させるが、やはりか私の予想通り、私の駆る零戦に比べ遥かに重量のあるヘルキャットでは上昇力はエンジンパワーにものをいわせているが、降下からの上昇ではその重量が邪魔をしてすぐに減速して私を追いかけることは出来ないようだった。

結局、彼女達が減速出来たのは海面すれすれの高度5メートル程だった。

彼女達が俺を追いかけようと上に視線を向けたとき、私が海中へ向けて投擲した手榴弾が爆発した。

対IS用にと作られた束さん特製のこの手榴弾は、下手をすれば六番爆弾(60㌔爆弾)に匹敵するほどの威力がある。

大音量の爆発音と巨大な水柱が二人を包みこみ、一時的に視界をバルドー少佐達から遮った。

生憎対IS用とはいえ、この手榴弾は爆発の威力は凄いが破壊力は少なく二人が撃墜判定を貰うとは考えられない。

なので素早く弾倉を交換すると再度左ロールして降下、ヘルキャットへと向かっていく。

爆発が収まった地点では、バルドー少佐達は爆発による水柱をもろに受けて高度を10メートル程まで上がっていた。バルドー少佐達も素早く周囲を警戒し、見失った私を探しているが僅かに雲から出ている太陽を背に降下している私を見つけるのには数秒を要した。

 

 

「上だ!散開!」

 

 

バルドー少佐がそう叫んだがもう遅い。既にキルレンジへと詰める私は九九式20㎜機銃を二番機へと発砲した。

発射された銃弾は、僅か50mという距離を瞬く間に飛翔し、二番機を黄色く染めあげて、撃墜した。

バルドー少佐は此方へ向けてM249を撃ってくるが今までと違い照準が甘く、僅かにぶれていた。私は左へ急旋回しそれを回避する。バルドー少佐は俺を追ってくるが、今度はこちらが優速だ。しかも、ヘルキャットの運動性能についても既に大体把握したので此方から更に仕掛けた。スロットルを一気に0へ、ストライカーユニットにフラップはないが魔法で空力を制御して疑似フラップとし、疑似フラップを全快にしてやや上向きに機首を向けつつ大きく左へバレルロールした。

元々旋回性能で零戦より劣っていたヘルキャットで、しかも私を追うためスロットル全開としていたバルドー少佐はこの動作について行けず、オーバーシュートしてしまった。

しかし、それでもオーバーシュートすれすれで体を捻り私に射撃を加えてくるのは流石としか言いようがなかった。

私は20mm機銃では間に合わないと咄嗟に機銃を手離し、腰のホルスターからS&W M1917リボルバーを取り出し私が出せる限界での早撃ちを行った。

お互いに45ACP弾と5.56㎜弾が交差する。

弾速で劣る45ACP弾だが、バルドー少佐よりも早く私が撃った為ほぼ同時に私とバルドー少佐に当たる筈だった。

私は更に疑似フラップを着陸位置まで下げ、意図的失速させた。失速した私は更に減速し、先に失速した右からロールする形で僅かに高度を下げた。そのお陰か、バルドー少佐の撃った5.56㎜弾は左のストライカーユニットを僅かに掠め、空の彼方へと飛んでいった。

直ぐ様疑似フラップを消し、スロットルを100%まであげて、失速域から約時速200㌔程まで回復させる。

バルドー少佐はと彼女を見れば、私の300m程後方でホバリングしていた。遠目でもはっきりとわかる黄色い模様は、彼女が撃墜判定を貰った確かな証だった。

 

 

「完敗です。」

 

 

近づいてきたバルドー少佐はそう切り出した。

 

 

「バルドー少佐も確かにエース級の腕でした。私が熱く本気になってしまう程に。」

 

 

私がそう言うと彼女は嬉しそうに微かに笑った。

彼女の胸には2つの黄色いペイントがあった。私が咄嗟の早撃ちで撃てたのは3発。聞けば初弾は何とかロールする事でかわしたらしい。

正に米海軍きってのエースパイロットだ。彼女への熱い賞賛と、一発かわされた事への反省が胸の内からあふれでてくる。

 

 

「日本側が来るまで後、数分あります。私は母艦へ帰りますが、貴方の活躍を楽しみにしています。」

 

 

「では、必ず勝たなければいけませんね。」

 

 

最後にバルドー少佐と握手した。笑顔のバルドー少佐は軍人としての彼女ではなく1人の女性のケイ・バルドーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

天候は更に崩れ、風は強く海は荒れる。

残りは伝統受け継ぐ海上自衛隊、その中でも最強名高い『二航戦』こと第二航空作戦群の精鋭5機。

私の興奮が冷めることは演習が終わるまで無いだろう。

 

 

 

 




最後に何故優速なのに速度を捨てたのかについては、バルドー少佐の意表を付くためです。
だって、優速だったら一撃離脱は当たり前過ぎてエース級の相手だと対策をとられちゃいますからね?そう言うことにしといてください(土下座)



アメリカ軍のIS事情


アメリカ軍ではISコアの大半を空軍が所有しており、残りの僅かな数を海軍と陸軍で分けている。
今回の空戦では、ケイ・バルドー少佐とメリア・サッチ少尉のみストライカーユニット型IS『F6Fヘルキャット』を使用していた。
残りの5機に関しては、アメリカ海軍の第二世代IS『F3Fフライングバレル』を使用していた。
海軍の第二世代ISは空軍の第二世代ISに性能で劣るとされ、急ぎ空軍のISを越えるために新技術であるストライカーユニット型ISの開発に着手した。
試験機『XF4Fワイルドキャット』の試験結果は良好で、更なる改修、量産性の向上を図ったことから、採用機では、新たに『F6Fワイルドキャット』名が与えられた。

なお、空軍ではストライカーユニット型ISは採用されず、第三世代ISの研究が進められている。




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