南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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データが一回パァになって遅れました(棒)


データが消し飛んだ瞬間の絶望と言ったらもうね…。


今回は「足柄」が頑張ります‼︎




一浬=1852m


第六話 餓狼、奮戦ス

 

1

「艦長より砲術。同航戦で行く、射撃目標は敵巡洋艦一番艦。準備完了次第砲撃開始」

 

「砲戦は同航戦。射撃目標は敵巡洋艦一番艦。準備完了次第砲撃開始します!」

 

中澤艦長の命令を、「足柄」砲術長寺崎文雄中佐は間髪入れずに復唱した。

場所は「足柄」艦橋のてっぺんに位置する射撃指揮所である。測的手や方位盤手に囲まれた砲術長席に、自らの身体を沈めていた。

 

「目標、左同航の敵巡洋艦一番艦。交互撃ち方。測的始め!」

 

寺崎は力強い声で、指揮所内の砲術科員らに下令した。

寺崎の命令によって測的長の坂本譲(さかもとゆずる)大尉を始めとする砲術科員達が、敵一番艦に対して測的を開始する。

 

「主砲旋回、左八十二(ハチジュウフタ)度。距離八千、仰角二十(ふたじゅう)度!」

 

敵一番艦の速度、距離などのデータを射撃計算によって弾き出し、導き出された旋回角、仰角を射撃諸元として各砲台に伝達する。

「足柄」の前部甲板では、送られてきた射撃諸元に従って第一、第二、第三主砲塔が機械的な音響を発しながらその巨体を左に旋回させ、砲身に仰角をかけるさまが見えた。

視界外だが、後部の第四、第五主砲塔も左側に旋回し、敵一番艦に狙いを定めていることだろう。

 

「測的よし!」

 

「方位盤よし!」

 

「主砲、発射準備よし!」

 

発射準備が整ったことを示すように、各部署からの報告が射撃指揮所に飛び込む。

 

「撃ち方始め!」

 

力を込めて寺崎は言った。

直後、「足柄」の左側海面が発射炎で赤く染まり、直径二十センチの砲門から紅蓮の炎が噴き出た。

同時に五発の二十センチ砲弾が秒速八百七十メートルの初速で叩き出され、雷鳴さながらの砲声が轟き、基準排水量一万三千トンの艦体を震わせた。

「古鷹」や「加古」も「足柄」に遅れじと、搭載している二十センチ砲を発射し、後方から遠雷のような砲声が聞こえて来る。

 

「『古鷹』撃ち方始めました!続いて『加古』撃ち方始めました!」

 

「三水戦、敵駆逐艦との交戦に入った模様!」

 

見張員から矢継ぎ早に報告が上げられる。

重巡の重々しい発射音に続いて、駆逐艦の鋭い砲声が立て続けに響き始める。

旗艦「川内」と駆逐艦「初雪」を敵の魚雷で失った三水戦だが、そのような不安は感じさせない勢いで、敵駆逐艦の隊列に斬り込んでゆく。

やがて…だんちゃーく!の報告が飛び込み、寺崎は三水戦への思考を打ち切った。

砲撃目標の敵一番艦を見るため、直径十二センチの指揮官用大双眼鏡を覗く。

 

「今!」

 

丸いレンズの向こう側で、敵一番艦の手前に水柱が上がったのが見えた。

 

艦上に爆炎は躍らない。

交互撃ち方第一射として放った五発は、敵に命中せす、海面を叩いただけで終わったようだ。砲術家の理想は初弾命中だが、夜間八千メートル先の目標に初弾を当てるのは難しかったらしい。

水柱が引いた頃、「古鷹」「加古」の射弾も落下するが、「足柄」同様命中はない。

 

その時、敵一番艦の艦上に閃光が走った…と見えた刹那、発射音がやや遅れて届いた。

遅れずに後方の二、三、四番艦の艦上にも火焔がほとばしり、砲声が海上に響く。

敵艦隊が砲撃を開始したのだ。

主砲が放たれるたびに瞬間的に敵艦のシルエットが浮かび上がり、一番艦と二番艦が、主砲を前部に二基、後部に一基背負い式に乗せている事。

三、四番艦が、「足柄」と同じような配置で前部に三基、後部に二基主砲を装備していること。

四隻とも巨大な三脚マストを屹立させている事がはっきりとわかる。

 

「敵巡洋艦発砲!」

 

「砲術より艦橋。敵一、二番艦はリ級。三、四番艦はホ級と認む」

 

発射炎で照らされた艦影を見て敵巡洋艦の艦種を見抜いた寺崎は、艦橋を呼び出して中澤艦長に報告した。

発射された敵弾が空中にある間に、「足柄」は第二射を放つ。

各主砲の二番砲身が火を噴き、再びの轟音と衝撃が艦上を駆け抜けた。

主砲発射の残響が収まる頃、それにとって変わるかのように、敵弾の飛翔音が響き始める。

それが途切れた、と感じた瞬間…「足柄」の左舷前方に三本の水柱が突き上がり、やや間を開けて、もう三発が右側の海面に着弾する。

こちらは少し近かったようで、「足柄」の艦体をかすかに揺らした。

 

「ぼやぼやできんな」

 

寺崎は唇を舐めた。

「足柄」は敵よりも早く砲撃を開始したとは言え、リ級二隻に砲撃されている。

三、四番艦の射弾は来ない。おそらく「古鷹」「加古」を砲撃しているのだろう。

 

「敵さんも交互射撃を採用しているようですな」

 

そそり立った水柱に目をやりがら、坂本が驚きの表情で言った。

飛んできた砲弾は各三発、米国の情報によるとリ級重巡洋艦の主砲は三連装三基九門である。という事は、深海棲艦も人類海軍と同じ様に交互撃ち方の方法を採っていることになる。

これではますます人類の軍艦と大差ないな、と寺崎は思っていた。

 

続けて「足柄」は第三射を撃つ。

三回目となる轟音と衝撃が巻き起こり、砲門から五発の砲弾を叩き出す。

「足柄」第三射弾が落下する直前、敵一番艦が二回目の砲撃を実施する。三脚マストを挟んで前部二ヶ所、後部一ヶ所に真っ赤な発射炎をほとばしらせ、二十センチ砲弾三発を発射する。

「足柄」の第三射弾はリ級が第二射を放った直後、押し込むように落下した。

敵一番艦の右舷に五本の水柱が突き上がり、三脚マストと競い合うように奔騰する。

位置的には第一射、第二射よりも近い。リ級の巨体を海中から震わせ、頭上からは大量の海水が降り注いでいるだろうが、「足柄」艦上から確認するすべはない。

 

「当たらんか…」

 

寺崎は敵一番艦を凝視して、軽く溜息を吐いた。

いくら見ても、艦上に命中弾炸裂の火焔は認められない。

本来、航行しながら航行している目標に砲弾を命中させるのはかなり難しい。演習などでも一、二十回外す事は珍しくない。

 

だが、今「足柄」は二隻の重巡に砲撃されており、二対一の不利な状況にある。早く敵一番艦を片付けて二番艦を叩かなければ、敵艦が斉射に移り「足柄」は集中砲火を浴びてしまうかもしれない。

早く直撃弾を得なければ、「足柄」大破という状況に転がりかねないのだ。

大気を震わせながら、敵一番艦、二番艦の第二射弾が時間差で落下して来る。

一番艦の三発は右前方の離れた場所に着弾し、二番艦は同じく左前方に着弾する。着弾箇所に計六本の水柱がそそり立ち、「足柄」はその水柱の間を三十四ノットの猛速で突破する。

その時、敵艦隊の頭上に青白い光が現れた。光源はぼんやりと輝き、上空で揺らめく。

マグネシウムを焚いたような弱々しい光だ。

ゆっくりと高度を落とし、リ級一番艦の姿を暗闇に浮かび上がらせる。

 

吊光弾(ちょうこうだん)か…!」

 

寺崎は光源の正体を呟いた。

零式水上偵察機が、敵艦の姿を少しでも鮮明に見せるため、吊光弾を投下してくれたのだ。

「足柄」や第六戦隊が搭載している水上機は、全機が避難民収容中の船団の周辺警戒に当たっており、この空域にはいない。だが、第三艦隊が苦境に立たされていると判断し、駆けつけて来てくれた機体がいたようだ。

 

(今の状態じゃ、ありがたいな)

 

「測的をやり直します!」

 

吊光弾のおかげで正確に測的できると思ったのか、坂本が嬉しそうに言った。

諸元修正のため、「足柄」の主砲がやや沈黙する。

沈黙の間、敵一、二番艦が第三射を放ち、三発ずつの射弾が続けざまに飛来する。

一番艦の砲弾は左正横に着弾し、リ級の姿を遮る。二番艦の砲弾は正面に落下し、「足柄」の進行方向を塞ぐ。

まだ至近弾とは言えないが、着実に近づいてきている。命中するのは、時間の問題と思われた。

 

「主砲、発射準備よし!」

 

水柱が引いた頃、射撃準備完了の報告が飛び込んだ。

 

「砲撃再開!」

 

寺崎は力強い声で下令する。

「足柄」は寺崎に応えるように、轟然と第四射を放った。

五発の主砲弾は八千メートルを一っ飛びし、敵一番艦の至近に落下する。

 

第四射は命中しなかったが、「足柄」は第五射、六射、七射と続々と射弾を撃ち出す。

敵の姿を視認できるからだろう。今までの倍する勢いで、各砲塔の一番砲身、二番砲身が交互に咆哮し、敵重巡の装甲をぶち抜くべく、高温で真っ赤に染まった徹甲弾を叩き出す。

発射するたびに鼓膜を震わせる轟音が響き、艦体を振動させ、「足柄」の艦影ーーー力強い連装主砲、両側の舷側まで飛び出した重厚感溢れる艦橋、その艦橋の背後に屹立するマスト、二本に別けられた煙突、四基の高射砲台、天を睨む機銃、射出機などを暗闇に一閃させる。

対して敵重巡二隻も、「足柄」に劣らぬ勢いで主砲を撃つ。一番艦と二番艦から交互に放たれる敵弾は、十秒前後と言った短い間隔で空気を鳴動させながら飛来する。

「足柄」の艦体を抉る敵弾はないが、一度ならず至近距離に着弾し、寺崎を冷や冷やさせ、艦底から水中爆発の衝撃を突き上げさせる。

 

「砲術。何をやっとるか⁉︎」

 

第十射が外れた時、苛立ちを抑えられなくなったのか、中澤艦長の怒号が響いた。

 

「次は…当てます」

 

寺崎は静かに、だが力強く言った。

十回の交互射撃によって、現在までに着弾修正はほぼ済んでいる。

次の射撃で命中させる確固たる自信が、寺崎にはあった。

敵一番艦の十一回目となる射弾が、轟々たる音を立てながら落下してくる。音は今までの十回よりも大きく、そして甲高い。

 

(今度も、外れるかな…?)

 

寺崎が思った時、「足柄」を衝撃が襲った。後方から何かが壊れる音が響き、次いで炸裂音が響いた。

 

「喰らったか!」

 

寺崎は罵声を発した。敵一番艦が「足柄」よりも先に命中弾を得たのだ。

「足柄」が先に射撃を開始し、吊光弾の光源がある状態で先手を取られたとあっては、完全に「足柄」砲術科の敗北だ。

 

「斉射が来るのか…!」

 

坂本が声を震わせた。

もしも深海棲艦が交互撃ち方と斉射を併用する射撃方法をとっているのなら、次からは命中率の高い九発の斉射が飛来してくる事になる。

リ級重巡の主砲の散布界は不明だが、「足柄」は敵一番艦の斉射弾が飛来するたびに、数発の敵弾を喰らい続けることになるのだ。

 

「足柄」が被弾した直後、敵二番艦の射弾も来る。

「足柄」の正面に二発、右前方に一発が落下して、高々とした水柱を突き上げる。

「足柄」の鋭い艦首が、高速で水柱の只中に突入し、前部甲板に夕立の様な海水の雨を降らせた。

二番艦の砲弾も、近々命中しそうだ。

 

被弾に立ちろぐことなく、「足柄」が第十一射を放つ。十一度目の衝撃が艦を揺さぶり、五発の砲弾がリ級重巡洋艦に向かって飛翔する。

 

(頼む、当たってくれ…!)

 

寺崎は願った。

 

「だんちゃーく……」

 

傍に佇む水兵が言う。

寺崎は、敵一番艦を凝視し続ける。

 

「今!」

 

今度は、リ級重巡洋艦の後部に爆炎が躍った。真っ赤な火焔が湧き出し、黒い塵や長細いものが中を舞う。

 

「命中‼︎」

 

寺崎は指揮所の隅々まで聞こえる大声で言った。直後、指揮所内に歓声が湧く。

敵に先手を取られた「足柄」であったが、その借りをすぐにリ級に返すことができたのだ。

指揮所内のみならず、艦橋からも喜びの声が聞こえる。ここからではわからないが、各砲台内部でも砲員が歓声を上げていることだろう。

誰もが、命中を喜んでいた。

「足柄」の第十一射は敵の第三砲塔の周辺に命中した。

砲身の様なものが吹き飛んでいたため、第三砲塔を破壊したのかもしれない。

 

「砲術より艦長。敵艦の第三砲塔を破壊した模様!」

 

「よし、よくやった!」

 

寺崎が報告すると、中澤艦長は嬉しそうに返答した。

 

直後、敵一番艦が最初の斉射を放つ。

敵一番艦の前部からは、さっき以上の強烈な発射炎が閃らめいたが、後部に発射炎は光らない。やはり…「足柄」は初の命中弾で、敵一番艦の第三砲塔を完全破壊していたようだ。

敵弾の飛翔音が聞こえ始める。

今までの三発ではなく、斉射に切り替えているからだろう。飛翔音が厚みを持ったように大きい。

 

(来る…!)

 

それが途切れると同時に、「足柄」の左右に三本ずつの水柱が上がった。

艦底部から至近弾の凄まじい衝撃が突き上がり、「足柄」の艦体は大きく上下に振動する。

崩れた水柱をもろに被り、数秒間視界が悪くなる。

敵一番艦はやはり、斉射に切り換えていた。交互撃ち方で着弾修正を終わらせ、斉射に移行していたのだ。

 

間髪入れずに、敵二番艦の射弾が飛来する。

軽い飛翔音が響き始め、それが途絶えた刹那…後方から濁流のような音が届いた。視界内に水柱は見えない。

敵二番艦の射弾は「足柄」の後方に落下したようだ。後ろから蹴とばさられた様な衝撃が襲い、やや「足柄」が前のめる。

 

「斉射、撃ちます!」

 

坂本が大声で言い、「足柄」は第一斉射を撃つ。

今までの倍以上の閃光と衝撃、轟音が響き渡り、十発の二十センチの砲弾が、敵重巡に向かって放たれた。

寺崎は大双眼鏡で敵一番艦を睨んだ。

やや間を置いて、敵一番艦の中央部と後部に爆炎が躍る。無数の黒い塵のようなものが四方に飛び散り、リ級の艦体が遠目でもわかるほどにわなないた。

二発が命中したようだ。中央部には火災が発生しており、自ら発する光によって、リ級は洋上に姿をさらけ出している

火災の光は吊光弾の光よりも大きく、先よりもはっきりとリ級の姿を浮かび上がらせている。

 

(もう参ったか?…リ級重巡)

 

寺崎は心の中で呼びかけた。

見たところ、敵一番艦の火災はかなり大きい。敵二番艦も照らし出しているほどであり、消火される様子もない。

深海棲艦の耐久力は不明だが、戦闘不能にしたのか?と思ったのだ。

 

だが、寺崎はそれが楽観的な考えだったことを、瞬時に思い知らされる。

敵一番艦の前部に発射炎が光り、六発の敵弾を発射した。敵は、まだ健在なのだ。

さっさと敵一番艦を無力化し、敵二番艦を攻撃したい「足柄」にとっては厄介極まりない存在である。

 

十三回目。斉射に移ってからは二回目となる敵一番艦の射弾が飛来してくる。

着弾した瞬間、「足柄」を水柱が囲み、寺崎の眼下で強烈な光が閃らめいた。

さっきの被弾より数段上の衝撃が襲いかかり、寺崎は危うく砲術長席から転がり落ちそうになる。

巨大な爆炎が艦橋の目の前で巨龍のように躍り、指揮所内に真っ赤な光が差し込んだ。同時に窓ガラスが全て粉々に吹っ飛び、砲術科員全員が絶叫と共に倒れ臥す。

 

衝撃が収まると、寺崎は恐る恐る窓に歩み寄った。眼下には、予想されていた光景が広がっていた。

第三砲塔が破壊されている。

二本の砲身の内、二番砲身は跡形も無く消失しており、一番砲身もありえない角度で停止している。

正面防楯には大穴が穿たれており、そこから絶えず黒煙が吐き出されている。

恐らく、装填済みだった砲弾が誘爆したのだろう。

第三砲塔は内側から引き裂かれ、破壊されたのだ。

 

「第三砲塔弾薬庫、注水完了!」

 

新たに誘爆しない様、弾火薬庫に海水が注入される

 

「怯むな!」

 

寺崎は叫んだ。

主砲一基が破壊されても、まだ四基八門が健在だ。これらを駆使して戦い続ければ、敵一番艦を撃沈して敵二番艦を戦闘不能にする事は十分可能だと、寺崎は考えていた。

「足柄」が寺崎の気持ちに応えたかの様に、第二斉射を放つ。

寺崎が砲術科員として乗り込んだことがある「金剛」や「長門」には敵わないが、「足柄」の斉射も強烈だ。腹の中の物が出そうになり、数秒間聴力が麻痺する。

寺崎はその障害に耐えながら、敵一番艦を見やった。

敵一番艦の艦首付近と、中央部よりやや後ろに、「足柄」の放った二十センチ砲弾が直撃する。

爆炎が躍り、多数の破片が四方八方に飛び散る。

だが、リ級重巡は屈しない。大きな被害を受けながらも敵一番艦が発砲し、二番艦も続く。

音速を超える速度で飛来した敵一番艦の砲弾の内、一発が「足柄」の飛行甲板に命中した。当たった瞬間、後部マストが根元からへし折れ、右舷の海面に倒れて水飛沫を上げた。

同時に偵察機に積む飛行燃料などの可燃物に引火し、大規模な火災が発生した。

「足柄」は巨大な火焔を背負うこととなり、濛々たる黒煙を引きずり始める。

火災は敵にとっていい的だ。中澤艦長は急いで消火を命じているだろう。

 

敵の砲撃はこれだけにとどまらず、敵二番艦の射弾も飛来する。

着弾すると、後方から何かが破壊された音が聞こえ、艦首から艦尾までを衝撃が貫いた。

 

「二番艦までも…!」

 

寺崎は歪んだ顔で呻いた。

敵二番艦も、一番艦同様命中弾を得たのだ。次からは斉射で来る。

「足柄」は二隻のリ級重巡によって袋叩きにされてしまうのか?敵艦隊を阻止できずに、避難民船団を蹂躙されてしまうのか?

脳裏にその様な思いが浮かぶが、寺崎はかぶりを振った。

 

(敵一番艦は瀕死だ、第三斉射で仕留める!)

 

めくるめく閃光が前甲板に走り「足柄」は第三斉射を放つ。

衝撃と音は強烈だが、寺崎は雄叫びを上げる戦士のように思えた。

「足柄」の第三斉射弾が落下する。

敵艦の艦首、中央部、艦尾に合計四発の二十センチ徹甲弾が命中し、装甲を貫いて艦内で炸裂する。

おびただしい破片が周辺に四散し、リ級重巡洋艦のマストが被弾によって倒壊する。そのマストによって叩き潰された第二砲塔はけたたましい音と共に沈黙し、第一砲塔はものの見事に「足柄」の砲弾によって爆砕される。

深海棲艦の動力源は不明だが、推進機が損傷したらしい、速力が低下する。

 

「敵一番艦、速力低下!」

 

「敵一番艦より砲撃来ません!」

 

指揮所内から報告が上がる。

 

「よし…!」

 

寺崎は報告を聞くと、顔に喜色を浮かべながら手を打った。

敵一番艦は「足柄」によって多数の二十四日センチ徹甲弾を撃ち込まれ、停止している。

艦首から艦尾までを黒煙と火災に包まれており、艦影を見ることはできないが、完全に無力化されているのは確実である。

残りは敵二番艦だ。

寺崎が敵二番艦に砲撃目標を変更するように命令しようとしたその時。

見張員の悲鳴染みた声が届いた。

 

「『古鷹』大火災、『加古』速力大幅に低下、戦列より落伍します!」

 

 

 

 




次回予告 「海の武人」


「足柄」は敵巡洋艦三隻を撃破し、船団を守れるのか⁉︎

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