南洋海戦物語〜人類の勇戦譚〜   作:イカ大王

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『暗黒の防衛者』ダークディフェンダー 通称DD

1941年9月5日、イースト・ラインより南方四十キロの地点ーー通称E地点ーーにて初めて確認された拠点防衛型の深海棲艦地上兵器。
左右の手に自身の身長くらいある盾を装備しており、50mm砲弾はおろか、75mm砲弾すら貫通するのはほとんど不可能な凄まじい防御力を誇る。
だが、本体は脆弱であり、50mm榴弾ですら貫通できるほどの装甲でしか鎧われていない。
人類陸軍の勝利の鍵は、いかにその弱点を突くかどうかであろう。

機動力は低く、BDのような直線的な高速機動はできないが、二足歩行により山岳地帯などの走破能力は高い。
ルソン島を巡る戦いでも、予想だにしない場所から現れ、部隊に大損害を与える事例が多く報告されている。

全長3.2m 全幅4.5m 全高8.5m

搭載砲 105mm砲二門 88mm砲八門。(左右の盾に装備)

以上の能力は襲来する敵を撃退することに長けていること、イースト・ラインに一切DDは出現しなかったこと、これらの二点を集約した結果、DDは拠点防衛を主任務とする個体であると判断された。

なお、容姿が人間の女性と酷似しており、破壊されたDDを調査した際、人間と似ている器官が数多く発見された。

人類と深海棲艦の関係は、各国の研究機関と共同で調査中である。







深海棲艦戦略情報研究所
「第二十八回報告書:極秘」より抜粋




ーー艦これに登場するル級戦艦ですね〜


第三十話 戦車対巨人

1

 

 

そう……西住の目に映ったのは、まさしく巨人だった。

 

 

八メートルほどの身長で、人間の両手にあたる部分には巨大な盾のようなものが接合してある。

その両手の盾からは無数の砲身が突き出ており、高い攻撃力をつことを連想させた。

 

だが、もっと西住を驚かせたのは、二つの盾の隙間から見えた敵の姿だった。

視界に入った瞬間、西住の身体に思わず戦慄が走った。

 

女性の容姿にそっくりなのだ。

 

黒髪長髪のその顔は雪のように白く、口、目、鼻といった人間の顔ような部位が確認できる。

 

「ヒト…?」

 

西住が呆気にとられている間に、その巨人は右手の盾を大きく振り上げた。

数秒間空中で停止したのち、巨大な盾を勢いよく地上に振り下ろす。

 

巨大な盾が西住車の正面の地面にぶち当たり、22t以上の重量を持つ一〇〇式中戦車が大きく跳ね上がった。

西住は思わずよろけ、両手で体を支える。

 

先とまったく変わらない揺れだ。

 

さっきの衝撃は、巨人の歩行時に発生するものだったのかもしれない。

 

「中隊長!」

 

五十鈴の切迫した声で、西住は我に返った。

咄嗟に車内に上半身を滑り込ませ、レシーバーを握る。

 

「ぜ、全車後退、後退だ!」

 

無線に連絡を入れるときは、「〇〇より、〇〇」とつけることが日本陸軍の規定だが、西住はすっかり忘れてしまっていた。

 

半ば理性を失った状態で、無線電話機に怒鳴りこむ。

 

冷泉が素早く一〇〇式中戦車をバックさせ、西住車はやや前のめりで後進を開始する。

前進のそれに比べると、もどかしくなるほど遅い。

それに、左右を密林に囲まれた一本道であるだけに、味方車輌と追突しないように注意しなければならなかった。

 

それでも、正面の巨人との距離は開く。

 

巨人はBDのような高速移動はできないようだ。

 

 

西住は真っ白になった頭を振り絞り、思考を駆け巡らせる。

だが、焦りに追い討ちをかけるかのように、無線機に悲鳴じみた声が響いた。

 

「もう一体いるぞ!」

 

それが聞こえた直後、西住車の後方から真っ赤な光が届き、機械的な叫喚が耳朶を打つ。

反射的に振り向いた西住の目に映ったのは、巨人が持つ盾に叩き潰された一輌の一〇〇式中戦車だった。

 

位置的に、第三中隊の車輌らしい。

 

見上げんばかりの大きさの鉄塊に、真上から叩き潰された一〇〇式中戦車は、砲塔が車体に、車体が地面にそれぞれ食い込んでおり、履帯に至っては重量に耐えられずにバラバラに弾け飛んでいる。

左右に規則正しく並んでいた転輪は完全に歪み、直径五十ミリの砲身はありえない角度を向いていた。

全てが原型をとどめておらず、金槌で思いっきり叩かれたブリキ缶みたく、大きくひしゃげてしまっている。

 

五名の戦車兵の安否は、粉砕された一〇〇式中戦車を見れば一目瞭然だ。

 

内部の人間は、衝撃でことごとく肉塊と化してしまっただろう。

 

刹那、たった今味方戦車を叩き潰した巨人が、密林の左側から姿を現わす。

 

第一中隊は山道の正面と後方から、挟み討ちにされる形になってしまったようだ。

 

 

巨人の横顔を見た瞬間、西住は自分が恐怖していることに気がついた。

手が小刻みに震え、体が硬直している。

喉奥が酸っぱくなり、胃がキリキリと痛み始めていた。

 

(俺は、こんなに肝っ玉が小さい男だったのか…?)

 

西住は目をつぶり、首を横に振った。

自らの胸に手をやり、二、三深呼吸する。

 

ここで中隊長たる自分が恐怖状態になってしまったら、部隊を危機的な状態から救うことなど到底できない。

下手したら右翼に回り込んだ部隊のように混乱状態になってしまうかもしれない。

そうなれば、忠実で優秀な部下達が犬死してしまう。

それは四十九名の部下を持つ指揮官として、あるまじきことだ。

 

ーーだからこそ戦う。

 

ーールソン島の支配権など知ったことか、生きるために戦うんだ。

 

 

西住が目を開けた時、その目から恐怖の色は消え去っていた。

 

五十鈴と秋山が笑いかけてくる。

西住は大きく頷くと、レシーバーのスイッチを入れた。

 

 

「『般若一番』より『小尉一番』我々は正面の奴さんをやる。貴隊は山道側面より出現した敵を攻撃されたし。送れ」

 

西住が「小尉一番」こと第三中隊長藤光安時(ふじみつ やすとき)中尉に、素早く連絡を送る。

 

「『小尉一番』より『般若一番』了解!」

 

藤光の短い返信がレシーバーに響くと、西住はキューポラの狭い視界から正面を見やった。

 

山道の脇に居座っていた巨人は中央に移動し、道を完全に塞いでいる。

 

再び照明弾が砕け、はっきりと敵の姿が浮かび上がった。

敵の顔は完全にこちらを向いており、攻撃対象に見られているのは明らかだ。

 

「『般若』全車。射撃目標、正面のでか物。弾種徹甲!」

 

西住は意を決して下令する。

 

秋山が弾薬箱から五十ミリ徹甲弾を取り出し、砲熕に押し込む。

素早く尾栓を閉じ、「装填完了!」の報告を上げた。

 

砲塔が右に旋回し、五十ミリ砲が仰角を上げる。

 

「てッ!」

 

の号令一下、砲塔正面に閃光が走り、衝撃と轟音が戦闘室内にこだました。

薬莢が吐き出され、音を立てて床に転がる。

 

西住車が放った砲弾は、巨人が右手に持っている盾に命中した。

盾から針山のように飛び出していた砲身の一部が着弾の打撃で宙を舞うが、小爆発が起きただけであり、盾には傷一つ付いていない。

 

西住車の後方に位置している二号車、三号車、四号車も順次発砲する。

 

鋭い砲声が聞こえた、と思った瞬間には発射された三発の五十ミリ弾は西住の頭上を通過し、敵巨人に到達している。

 

三発の徹甲弾は、全て盾を直撃した。

 

命中した刹那、巨人は衝撃でぐらつく。

三度の小爆発が発生し、細かい破片のようなものが四方に飛び散った。

 

一〇〇式中戦車の装備している四十二口径五十ミリ砲は、八九式中戦車が装備している九〇式五十七ミリ砲とは比べ物にならないほどの貫通力を有している。

 

日本陸軍でも、「一〇〇式の砲でBDの正面装甲を貫通することは十分可能である」と言われており、局地戦では優位に立てると考えられていた。

だが、新たに出現した深海棲艦の地上兵器に対しては、一〇〇式中戦車の五十ミリ砲でも有効打は得られないようだ。

 

それを裏付けるように、硝煙の中から無傷の巨人が姿を見せ始める。

 

放った四発は、全て両手に持った盾に弾き返されてしまったのだ。

 

「撃ち続けろ!」

 

西住は怯むことなく射撃続行を指示する。

 

西住車は二射、三射、四射と五十ミリ砲を咆哮させ、正面の巨人に徹甲弾を撃ち込む。

 

発砲するのは西住車だけではない。

 

後方から断続的に雷鳴のような砲声が届き、部下の一〇〇式中戦車が果敢に砲撃している事を伝える。

 

巨人は両手に持った盾を正面に移動させ、自らの身体を守っているようだ。

本体に対して損害を与えているように見えない。

 

「やはり正面からではダメか…!」

 

西住は力任せに戦闘室の側壁を殴りつけた。

 

深海棲艦のBDは正面装甲がとても硬いことで有名だが、巨人にもその血は受け継がれているらしい。

 

何度撃ち込んでも、打撃を受けたようには見えない。

 

西住車が第六射を発射した直後、巨人の盾に真っ赤な閃光が走った。

 

西住がその意味を悟るより早く、目の前の地面が火焔と共に大きくえぐれ、大量の土砂が吹き上がった。

一〇〇式中戦車が巨大な手に掴まれ、振り回されていると思わせるほど揺れる。

西住は車長席から転がり落ちそうになるが、キューポラの左右に付いている手すりに掴まって堪えた。

 

巨人の盾は防御だけでなく、砲撃もできるようだ。

 

「あああぁあぁああぁぁあぁぁ!!!」

 

耳をつんざく炸裂音が後方から届き、地面を通じて腹に応える衝撃が襲ってくる。

何輌かの味方戦車がやられたのだろう。

聞きたくもない戦車兵の断末魔が、西住のヘッドホンに響いた。

 

「冷泉。左右の森に戦車が入るのは可能か…?」

 

衝撃が収まった時、西住は冷泉に聞いた。

 

「…可能です」

 

西住の問いに、冷泉は短く答える。

普段から寡黙な、彼らしい冷静な言葉だった。

 

 

山道は道幅が狭いため、前進か後進の二次元の機動しかできない。

左右の密林に進入して戦うことで、攻撃の幅を広げようと考えたのだ。

 

「『般若一番』より『般若』全車。ただちに左右に散開。山道から離脱しろ!」

 

西住は、叩きつけるようにレシーバーに言った。

 

森で戦車が戦うのは、愚の骨頂と言われている。

ただせさえ悪い視界がさらに悪くなり、機動力も半減するからだ。

 

だが、西住はあえて愚を犯そうとしている。

 

このまま山道で砲戦を続けても打ち負けてしまう可能性が高い。

それならば死中に活を求めよう、と西住は考えているのだ。

 

第一中隊の残存する一〇〇式中戦車七輌は、左に四輌、右に三輌と別れ、山道の左右に広がっている密林に進入する。

 

視界が一気に悪くなり、戦車は蛇行に移った。

右に、左に、と西住車はジグザグに進み、木々の隙間を縫って巨人に肉薄を試みる。

戦車が回頭を繰り返すごとに、西住の身体は左右の側壁に当たりそうになる。

 

西住はハッチを少し開け、周囲を見渡した。

 

正面に一輌、左側に二輌の味方戦車がチラリと見える。

西住車同様、木々をかわすため蛇行を繰り返しており、着実に巨人との距離を詰めていた。

 

右前方を見やると、木々の間から攻撃目標の巨人が見える。

 

向こうからこちらは見えてなそうだが、その無表情な顔からは何もうかがい知ることはできなかった。

 

再び、巨人の盾に発射炎が閃らめく。

西住が身を竦めた瞬間、西住車の右正横に着弾した。

 

木々が吹き飛ばされ、土砂が逆円錐状に吹き上がる。

多数の弾片のようなものが西住車の側面に当たり、雨だれのような音を立てた。

 

西住が感じるに、着弾の衝撃はBDのそれよりも遥かに大きい。

 

巨人はBDの七十五ミリ砲よりも強力な火砲を搭載しているのかもしれない。

 

先頭を切って進んでいた一〇〇式中戦車がやられる。

西住車の正面に火焔が躍り、大小の箱を積み上げたような輪郭が浮かび上がった 。

刹那、その一〇〇式中戦車は履帯を撒き散らしながら左に横転する。

 

敵巨人が放った砲弾の一発は、一〇〇式中戦車の側面装甲を易々と貫通し、車体内部で炸裂したのだ。

 

エネルギーと火炎は車内を席巻し、五名の戦車兵は弾片で粉々に切り刻まれる。

エネルギーはその程度で尽きず、エンジンルームを爆砕した上、凄まじい打撃力で車体を横転させたのだ。

 

西住車は、横転して火災を起こしている一〇〇式中戦車の脇を、蛇行しながら通過する。

 

西住がチラリと見ると、巨大な破口が穿たれいるのが見えた。

どれほど強力な火砲で撃たれたか、検討もつかなかい。

 

敵弾は再び襲ってくる。

 

重々しい砲声がこだましたと思った刹那、西住車の右前方と後方に時間差を開けて敵弾が落下し、左側を走行していた一〇〇式中戦車が爆砕される。

 

右前方の地面が突然、目がくらむほどの閃光を発し、車体が衝撃で大きくアップダウンする。

後方にも着弾し、後ろから蹴飛ばされたかのような衝撃が襲ってくる。

 

一際巨大な光が左側で発生し、凄まじい炸裂音がルソン島に響き渡った。

周囲が一瞬昼と化し、爆竹を鳴らしているような耳をつんざく音が立て続けに轟く。

 

西住が左側を向くと、爆発を繰り返し、その度に火焔と多数の破片を撒き散らしている一〇〇式中戦車の姿が見えた。

 

砲塔は溶鉱炉から取り出した鉄塊のように真っ赤に焼きただれている。

おそらく、命中した敵弾が弾薬箱で炸裂してしまったのだろう。

何十発もの砲弾が一斉に誘爆し、一〇〇式中戦車を内側から引き裂いたのだ。

 

 

 

二輌の味方戦車を失ったが、西住車を含めた二輌の一〇〇式中戦車は、密林の険しい道のりを走破し、巨人の側面から肉薄しつつあった。

巨人は先の場所から移動していない。

 

山道の中央に居座り、胴体の向きを変えて砲撃して来ているようだ。

 

進路を変えつつ前進したことにより、先まで右前方に見えていた巨人が正面に見えている。

 

「停止……。てッ!」

 

西住は命じた。

 

車体が急停車して動揺が収まった瞬間、五十鈴がトリガーに力を込め、主砲から直径五十ミリの徹甲弾が発射される。

 

頼もしい砲声が高らかと鳴り響き、徹甲弾が巨人に向け飛ぶ。

 

左後方に占位した一〇〇式中戦車も、遅れじと発砲する。

 

西住車と僚車が放った二発の砲弾の内一発は、巨人の右をかすめて何もない空間を貫くだけだが、五十鈴が放った砲弾は左側の盾に命中する。

命中したが、貫通することはできずに砲弾は明後日の方向に弾かれてしまった。

 

その時、巨人の背後に爆炎が躍り、何発もの砲弾を食らってびくともしなかった巨人が初めてがよろめいた。

 

「よし。間に合ったな…」

 

西住は額の汗を拭いながら呟いた。

 

巨人は、左に回り込もうとする四輌のみに対して砲撃を繰り返した。

その四輌が敵の砲撃を吸収する役割を果たし、右に回り込んだ三輌は一切妨害を受けずに射撃位置まで辿り着けたのだ。

 

二発、三発と背後から砲弾を撃ち込まれ、巨人は堪りかねたように体をひねって回避を試みる。

 

硬いのは盾だけであり、本体は脆弱な装甲でしか鎧われていないのかもしれない。

 

「前進!肉薄しろ!」

 

西住は好機が訪れたのを確信した。

巨人は小回りがあまり利かないようだ、ここは肉薄して包囲しようと考えたのだ。

 

右往左往する巨人との距離が、百五十、百二十、百、八十メートルと、どんどん詰まって行く。

 

「左旋回!回り込め!」

 

五十メートルを切った時、西住は言った。

 

西住車は左に信地旋回し、後方の一〇〇式中戦車も続く。

 

巨人は盾を極力こちらに向けようとしてくるが、一〇〇式中戦車の速度に追いつけない。

次の瞬間、二輌の一〇〇式中戦車は、山道に踊り出した。

 

迂回したことにより、巨人の反対側まで到達する事ができたのだ。

 

視界が開け、右正横の山道上に巨人が屹立しているのが見える。

西住車に対しては側面を晒しており、絶好の好機だ。

 

 

「目標。右正横の敵脚部。弾種榴弾!」

 

西住が命じると同時に、砲塔と車体がそれぞれ右に旋回し、素早く射撃体制を整えた。

秋山が素早く榴弾を装填し、五十鈴が敵に狙いを定める。

 

「頼むぞ。五十鈴」

 

西住はぼそりと呟いた。

 

「発射」

 

という短い号令の刹那、鋭い砲声が西住の耳朶を打つ。

衝撃で車体が小刻みに揺れ、ピリピリと空気が振動する。

 

西住車が放った榴弾は、狙い余さず巨人の右膝を直撃した。

 

命中した瞬間に炸裂し、無数の細かい破片を撒き散らす。

 

巨人は、倒れこむ様にひざまづいた。

膝が地面と接触した瞬間、地面が大きく揺らいだ。

膝を粉砕されたのが効いているのだろう、この世のものとは思えない絶叫が上がる。

 

「撃ちまくれ!」

 

西住は叫んだ。

巨人は盾で自らの身を守りきれていない。

さらに、敵本体は榴弾で打撃を与えられるほど脆弱だ。

 

西住車だけでなく、共に左に回り込んだ僚車。右に回り込んだ三輌の一〇〇式中戦車も、立て続けに砲を咆哮させる。

 

盾に命中して弾かれる砲弾もあるが、一発が巨人の肩をえぐる。

 

右肩で小爆発が発生し、右腕がちぎり飛ばされた。

 

右手と片方の盾が、力なく地面に横たわり、巨人はカウンターパンチを喰らったボクサーのように大きく仰け反る。

 

五十鈴は一瞬の間を見逃さなかった。

 

仰け反った瞬間、姿を現した顔に向けて、軽く一射する。

 

放たれた一発の五十ミリ榴弾は、直線的な軌道を描きながら、巨人の顔面に直撃した。

 

顔面に命中した榴弾は、貫通して炸裂する。

内側から大きく引き裂かれ、首より上の三分の一が消失する。

 

八メートルほどもある巨人が、ピクリとも動かなくなり、顔から黒煙を吹き上げながらゆっくりと地面に倒れこむ。

 

地面がこれまで以上に動揺し、ズン!といった風の衝撃が西住を突き上げた。

 

 

「やった…か…」

 

西住は力なくそう言った。

 

力み過ぎ、身体中が痛い。

 

第一中隊は部隊の半数を失いつつも、深海棲艦の新型地上兵器を下した。

西住が耳をすますと、微かに砲声が聞こえてくる。

 

米軍の戦車部隊か、機動砲兵第二連隊か、はたまた二体目の巨人を相手取った第三中隊かはわからないが、依然、戦闘は続いているようだ。

 

「作戦はどうなったんでしょうね?」

 

五十鈴が心配そうに聞いてくる。

 

「そんなの、頓挫したに決まってんだろ」

 

西住はややイラつきを覚えながら言った。

 

今回の作戦は、周到な準備の上で行われたとは言えない。

たった数日前に決定されたという噂だ。

 

情報収集も完全ではなく、戦車第七連隊は先のような化け物と単独で戦う羽目になってしまったのだ。

 

反撃の機会が訪れた、と浮き足立っていた自分も自分だが、作戦自体が失敗したと言わざるおえなかった。

 

それを裏付けるように、通信士の武部が報告を上げる。

 

「『翁』より通信。作戦は破綻。各部隊は早急に退却せよ。とのことです」

 

「言わんこっちゃない」

 

武部の言葉に、西住は軽く首を振った。

五十鈴や秋山も、苦笑いを浮かべている。

 

「『般若一番』より『般若』全車。山道には出るな。各車極力密林を通過し、イースト・ラインまで後退せよ」

 

西住はレシーバーに言った。

 

「イースト・ラインまで後退せよ」は、かなりアバウトな内容だが、各車がバラバラになってしまった以上、各自の奮迅を祈るしかなかった。

 

当然、深海棲艦は追撃を仕掛けてくるだろう。

 

何輌の戦車が、三日間のBDや甲型戦闘機の追撃を振り切り、イースト・ラインに辿り着けるかわからない。

 

 

巨人は倒したが、戦いはまだ終わっていなかった。

 

 

 




遅れました!

違う高校に行った中学校時代の友達の同級生に、私の作品を毎回読んでくださっている方がいたという奇跡ね。

「マジか…世間って狭いな…」

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