資料館に展示しているのがこれまたすごい!
海上自衛隊・大日本帝国海軍の聖地なので、海軍好きには是非とも行ってほしい場所でしたね〜
第二十七話 豪州侵食
1
「結論から言うと……答えはNOです」
フランス駐米大使ポール・クローデルがそう言い放った瞬間、駐米日本大使の野村吉三郎は、全身から力が抜けるような感覚に襲われた。
隣に座っている米国務長官コーデル・ハルも同様のようだ。
軽くため息をつき、右手でうなじを撫でている。
ハルは、困った時にいつもこうする。ハルと親交を深めるにつれて、野村はその事を薄々理解していた。
1941年8月10日、ワシントンD.C.にある米国務省長官室だ。
各国へ対しての対深海棲艦連合軍参加交渉が開始されてから、約五ヶ月半が経過している。
英国、ドイツは参加を承諾し、指揮系統の確立や統合司令部の設置準備に動き出しているが、イタリアが拒否し、ソ連が協力寄りの中立という立場を明確にしている。
そして今日、フランスさえも参加に難色を示したのだ。
「なぜです?第二次ルソン島沖海戦で言語の違う軍隊同士が緻密な作戦を遂行できることが証明されました。それなのに…」
最初、フランスは「言語の違う軍隊同士が作戦を遂行することは不可能だ」として日米政府の要請を跳ね返している。
ハルはそのことを切り出して諦めじと言うが、クローデルは首を横に振った。
「我が国は自由、平等、博愛を標榜する民主国家であります、ミスター・ハル。国民は戦争を望みません。世論がそうなのであれば、政府もまた然りです」
「深海棲艦が太平洋を完全に制覇すれば、次の標的は大西洋や地中海になるのかもしれないのです。その時に我が国や米国はいないのですぞ、貴国のみで戦われますのですか?」
野村はクローデルの目を見ながら言った。
冷静を装って言ったが、顔が引きっているのが自分でもわかった。
「我が国が太平洋派兵をためらっている理由は、もう一つあります……」
クローデルが控え気味に言った。
それを聞いて、野村とハルは顔を見合わせる。
「イタリアの存在です」
イタリア王国は1925年よりベニート・ムッソリーニが独裁政治を行なっており、「偉大なローマ帝国の復活」を謳い、エチオピア併合などの膨張政策を実行している。
その領土拡張の仕方は目に余り、その行動は「侵略」に近くなっている。
ヒトラーが死亡し、ナチス・ドイツが崩れた現在、イタリアは欧州各国からもっとも危険視されている国だ。
三十八センチ砲搭載の新鋭戦艦も保有しており、軍事力も遜色ない。
フランスはそのイタリアと国境を接しており、地中海ではツーロンのフランス本国艦隊と、タラント湾のイタリア主力艦隊が、軍事バランスの均衡を保っている。
「ムッソリーニは地中海をイタリアの内海にしようと目論んでいるらしいではありませんか。それを牽制するためには、致し方ない処置なのです」
クローデルがやり切れないような声で言った。
それを見抜いたのだろう、ハルがクローデルに言う。
「あなた自身はどうなのです?太平洋派兵には賛成なのですか?」
それを聞いたクローデルは数秒間押し黙ったが、やや間を空けて絞り出すように言った。
「私個人としては太平洋派兵に賛成です。深海棲艦は人類共通の敵であり、その存在は我が国にとっても好ましいものではありません」
「だったらーー」
「しかし!」
野村の言葉を、クローデルは叩きつけるようにさえぎった。
「私はあくまでフランス駐米大使です。ミスター・ノムラ。個人の考えで交渉を続ける訳には行きません。本国の考えがそうなのであれば、従うだけです」
それに対して、野村は何も言えなかった。
自分自身も駐米大使として意思を米国に伝えているが、それは日本の意思であり、自分の意思ではない。
海軍にいた頃も、外交官になってからも、上からの命令は絶対だ。
意見具申をすることができても、命令には従わなければならない。
フランスは国際社会に名を轟かせる列強であり、海軍はダンケルク級戦艦、リシュリュー級戦艦各二隻、計四隻を中心とする大規模な艦隊を保有している。
さらに続々と新鋭艦が竣工する予定であり、その力は長年のライバルであるイギリス海軍に迫るものがある。
そのような強力な国を逃したくないのだろう、ハルは諦めない。
「ではそれについて本国へ意見書を書かれてはいかがでしょうか?我々も出来る限り協力します」
「ですが…」
それを聞いて、クローデルは口ごもった。
全権大使が祖国の方針に反して良いものか、と思っているのかもしれない。
その時、ハルのデスク上にある電話が鳴った。
ハルの後ろに控え、会談の内容を記録していた長官室秘書官が素早く立ち上がり、受話器を取る。
「国務長官、ホワイトハウスからレーヒ海軍大将(ウィリアム・レーヒ統合参謀本部議長)です」
秘書官はハルにしか聞こえない声で耳打ちすると、受話器をハルに渡した。
ハルは受話器を握り、二、三語話す。
(何かあったのか…?)
野村はそう思ったが、ハルのポーカーフェイスからは何も伺い知ることはできなかった。
受話器を置いたハルは、戻って来てソファに腰掛ける。
「どうかしましたか?」
クローデルが問うと、ハルは恐る恐る口を開いた。
「オーストラリア東海岸のロックハンプトン、ブリスベンに深海棲艦の上陸が確認されました。現在、二箇所に上陸した敵勢力は占領地を広げており、一部ではオーストラリア軍と戦端が開かれているようです」
2
オーストラリア陸軍第一機甲軍の指揮下にある第四機甲連隊第二大隊のクルセイダーMkIII、四十八輌は第58号幹線道路を一路ブリスベンへと向かっていた。
太陽がほぼ真上に見え、暴力的なまでの日差しが照りつけている。
幹線道路の脇では、多数の避難民が長蛇の行列を作っており、戦車とは逆の方向に歩いていた。
どの人間の顔も真っ青であり、血の気がない。
「市民が避難するまで、時間を稼がなければ」
大隊長ファニー・カーター少佐はクルセイダーMkIIIのキューポラから上半身を出しながら呟いた。
ーー第四機甲連隊は麗下に第一、第二大隊の二つの部隊を収めており、第一大隊のクルセイダー五十二輌はブリスベンを、第二大隊の四十八輌はブリスベンの北方七十五キロ程の距離にある港町、サンシャインコーストをそれぞれ防衛していた。
本日、午前10時丁度に深海棲艦が上陸してから、約3時間が経過している。
カーター率いる第二大隊は、第一大隊の増援としてブリスベンに急行するよう連隊本部から指示を受けていたが、第一大隊とは通信が途絶しており、常に壊滅してしまったと思われている。
だが、カーターは引き返そうとは考えていない。
ブリスベン周辺にはまだ多数の市民が残っている。
彼らは必死に避難を続けているが、生還は難しいだろう。
それでも、市民より先に軍人が逃げることはあり得なかった。
カーターはちらりと道の脇に屹立している表示板を見た。
すぐに後方に過ぎ去るが、「ブリスベンまで二十キロ」と書かれているのがかろうじてわかる。
現在のスピードは最大の43km/hであり、三十分もあれば辿り着ける距離だ。
「『タイガースネーク1』より全車」
カーターはレシーバーのスイッチを入れ、自分の声を吹き込んだ。
「航空偵察によると、ブリスベンに上陸したBDの数は約二百。午後に入ると同時に行動を止め、ブリスベン中心部に橋頭堡を築きつつある」
この時、これを聞いた戦車兵達の間で声にならないどよめきが広がった。
第一大隊が壊滅した現在、五十輌に満たないクルセイダーで二百ものBDを攻撃しても、逆にこっちが全滅してしまうだろう。
戦車兵達はそのことを危惧しているのだ。
「我々の任務は敵の殲滅ではない。遅滞作戦を実施し、より多くの市民を逃すことだ。簡単な戦いではないが、各車の奮闘を期待する」
カーターはここでレシーバーのスイッチを切り、クルセイダーの周囲を見渡した。
第二大隊は奇数番号の戦車が左側に、偶数番号の戦車が右側に位置しており、二列の単縦陣を形成している。
カーター車の右には二号車が位置しており、後方には三号車、四号車、五号車と交互に四十六輌のクルセイダーMkIIIが後続していた。
12時57分ーー
「あれか…!」
正面の丘陵に上がる砂煙を見て、カーターは言った。
砂煙の中に楕円形のようなものが多数見える。
まだ判別できないが、おそらくBDだろう。
二十〜三十の群れが接近し来るようだ。
まだブリスベンには入っていない、正面に見えるBD群は敵の先遣部隊なのかもしれない。
「『タイガースネーク1』より全車。正面にBD群。距離四千ヤード(三千六千メートル)」
カーターは戦車の動揺に身を任せながら、部下のクルセイダー四十七輌に「敵発見」の報を伝える。
「あれが『黒い破壊者』か…」
カーターは首にかけている双眼鏡を覗き込み、呟いた。
丸みを帯びた頭部、獲物を見るような二つの目、白い歯と大きな口。
その姿は地球上のどの生物よりも獰猛そうであり、なおかつ巨大だ。
カーターは自身の身体が、我知らず震えるのを感じた。
「大隊長殿。右前方!」
カーター車の砲手を務めるケイティック・ドール軍曹が右前方を指差しながら言ってくる。
右前方の丘陵の向こう側で、激しく砂埃が舞い上がっている。
接近中のBDは、正面の一群だけではないようだ。
視認はできないが、少なくとも同規模の部隊が右前方に展開していると見た方がいい。
カーターは上半身を車内に滑り込ませ、ハッチを閉める。
キューポラの視察口からBD群を凝視した。
BDの最大速度は40km/hやら50km/hやらとまだ確実な情報はないが、見たところ30km/hほどのスピードだ。
クルセイダーよりも速度が遅い。
四十八輌のクルセイダーは、ひたすら距離を詰める。
戦いの火蓋が切られたのは、BDとクルセイダーの距離が一千五百ヤードを切ってからだった。
正面から接近中だったBD群が一斉に停止し、口内から砲身を突き出した。
その砲門に発射炎が閃らめく直前、カーターは鋭く命令を発していた。
「『タイガースネーク1』より全車。奇数番号車は左、偶数番号車右に旋回!奴らの側面に回り込め!」
命じた直後、カーター車をはじめとするクルセイダー奇数番号車の左の履帯への動力が切られ、車体が慌ただしく左に旋回する。
逆に偶数番号車は右の履帯の動力が切られ、右に旋回した。
それぞれのクルセイダーが左右に旋回した直後、エンジンが猛々しく咆哮し、二十トンの車体を引っ張る。
二十四輌ずつのクルセイダーは、幹線道路から左右に分かれ、道路の両側に広がっているステップ平原に踊り出した。
敵弾が飛来する。
道路に直撃した敵弾は、アスファルトをえぐり、大穴を穿つ。
平原に落下した敵弾は衝撃で地面を振動させ、多数の土砂を飛び散らせる。
被弾したクルセイダーはいない。
この長距離だと、BDも砲弾を命中させるのは至難だったようだ。
ブリスベンはオーストラリア有数の近代都市だが、十数キロも離れると荒れた大地と砂漠が広がっている。
その大地を踏みしめながら、クルセイダーは持ち前の高速を生かし、BD群の左右に回り込んで行く。
米軍からの情報によると、BDは回転砲塔を持っておらず、いちいち目標に胴体を向けてから砲撃しなければならない。
左右に回り込むことで、敵の火力を半減させると共に、その弱点を突こうとカーターは考えたのだ。
(引っ掻き回してやる!)
カーターがそう思った瞬間、第二射の閃光がBD群にほとばしった。
多数のBDが一箇所に集まっているため、一千ヤードの距離からは一かたまりの光に見えた。
カーター車の目前に一発が落下する。
落下した瞬間、地面に火焔が躍り、土砂が逆円錐状に吹き上がった。
土砂がカーター車に降りかかり、視界が悪くなる。
かと思ったらカーター車の右正横に敵弾が着弾し、衝撃で右の履帯が地面から浮く。
その時、後方から炸裂音が響き、続いて凄まじい爆発音が轟いた。
カーターが後ろの視察口を覗き込むと、二輌のクルセイダーが炎上して擱座しているのが見えた。
一輌のクルセイダーは砲塔が無くなっており、もともと砲塔があったところには巨大な火炎が湧き上がっている。
もう一輌は、遠目からわかるほどの大穴が砲塔正面に穿たれており、原型をとどめていない。
敵砲の威力を感じさせる光景だった。
「『タイガースネーク2』より『タイガースネーク1』こちらに飛来する敵弾なし!」
「タイガースネーク2」こと大隊二号車から連絡が入る。
二号車は偶数番号車輌を率いて、BDの右側に回り込みつつあるが、砲撃を受けなかったようだ。
カーターは自分の目論見が崩れたのを悟った。
部隊を二分する事で敵の火力を分散しようと考えていたが、BDはカーターの考えを嘲笑うかのように、奇数番号車のみを砲撃して来たのだ。
「『タイガースネーク1』より偶数番号車。砲撃開始!奇数番号車は蛇行しつつ距離を詰める!」
カーターはレシーバーに怒鳴りこんだ。
BDが目論見に乗らないのなら、こちらにも考えがある。
奇数番号車が敵の砲撃を引き受けている間に、偶数番号車のクルセイダー二十四輌が一方的にBD群を砲撃するのだ。
カーター車を先頭とする奇数番号車は、いち早く蛇行に移る。
右に左にと車体を操り、敵弾を回避する。
地面は凹凸が多く、クルセイダーはアップダウンを繰り返すが、敵弾はなかなか命中しない。
周辺の地面をえぐる敵弾は多々あるが、高速移動するクルセイダーは敵弾をかすめつつも回避に成功している。
逆に、被弾しているBDが視察口の中から見えた。
右から回り込んでいる偶数番号車が、搭載している六ポンド砲を放ち、BDに命中弾を得たのだろう。
「距離八百ヤード!」
ドールが報告すると同時に、カーターは命じた。
「『タイガースネーク1』より奇数番号全車。射撃開始!」
八百ヤードまで接近すれば、クルセイダーの六ポンド砲でも十分BDの正面装甲を貫通できると踏んだのだ。
「停止!」
カーターは操縦士ライザ・ヴィクター伍長に言った。
ヴィクターは素早く動き、クルセイダーがやや前のめりになって停車する。
「目標、右前方。距離八百ヤードのBD!」
カーターはそう命じると同時に弾薬箱から六ポンド徹甲弾を取り出し、砲熕内に押し込んだ。
クルセイダーMkIIIは搭乗員が三名しかおらず、車長は装填手を兼任するのだ。
車長は、的確な指示を出すために常時戦況を把握しなければならないが、MkIIIだとそれが難しい。
兼任のため、装填時間も間延びしてしまいがちだ。
だが、オーストラリア陸軍が保有している中で、最も強力な戦車がMkIIIな以上、致し方なかった。
「装填完了!」
「発射!」
ドールが一喝するように叫び、クルセイダーが発砲の衝撃で小刻みに揺れた。
轟音が車内にこだまし、薬莢が吐き出される。
カーター車が放った砲弾は、BDの右側をかすめて地面をえぐる。
後続のクルセイダーも順次停止し、六ポンド砲を発射する。
後ろから鋭い砲声が届いた時には、カーターが「前進!」を命じており、カーター車は前進を再開する。
戦車戦闘は停止、照準、撃つ、前進の繰り返しだ。
これを続けることによって、敵に被害を与えつつ生き残ることができる。
不意に横を晒したBDの側面に、直角に近い角度で六ポンド砲弾が命中した。
そのBDは大きく身震いし、炎を上げながら項垂れる。
もう一体のBDは同時に多数の砲弾を喰らい、肉片を飛び散らせながら粉砕される。
後退しつつあったBDには、回り込んだ偶数番号のクルセイダーが砲撃を浴びせる。
三発がそのBDを直撃するが、三発とも丸みを帯びた頭部に命中し、弾き返される。
だが、クルセイダーの砲撃は連続した。
立て続けに五発が側面に撃ち込まれ、そのBDはたまりかねたように横転する。
「いいぞ!」
カーターは笑顔でガッツポーズした。
カーター車の砲撃は外れてしまったが、三体のBDを立て続けに仕留めたのだ。
やはり敵の左右に回り込む作戦は成功だった、とカーターは確信した。
カーター車は再び停車し、五十七ミリの砲門から六ポンド砲弾を発射する。
先と同じ衝撃と轟音が襲い、カーターは数秒間視界が揺らぐが、顔を横に振って視界を戻す。
今度は外すことなく、BDに命中した。
砲撃を続けていたBDの正面下部に直撃し、顎を粉砕し、砲身が折れ曲がる。
そのBDは砲撃機構を破壊されただけであり、後退しようと試みるが、カーター車の第三射弾が頭部を真正面からえぐる。
刹那、大きく仰け反ったBDは、沈黙し動かなくなった。
クルセイダーにも、被弾した車輌が相次ぐ。
正面にBDの七十五ミリ弾を喰らったクルセイダーは、五十一ミリの装甲を容易く貫かれ、車内で炸裂する。
破片と炸裂エネルギーは三名の戦車兵を切り刻み、車内を引っ掻き回す。
そのクルセイダーは原型を留めており、一見すると無傷に見える。
しかし、正面装甲には握りこぶしほどの穴が開いており、そこからは車内の火災が若干見えている。
キューポラのハッチや、操縦士の視察口からは黒煙が這い出ており、戦車兵の斬死体を火葬していく。
後部に敵弾を喰らったクルセイダーは、エンジングリルを粉砕され、火災が発生する。
エンジンを破壊されたことにより、高速を発揮していた車体が急停車し、炎がみるみる広がっていく。
車長と砲手は、キューポラハッチをから脱出するが、操縦士はハッチから上半身を這い出した瞬間に炎に包まれてしまう。
操縦士は万歳をするように両手を上げながら絶命し、脱出した二人は後ろ髪を引かれる思いで戦車から離れる。
だが、被害はBD群の方が大きい。
クルセイダーが一輌破壊される間に、BDは二、三体が擱座する。
戦況は第一大隊が優勢だ。BD群はクルセイダーが仕掛ける機動戦に圧倒されている。
「『タイガースネーク12』より『タイガースネーク1』。右前方の丘陵より新たなBD群出現!約二十!」
大隊十二号車のクルセイダーから通信が飛び込む。
カーターはゆっくりとキューポラから顔を出し、丘陵の方を向いた。
二十体前後のBDが、散開しつつ丘陵を下ってきている。
先に丘陵の向こう側にいたBD群であろう。
先遣部隊が苦戦しているのを見て、応援に駆けつけてきたのかもしれない。
「『タイガースネーク1』より全車。偶数番号車は新たに出現したBD群を攻撃せよ。奇数番号車の砲撃目標はそのまま」
カーターは素早くレシーバーで指示を出す。
BDの数は戦闘開始時に比べて著しく減っている。奇数番号車のクルセイダーでそれらのBD群を掃討し、新たに出現したBD群には偶数番号車のクルセイダーをぶつけようと考えたのだ。
指示を受けた偶数番号のクルセイダー二十四輌が新たなBD群に向かい、奇数番号のクルセイダー二十輌は六ポンド砲を高らかに咆哮させ、残存のBDに次々と砲弾を撃ち込んでゆく。
外れ弾は地面を掘り起こし、命中した双方の砲弾はBDやクルセイダーの装甲を傷つける。
砲声、履帯を軋らせる音、エンジン音、BDの咆哮が一つになり、戦場の喧噪を形成していく。
のちに、「オーストラリア大陸を巡る戦い」と呼ばれる長期間、かつ大規模な人類と深海棲艦の地上戦の幕が、切って落とされたのだ。
この戦いは次の章の布石ですね〜