ファイナルファンタジークリスタルクロニクル~悲恋~   作:雪高

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第1話「ボロボロの手紙」

ファイナルファンタジークリスタルクロニクル~慈恋~

 

 

朝の日差しが部屋に差し、またミルラの雫を集める「クリスタルキャラバン」として、

ティパの村から旅立つ日がやってきた。

 

「おーい、エリン。行こうぜー」

遠くでセルキー族で同じクリスタルキャラバンの仲間 ム・ジカが、私を呼ぶ声が聞こえた。

早くに起きたせいか、彼はいつもより少しやる気だった。

「月日は短くもありませんが長くもありません。エリン、早くしてくださいね」

ム・ジカの隣にいるユーク族のキャラバン仲間 シーベークが続けて言った。

早くミルラの木をみたいせいか。うずうずとしている。

「1年間なんてあっと言う間よ。もう少し、ゆっくりさせておきなよ」

ム・ジカとシーベークの真ん中で腕を組みながら怒っているのは、リルティ族のクレア=ギルタ。

私にあわせてくれているのか。2人はせっかちすぎると、説教をしているようだった。

「ごめん。もう大丈夫だから。さあ!出発しよう!」

3人を待たせてしまった事を謝り、私達はティパの村から旅立っていく。

ミルラの雫を集めに。

 

クリスタルキャラバンとは?

私達の世界は数百年前より、瘴気と呼ばれる謎の気に支配されており、瘴気に触れるとたちまち体力を奪われてしまう。

私達を守ってくれるのは、各村・街・施設にあったクリスタルのみ。

しかしクリスタルの効力はたったの1年のみ。

その為私達はミルラの木と呼ばれる不思議な木から雫を集めて、クリスタルの力を強化しないといけない。

それが私達、クリスタルキャラバンである。

私達は小型のクリスタルを祀ったゲージを抱えて、旅をしなければならない。

 

クリスタルキャラバンは各町や村に2人1組、あるいは4人で1組で活動している事が多く、各々の使命を抱えて活動している。

非常に責任重大な仕事なのだが、中にはのんびりと行動しているキャラバンも多い。

私のように。

 

「エリン。旅と違うんだからな?そこら辺のとこはよく考えてくれよ」

ム・ジカは前にもこの話をした事がある。私がそんなにのんびりしているのだろうか。

「そうは行っても、ミルラの木がなくなるわけないでしょ?だったらのんびり行っても良いじゃない。」

私は滅多になれないクリスタルキャラバンの旅を楽しみたい。そう思って言ったのだが、馬車を引いていたシーベークがこちらを見ながらため息を出した。

「エリン。貴方時間が無限にあると思っているのですか?」

「え…だってそうじゃないの?」

やれやれと言わんばかりに、ム・ジカも頭を抱えている。

「エリン。ティダの村の事を忘れたわけじゃないでしょう。私達も彼らのような悲劇を出さないように、早急に行動してなくてはいけないのですよ」

シーベークは少し尖った言い方で説明した。

ティダの村と言うのは城下町から近くにある村の事だ。

しかしもうそこには村人はいない。今はただのモンスターの住処となっている。

 

「ティダの村か…」

2人に説教されて、私もようやく思い出す。ティダの村の事について。

 

ティダの村はその昔、クリスタルキャラバンが何らかの理由によって、帰還しなかった村でもある。

クリスタルが輝きを失い、瘴気に冒された人々はたちまち生気を失っていった。

次第にティダは死の村となり、残った人々は屍となって見つかったらしい。

そう。クリスタルキャラバンは絶対に失敗してはいけない。

失敗すれば最後、私達の村も死の場所へと変貌してしまう。

「ごめん。今度からは私も気をつけるね」

「わかれば良いんだよ。俺達の母さんや父さんも期待しているからな」

ム・ジカがそう言うと、槍の手入れをしていたクレアが思い出したかのように、話題をふった。

「そう言えばさ。皆聞いた事ある?ティダの村に生き残りがいたんだって」

クレアがそう言うと、シーベークは呆れた口調で反論する。

「生き残り?クレア。あそこは死の場所となった村ですよ?どうやって生き残れる保証があるのですか?」

「私も詳しくは知らないけど、なんだかそこにいたクラヴァットの女の人が、別の村で村長になっている…とかって聞いた事あるよ」

そんな話を聞いた事があった事を私は思い出した。

それはクリスタルキャラバンになった日に、偶然ティパの村の近くにいた城下町のクリスタルキャラバンのリーダーでもある。

リルティ族のソール=ラクトさんの噂話の1つとして語っていた。

「それって、ソールさんが言っていた…?」

「うん。そうみたい。城下町に行った時、それらしい噂話をしている人が何人もいたの」

「なら生きていたら、当然おばあさんぐらいか…」

ム・ジカは思い出したかのように、呟いていた。

 

「なあ。そう言えば、前に行ったセルキーの村でクラヴァットっぽい村長がいなかったか?」

以前私達が旅の途中に出向いたセルキー族だけの村 ルダの村。

そこでは私以上にマイペースなクリスタルキャラバンの人達がいて、偶然一緒になって、折角なのでと言う事でルダの村に招待された事を思い出した。

「確かにあの時見たおばあちゃんって…クラヴァットに似ていたね」

クラヴァットの私も少し気になっていた。

とてもじゃないが彼女はセルキーには見えない。

セルキーとクラヴァットの容姿を見間違える事は多いが、どことなくセルキーらしいところが全くない。

ル・ティパは不思議な人物としても有名でもあり、ルダの村で村長として生活していた以前の痕跡が全くないのだ。

まるでどこからか、逃げてきたようだと言われている。

 

「噂だとあのおばあさんが、ティダの村の生き残りとか…」

クレアが続けて言おうとした時。シーベークが答えた。

「全く…何を言い出すのやら…。セルキーの長として、そう言う風に見せているだけでしょう。セルキーは何かと因縁がつけられますからね」

シーベークは私達の話をただの噂話だと思い、強引に私達の話を切り上げるように、馬車を進めた。

 

ティダの村は正直苦手に近い。ミルラの雫がなければ通る事もないだろう。

あの場所を通ると、私達の村がティダと同じようになる事を想像してしまうからだ。

勿論気をつけていれば、そんな心配はしなくてすむ。

しかし私にはもう1つ気がかりな事があった。

 

「あなたは もう かえってこないの? きっと かえって くるわよね?

だから この手紙を こかげに たくします。わたしの あいと ともに」

小声で呟いたが、近くにいたム・ジカには聞こえてしまったようだった。

「なんだそれ?」

私はティダの村のある木の近くで、ボロボロの手紙を見つけ、それをまだ持っていた。

何となくだが、手放す事は出来なかったからだ。

ム・ジカが興味本位で見ていたので、手紙の内容も一緒に説明した。

 

「へー。クリスタルキャラバンにあてた手紙かな?」

とム・ジカ。

「エリン。それイタズラで誰か置いたと言う事は?」

シーベークも気になったのか。話に入ってきた。

「ティダの村へ行けるのはクリスタルゲージを持っているキャラバンだけよ?そんなとこにこんな手紙置くと思う?」

言われてみれば。と呟き、シーベークは頷いている。

彼自身、この噂話を否定したいところがあるのだろう。

自然を愛する彼は、非現実的な事は認めたくないところもあるのだろう。

「これって誰かへのラブレターみたいなものかしらね。でもやっぱり年月が経っているのかしら」

とクレアが手紙を興味本位で見ながら言った。

 

「実はね。この手紙、昔、マール峠の村長さんにも見せた事があるの。正確に言えば見られただけど…」

マール峠は城下町に行くために通る村の1つ。

そこには少々スケベなおじいさんがいて、彼の孫娘さんはいつも呆れてるかのように説教をしていた。

ティダの村へミルラの雫が取りに行った日。

ゲージも一杯になり荷物も一緒に整理しようと、マール峠へ立ち寄った事がある。

私はいつも村長さんに捕まってしまう事があり、どうしようかと悩んでいた時に拾った手紙を落としてしまった。

その時いつものように、村長のセシルさんが私に近づいてきたが少し様子が変だった事を覚えていた。

「こ、この手紙は?あんたが書いた…のかい?それとも…」

私は困惑したが村長のセシルさんの問いに、ティダの村にあったものですと答え、村長のセシルさんは拾ってくれた手紙をそっと渡してくれた。

 

「その時の顔…なんだか寂しいような、嬉しいような…。不思議な顔をしていたの」

「まさか、あのじいさん。ティダの村の生存者なのか?」

ム・ジカは、あり得ないだろ、と言わんばかりに笑いながら言った。

「私もセシルさんの事は何度か存じておりますが、ティダの村にいたと言う話は聞いた事ありませんね」

シーベークは何度か孫娘さんとも会話した事があるらしく、その時に村長さんの事も聞いた事があるらしい。

やはり昔からマール峠で生活していたと言う事だったようだ。

「そうなの?私、ルッツさんから聞いた話があるんだけどね。セシルさんってマール峠で村長として生活する以前の痕跡がないんですって」

クレアはシーベークの意見をきるように続けた。

どことなく今の話はルダの村の村長 ル・ティパに似ている気がした。

 

「で、その手紙。ルダの村の村長さんにも見せたのか?」

「うん。ルダの村に泊まった日に、夜中読んでいた時に後ろから見られた」

ル・ティパにも見せた事があり、マール峠の村長 セシルさんと同じような反応をされた事も、今になって思い出した。

「うーん…今の話を聞くと、セシルさんかティパさんが手紙を書いた…にしか聞こえないわね」

クレアは頭を抱えながら推理していた。

しかしシーベークは、先ほどと同じく呆れるように、

「またまた…。きっと何かの手紙と勘違いしたんでしょう。さあ。次のミルラの雫が取れる場所まで来ましたよ」

と言った。

 

ム・ジカは真っ先に降りて「よっしゃー」とやる気を出す声をあげていた。

クレアも「さあ。行こう」と私の肩をポンと叩き、ム・ジカの後を追っていくのが見えた。

しかし私は、この手紙の事がどうにも気になってしょうがない。

「…気のせいじゃないのかも…本当にティダに関係するんじゃないのかな…」

この時の私はそう思うしかなかった…。

 

この私の行動が最悪な事態を招く事になるなんて…思いもしなかった…。


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