我が家のジャンヌ・オルタちゃんは不器用可愛い   作:あーさぁ

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一緒に居たいの

 

 クエストから帰還した直後、どっと疲れが押し寄せてきた。朝から晩まで特定の素材を狙って幾度となく特定の地域を探索し続けた結果、疲労はピークに達している。ただ幸いなことに夕食はレイシフト先で済ませておいたから、あとは自室へ戻り眠りに着くだけ。

 

 本当はシャワーを浴びてからベッドへ入りたいが、そうも言ってられないほどに体は休息と睡眠を求めている。体を清めるのは明日にしよう──なんて考えていると自身の進行方向に、廊下へ背中を預けるように佇む人影が居たことに気が付いた。

 

「やっと戻ってきた……って、酷い顔してるわよ。元から酷いけど、今日はさらに酷いわ。控えめに言って、目も当てられないくらい──」

 

 待ち伏せていたのは予想通り、どこか不機嫌そうな表情のジャンヌ・オルタ。彼女が仏頂面を浮かべている理由は分かっている、今日は彼女に同行を依頼しなかったからだ──今朝、留守番するよう伝えた時と同じ表情。どうやら一日経っても彼女の機嫌は直らなかったらしい、朝方ぶりに再会したというのに彼女の口から出た辛辣な一言は、ついつい苦笑を浮かばせてしまう。

 

「……っ……ちょ、ちょっと、本当に大丈夫……?」

 

 だが、どうにもジャンヌ・オルタの様子がおかしい。廊下の壁から背中を離すと小走りに駆け寄ってくる、そして目の前まで来たは良いものの酷く慌てた様子。明らかに狼狽えている彼女は、不安げな表情で見上げてきた──どうやら、本気で心配してくれているらしい。それほどまでに、今の自分は酷い顔色をしているのだろうか?

 

「……ホラ、腕貸しなさい……っ……歩ける? 無理しないでよ?」

 

 壊れ物を扱うように優しく、何の躊躇いもなくジャンヌ・オルタはこちらの腕を取ると体を寄せてきて、自らの首へと回す。第三者が見たら、自分がジャンヌ・オルタの肩へ手を回しているように見えたことだろう──まぁ実態は、体を支えてもらっているだけなのだが……

 

 ふわっ、と鼻先を掠めていくのは女性的な香り、あまり意識したくはないが、密着した彼女の肢体の柔らかさと暖かさを衣服越しに感じながら歩き出す──二人して体を寄せ合いながら歩くこと数分、気付けば、すぐそこにジャンヌ・オルタの顔。やはり、どこか心配そうな、不安げな表情。

 

 大丈夫だから、ただ疲れてるだけだよ、と安心するよう言ってやってもジャンヌ・オルタの表情は変わらない。今にも泣き出してしまいそうな表情は、何とかして慰めてやりたくなるほどに弱々しくて……

 

「疲れてるだけにしては、顔色が悪すぎると思うんだけど……ホラ、もう貴方の部屋に着くから、しっかりしなさいよ……ッ!!」

 

 もう支えられているというより引き摺られているのだが、足が動かないので仕方がない。心なしか霞んできた視界で、ジャンヌ・オルタが慣れた手付きで自室のドアを開けてくれたのが見えた──と、どうやら自室へ戻ったことで安心してしまったらしい。もう、まったく腕や足に力が入らなくなった。

 

 

 

──霞む視界、襲ってくる激しい眠気、自由の利かない体

 

──寄り添うジャンヌ・オルタの体温を感じながら

 

──彼女の声が、どこか遠くで聞こえたような気がした

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 ジャンヌ・オルタは、いきなり自身が支えているマスターが完全に脱力したことに驚いた。先ほどまでは足を引き摺ってはいたものの、歩こうとしてくれていた。憎まれ口しか叩けなかったが、声を掛けると弱々しい声だが返事をしてくれた──だが、今のマスターは無反応。

 

「……っ……ね……ねぇ、ちょっと……マスターッ!?」

 

──声を掛けても返事はない

 

──揺らせども動く気配がない

 

 焦燥に駆られるジャンヌ・オルタは狼狽えた様子で、脱力したマスターをベッドへ寝かせる。仰向けで寝かせた彼を見下ろすと、やはりその顔には生気がない。およそ健康とは言い難い土気色──服の上からでも分かるほどに男性らしい胸板は一定間隔で揺れ、規則正しい寝息を立てていた。

 

「息は、してるわね……でも、顔色が悪い……っ……」

 

 その時、ふと、生気のないマスターを見下ろしているジャンヌ・オルタの胸に不安が過る。それは、マスターの命が失われるかもしれないという恐怖。ただ疲れているだけだと言っていた、眠りたいだけだと言っていた、でも、それでも、"もしかしたら、もう目を覚まさない"のではないか、という小さな恐怖を──

 

 そんなワケがない、とは思いながらも意識してしまっては止められない。どんどん不安は大きくなり、無性に声が聞きたくなってしまう、起きてほしいと思ってしまう、その想いから彼女膝を折るとベッドの脇へ膝を突き、眠る彼へと囁きかけてしまう。

 

「ねぇ、起きるわよね? ちゃんと目、覚ますわよね?」

 

 

 

──問い掛けに、反応はない

 

 

 

 ただ眠っているだけだ、大丈夫、もう目覚めないなんてありえない。けれども意識してしまった、不安の影に囚われたジャンヌ・オルタの心中は悪い予感、悪い結末ばかり想像してしまう。意思では止められない、考えるのを止められない、際限なく沸き上がってくる不安は、恐怖へと変わっていく。

 

──もう彼の人懐っこい笑顔が見れない

 

──もう彼に真っ直ぐ本気で叱ってもらえない

 

──もう彼に頭を撫でてもらえない

 

 "その結末"を想像し、冷たくなった彼を想像し、ジャンヌ・オルタの理性は砕かれた。緩んだ涙腺からは大粒の涙を流し、恥も外聞もなく顔をクシャクシャに歪め、まるで幼い子供が駄々を踏むように泣き出した──不安から変化した恐怖が、彼女の心を揺らす。

 

「……っ……ぁ……ゃ、だっ……ひぐっ……死んじゃ、やだっ……いゃ、っ……いやぁぁっ……起きてよ……ッ……起きなさいよ、バカッ……ぉ……置いて、ぃかないで……ぇ、ぐっ……あぁぁ……」

 

 自制ができない、溢れる涙を止められない、揺れる視界そのままに、ジャンヌ・オルタは涙で歪んだ顔をマスターの胸板へ落とした。ベッドの傍らへ膝を突き、すがるように、彼の衣服へ涙が落ち染み込んでいくが、今の彼女は気にも止まらない。ただただ、彼女はマスターを失うことへの恐怖に、身を焼かれていた。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 ふと、目が覚めた。いつも目を覚ました時に見る見慣れた天井は、"ここ"が自室なのだと教えてくれる。背中へ感じる柔らかい感触は、おそらくベッドだろう。ということは、今の自分は自室のベッドへ仰向けで眠っていた、ということだ──だが問題、というか疑問が二つほどある。

 

 一つは、なぜ自分が自室で寝ていたのか、ということ。

 

 そして、もう一つは……

 

「……う"ぅ"……ッ……ぇぐっ……、……あぁ"……ますたぁ……ッ!!」

 

 仰向けになった自分の胸板へ顔を押し付け、涙声を溢すジャンヌ・オルタの存在だ。何というか、この状況についていけない。どうしてこうなったんだっけ、と記憶の引き出しを開けると、おぼろげながら思い出してきた。クエストから帰還して、ジャンヌ・オルタに出迎えられて、部屋まで肩を借りたは良いものの、そこで安心して──そこから先は、覚えていない。

 

 つまるところ気を失ったのだろう、というのは察した。あとはジャンヌ・オルタが泣いている理由だが、こっちはサッパリだ──けど、大切なのは理由じゃない、と苦笑が浮かぶ。何故かは分からないが愛する人(ジャンヌ・オルタ)が泣いている、それは駄目なこと、嫌なことなのだ。

 

 そう頭で考えると、体は勝手に動いた。寝起きで怠い体、重い腕を上げジャンヌ・オルタの頭を撫でる。サラサラとした肌触りをしている彼女の髪を鋤くように、できる限り優しく、ゆっくりと──すると、頭を撫でられる感覚に驚いたのか彼女が顔を上げる。

 

「……ぅ"っ……っ……、……ぁ……」

 

 その泣き顔は、いつもの凛々しく覇気に満ちているものではなかった。ボロボロと瞳から流れる涙をそのままに、まるで小さな子供のよう。ジャンヌ・オルタが泣いている理由は分からないが、その顔は、似つかわしくない。

 

 わざと悪ぶって、自分から嫌われようとする天の邪鬼。でも、知っている。本当の彼女は優しくて、根は真面目で、意外に不器用で、寂しがり屋なことを──だから、こんな顔(泣き顔)は彼女に似合わない、相応しくない。

 

 なんて考えていると、いきなりジャンヌ・オルタが抱き付いてきた。細い両腕を首に回してきて、頬と頬を密着させてくる。溢れてきた涙であろう湿り気を頬に感じながら、耳元に寄ったことで大きくなった彼女の嗚咽。

 

「……も、ぉ……目、ぇ……覚まさない、かもっ……てっ……かん、がぇたらぁ……ッ……」

 

 眠いだけと伝えたはずなのだが、その言葉から、彼女が不安を感じて泣いていたであろうことは察することができた。心配してくれた、という事実に込み上げてくる思いがあるか、まずは、その前に──泣いている彼女を、そのままにはしておきたくない。

 

 

 

──怖かった?

 

 

 

「……、……っ………」

 

──いまだ嗚咽が鼓膜を叩いているが

 

──密着した彼女の頭が、頷いたように身動ぐ

 

 

 

──心配させて、ごめんね

 

 

 

「……………ッ……」

 

──ぎゅっ、と首に回る彼女の両腕に力が込められた

 

──さらに強く密着してきた彼女の柔らかい頬

 

 

 

──大丈夫、大丈夫だから

 

 

 

「……………………」

 

──安心させようと軽く彼女の背中を叩くと

 

──彼女は体を弛緩させ身を預けてきた

 

 

 

 ベッド上で抱き合う形となって、その後も何度か言葉を掛けながらジャンヌ・オルタを慰め続けた。その甲斐あってか嗚咽は収まり、頬に感じていた涙であろう湿り気も感じられなくなる──ようやく落ち着いてきた、そう思い身を離そうと彼女の肩へ手を掛けた、その時。

 

──ぎゅぅっ、と更に彼女の両腕が強く首へ巻き付いてきた

 

──身を離そうとしたのを察して、だろう

 

「…………………」

 

 "離されないように"両腕の力を強めたのは間違いない、つまりそれはジャンヌ・オルタが"離れたくない"と言っているのと同意。ためしに聞いてみるも反応はない、頬を密着させているせいで彼女の表情を確認することもできない。

 

 

 

──あの、離してくれない?

 

「……やだ……」

 

 

 

──部屋に戻らないの?

 

「……いい、今日はここで寝る……」

 

 

 

──お、襲っちゃうぞー?

 

「……ッ……、……す、すきに……すれば……?」

 

 

 

 どうやら、取り付く島はないらしい。それにしても驚いたのは最後、冗談だったのだが彼女の体がビクッ、と跳ねたのは見逃さなかった。おまけに、「好きにすれば?」ときたものだ。あまりにも可愛らしいジャンヌ・オルタの言動に苦笑が浮かんでくるが、見られなかったのは幸いだろう。

 

 ともあれ部屋へ戻るよう強要しても、また泣かれてしまいそう。それは、とても困る。どうやら今夜は、彼女と同じ布団で眠るしかなさそうだ──が、まずは体を密着させているせいで彼女の肢体の感触に触発され、下半身で暴れ始めているモノに自制を掛けるのも限界なわけで。

 

 

 

──承諾も得たことだし、いいよね?

 

 

 

 この後、滅茶苦茶セックスした。

 

 

 




泣いてるジャンヌ・オルタ慰めた後、泣いちゃったのをネタに言葉攻めしながらセクロスしたい人生だった(白目)

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