最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第8話

 

クルルシファーさんから謎のお願いをされて数日、今日は王都から男性の機竜使い(ドラグナイト)を招いての実技訓練の日だった。

実は二週間後に校内選抜戦というのが控えていて、選抜戦の結果によって遺跡(ルイン)の調査権をかけた対抗戦に出場できる。変な話、国の代表として戦うことになるのだから、それが近づくこの頃はこうやって特別講師を引っ張ってくることがあるそうだ。

 

去年までは女性だったのだが、今年、軍から送られてきたのは男3人組だった。

ま、普通にやってくれれば女性も男性も関係ないものの……

 

「おい貴様!そんなぬるい動きで勝てると思っているのかぁ!あぁ!?」

「どうした!?もうへばったのかぁ?その程度で機竜使い(ドラグナイト)が務まるとでも思っているのかぁ!」

「甘えてるんじゃねぇぞ!人に教わるな!自分で考えてやり直せ!」

 

「指導」というものがわかっていない馬鹿どもだったわけで、空気は最悪になっていた。

順番待ちをしていた俺とルクスの隣に座ったクルルシファーさんの話だと

 

「先月、演習のために三年生が王都に出向いていたが、その訓練の場で学園最強のセリスティア・ラルグリスが軍の顔を完全につぶしたからその腹いせ、か。小さい連中だなぁ」

「ただの八つ当たりじゃないですか」

「私も噂でしか知らないから、半分は私の予想だったのだけど、当たりのようね」

 

そう言って視線を演習場に向けて、ゆっくりと立ち上がるクルルシファーさん。

俺とルクスも同じく立ち上がって訓練を再開しようとする。

ところが――

 

「キャアアッ!?」

「はははっ!やはりこの程度か!士官候補生が聞いて呆れるな!」

 

女生徒の悲鳴と教官として王都から来ていた男の軍人の大きな笑い声が聞こえた。

 

「あ~あ、ついにやっちゃったか。どうす――ルクス?」

 

隣を見るがルクスの影はなかった。視線を巡らせると今の騒ぎを起こした張本人に言い寄っていた。

そんで、他の臨時教官たちも集まってきて何か言った後、お互いに頷き合った。

 

「へへへ、後悔するんじゃねぇぞ、没落王子が」

「勝負の形式が決まったのなら始めましょうか?」

 

詳しい話は聞こえてこなかったが、聞こえた部分から判断して3対1の模擬戦をする気だ。

 

そして、ルクスの《ワイバーン》にパーツを取り付け始める男たち。

ただでさえ防御用にパーツを追加しているルクスの《ワイバーン》がさらに重くなり、重量過多で飛べないんじゃないかとまで思える。

 

そしてライグリィ教官の号令で始まった模擬戦。

大方の女生徒はルクスが一方的に嬲られる光景を想像したが、現実はそうはならなかった。

 

「………」

「なっ――ガッ!?」

「調子に乗るなよ!このガキが!」

「………」

「な、何故だッ!なぜそうも簡単に剣を当てて回避できる!?」

「狙いが割と単純だったので」

「く……ッ」

 

《ワイバーン》と《ワイアーム》を纏った男2人はルクスの技術にやられ、《ドレイク》を纏った男も遠くから狙っているものの、一発も当たらない。

 

3対1で圧倒的に不利な状況でもルクスは現役軍人3人組を完全に手玉に取っていた。

 

「相変わらず神業としか言いようがないな。さてと――」

「あれ?なんで機竜を呼ぼうとしてるの、レンっち?」

「ちょっとあのバカたちにお灸を据えたいって《ヴリトラ》がうるさいから」

 

ティルファーの疑問にそう答えて俺は《ヴリトラ》を纏って、観客席の一角に翔ぶ。

 

ギンッ!

 

「なぁっ!?」

「あまりバカな真似をするなよ、これ以上するというなら……そうだな。少し、頭冷やそうか」

「ひぃっ」

 

赤黒いエネルギーを左の剣先に溜めた《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》を《ドレイク》を纏った男に向ける。それだけで男は情けない悲鳴を上げていた。これで軍人とはよく言ったものだよ。

それにしても、やっぱり便利だよな~このセリフ。

 

「おーいノクト。ちゃんと位置データ採ったか?」

「Yes, しっかり採らせていただきました」

 

飛び出す前、ノクトにルクスと教官役の男の位置関係のデータを取ってもらうように頼んでおいた。確たる証拠になるからな。

 

「ということで、いいですかライグリィ教官」

「ああ、そうだな。この勝負はルクス・アーカディアの勝利とする。それと――、あなたたち臨時教官の方々にはあとで話を聞かせてもらおう。観客席の生徒をわざと狙ったのであれば大きな問題だ。あなたたちに教官役を務める資格はない」

 

ライグリィ教官にすごまれて教官役の三人は演習場をすごすごと出て行く。

ルクスの話によると、どうやら《ワイバーン》と《ワイアーム》の方は俺が《ドレイク》を黙らせたのと同じくらいのタイミングでクルルシファーさんが黙らせたようだった。

 

「ったく、無事に片付いたから良かったものの。無茶し過ぎだ」

「それに私と彼がいなかったら―あなたがますます目立つことになってたわね」

「あはは……」

 

俺とクルルシファーさんの呟きにルクスは苦笑した。

実際ルクスにはそうなっても対処できる、と言うよりそこまで考えていないということはない。

 

ま、それとこれとは別で、おもしろいものが見れそうだが。

 

「さて、教え子たちが待っていますよ。ルクス先生」

「へ?」

 

俺が視線を横に向ける。

視線の先には大量の女生徒。口々に「教えて、ルクス先生」とか言っている女生徒がいた。

 

「ちょ、さっきのは言葉の綾で――レン、助けて~」

 

早速取り囲まれたルクスから助けを求める声が聞こえるが、助けるわけなどない。

一部の女生徒たちが振り返り、俺の方に視線が向く。やばい、あの目は俺も巻き込む目だ。

ならば、きっぱり断ってあげるのがルクスの為(?)だろう。

 

「すまん、それはできそぉう!?」

「えっ?」

「悪いけれど。今日はもう、彼と予定があるの。そう言うことでルクス君、彼女たちにしっかり指導してあげてね」

 

クルルシファーさんが俺の腕に自分の腕を絡めている光景を集まった女生徒に見せつけながらゆったりとした動作で体を寄せてくる。少女の膨らみが、腕に、触れている。

こうなるともう、俺にできることは――

 

「………」

 

無言のまま、クルルシファーさんのなすがままに演習場をあとにすることだけだった。

彼女いない歴=年齢にこの不意打ちはきつかったのだ………

 

ルクスは蓮が連れ去られた(?)後、大勢の女生徒の相手を一人でやらされることになったため、翌日の朝はひどく疲れた様子(グロッキー)であったということだけ書いておく。

 

 

 

 

「んで、そろそろ恋人役とやらの理由を教えてほしいんですけど。クルルシファーさん」

 

軍のアホたれどもの件があった翌日の放課後、俺とクルルシファーさんは城塞都市(クロスフィード)の街に出ていた。つまりはデートだ(ちなみに授業後の教室でみんなに聞こえるようにクルルシファーさんが誘ってきたので他の生徒の黄色い声がry)。

また腕を絡められていたが、今日は前日のように固まったりしなかった。見知っている人に見られている、と言うのでなければ大丈夫なようだ(と言うより、必死にそう装うことに決めた。内心ドキドキが止まらん)。

今はそこらの店で休憩中。いい加減、訳を説明してほしいので俺から切り出した。まあ、大体の予想はついてるけど。

 

「そうね。でも、あなたはもうほとんど分かっているのでしょう?」

「……まあ確かに、大方の予想はついてる。貴族はどこまで行っても貴族、そう言うことだろ?」

「ええ、そうよ。留学の目的は新王国の有力者との結婚または婚約。《ファフニール》は箔というわけね。あなたに恋人役を頼んだのは、今日、エインフォルク家から使者が来るからなの」

「使者の目を欺くために俺を恋人役に仕立て上げたというわけか。それにしても政略結婚ねぇ」

 

エインフォルク家にとって今回の留学は政略結婚の相手を探すのが目的というわけだ。

それでわざと皆に「蓮とクルルシファーは恋人同士」と思わせるような行動をとっていたというわけか。

 

けど―――

 

「気に入らないな、やっぱ」

「あなたも身分は貴族だからわかるでしょう?仕方のないことなのよ」

「知っている、だから嫌いなのさ。心を無視して、人を道具みたいに扱う政略結婚なんてものは」

 

俺はそう吐き捨てる。

クルルシファーさんは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの余裕ありげな顔つきに戻る。

 

「私も嫌いよ。ごめんなさいね、こんなことに付き合わせてしまって」

「謝らないでいいですよ、むしろ納得した。そういうことなら喜んで協力させていただきますよ」

「やっぱりあなた、変わっているわ」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干し、店を出る。

外はいつの間にか日が暮れ始めていた。

 

「――それで、エインフォルク家の使者というはあそこからじっと俺たちを見つめている彼女かな」

「ええ、そうよ。彼女はアルテリーゼ・メイクレア。エインフォルク家に仕えている執事よ」

 

その彼女――アルテリーゼさんがこちらの視線に気づき、クルルシファーさんのもとに歩み寄って一礼する。

 

「ご無沙汰しております、お嬢様」

「まさかあなただとは思わなかったわ。久しぶりね、アルテリーゼ」

「はい。申し訳ありませんが場所を移しましょう。ここは話すのに向きませんから」

「それもそうね。彼も連れていってもいいかしら?」

「遠――いえ、構いません」

 

たぶん俺はいない方がいいと思っていたのだろうけど、クルルシファーさんには頭が上がらないのか知れない。

俺とクルルシファーさんはアルテリーゼさんの後を追った。

 

 

 

「まいったな……。ま~た義父上に迷惑かけちまったな、これは」

「ごめんなさい。私のせいで」

「前にも聞いたよ、ソレ。ま、今回の件においてクルルシファーさんが謝ることはないよ。悪いのは挑発に乗ってしまった俺だ」

 

アルテリーゼとの会談はあまり時間をかけることもなく終了し、頭をガシガシしながらぼやく蓮とクルルシファーは学園への帰途についていた。

 

「それでも、さすがに今回の件は私も驚いたわ」

「アルテリーゼさんとはあまり仲良くないのか?」

「付き合いが長いだけよ。でも、ここまで思い切った手を使うとは思わなかったのは事実ね」

 

 

今回アルテリーゼが新王国を訪れたのはクルルシファーに課せられた家の目的の進捗状況の確認。それは別にいいのだが、アルテリーゼが最初に口にしたことが問題だった。

 

「誠に勝手ながら、お嬢様と新王国の大貴族クロイツァー家の長男、バルゼリッド・クロイツァー卿との婚約を取り付けてまいりました。そうでもなければお嬢様はまた理由を付けて逃げてしまいますから」

 

アルテリーゼはクルルシファーに何も知らせずに、勝手に婚約者を決めてしまったのだ。そしてそこに当のバルゼリッドまで現れ、話がこじれていき、ついには――蓮とバルゼリッドで決闘を行い、その勝敗で決めようという話まで発展。

そしてクルルシファーが付け加えるように

 

「当事者と責任者の私たちが高みの見物なのは、気分が悪いわ。互いにペアの二対二でやりましょう」

 

とまで言い出し、二対二の決闘が決定してしまった。

期日は三日後。

決闘の場所は遺跡の調査を明後日に控えている蓮たちは難しいので、バルゼリッドが用意する運びとなった。

 

 

とまあ、これが会談であった事のあらましである。

 

「でも、驚いたよ。クルルシファーさんの方からあんなこと言いだすなんて」

「それはあなたにも言えたことよ。あんな見え透いた挑発に乗るんだもの」

「俺がそうしたくなったから乗ったんだよ。それに俺はああいう傲慢が過ぎたり、人を家柄で見下す人間を許せる人間じゃないんだ。――今時の貴族らしくないだろ」

 

蓮の皮肉を込めた苦笑にクルルシファーはかぶりを振る。

 

「それでいいのよ。貴族の振る舞いは本来、そういうものであるべきなのだから」

「ノーブルオブリゲーション、と言うやつだな」

「ノーブルオブリゲーション?」

「貴族の義務っていう意味。財産、権力、社会的地位の保持には責任が伴うってことさ。ああゆう貴族の特権とやらに胡坐をかいているような連中を皮肉るときに使われたりもする」

 

蓮としてはその場でバルゼリッドにいろいろ言ってやりたかったが、恋人を演じているので口の悪いことをアルテリーゼもいる前で口にしてはいろいろと問題が出てくるというか、品性がまず疑われてしまう。

実際、結構危ないところではあったが。蓮よりも《ヴリトラ》が。

 

「まあ、問題はバルゼリッド卿の持つ神装機竜《アジ・ダハーカ》だな。使い手のバルゼリッド卿は王都のトーナメントで《王国の覇者》の異名持ち、実力を疑う余地はない。神装の名前が《千の魔術(アヴェスタ)》ってことが解っても中身がわからない以上、一番対策をしないといけないことの対策が打てない」

「そうね。でもそれはお互いさまでしょ?」

「だな。《ファフニール》の神装はあの執事を通して絶対にばれているだろうから、俺の《ヴリトラ》が鍵……いや、《千の魔術(アヴェスタ)》の正体が鍵かな」

「どういうことかしら?」

 

クルルシファーの問いは予想できていたので、蓮はただ一言。

 

「《ヴリトラ》は神をも飲み込む」

 

クルルシファーはやはり分からないという表情だったが、蓮は彼女の手を引いて門限が迫った学園へ向かう足を速めた。

 

 

 

 

 





ようやく大学のレポートレンダァがひと段落しそうです……長かった……

今話は準備回です。デートでどんなことをしていたかについてはみなさんの自由な妄想に任せます。甘~いシーンを描くの正直苦手なんですよね。

でも……どこかで入れられるようにします!あまり期待しないで待っていてください!(オイコラ)


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