「フハハハ!無様だなぁ、新王国の王女よ」
「くそっ……逆賊どもが……」
反乱軍の首魁、元アーカディア帝国近衛師団長ベルベットの高笑いがリーシャの耳に響く、リーシャは反論の一つしたくてもできないほどにボロボロだった。
反乱軍の戦力は砦の
リーシャ達『
『騎士団』側は総崩れとなり、『
当然残ったメンバーはリーシャの救援に向かおうとするが、幻神獣に阻まれて動けない。
「さて、貴様を捕らえて新王国と交渉するための人質とするか……いや、ここにはこれだけの大戦力とこの笛がある。別にお前を利用する意味などないか、雌犬」
「……!?」
リーシャの、ここまでボロボロになっても気丈に保っていた表情が絶望に歪む。
「そうだ!思い出したぞ!お前に刻印を焼き付けたのは俺だったなぁ!」
「くっ……」
「さて、余興は終いにするか。――死ね」
《エクス・ワイバーン》に搭載された
(これまでか……結局何もできなかったな……)
リーシャは目を閉じる。
ドオオォン!!
砲撃が着弾し、大気が爆ぜ、全てが爆炎に包まれる。
『
反乱軍のだれもが歓喜の表情を浮かべた。
しかし、爆炎が晴れた時、戦場にいた全員が驚きに目をむく。
「大丈夫ですか?リーシャ様」
「ル…クス、なの…か?」
「はい」
《ワイバーン》をまとったルクスが障壁を最大出力で展開、衝撃を装甲に流し、リーシャを守っていた。
しかし、砲撃の直撃を受けた《ワイバーン》は、その場で砕け散ってしまう。
「どうして、お前が…」
「あなたを助けるためよ」
返答はルクスではなく、別の人物から返ってきた。
「クルルシファー…か」
「ちゃんと生きているわね、王女様」
「生きてて…悪かったな…」
皮肉を帯びた声で、白銀の神装機竜《ファフニール》を纏ったクルルシファーが言う。リーシャはダメージのせいで、そう返すことしかできなかったが。
「良かったな~王女様。ルクスが助けに来てくれて」
「なっ…!?なぜ貴様までここにいる!」
「……。俺だけ扱い酷くないですか?」
からかうように《ヴリトラ》を纏った蓮が呼びかけると、なぜか怒ったような口調で言われた。
「何者かは知らんが、無駄なあがきを――」
上空に佇んでいたベルベットは、ルクスたちの姿と生きているリーシャを見て、大剣を構える。それを合図に他の機竜使い達も剣を構える。
「すみません、リーシャ様。せっかく直してもらったのに」
ルクスはリーシャに背を向けたまま、リーシャに対し詫びを入れる。そして、腰に差していたもう一本の
「――顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、《バハムート》!」
「
圧倒的な威圧感と存在感を放つ黒き竜がルクスの体を包む。
黒い神装機竜を纏ったルクスは飛翔し、ベルベット率いる反乱軍の前に立ちはだかる。その右手には、闇より深い黒色の大剣が握られていた。
反乱軍の機竜使い三機が左右、正面の三方向からルクスに襲いかかる。
その刹那――
「時を喰らって加速しろ、《バハムート》」
バキン!
「「「――え?」」」
三機の機竜使いの剣が振り下ろそうとしたその瞬間、男たちが纏っていた機竜が砕け散った。
全員が装甲腕、
攻撃、動力、制御の要である三点が、三機同時に、一瞬で。
やられた男たちの目にも地上で見ていた実力者のリーシャとクルルシファーでさえも、何が起こったのか見えていなかった。
かろうじて分かったのはルクスが手に持つ黒大剣《
「な、なにが起こったのだ!?ええい、こうなったら!」
状況を呑み込めないままベルベットは再び
ルクスはリーシャの前に出ようとするが、他の機竜使いやガーゴイルがそれを妨げる。
「消えろ!クソアマがぁ!」
放たれた強大な破壊力を持った熱線。しかしそれはリーシャの傍にいた紫の機竜が放った砲撃とぶつかり、大爆発を起こした。
煙が晴れると、そこには無傷の蓮、リーシャ、クルルシファーの姿があった。
「なにぃ!?」
「んじゃ、王女様のお守りは頼みます。クルルシファーさん」
「わかったわ」
驚愕するベルベットを無視して蓮はクルルシファーにリーシャのことを頼んで飛翔し、いまだ多くの機竜使いやガーゴイルと戦うルクスに竜声を飛ばす。
『ルクス!アレをやる!』
『わかった』
「久々にやるぞ、《ヴリトラ》――《
叫ぶと同時、背の推進装置付近から4つのクリスタルが現れる。クリスタルは《ヴリトラ》の正面で浮遊する。
特殊武装―《
「行け――バースト!」
蓮の号令で4つのクリスタルが天に向けて飛翔し、散開する。
散開した4つのクリスタルの1つに向けて《
クリスタルに直撃したエネルギー弾は3分裂し、残った他のクリスタルに命中、そして今度は10分裂する。都合30発、細かく分かれたエネルギーはルクスを追っていた機竜使いや幻神獣に雨となって降り注いだ。
「な、なんだぁ!?」
「ギィイイイ!」
あらぬ方向に放たれたはずの攻撃が降り注ぎ機竜使い達は混乱、幻神獣にも少ないながらもダメージを与え、バランスを崩したところに《バハムート》を纏ったルクスが襲い掛かる。
「ほれほれ、追加だ」
続いて第2射、第3射……と続ける。
「今だ!奴の隙を討て!」
「あ、しまったなぁ。忘れてた――な~んて言うと思ったか?」
「《
ベルベットに背を向けて砲撃の雨を降らす蓮の隙に、ベルベットの部下たちが攻撃を仕掛ける。
瞬間響く、ルクスの声。蓮に攻撃を仕掛けたはずの機竜使い達は突如現れた《バハムート》を纏うルクスによって墜とされた。
『まったく、兄さんだけじゃなくてレンさんも戦っているんですか?』
ルクスの隣に並んだ時、竜声でアイリの呆れ声が聞こえた。
「アイリちゃん?確か機竜は持ってなかったでしょ?」
『Yes.私の《ドレイク》から竜声を飛ばしています』
「なるほど、ノクトか。――それで、やっぱりルクスが『黒き英雄』の正体だったんだな」
『気づいていたんですか?』
「薄々な。旧帝国の王子であるはずのルクスがろくな監視も付けられることなく一般人と接している上に、ラフィ女王にも非公式で面会できたからもしかしてってぐらいだったが、神装機竜《バハムート》を持っていること、そして使いこなしていることではっきりした」
『―――!?それは、どういう意味ですか?アイリ・アーカディア』
ノクトの驚きようも理解できないわけではない、旧帝国を滅ぼした最大の功労者『黒き英雄』が旧帝国の王子であったルクスだというのだから。
それを予想していたアイリが答えを出そうとするが、戦場は容赦なく動く。
「……死ねぇぇえぇぇぇぇ!」
ベルベットが絶叫し、直後、耳障りな笛の音が木霊する。
そして現れ、蓮とルクスめがけて突っ込んでくる数十体のガーゴイル。王都に攻め込むために残していた予備兵力だろう。
蓮はそう思った、それは正解だった。
「《
「失せろ」
しかし、突っ込んできたガーゴイル達は全て、ルクスが目にも止まらぬ速さで切り捨て、蓮がエネルギー刃や砲撃で斬り裂き、撃ち落としていった。
「巻き込んでごめん、レン」
「巻き込まれに来たんだよ、ルクス」
抵抗などは一切の意味をなさない一方的な攻勢、蹂躙が、始まった。
「ルクスの正体にも驚いたが、レンめ、私の時は本気を出していなかったな…」
「あら。もう大丈夫なのかしら、お姫様?」
「おかげさまでな。それにしても、いったい何が起きているんだ?」
リーシャとクルルシファーは、襲いかかる100機の機竜使いや30体の幻神獣を次々落としていく漆黒の機竜と紫の機竜を見上げていた。
『《暴食》――あれが、兄さんの持つ神装機竜、《バハムート》の持つ神装です。その能力は圧縮強化という十秒間の魔法です』
そんな彼女たちに、ノクトの《ドレイク》からの竜声を介して、アイリが告げる。
『先の五秒間、対象に流れる時間を数分の一に減速し、後の五秒間、数倍にまで加速する。故に、敵が攻撃の予備動作を見せた瞬間、加速させた斬撃で容易にそれを追い抜き、破壊する。それが、『即撃』という、兄さんの技です』
言っていることはわかる、しかしそれを成すのは果てしなく難しい。
なぜなら、この『即撃』という技は敵の攻撃予備動作を完璧に見切る必要があるからだ。
『
『……っ!』
クルルシファーも、リーシャも、ノクトも息をのんだ。
『まあ、レンさんの《ヴリトラ》に関しては何もわかりませんが、神装はまだ使っていないと思います。おそらくですが』
気休め、なのだろう。
アイリは蓮の《ヴリトラ》に話題をそらした。
少女たちが見守る中、戦いは終局へと向かっている。
「馬鹿な!貴様があの『黒き英雄』だと!?」
反乱軍側の戦況は悪化の一途をたどっていた。
百機はいた機竜使いの半数以上はすでに墜とされ、幻神獣はすでに全滅している。
「何者だ!貴様達は!?」
「僕の顔に覚えはないか、ベルベット近衛団長よ」
「な……ッ!?」
問いかけられたのは蓮とルクスの二人だが、答えたのはルクスだった。
底冷えのするルクスの視線をうけ、はっとする。
「なぜだ!第七皇太子ルクス・アーカディア!なぜ我々に剣を向ける!?民のために戦い、英雄にでもなったつもりか!?」
ベルベットの憤怒を宿した怒声にルクスは、ベルベットに大剣を向け、宣言する。
「僕は、英雄なんかじゃない。帝国を亡ぼす、最弱の
ルクスが啖呵を切った直後――
「いいだろう……。ならば死ねい!新たなる帝国の礎として、わが仕えしアーカディア帝国の、大義のもとに朽ち果てろ!」
ベルベットを含めた、残りの機竜使い全員が突撃する。
「ルクス、決着を付けて来い。これはお前の仕事だ」
「うん、ありがとう。――《
蓮はあとをルクスに託して後退し、クルルシファーとリーシャのいる場所とルクスの中間あたりまで下がった。
ルクスは神装を発動させ、『即撃』で十数機の機竜使いを落とす。
しかし、ベルベットの狙いは部下を囮にして、神装発動直後のルクスを狙うこと。
先ほどまでの戦いで、連続発動できないことは確認済みだった。
「あの世で皇帝陛下に詫びろ!裏切者め!」
落とされた部下たちの隙間をかいくぐり、ベルベットが凶笑を浮かべる。
それを見たリーシャはハッとする。
自分を倒した時と同じことをしようとしていることに気づいたからだ。
「まずい!」
『大丈夫ですよ、リーズシャルテ様。なぜなら――』
慌てるリーシャに対し、アイリの声は落ち着いていた。
なにせ、彼女は知っているのだから――
ピシッ!
「な、にぃぃい…!?」
確信をもって繰り出した『
「な、なぜだ!?貴様の神装はまだ使えないはず!?何故、俺の神速制御が敗れ―」
『あなたも無謀な人ですね。いくら神速制御を使えるといっても、それを最初に編み出した人間に、同じ技術で勝てるはずないでしょう?』
驚愕するベルベットに竜声でアイリの言葉が届く。
『
肉体制御での操作に加え、精神操作の制御。一連の動作に異なる二系統の操作を完璧に合わせ、一動作のみ、目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。
アイリは知っているのだ――ルクスこそが、「機竜使いの三奥義」の生みの親だということを。
「ば、馬鹿な!編み出しただと!?貴様はそのときまだ十二――」
「さようなら、ベルベット。僕は帝国でも、あなたたちでもない。僕が認められたいと思う、彼女たちのためにここで戦う。そう決めたんです」
ルクスが呟く間に《エクス・ワイバーン》とベルベットは、乾いた大地へと落ちてゆく。
ベルベットが墜とされ、残った反乱軍の機竜使いたちもすべての機竜を破壊された。
「…終わったな」
「そうね」
「さてと、あいつら縛って帰るか」
反乱軍の機竜使い百機、幻神獣三十体は全て、たった二人の機竜使いの前に敗れ去った。
次話で一巻の内容は終わりです。
クルルシファーさんとの絡みが少なすぎる気もしますが、精進します。
前話等でお知らせしている通り、《ヴリトラ》の神装の名前を変えました。本当に申し訳ありません。
さて、実は今、あのクズ貴族をどうしようかと悩んでいます。意見があればくださいです。
修正点や感想を待っています!