「僕を『
入学した日の翌日。
昨日と同じように授業を受け、今は食堂で昼食の時間。とはいってもほとんど食べ終わっているので完全に雑談の時間だ。
メンバーは俺、ルクス、リーズシャルテ王女、クルルシファーさん、フィルフィさんにティルファーである。
話題のきっかけは昨日やった俺とルクスの編入を祝うパーティーである。
話の中で思い出したかのように王女様が「昨日言い忘れていたことだが…」と言って話したのが、ルクスを『
「ああ、昨日は言いそびれたからな。『
「でも、条件があったはずですけど……」
「条件は大きく三つあるが、この前の決闘でそのうちの二つに関しては問題ない。それに今は三年のほとんどが王都に出ている、今がチャンスだ」
「どういうことですか?」
「それはだな――」
「団長がかなりの男嫌いなのよ」
突然沸いた声の主は、ルクスの対面に座っていたクルルシファーさんだった。
「どういうことですか?」
「『騎士団』団長の三年でセリスティア・ラルグリスは侯爵家の令嬢で、学園最強と名高い実力者。生徒からの人望も厚いけど、男嫌いで有名なのよ。たぶん、彼女が今のこの学園にいたらあなた達の編入も白紙になっていた可能性が高いわね」
「おい!私が説明しようと――」
おっと、どうやら俺にも関わる話になりそうだ。
だけどやっぱ、どういうことか聞く前に
「リーズシャルテ王女、もったいぶるのがいけないんですよ」
「ええい、うるさい!」
「あはは…。それでリーシャ様、今がチャンスって?」
「フン、それはだな――」
「大方、今のうちに既成事実化しとこうって腹だな。正式な手続きを踏んでおけば余計な難癖を付けられないだろうし」
「貴様ー!」
俺の割り込みにくいかかる王女様。
だから、必要もないのにもったいぶるからだよ。
「それで?その『
とりあえず話を進めることにしたが、俺の子の質問に全員が「なんで?」と言う顔をする。
「あれ?レンっちも興味あるの?」
「まあ。ちょっと気になることがあってな」
そっと視線を《ヴリトラ》に向け、すぐに戻す。
「意外ね。あなたはこういうことに興味はないと思っていたのだけれど」
「いろいろあるんですよ、クルルシファーさん」
「ま、いいわ。『騎士団』の条件は校内評価と
「待て、ルクスはまだ入学したばかりだぞ。校内評価も何も――」
「それなら問題はない。決闘の件で二つの条件は大丈夫だからな」
妙に自信ありげに答えたのは王女様だった。
それを聞いていた他のメンバーもうなずく。
「そうね。最後の条件は入隊試験の結果次第ね」
「ルーちゃんなら、大丈夫」
「そーだねー、残ってるメンバー全員に認められればオッケーだね」
ルクスの「断る」という道は断たれていたし、これだけ期待されては断れるわけもなかった。
さて、俺はどうしようかな。
「なあ、入隊試験って俺も受けても構わないか?」
「うーん、レンっちの実力は知ってるけど他のみんなはほとんど避難してたしねー」
「ならそこの王女様と決闘させてみてはどうかしら?」
ティルファーの現状説明にクルルシファーさんがまさかの意見を出した。
え?俺が王女様と決闘?
「私がレン・フェルテとか?」
「なるほどね~確かにそれならみんなも納得するかも」
「確かにそうだが……」
王女様はまだ『騎士団』の一員ではないが、試験を取りこぼすとも思えないし、受ければ入隊は確定だろうな。『騎士団』に入っていなくても彼女の実力は間違いなく学園屈指なのだし。
だけどなんか乗り気では――ああ、そっか。
「俺の実力自体は認めていても、危険と隣り合わせの『騎士団』に入りたい理由ね――ルクス、確か俺を見つけたのは『
「え? うん、そうだけど……」
「『騎士団』に入れば
理由は理解できても俺の真実を明かすわけにもいかない、ということだ。
まあ、多分、大半は俺に恩を売ることになるのが嫌だったのだろうけど。
「まあいい。ついでだ、貴様は私を王女と思っていないようだからな、その鬱憤も晴らさせてもらおう」
「…なんか、理不尽じゃないですか?」
「あはは…。蓮の場合、自業自得じゃないかな」
ルクスよ、お前まで言うのか?
て、おい!そこでみんなも頷くなよ!
ゴーン ゴーン
「予鈴が鳴ったわね。そろそろ戻りましょう」
クルルシファーさんの一言でその場は解散になった。
「……で、王女様。俺を
「ん?そうか、そんなに不敬罪で処罰されたいのか?それならちょうどよかったな」
クルルシファーさんの意見が通り実現した俺と王女様の入隊試験を兼ねた一騎打ち――なのはいいんだが、この人数はどうかと思う。明らかに『騎士団』メンバーじゃない一般の生徒も混ざっているよね、これ。
俺達の前にルクスの試験をしたので三和音の3人やクルルシファーさん、フィルフィさんの姿があった。他にもアイリちゃんや同じクラスの全員がいた。
…………恥かかせる気満々じゃないですか、やだー。
「まあ、私もまさかこんなに集まるとは思っていなかった。許せ」
と、言う王女様だったが――
『はいはーい。リーシャ様に頼まれてみんなにこの話をしたのはあたしだよー』
竜声で聞こえたティルファーの告げ口。やっぱりかよ。
どうやら聞こえていたのはむこうも同じのようで、顔を赤くして抗議していた。
「両者、接続の準備を」
おっと、時間も来たようだし、やるか《ヴリトラ》。
「――降誕せよ。幾数多の憎悪を身に宿し蛇竜。怨恨放ち雷霆を弑せ、《ヴリトラ》」
「――目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。《ティアマト》!」
詠唱符を唱え、機竜を接続してにらみ合う―
「
審判役の教官の号令で俺たちは飛び出した。
「始まったねー、ルクっちはどっちが勝つと思う?」
「え?たぶんだけど、蓮が勝つ……かな?」
「そう。私はてっきり王女様が勝つと言うのだと思っていたんだけど」
観客席の一角で観戦するルクスたち。
ティルファーの質問にルクスが首をひねりながら出した答えに意外そうに返したのはクルルシファーだった。
「王女様の特殊武装は厄介よ、解っていても意識は《
「はい。この前はそれで墜とされかけましたし……。《
「ルクスさん、どういう能力を持っているのでしょうか?」
「えと、見た方が早いと思うよ。たぶん、もうすぐ見れるんじゃないかな?」
ノクトがおそらくこの場にいる全員の思ったことを代弁したが、ルクスはただはぐらかすだけ、詳細は一切語らなかった。
だが、もうすぐ見られるというのだけはきちんと伝えた。
「どうした?この程度か?」
「うっさい!貴様こそ逃げることしか能がないのか!」
ルクスの言葉に釈然としない少女たちをよそに決闘は前戯(蓮にとってだが)が終わろうとしていた。
蓮が何をやっていたかを簡潔に言えば、「見」に徹していた。
リーズシャルテの《ティアマト》の持つ特殊武装《
ゆえに「見」に徹した。癖を見抜ければいくらか楽になるから、無理だったが。
まかりなりしも『無敗の最弱』に手ほどきを受けたのだ、蓮にとっては意識を全て回避・防御に回せばできないことではなかった。
リーズシャルテとしてはさぞ、以前の決闘と同じことをされていると見えたことだろう。
そして戦局はここから動いた。
「やれやれ、そろそろだな。《
《ヴリトラ》の特殊武装《
それは合図。先日の決闘に乱入した幻神獣を消滅させた一撃の合図でもある。
「悪いな待たせちまって。さて、ここからはちゃんと戦ってやるよ!」
飛んできた《
「さあ、開戦の号砲を鳴らそうじゃないか」
「おもしろい!受けて立ってやる――《
「バースト」
衝突し、大爆発する。結果は互角となり対消滅した。
その意外な結果に会場がざわめく。
「《七つの竜頭》…今のでフルパワーの半分くらいか?さすがの威力ですな。こっちは最大威力だったんだが」
「お前のその剣は一体どうなっているんだ?剣としての十分な性能に加えて、あの威力の砲撃まで可能とは」
「おほめいただき光栄です。返答代わりと言っちゃあなんだが、教えといてやる。
《憎荒双剣》の持つ能力はただ一つ、『エネルギーの圧縮』だ。双剣の動作にリンクして、エネルギーの塊が射出される。オールレンジに対応可能だからちょっとばかし厄介だろうな。
――さて、せっかく説明してやったんだ。速攻ぶっ倒れるなよ!」
蓮はそう発破をかけると右手に持った方を正面に出し、左手に持った方を逆手に持ち変えて《ヴリトラ》を加速させる。
対するリーズシャルテは《
ついに神装機竜同士の戦いが始まる。
リーズシャルテだけが一方的に攻撃していた時とは違う、熾烈な攻防を始めた二人。
その頃、ルクスのそばでは……
「ずいぶんと汎用性の高い能力じゃないか、それは」
「おまけにオールレンジに対応なんてー。弱点とかないの、ルクっち」
三和音のシャリスとティルファーが蓮の説明を聞いて呆れかえっていた。
「うん、あるにはあるよ。剣の動きに合わせて放出するからどうしても直線的になるし」
ルクスも初めて知ったときに同じ思いをしたので、ティルファーの質問に苦笑しながら答える。
「なるほど。さっきから見せてる斬撃に沿ったエネルギーの刃もそういう理屈なのね。そう言えば、前にあなた達を助けた時に見せたのは?」
「あれは突きの延長だよ。切っ先にエネルギーが集まる時は、わずかに腕を引いているんだ。それが難しくてね。始めた頃に文句を言ったらケンカになって、機竜の方から一方的に接続を切られたんだっけ? 最後は蓮が土下座で謝って許してもらえたんだけど」
「あら、どうしてルクス君が彼のそんな裏話を知っているのかしら?」
「操作については僕が教えたんだ。どうしてもって頼まれて……ね」
最初こそルクスは反対していたが最終的には折れた。本当は蓮が強引に押し通したのだが。
ルクスはそこでいったん言葉を区切って、視線を演習場に向ける。
そこではお互いに武装を向け合っていた。
ルクスが見つめる闘技場で戦う二人の表情はきっぱりと分かれていた。
「く……ッ!」
「ふぅ。やっぱ厄介だな《
息が切れ、肩で息をし始めているのはリーズシャルテ。対する蓮は全く呼吸が乱れていない。
リーズシャルテは追加召喚した武装含めて16機の《
蓮は《
「軽口を叩くな。なにが厄介だ、ほとんど足止めにしかなっていなかったではないか」
「なっていたから厄介だって言ってんだよ。少しでも隙を晒せば容赦なく殺人砲撃の餌食じゃん」
この間にもリーズシャルテの攻勢は続いていたが、やはり届かない。その間に時間は過ぎていき、受けに回っている蓮の準備が完了する。
「さあて、そろそろ決着といこうか王女様!」
「チィッ……!」
蓮は双剣の切っ先をリーズシャルテに向ける。今までの片手ではなく、両手を。
「フルバ――」
「《七つの竜――》」
「そこまで!この勝負、引き分けとする!」
決着の一撃が放たれる寸前、試合時間の終了を告げる教官の声が響いた。
その声に二人は溜めていたエネルギーを霧散させる。
その後に響くのは拍手の音だった。
「引き分け、か。ちょっと時間をかけすぎたかな」
「何が引き分けだ。あのまま続けていれば私が勝ったぞ」
「(あ、それって負けフラグ…)さいですか」
「いいか!次にやるときは私が勝つからな!」
「こっちも負ける気はさらさらないですからな、王女様」
大声で宣言しながら演習場を出て行くリーズシャルテに蓮が声をかけると―
「リーシャだ」
「ん?」
「いつまでも王女様と言われるのは癪だからな、級友らしくそう呼べ」
「……。仰せのままに、リーシャ様」
観客席全体から響いた拍手の中、二人は演習場をあとにした。
いかがでしたでしょうか?
もうちょっとクルルシファーさんと絡めたいのですが、それは追々入れていくことにしました。でも、この後も全く絡まないってのはないですので安心してください。
さて、困ったことに大学が始まりました。めんどい
けど、更新ペースは落とさないように努力します。(確実にできるとは言っていない)
修正点や感想を待っています!