ルクスとリーズシャルテ王女の戦いを襲撃した
学園長室内にいるのはレリィさん以外に5人。リーズシャルテ王女とアイリちゃん、そして
呼ばれた理由は言われるまでもない。
「天宮蓮と言ったな。聞かせてもらおうか、お前がなぜ神装機竜を持っているのかを」
名前はレリィさんの方で紹介済みだったようで、リーズシャルテ王女は前置きなしに問いかけてきた。他の面々の視線も同様のことを問いかけている。
(さて、どこから話すべきか)
問題はそこだった。いきなり「違う世界から来ました」と言われて信じられる奴がどこにいる。どっかの意味不明のハイテンション奇天烈教授じゃあるまいし。あとはなんだ?常にアリスファッションのうさ耳博士ぐらいだろうな。
脱線が過ぎたな、話を戻すか。
「なんというかなあ……記憶がないんだよ、4年前以前の記憶が」
「は?」
俺の言葉に面食らったような声を出す一同(レリィさんのは演技だとすぐにわかったが)。
俺は剣帯ごと《ヴリトラ》の
「記憶があるのはこいつが突き立っていた場所で目が覚めた時からだ。目が覚めた俺は何だろうと思って引き抜いた。そこでまた俺の意識は途切れるんだが――」
「あらぁ?嘘はいけないわよ、蓮君」
全員が乱入者――レリィさんの方を向く。
何でそこでぶっこむんですか!?
確かに神装機竜の話にこじつけられそうな話ではないと思いましたけども!
「ああもう!なんでそこで切るんですか!?」
「だって、ベタ過ぎるじゃない?」
うん!そうだよ!そうですよ!
「それに女の子に嘘をつくのは感心しないわね」
「はぁ~……。わかりましたよ、最初から全部、徹頭徹尾話しますよ」
結局、最初から最後までの真実を全部話すことになった。
皆は最初の「異世界から来た」と言う言葉の時点で言葉を失っていたが、お構いなしにただただ話した。
そして最後に――
「……とまあ、こういう経緯で《ヴリトラ》との付き合いは始まったわけだ。ちなみに、何で俺がこの世界に飛ばされたかはちっともわかっていないがな」
と、捨て台詞のように結んで俺の話は終わった。
見渡してみるとある程度の話を知っていたレリィさん以外は瞬きを繰り返したり、隣と顔を見合わせたりと忙しそうだった。
見ている方としてはかなり滑稽な光景だが、決して口には出さない。
「到底信じられない話だと俺も思ってる。ましてや機竜がしゃべるなんてこともな。
(おい、黙ってないで何かしゃべったらどうだ)」
(何故、我が話さねばならん?)
(ショック療法だよ、みんなを現実に戻すにはそれが一番手っ取り早いから)
(で、あろうな。だが、断る)
(却下だ。適当に何かしゃべれよ)
つーか、なんでそのネタ知ってるんだよ。
(我に、何を話せというのだ)
(お、やっとその気になったか)
(問答、ムダ)
俺の相棒である《ヴリトラ》は基本的になかなかしゃべらない。と言うかめんどくさがり。
人と会話することはできるが、余計な混乱を招かないために外に聞こえるような声はよほどのことがない限り出さない。
ナルフ宰相の時は「蓮は我が選んだのだ」ということらしい。
小娘ども
「!?」
ほら、一斉に現実に戻ったな。
「まあ、今のが真実だ。聞こえただろ、《ヴリトラ》の声が」
「今のが…そうなのか?」
最初に口を開いたのはリーズシャルテ王女だった。
まだ、開いた口が塞がらないと言った様子だったがな。
「ああ。さて、説明はここまででいいか?
レリィさん。もうすぐ日が落ちるからあのことを言っといた方がいいんじゃないですか」
「そうね。――みんな、天宮蓮君には明日からこの学園に通ってもらうことになりました。彼はあなた達と同じ士官候補生として編入、ということになります。あと、こっちで彼はレン・フェルテって名乗ってるからそこは気を付けてね」
さらなる話にどよめく少女たちだったが、先程のような混乱は見せなかった。
入学は「当然か」みたいな空気があった。
むしろ、こちらでの本名をレリィさんが教えた際にどよめきが起きてた。
「まあ、あんなもの見せられちゃったしねー。あ、あたしはティルファーだよー」
「Yes,歓迎します。蓮さん」
「私はシャリスだ。よろしく」
まずは
「よろしくお願いしますね、蓮さん」
「こちらこそ改めてよろしく、アイリちゃん」
「まあなんだ、よろしく頼む…」
「はい。リーズシャルテ王女」
次にアイリちゃん。なんかムッとされた気がしたが気にしない。
リーズシャルテ王女はどうやら男性慣れしていないようだ。態度にあの勝ち気は無かった。
その後は解散となり、少女たちは学園長室を出ていく。俺も彼女たちに従って部屋を出ようとするとレリィさんに呼び止められる。
「蓮君、ちょっと待って。この学園は全寮制なの、でも今は空き部屋がないのよ。できるだけ早く用意させるけど、しばらくは応接室を使ってくれて構わないわ。来客なんて滅多にないから」
「まあ急な話でしたでしょうし、仕方ないですよね。わかりました、ありがたく使わせてもらいます」
最後に一礼して俺は部屋を出た。
「――というわけで今日からこのクラスに編入することになったルクス・アーカディアとレン・フェルテだ。皆、慣れないこともあるだろうが、よろしく頼む」
翌朝、俺とルクスの二人は二年生の教室にいた。
そこで担当クラスの女教官のライグリィ・バルハートの紹介を受けたのはいいが……
(ば、場違いが過ぎないか…ここは…)
女子だけの空間に男子2人だけが放り込まれたというのもそうだが、珍しいものを見るような女子たちの視線がなんともキツイ。
だから挨拶も――
「ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします……」
「レン・フェルテです。よろしくお願いします……」
かなりぎこちないものになってしまった。
そして小声で
(おいルクス、なんか言えよ)
(僕が言うの!?蓮こそ何か言ってよ!)
そんな時――
「……あ、ルーちゃんだ」
柔らかく、間延びした声が聞こえてきた。
そしてルクスが俯いていた顔を上げる。
「――え?」
「久しぶり、だね」
「えっと、もしかして、フィルフィ?」
「うん」
フィルフィ、ってことは彼女がルクスの幼馴染みか。
まさに聞いた通りと言うか、何と言うか……。
「なんだ知り合いか、ならルクス・アーカディアは彼女の隣でいいだろう。レン・フェルテはそうだな、そこで舟を漕いでるお嬢様の隣でいいだろ」
舟を漕いでる…って、リーズシャルテ王女か。
授業もすぐに始まり、席に着いた俺は教科書等がまだ届いていないので隣の女生徒に見せてもらおうと思った。
「王女様。よだれ、垂れてますよ」
「ばっ!?馬鹿者!そんなわけあるか!!」
「冗談ですよ。それより、教科書を見せていただけませんか?実はまだ届いていないもので」
「え、ええい!見せればいいのだろう見せれば!」
周囲でクスクス笑われていることに真っ赤になる王女様。これはいじれば面白いかも。
さて、ルクスの方は……
「えっと、フィルフィさん。教科書一緒に見せてくれない?」
「……」
「え、えっと…フィルフィさん?」
「フィーちゃん、でしょ?」
「え!?ここで、その呼び方で呼ぶの!?」
「うん」
「……フィーちゃん、教科書見せて…」
「いいよ」
どうやら押し切られたようだ。愛称で呼び合う仲だったのか、ふぅん。
これまた周囲はクスクス笑っていた。ライグリィ教官、あなたまで笑っちゃダメでしょ。
そして授業が終われば俺たちの周囲には女生徒が集まるという事態。最初はルクスの方に集まっていたが、ルクスの傍にすらりとした細身の少女を連れて外に出ていったおかげで女子たちの関心は俺の方へ。
「ちょ、ちょっと待て!そんないっぺんに聞かれても困るから!」
「いや~人気だね、レンっちも」
「ティ、ティルファー!そんなこと言う前に静めさせてくれないか!?」
同じクラスで学園の自警団をやっているという『
「はいはーい。みんなー、さすがに困ってるから少し落ち着いてねー」
ティルファーの号令で平静を取り戻す女子たち。
「助かったよ、ティルファー。ところでさっきルクスを連れて行ったあの子は?」
「それほどでもないって。ああ、クルルシファー嬢ね。ユミル教国からの留学生なんだー」
「クルルシファー、か」
一目見ただけだが、周囲の反応からして一目置かれている少女なのだろうということはわかった。顔と容姿だけで言えば、王女様より美少女だな。
「おい、いま何か不敬なことを考えなかったか?」
「いえいえ、滅相もありません」
ギロリと睨んでくる王女は軽くスルーすることにした。藪をつついて蛇を出すのはごめんだ。
「おおっ!レンっちはクルルシファー嬢がお好みですか~?」
「いやいや、俺にとって彼女は高嶺の花だろうし、無理だって」
「ほほう、それじゃ――」
この後、ルクスが戻ってくるまで女生徒たちからの質問攻めが続きましたとさ。
今話では入学と蓮君のこちらの世界での名前を出しました。
紛らわしくなると思いますが、今話から基本的に会話文では「レン」、それ以外の文では「蓮」を使って統一していきます。
ところで前回は《ヴリトラ》のステータスを出しましたが、オーバーな性能にならないように気を付けたつもりです。
修正点や感想を待っています!