最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第31話

「――んで、何なのこのピクニックみたいな雰囲気は?」

 

合宿4日目。

いつもの予定通り、演習場で各自の訓練メニューをこなした後、再びの遺跡調査に蓮たち『騎士団(シヴァレス)』のメンバーとレリィ、アイリは来ていた。

 

全員が六階層にたどり着き、予め待ち合わせをしていたラ・クルシェと合流したまでは良かったが、蓮は目の前の光景に思わずそんな疑問を口にしてしまう。

 

「わぁあ、ちっちゃくて可愛いー!」

「お人形さんみたい、私にも触らせて!」

「あぁ、み、耳はデリケートなので触らないでほしいのですよ!」

 

古代技術で作られた自動人形(オートマタ)とはいっても見た目は完全に幼い少女。今のラ・クルシェは女生徒達に囲まれていた。

 

「大丈夫かな、あれ……?」

「平気じゃないかしら?重要なこと口止めしておいてあるし」

「それもそうか。まあ、一番はしゃいでいるのがリーシャ様というのはどうかと思うがな」

「あ、あはは……」

 

女生徒の輪をかき分けて、ラ・クルシェにペタペタ触りながら目をぎらつかせるリーシャにさしものルクスも苦笑する。

 

その後、セリスの指示で小隊を編成。

それが終わると、レリィが前に出て軽く話をした。

 

「ここから先の七階は、生産エリアと呼ばれる場所だそうよ。《ドレイク》の索敵情報によると、幻神獣(アビス)の生体反応があるらしいわ。それも大量にね」

「…………」

「ラ・クルシェの情報によると、七階に出てすぐの場所に五本の通路が見えてくる。そのうち真ん中の扉は閉じられていて、無理に開けようとすると強力な幻神獣(アビス)が現れるそうよ。だから私たちは中央を迂回するルートを通って進軍するわ。みんな、気をつけてね」

「はい!」

 

全員の返事の後、進軍を開始。

七階に出た後、予定通りに蓮たちは四組に分かれて迂回のルートに入った。

蓮たちの担当するルートは右側中央寄りのルート。

蓮とシャリスがそれぞれ《ドレイク》と《ワイバーン》を纏いラ・クルシェを護衛、クルルシファーは温存して歩いている。

ラ・クルシェは行軍の際、クルルシファーがその身を預かることになっている。

 

「おおう、これはあまり見れた物じゃないな」

 

中央のルートに最も近くなる場所で、回廊の左側の壁がガラス張りになっている場所に出た蓮たちはガラス越しに見えた光景に小さく息を呑んだ。

広がる大広間には巨大なボトルのようなものが数百機。その中にはまるでホルマリン漬けにされたように動かない見たことのない幻神獣(アビス)がいた。

 

「ラ・クルシェ。あそこが生産エリアなの?」

「はいなのです。ですが、あそこにいる幻神獣(アビス)たちはよほどのことがない限り目覚めないのです」

「とはいっても、気味が悪いことは確かだ。早く抜けようか」

 

ラ・クルシェはクルルシファーの問いに大きく頷き、話を聞いたシャリスが後ろを進む蓮を促す。

 

「わかりました。じゃあ――なんだ、この音…?」

 

蓮が頷いて、行軍を進めようとしたとき、ふいに聞こえた音に気付いて蓮は立ち止まる。

 

直後、

 

ガシィィィィン!

 

重量感のある振動音が蓮達の下まで広がり、遺跡内の模様も警戒音と同時に変わる。

 

「これは……!」

「まずいであります!何者か知りませんが、誰かが中央の扉を壊したのであります!鍵の管理者様、オルトロスが出るのです!」

 

グォォオォオオオオン!

 

ラ・クルシェが叫んだと同時に重低音の咆哮が通路全体に響き渡る。

蓮がすぐに《ドレイク》の索敵の範囲を広げ、先頭で警戒するシャリスに向けて叫んだ。

 

「シャリス先輩!前から来ます!」

「――つうっ!?」

 

途端、高速で飛来した一撃をシャリスがブレードで受け、弾き飛ばされる。

突如現れた巨体がさらなる加速で襲いかかったところを、蓮の《ドレイク》が両手に持ったダガー二本をクロスさせて防ぎ止める。

 

「すまない!レン君!」

「お礼は後で…ラ・クルシェ!こいつは!?」

「オルトロスであります!『方舟(アーク)』が警戒態勢になると三匹放たれる幻神獣(アビス)で、一匹が警報を出した対象を襲い、二匹目は遺跡内の警戒に徘徊、そして三匹目が船外の脅威を排除するのであります!幻神獣(アビス)の中でも強大であるのです!逃げるのです!」

 

凄まじい力でダガーごと押しつぶそうとする巨大な犬型幻神獣(アビス)オルトロスの前足をルクスに教わったいなしの技術で躱す。

すると再び回廊の奥に狂犬は下がって消えた。逃げたのではない。ピリピリする強烈な殺気が蓮たちに向いたままだ。

 

「ちっ、ドバル侯爵め、面倒なことをしくさりやがって!」

「来るわよ!」

「グアアァアァァァァアアァッ!」

 

オルトロスが唸り声を上げて、再び突進してくる。

蓮は前に出て《機竜咆哮(ハウリングロア)》を放つ。本来であれば、敵をひるます程度の威力しか出ないそれを狭い一本道の通路で放てば、大抵の勢いは止められる。

だが――

 

「ダメよ!全然効いてない!」

 

クルルシファーが叫ぶ。

直後、張られた衝撃波の壁を難なく突き破り、その前足が蓮を襲う。

 

「チッ…オラァッ!」

 

パァンと、空気がはじける音が鼓膜を叩いた。

繰り出された前足の一撃を蓮は《ドレイク》の拳で迎撃した。衝撃が右の装甲腕の一部を吹き飛ばすが、その力を利用して蓮は距離を開けることに成功する。

一瞬だけ動きが止まったオルトロスに三本の光が当たり、被弾箇所が凍結する。蓮が迎撃に出た間に《ファフニール》を纏ったクルルシファーの《凍息投射(フリージング・カノン)》による射撃である。

 

「――降誕せよ。幾数多の憎悪を身に宿し蛇竜。怨恨放ち雷霆を弑せ、《ヴリトラ》」

 

その隙に《ドレイク》を解除した蓮はすばやく機竜を切り替える。

 

「シャリス先輩、ラ・クルシェを頼みます!後、他のみんなにこのことを!」

「わかった!」

 

《ヴリトラ》を纏った蓮は大地を蹴り砕かん力で床を蹴って飛び出す。

すでにクルルシファーとの戦闘を始めていた幻神獣は蓮の存在を察すると、背中の無数の蛇頭で襲い掛かる。

 

「遅い!」

 

蛇頭の一斉攻撃を急加速で掻い潜り、そのまま右の前足先端部を斬り飛ばす。

 

「グルアァァアァアアァッ!」

 

事実を認識したオルトロスが怒りに満ちた瞳を蓮に向けた瞬間、

 

「私を忘れてもらっては困るわよ?」

 

凍息投射(フリージング・カノン)》の氷結弾がその二つの頭部にある計4つの目に直撃する。

苦悶の雄叫びを上げ、背中の無数の蛇頭に上空のクルルシファーを襲わせ、四肢は蓮を襲う。

しかし、ただ乱雑に放つ攻撃で『騎士団』屈指の実力を持つ二人に攻撃を当てることはできない。

 

「チッ…!図体がでかいと避けるのも面倒だな!」

「文句言ったって仕方がないでしょ?」

「だあな!――っ!?」

 

いくら攻撃が当たらないとは言っても、オルトロスの持つ力に変わりはない。

回避に徹する中で蓮は先程斬り飛ばした右前足の先端が完全に再生しているのを見て息を呑んだ。

そして、それまでの攻防でつけていた傷もすべてが消えるか、消え始めていた。

 

「クルルシファーさん!門を開くから援護を頼む!――開け、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》!」

 

再生できるのなら長期戦は不利と判断し、蓮は手札を一枚切ることにした。

瞬間、紫の光が球状に広がる。

セリスの持つ《リンドヴルム》の神装《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》。

戦闘において重要な「間合い」を制することのできる暴力的な能力を行使するための結界がオルトロスとその周囲の空間を包み込む。

 

「グルアァァアアァッ!」

 

二つの頭がそれぞれ蓮とクルルシファーを視界に捉え、雄叫びを上げる。

襲いかかるオルトロスの牙が、《ヴリトラ》の装甲に触れかけたその時、その姿が光となって消える。それとほぼ同時、背中に刃が突き刺さった。

 

「グ、ガアッ……アアァアァアッ!」

 

背中を刺した元凶――蓮に向けて背中の蛇頭が殺到するが、それらは《ヴリトラ》の装甲に届くことはない。届く前に氷結するか、撃ち抜かれているからだ。

 

「バーストォッ!」

 

蓮が叫び、握った双剣が輝く。

次の瞬間、オルトロスは内側から破裂、その肉体はバラバラになった。

最後に核を両断された狂犬は、そのまま黒い灰となって崩れ去った。

 

「ふう……」

「お疲れ様」

「おう、援護助かった」

「どういたしまして。ところで、《ドレイク》の時に使ったあれはなんなの?」

 

隣に降りてきたクルルシファーの言う「あれ」は機竜を切り替える直前、カウンターで使ったもののことだ。

 

「あれは汎用機竜で幻神獣(アビス)を倒すために作った俺のオリジナルで、『衝哮(インパクトロア)』って名前を付けてる。《機竜咆哮(ハウリングロア)》の衝撃波を生むエネルギーを拳やつま先の一点に集約させるこいつのメリットは、面攻撃の《機竜咆哮(ハウリングロア)》を点攻撃にすることで衝撃波の威力を散らすことなく敵に叩き込めること。下級の幻神獣(アビス)ならこれで片付くが、まあ、直接攻撃だからリーチがないし、多数には向かないのがデメリットだな」

 

相手の攻撃にカウンターした時に装甲が砕けたのはこの技の反動ではなく、接触の衝撃だ。つまるところ、それだけオルトロスの攻撃には威力があったと言うことになる。

 

「面白いわね、それ。でも、詳しいことはまたあとにしましょうか」

「だな。まあ、近接技だからクルルシファーさんが使う意味は薄いかな」

「覚えておいて損はないはずよ。さ、シャリス先輩と合流して進みましょ」

 

クルルシファーの言葉に頷いて、二人は合流するために通路を戻る。

そして、シャリスとラ・クルシェと合流した後、今度はクルルシファーが先頭になって通路を進んだ。

 

八階層への階段前にたどり着いた蓮達は他の部隊と合流。少したって、混乱ではぐれてしまったアイリと彼女の救出に向かっていたリーシャの部隊も合流した。

この場にいないルクスとフィルフィは外に出てしまったオルトロスを討伐した後、フィルフィが体調を崩したので先に合宿所に戻ったらしい。

 

八階層に到達し、甲板との専用通路を開いた後、蓮たちは調査を切り上げて地上に帰還した。

 

 

 

 

「僕は……どちらを選べばいい……?」

 

夜の風景を窓から見ながらルクスは一人、呟く。

遺跡から戻ったみんなを合宿所で出迎えたルクスはその後、レリィとある話をしていた。

 

 

(フィルフィ)幻神獣(アビス)のようになっていると気づいたのは最近。私がここの学園長になって、フィルフィが生徒になってからよ。だから遺跡には関わらせないようにしていたし、討伐任務からも外していた。もしこの事実が知られてしまえば――殺されてしまう可能性が高いから』

 

『私にとって、あの遺跡は最後の希望なの。ほんのわずかでも、妹を救える可能性があるならどんなことでもする。だからもう、自分のしていることについては覚悟しているわ。後悔はしていないしするつもりもない。止めても無駄よ、もう私は止まれないの』

 

 

レリィからそんな話を聞いたとき、ルクスは何も言えなかった。

 

地上に出てしまったオルトロスをフィルフィと協力して倒して、体調を崩したフィルフィを近くで休ませたルクスはヘイズと出会った。

ヘイズの口からもたらされた情報は絶望的なもので、持ちかけられた取引はルクスを迷わせていた。

 

「自分が今、選びたいことを選べばいい」

「え?」

 

ふいに聞こえた応えにルクスは振り返る。

その先にいたのは蓮だった。

 

「俺たちが遺跡に居る間に何を知って、それをどうして隠しているのかは知らないし、レリィ学園長と何を話していたかなんて知らない。俺にわかるのは、お前が一人で何かをしようとしているってことだけだ」

「僕って、そんなに顔に出てるかな?」

「まあ、今回ばかりは大分わかりやすかったな」

 

蓮はそう言い、肩をすくめる。

ルクスは苦笑しながら蓮に向けていた視線を再び、窓の外に向けた。

 

「僕は弱いよ。レン」

「知ってる。でも、弱いから強くなろうとするし、力の怖さも知ることができる。弱さは強さだ」

「弱さは強さ…か。僕は、何も守れなかった。国も、民も、何もかも。もう誰も失いたくなんてないって言うのは欲張りなのかな?」

「それが本当に守りたいものなら、いいんじゃねぇの」

 

蓮は手近な壁に背を預けてそう言った。

 

「でも、もうちょっと仲間ってやつを信頼してくれよな。無理に聞き出すつもりはないけど、俺達と合流するまでに何があったんだ」

「聞き出す気はないって言ったばかりじゃん」

「無理に聞き出すつもりはない、とは言ったが、聞かないって言ったつもりはないな」

「それ、屁理屈って言うんだよ」

「事実だろ?」

「違いないね」

 

二人は小さく笑った。





どうもお久しぶりです。
最近、シャドバの戦績が悲惨な作者です。いらない情報ですね、はい。

今後の予定ですが、次話でフィルフィ戦に入るか入らないか、その次で終焉神獣千になる予定です。

次話はできるだけ今月中にあげられるように頑張ります。

修正点や感想等を待っています!



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