最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

31 / 33
第30話

 

「――とまあ、俺達の方はこんな感じっすね」

「すぐには信じられないけど、あなた達が言うなら事実でしょうね。それで――その子は今どこにいるの?」

「彼女は『方舟(アーク)』の統括者(ギア・リーダー)だから、むやみに外に出ることはできないと言っていたわ。ドバル公爵の一行と出会うといろいろ面倒だと思ったから、今は六階の居住区エリアの一角に隠れてもらっているわ」

 

あの後、待ち合わせの約束をして、蓮とクルルシファーはラ・クルシェと別れた

戻ってティルファーと合流し、遺跡の六階に全員がたどり着いて、日が暮れる前に地上へ帰還した。

どういうわけか、幻神獣(アビス)と遭遇して戦闘になったのは二回だけだったので、早めの夕食となった。今は、報告会の最中だ。

 

「そう……。明日会えればいいけど、できれば今日のうちに見たかったわね」

遺跡(ルイン)自動人形(オートマタ)か、人形の機械まで存在していたとは、かなり興味深いな」

 

レリィに便乗する形でリーシャが呟く。

蓮はそんなリーシャの様子にわざとらしく頭を抱える。

 

「残念だ。この姫様、絶対に婚期を逃すわ」

「な!?どういう意味だ、レン!」

「自分で考えろ」

 

少女漫画でも読んどけ、とか思いながらスルー。

みんな揃って苦笑を浮かべる中、次に口を開いたのはシャリスだった。

 

「とりあえず、話を戻そうか。レン君たちの報告からすれば、彼女の知っていることは少ないのだろう?」

「そうですね」

「なら、あの場に全員が集まって質問攻め。なんてことにならないだけよかったさ」

 

今回の目的は、あくまで最深層への到達。

記憶を失ったラ・クルシェからとれる情報も少ないのでは、時間の無駄でしかない。

 

「それにしても今日は疲れたよー。訓練も大変だし、変な人たちはやってくるし、遺跡の調査は神経使うしさー」

「じゃあ、話をしているうちに暗くなってしまったし。楽しいお話でも始めましょうか」

「なんだよ、学園長。私はこれからやることがあってだな―――」

「あら?もったいないわね。せっかく温泉に入れるようになったのに――」

 

ガタッ!

 

疲れてテーブルに突っ伏していたティルファー、やることがあると言って早く話を切上げようとしていたリーシャを含む、疲れていた一同が一斉に立ち上がった。

 

「ええええっ!?本当ですかっ!?」

「確か、私たちの貸し切りで入れるんですよねっ!?」

「今から入れるんですか!?準備とかは――」

 

目を輝かせる生徒たち。セリスやクルルシファー達までもがそうだった。

リエス島では真水の確保が難しく、合宿所の風呂と言っても本当に簡素なものでしかなかった。

しかし、そこは年頃の少女たち。そんな入浴で満足できるはずがなかった。

 

「はいはい。みんな落ち着いて。興奮する気持ちもわかるけど、ここでもあなた達は王立士官学園の生徒なのよ?貴族のお嬢様らしく、お淑やかに」

 

はしゃぐ女生徒達をそう言って落ち着かせようとするレリィだが、この言葉に男2人は冷静に(心の中で)まったく同じツッコミを入れる。

 

(レリィさんが一番学園長っぽくないと思う……)

 

とはいえ貸し切りの温泉である。気分が高揚するのもわかるので、水を差すようなマネは避けた。女生徒たちが次々と入浴の準備のために自室の相部屋へ戻っていくのを傍目に、蓮とルクスの二人だけはレリィに呼び止められていた。

 

「二人ともちょっといいかしら?」

「あれ?レリィさんは今から入らないんですか?」

「私は後で。それとも何かしら――ルクス君は私と一緒に入りたいのかしら?」

「あのですね……」

「ルクスが狼狽えない…だと!?」

「驚かないでよ!?レリィさんって、昔からこうだから……」

「ああ、慣れたのね」

 

その割にはリーシャ様とかフィルフィとかに対する反応は…と思う蓮だったが、口にはしなかった。

 

「で、レリィさん。用事ってもしかして前に言っていた、コレですか?」

 

手で双眼鏡を作った蓮にレリィは頷く。

 

「そう言う事よ。あなた達にはみんなを守るためにちょっとお願いしたいことがあるの」

 

 

 

ちゃぷん。

 

白い湯気が立ち上る乳白色の湯につかる十二人の少女たち。

微かに聞こえるさざ波の音がささやかな風情を加え、檜風呂独特の落ち着気がなんとも心地よい。周囲は立板の柵で囲われている。

 

「はー。女子寮のお風呂と違って、空が見えるのは開放的だねー」

「Yes. 私は、こういう入浴は初めてですが、なかなか興味深いです」

「そうですね。ちょっと皆さん、スタイルがいいので恥ずかしいけど……」

「ふっ、後輩たちの若さが羨ましいね。セリス」

「シャリス。あなたは普段から、割と子供っぽいと思いますが」

「よし。なら子供らしく悪戯してやろう!」

「やめてください!後輩のみんなが見ています!」

 

などと落ち着いて浸かっている少女もいれば、キャッキャッしている一角もあるといった具合にそれぞれ温泉のひと時を楽しんでいる。

それを見ながら、「賑やかね」と、クルルシファーが小さく笑いながら呟く。

 

「――ただ、彼らは少し可哀想ね。仕方のないこととはいえ、男2人だけで入ることになるなんて」

 

微かな同情を含めながらクルルシファーが呟くと、その後ろでティルファーが頷く。

 

「そうだね~。でも、男の子がいないからこそ話せるものもあるんじゃないかな~?」

「えっ……?」

 

何とも意味深な発言をしたティルファーに視線が集まる。

ティルファーは悪戯っぽい笑みを微かに浮かべながら、提案した。

 

「よし!こんな機会めったにないし、みんながルクッチとレンっちをどう思っているか、告白大会でもしてみよっか!」

「えええ……ッ!?」

 

ティルファーのなんとも突飛な宣言に驚きを隠せず、全員が固まった。

そんなことはお構いなしに、ムードメーカーは文字通りの仕事をこなす。

 

「んじゃー、言い出しっぺの私から。んー、ルクっちは、良い王子様って感じ。人当たり良いし、皇族だからって気取ったとこもないしね。レンっちは…うーん…なんていうか、怒らせるとすっごい怖い。普段が普段なだけにねー。でも――ま、いっか!はい、次の人!」

 

最後の方でなぜかはぐらかしたティルファーを次の人――ノクトが微妙なジト目で見つめていたのだが、諦めたように一息つく。

 

「Yes. ルクスさんはとても面白い人だと思います。普通であれば声を掛けるのもためらわれる人ですが、なぜか声を掛けたくなってしまします」

「ほう、男にまったく興味を示さなかったノクトでも、彼を意識しているのかい?」

 

からかうように割り込んだシャリスが言った。

 

「人として多少の興味がないといえば嘘になりますが、私はそもそも恋愛感情と言うものを理解していませんから」

「ほほう。ところでレン君についてはどうなんだい?」

「レンさんはルクスさんとは別の意味で面白い人だと思っています。困ったときはつい頼ってしまいたくなります」

「なるほど、お兄さん的なポジションか」

「ところで、シャリスはどうなのですか?」

 

切り返しを受けたシャリスはふっと頬を少しだけ緩める。

 

「そうだね。2人とも信頼できる後輩だよ。ルクス君みたいな子が弟だったら、楽しそうだ。でもレン君は、ノクトではないけれど、ことあるごとに頼ってしまいそうだ」

 

前半こそしみじみとした口調だったが、後半は苦笑しながらだった。私の方がお姉さんなのにね、とでも思ったからだろう。

そして「そろそろ、メインのみんなに聞こうか」と言って、最初にクルルシファーに視線を向けた。少しばかり離れた位置でお湯に浸かっていたクルルシファーは顔を少しだけ上げた。

 

「……まあいいわ。私は彼のことだけでいいわね?私が彼をどう思っているかだけど、それほど多くの言葉は必要ないわね」

「ほほう?」

 

口に出したのはシャリスだけだったが、女子ズの視線が一点に集まる。

 

「私にとって一番大切な人よ。きっと、彼の代わりになれる人なんていないわ」

 

視線の先の彼女は涼しげな表情で言い切った。

それを聞いて一斉にぼうっとした表情になってしまう少女たち。ただ一人、「うわー、大人だなー……」とぼやいたティルファーはこの場にいる全員の声を代弁していると言えた。

 

「それで、お姫様は二人のことをどう思っているのかしら?」

 

みんなが現実に戻れるように少しだけ時間を開けて、リーシャに話を振るクルルシファー。

当然、このお姫様は期待を裏切らない。

 

「わ、私に振るのか!?

ど、どう思っていると言われてもだな……。ルクスは、その、側に居てくれると気持ちが高まるし、褒めてくれると、とても嬉しいというか……。もっとその気分を味わいたくて、もっと頑張りたくなるというか―――」

「なんか、聞いてる私たちの方が、恥ずかしくなるセリフですね……」

「一番身近なアイリはどうなんですか?」

 

リーシャの反応に複雑そうに呟いたアイリにノクトが振る。

 

「兄さんは兄さんです。唯一の肉親ですから、そこに特別な感情なんてありません。ですが、最近の兄さんは過大評価され過ぎです。強さはともかく、本当はもっと不器用で、引っ込み思案の人なのに……。その辺り、妹としては少し複雑です」

「素直に取られたくない、って言えばいいのにー。レンっちが言ってたけど、妹が兄を好きになってドロドロ――」

「ありえませんから!――そ、それで、次はセリス先輩ですか?」

 

ティルファーが悪戯っぽく言うと、若干ムキになって言葉を切るアイリ。

そして、セリスに話を振った。

 

「わ、私も言うのですか!?……と言いますか。今回は――」

「固いのは無しだぞ、セリス。今はそう言う話をしているんだ。それに、ここまで後輩たちの話を聞いといて、自分は言わないというのは示しがつかないんじゃないか?」

 

「堂々と受けたまえ」とシャリスが付け足すと、他の女子たちが便乗する。

完全に詰みである。

 

「で、では、少しだけ……。彼らはとても頼りになる男の子ですから、もっと知りたいと思いますし、男の子についてももっと教えて欲しいと思います。私の成長の為にも……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

おずおずと絞り出されたその一言に、花の女子たちが沈黙した。

そしてセリスがみんなからの反応がないことに慌て始めると、シャリスが呟く。

 

「見損なったぞ、セリス。まさか君からそんなエロチックな――」

「な、なぜそう言う話になるのですか!?私はみんなのためにですね――」

「Yes, セリス団長は、少し無自覚が過ぎますね。ルクスさんとレンさん以外に聞かれていたら、もっと昔に大変いやらしいことをされていましたね」

 

ノクトが追い打ちをかけ、セリスの顔が真っ赤に染まる。

その脇で「何をやってるんだ」と人の事は言えないはずのリーシャが思いながら、いまだに何の反応も返さずにぼーっと使っているフィルフィに話を振る。

 

「お前はどう思っているんだ?昔のルクスを知っているのは、妹意外にお前だけだろ?」

「………。ルーちゃんは、ルーちゃんだよ?」

 

しかし、真顔でそう言い切られてしまった。

 

「いや、だからな…。そう言う事じゃなくて、お前がどう思っているかをだな――

 

てめぇらに――資格はねぇ!!!! 

うわぁぁぁっ!!

 

「な、なんだ!?」

 

いきなり響いた大声と悲鳴にリーシャが驚きながら周囲を見渡す。

セリスも警戒の色を出すが、クルルシファーは少しだけ頭を押さえる仕草をした。

 

「一応、警戒はしておいた方がいいでしょうか?」

「平気よ。単なる覗きなら彼らが守ってくれるから」

「彼ら?」

 

聞こえてきた自身の大切な人が今、何をやっているのかがありありと脳裏に浮かぶクルルシファーは小さく、他の女子からも見えないようにため息を零した。

 

 

 

時間は遡って数分。

浴場の策へと続く一本道で男と男の戦いが起きていた。

 

「てめぇらに、女を覗く資格はねぇぇェッ!」

 

蓮が(傍から聞けばわけのわからないことを)叫びながら、NO☆ZO☆KIのために突撃してきた若い男を背負い投げで地面にたたきつける。そして若い男が動きを止めた間に、すばやくルクスが縄で縛って、木に吊るす。

近くにある数本の木には縄でぐるぐる巻きに縛られた若者から老人まで合計十数名の男がぶら下がっていた。

 

「オラァ!さっきまでに威勢はどうしたァ!

もう一度だけ言うぞ!貴様らがこの場で取れる選択肢は三つだ!

俺達を抜いて楽園に至るか!

ネズミのように逃げ遂せるか!

この場で捕まってミノムシになるかァ!――さあ、どれだ!」

 

ものすごくハイテンションな蓮を「なんでこうなったんだっけ?」と苦笑しか浮かべられずに見ているルクス。

レリィに頼まれて、美少女ばかり集まる学園の貴族令嬢の柔肌を狙うノゾキを捕まえる任について、こうして捕まえ始めることになった。それで、三人ぐらい捕まえた後に現れた男共に蓮が

 

「お前らは何を望む!?」

 

と叫べば、

 

「「「ノゾキこそ!男のロマン!!!」」」

 

と、男共は返す。

 

「その意気やよし!ならば、戦争だ!ロマンを求めし(オトコ)どもよ、浴場へ行きたければ、俺達を超えてゆけ!」

 

帰ってきた答えに蓮が声高に宣言して、戦いが始まった。

そして、今に至る。

蓮の鬼神の如き働きによって、現状、突破は誰一人として許していない。場の空気がおかしなことになっているのには違いないが。

 

「ラストォ!」

「ぐああっ…!」

 

蓮の右アッパーがきれいに中年男の顎にはいる。

軽く脳震盪を起こした中年男をルクスが縛り、木に吊るしたのを見て、手をパンパンと叩く蓮。

 

「後続はなし。制圧完了と判断する」

「はは…お疲れ様、レン」

「なに、頼まれたからな。それに、覗きはさすがに犯罪だし」

 

縄でぐるぐる巻きにされた状態で木に吊るされたミノムシ状態の男共がわめいているが、蓮とルクスは反応してあげない。

反応しても面倒なのは分かり切っているから。

少女達の入浴時間ももうすぐ終わるころか、と思った蓮は軽く《ヴリトラ》の剣帯に触れる。入浴が終わったら竜声で連絡するようにクルルシファーに頼んでおいたので、その連絡待ちである。

 

全員が風呂から出る前に連絡をよこすかもしれないという予感はあったが、そこは自分の恋人を信じることにした。というのは裏話。

 

「連絡はまだ…か。さて――ところで、ルクス。お前はみんなの中で一諸に入るとしたら誰がいい?」

「ええっ!?」

「なに、ちょっとした余興さ。どうやら向こうは向こうで盛り上がっているようだからな、どうしても気になっちゃってさ」

「た、確かにそうだけど……って、なんでそんなこと聞くのさ!?」

「なんとなく?」

「何で疑問形!?」

「だって、気になるじゃん」

「急に素に戻った!?」

「安心しろよ、ルクスのスキルなら気付かれないって」

「覗かないよ!」

「安心しろよ、ルクスって意外と体、頑丈だから」

「社会的にまずいって!」

「安心しろよ、天国はすぐそこにある」

「召されるの!?」

「安心しろよ、安心しろよ」

「不安しかないよ!?」

「ふぅ、すっごい楽しかった」

「僕は全然楽しくないよ!」

「ところで、誰と入りたい?」

「最初に戻った!?」

「訂正。彼女達の中の誰と入りたいかね?ルクス君」

「だから、入らないってば!」

 

何と見事な弾丸トーク。ちなみにここまで一分かかってない。

吊るされた男共もあっけにとられたのか、すっかり閉口してしまっている。本当にミノムシみたいにただぶら下がっているようにしか見えないという、なんともシュールな光景の完成だ。

一方、当の本人たちはというと、蓮は「やりきった」と言わんばかりの清々しさと笑顔を浮かべている。それとは対照的にルクスは「どよ~ん」という言葉が最も似合うぐらいに疲れ切っていた。グロッキー状態である。

 

「やっぱり楽しいな、ルクス」

「僕は疲れしか残らないよ………」

「はっはっは」

 

蓮の高笑いだけが響く。ルクスはもう諫める気力さえないのか、ただうなだれて、女子からの連絡を待つのみだった。

そしてその待望の連絡が蓮たちの下に届いたのはそれから5分後のことであった。

 

 

 

 

 

 

「「はぁ~…」」

 

間延びした声が浴場に響く。

今は少女たちの影はない。あるのは二人の影のみ。

 

「なあ、ルクス」

「なに、レン?」

「溶けそう」

「疲れがとれるよね」

 

「「はぁ~……」」

 

遺跡調査の疲労もそのままに覗き共の処理をした二人の体はすっかり疲れ切っていたが、温泉の心地よさと言うものは不思議なもので、それらをあっという間に吹き飛ばしてしまった。

ほんの少し前まで大立ち回りしていた蓮。

縛って吊るす地味な作業でも結構な肉体労働をこなしたルクス。

 

その二人が今は完全に脱力しきっているのである。

 

「にしても、不思議なもんだな」

 

唐突に、しみじみと呟いた蓮。

 

「え?」

「俺達のことさ。片や異界人、片や咎人。そんな二人がこうして貴族の子女たちと一緒に学園に在籍しているってことが不思議なんだよ。俺の身の上話はさすがに皆には言えないけど、クルルシファーさんをはじめとして、知っている人たちが掛け値なしに信頼してくれている」

「うん」

 

白い湯気が立ち込めていてもなお、輝き失せない星空を見上げながら滔々と紡ぐ。

一見、らしくない友人の言葉に、ルクスは小さく頷いた。

 

「ルクスは旧帝国の王子――咎人なのにな。

傍から見れば、俺らほどあやしい人物っていなくね?」

「確かに、そうかもしれないね。彼女たちからしたら本来、僕たちは異分子のはずなのに。レリィさんやフィルフィはともかく、リーシャ様やみんなにとって、僕は悪名高いアーカディア帝国の王子なのにね」

「まったくだ。そんな咎人さまが王女付きの騎士になるかもしれないとは、これ如何に」

「聞いてたんだ」

「まあ、全くの偶然だ。言っとくが、ストーカーじゃないからな」

「わかってるよ」

 

二人揃って大声を出して笑いだす。

風呂場でこんなことをするのはマナー違反だが、こういう光景もレアなので、指摘するのは野暮と言うものだろう。

 

二人はひとしきり笑い終えると、腰を浮かせて脱衣所に戻っていく。

女子達に比べたら短い入浴だったが、男子の風呂なんてそんなもの。そもそも明日は再び遺跡の探索だ。できるだけ長い睡眠をとった方がいい。

着替えをパパッと済ませて分かれ、あてがわれた部屋に戻っていった。

 

 

 

「ふい~、戻ったz――っと、珍しいな」

 

ルクスと別れ、どこに寄ることもなく一直線に部屋に戻った蓮。

ノックをしても反応が帰って来ないので、わざとらしく入ってみると、この宿舎備え付けの二段ベッドの下のベッドで本を片手に座ったまま寝ているクルルシファーの姿があった。

 

「…………」

 

普段の大人びたクールな印象が強いように、今見せているようなことはまずない。

だから、その姿に思わず見入ってしまったのも当然のことだと思う。

 

「同じベッドで眠るわけじゃないんだからさぁ。わざわざ待たないで先に寝てくれて構わないって言ったのになぁ……」

 

とりあえず、起こさないように本を枕の隣に置かせる。次にゆっくりと彼女の体を持ち上げてベッドに寝かせる。

 

(軽いな……)

 

箱庭(ガーデン)』の探索の時にも思ったことだが、彼女のこの細身には一体どれほどの重圧があったのだろうか。いや、「重圧ではないな」と蓮は思い直す。

端的に言えば、彼女は孤独だった。あと少し遅ければ、完全に自分という「殻」に籠ってしまうところだった。さすがに言い過ぎだとは思うが、人付き合いは上辺だけのものになり、人と深に交わることは二度とないものになってしまっていたかもしれない。

 

今は学園のみんながいるし、俺が止まり木になっているから大丈夫だが、そんな「今」は容易に崩れるかもしれない。

それに、この状態が長く続き過ぎたために発生してしまうかもしれない「依存」は絶対に避けなければならない。

彼女にとっての一番の薬はあるにはあるが、用意には時間が掛かりそうだ。

 

(なんにせよ、皆の力を頼りながら頑張るしかないか)

 

布団を被せ、部屋の明かりを消す。

いつも通り壁に《ヴリトラ》の機攻殻剣(ソードデバイス)を立てかけようとしたとき、ふと視界の端に光るものが映った。

それは月明かりに照らされ反射する淡い蒼の光――彼女の持つ機攻殻剣(ソードデバイス)だ。

そっとその柄に触れてみる。

 

「出会った頃の彼女はどうだった?」

「俺をどう思っている?」

「俺はこれからどうしてやればいい?」

 

立て続けに問いかける蓮。

しかし、答えは帰って来ない。

あるのは静寂と彼女の規則正しい寝息のみだった。

 

「…………。《ファフニール》の声も俺に聞こえればいいのにと思うのは、贅沢か」

 

そして、普段は壁に立てかけるだけの《ヴリトラ》の機攻殻剣をクルルシファーの《ファフニール》の機攻殻剣と交差するように立てかける。

 

合宿三日目の夜は明けてゆく。そして、四日目が始まり、彼らは大きなうねりに巻き込まれてゆくことになる。

 

 

 

 

 






2か月近くも更新せずにすみませんでしたぁ!!

書き溜めがなくなったところにPCの故障が重なり、学生生活(リアル)が忙しくて全然できませんでした。


これから更新の期間が少し長くなりそうですが、作品は続けます。

感想や修正点等を待っています!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。