最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第29話

 

リエス島での合宿も三日目。

今日の午後、蓮たち合宿参加メンバーと共に昨夜現れた『方舟(アーク)』の遺跡調査に入る。

しかし午後に入ってすぐ、思いがけない来客があった。

 

「突然の訪問になってしまった無礼をお許しいただきたい。私の名は、新王国ドバル・フェストと申します。以後、お見知りおきを」

 

ドバル侯爵。アイリの話だと、ラフィ女王陛下の遠因に当たる親族で、元軍人。今は軍の顧問を務めているとのことらしい。彼が乗ってきたであろう後ろの船上には軍服を着た男性がちらほら見受けられた。

全員、最初は演習かと思っていたが、彼らがこの島に来た目的を「『方舟(アーク)』に入る『騎士団(みなさん)』の援護。そしてその後詰や露払い」と告げた時、緊張が走った。蓮たちは今回の任務が極秘任務だと昨日になって聞かされたからだ。

レリィは柔和な笑顔を浮かべたままドバル公爵との話を続け、十分もしないうちにドバルは自分の連れてきた軍人を引き連れて港を去っていった。

 

「みんな、よく聞いて。私たち『騎士団(シヴァレス)』は当初の予定に従って、これから極秘任務を開始するわ。誰よりも先にね。調査協力と言っても、彼らとは互いに干渉しない。あくまで自分たちの責任と判断を以て、調査をする」

「要は、早い者勝ちの競争というわけだな」

 

レリィの話をリーシャが要約し、それにセリスも頷き、指示を出す。

 

「皆、十五分で遺跡調査の準備ができますか?

本日の調査は一時間半を予定していましたが、二時間に延長。不測の事態を考え、啓太宇食料を多めに、逆に採掘道具は減らして持っていきます。宝物の回収よりも行軍速度を優先し、経路を割り出します。それでいいですか、学園長?」

「完璧よ、セリスさん」

 

確認の視線を向けるセリスにレリィは微笑む。今ここに方針は決まり、セリスがメンバーの顔を見回す。

 

「皆、彼らの舞台と競って、慌てることは不許可ですよ。確実にやるべきことを、正しく行ってください」

「はい!」

 

そして――十五分後。

装衣に着替え、準備を終えた『騎士団(シヴァレス)』のメンバーが灯台に集合した。

 

 

 

 

「――よし、とりあえず目視範囲に敵はいないな。そっちはどうだ、ノクト」

 

先頭で《ヴリトラ》を纏った蓮が周囲を見渡して告げる。

方舟(アーク)』の侵入方法は甲板上に描かれた古代文字のサークルに一定時間乗ることのみで、その場所は一か所しか判明していない。

無事に『方舟(アーク)』に侵入したメンバーは蓮と《ドレイク》を纏ったノクトを先行させた。

特装型の《ドレイク》は迷彩や索敵といった機能が積まれているため、調査等には非常に適している。蓮がいるのは万が一、幻神獣(アビス)が現れても対応できるようにとノクトにつけられた護衛のような役割だ。

 

「Yes, 周囲に幻神獣(アビス)の生命反応はありません」

「わかった。合図を出す」

 

蓮は機竜に取り付けられたライトを後方に向けて二回点灯させる。蓮の合図で『騎士団(シヴァレス)』のメンバーが先行した蓮たちのいる地点まで移動を始める。

 

「それにしても、ひどいなこりゃ」

 

合図に使ったライトを自分たちの行き先に向け、蓮が呟く。

その先にあったのは、破壊の痕。地面はあちこち陥没していて、原形をとどめていない瓦礫も散在していた。

やがて『騎士団(シヴァレス)』のメンバーたちとなぜか先に『方舟(アーク)』の甲板にいたドバル侯爵とその私兵部隊が追い付く。

 

「どうやら、旧時代の争いの跡が残っているようです。お互い気をつけましょう」

「ええ、ご武運を」

 

破壊の跡を見たドバル公爵たちは一礼してその場を去っていった。

全員の存在と安全を確認した蓮たちも行軍を開始する。

《ドレイク》を纏った機竜使い(ドラグナイト)二名と他の装甲機竜(ドラグライド)三機残し、残りは装甲を解除する。体力の温存のためにだ。

 

「やれ、旧時代の跡ねぇ。どう見ても古い感じがしないじゃないか」

「そうね。この跡ができたのは比較的最近の気がするわ」

 

周囲を見渡しながら歩く蓮の呟きに隣を歩くクルルシファーが反応する。

それを聞きつけたのか、先頭を歩いていたリーシャが振り返って聞いてきた。

 

「どうかしたのか?」

「「気にしなくていい(わ)、今はまだ推測の域を出ないし」」

「途中で止めるなよ!?余計気になるだろ!?」

 

と、リーシャが思わず食いかかった。まさかのハモり無視である。彼女にはツッコミの才能がないのかもしれない(関係ない)。

行軍自体には問題ないが、真新しい破壊の跡を歩いて行くのは良い心地がしない。それは次の階層に降りたときも変わらなかった。そして、目の前に巨大な空間が広がる。

 

「なんだここは?部屋か何かなのか?」

植物群系(バイオーム)球体(スフィア)と呼ばれる区画ですね。まるで自然の森のような、独立した生態系が営まれているようです。もっとも………」

「随分と激しい戦闘があったみてぇだな」

「それに、この生態系を維持する遺跡の機能も、すべて停止しているようね」

 

アイリの濁した部分。その答えは一目瞭然だった。

クルルシファーの呟きにシャリスも頷き、ノクトに声を掛ける。

 

「ノクト。この付近に敵影は見えるか?」

「No, 先程から索敵範囲を最大にしていますが、幻神獣(アビス)の反応はありせん。ドバル公爵の部隊は別ルートで300mlほど先にいるようです」

「向こうは随分飛ばしているみたいだけど、もうすぐ追い越せそうね」

「でも、ここから先は正解のルートを探すのに骨が折れそうね。幻神獣(アビス)の気配もなさそうだし、別れて捜索した方がよさそうだわ」

 

うっそうと茂った草木たちが遮光幕のような役割を果たし、数10ml先も怪しい。加えて地面も凹凸が激しい。

クルルシファーの提案にレリィが頷き、かねて決めていた通りに『騎士団』のメンバーたちは3人か4人の班に分かれた。

 

蓮はクルルシファーとティルファーの3人組で進んでいく。

おい、《ドレイク》はどうした?というツッコミはいらない。だって――

 

「にしても珍しいよね。違う型の機竜を使うってさ」

「ん?まあ確かに俺の《ヴリトラ》は飛翔型だけどな。実は実家で訓練しているときに陸戦も特装も試していたから汎用機竜全種でそれなりには戦える。具体的にはうちの騎士団の新米を相手にできるぐらい」

「………レンっちってさ、時々、外の人とは思えないときあるよね」

「同感だわ」

 

会話から予想できる通り、今の蓮は相棒ではなく《ドレイク》を纏っている。実は普段、蓮は《ヴリトラ》の他に《ドレイク》の機攻殻剣も持ち歩いている。理由は索敵とか迷彩があって便利だから。戦闘は《ヴリトラ》を使えばいい。

余談だが、汎用3種の中で蓮が一番苦手なのは《ワイアーム》である。

 

「ん?これは……」

「どうかしたの?」

「どしたの?レンっち」

「ここから約百数ml先の瓦礫の下に人の形をした何かがある。動いていないし、何より熱量が見えない。罠…の可能性は低いとは思いたいがな。でも、確認しないわけにはいかないし」

 

そう言って蓮は少し考えるそぶりを見せ、すぐに顔を上げた。

 

「ここから50ml先に進んだ地点でルートの記録を一旦停止。当地点でティルファーは機竜を装着して待機。後方の注意を頼む。俺とクルルシファーさんで確認に向かうとするか」

 

3人は行動を開始した。

 

 

「この瓦礫の下だな。ちょいと持ち上げるから離れといてくれ」

「わかったわ」

 

そう言って《ファフニール》を纏ったクルルシファーが《凍息投射(フリージング・カノン)》を構えたまま少し下がる。蓮も《ドレイク》のレーダーを広げて周囲の最終確認をする。

 

「よっこらせっと――む?」

「これは……。いえ、この子は?」

 

持ちあげた瓦礫の下から出てきたのは十一か二ぐらいの体躯をした緑髪の少女。その頭部には兎の耳っぽい機械の飾りが生えていた。

その異様な姿にクルルシファーが固まる。

 

(無理もないか、望んだものかもしれないんだからな)

 

蓮が少女の隣でそう思っていると――

 

『どうだった?レンっち』

「っと、ティルファーか。なんか人型のものが見つかったが、調べてみないと何とも言えないからまだ待機していてくれ」

『了解だよー』

(わりぃな。今、これを他の人に見られるわけにはいかなそうだからな)

 

仲間を疑うことはしたくないが、サニアの一件もある。

それに、クルルシファーの正体を軽々しく明かすことはできない。

 

「気を使わせてしまったわね」

「気にしないでくれ。それより、この子は――」

 

『管理者の生体反応を認証いたしました。システムを再起動します』

 

蓮とクルルシファーが視線を向けた直後、鈍い金属音に似た無機質な声が目の前の少女から発せられた。

同時に少女が起き上がった。そしてあたりをきょろきょろと見渡した後

 

 

「お呼びじゃなかったみたいですね。おやすみなさい。パタリ」

 

 

「いや、ちょっと待て、コラ」

「い、痛いのです!髪を引っ張らないでください!

か、勘違いしないでください。私はこんな惨状に関して何の記憶もありません。ですがきっと、私のせいではないような気が致しますので、できれば処分ではなくプログラムの修正をお願いしたいのですがー……」

 

蓮が掴んでいた手を放した後、手をブンブン振ったり、頭を振ったりと忙しく言い訳を言い始める少女。

 

「……いきなり責任転嫁を始めたわよ。一体何者かしら、この子?」

「あれ……?もしや、私のことをご存じないのですか?鍵の管理者(エクスファー)様」

「知らないわ。それよりあなたは何者なの?名前は?」

「これは、失礼しました。私はラ・クルシェ。この『方舟(アーク)』の統括者(ギア・リーダー)です。わかりやすく言えば、この施設の統括するシステムが擬人化した姿――皆様が自動人形(オートマタ)と呼んでいる存在です。以後、お見知りおきを」

 

そしてクルルシファーに向かって恭しく一礼するラ・クルシェ。

どうやら、クルルシファーの一族は遺跡を管理する立場にあったようだ。

だが、蓮もクルルシファーもそれなりに膨大な書物を読んでいるが、システムの自動人形と言うものは見たことも聞いたこともない。

 

しかし、もし彼女の言うことが事実ならば、謎に包まれた遺跡の存在と旧時代の歴史を知る唯一の存在に自分たちは出会っているのかもしれない。

 

「じゃあ、あなたは?旧時代のすべてを知っているの?」

 

切羽詰まったようにクルルシファーが問いかける。

 

「………寝すぎてマジ忘れたみたいなのです」

「…………」

「…………」

「ああっ、そんな目で見ないで欲しいのです。ついでに廃棄も。本当に覚えてないのです。どうやらこのよくわからない事故の影響で一時的に記憶が飛んでるみたいなのです!」

 

冷たい視線をあびて、ラ・クルシェは必至の弁解を試みる。

どうやら人間と同じように自動人形にも自己を守ろうとする概念が存在するようだ。

 

「そんなことをするつもりはないわ。でも、話を聞かせてもらえるかしら」

 

小さな嘆息の後、クルルシファーはいくつか質問した。

わかったのは――

ラ・クルシェは『方舟(アーク)』の統括者(ギア・リーダー)で、システム中枢につながることができれば、遺跡の操作も可能だと言うこと。

クルルシファーを遺跡の構築者である鍵の管理者(エクスファー)と認識し、その意志と命令に従うこと。

そして最後、以前起こった事故の衝撃により、過去の記憶が失われていること。

 

「申し訳ありません。本体が無事であれば、今すぐにでも中枢に接続して、記憶の補完が可能なのですが……」

「言いたいことは分かるわ。事故の影響で『方舟(アーク)』の機能の大半が、停止してしまっているんじゃないかしら?」

「そ、その通りであります!お美しいだけでなく、聡明なのですね!鍵の管理者(エクスファー)様」

 

兎型の耳をピコピコ跳ねさせながら、体もピョンピョン跳ねさせるラ・クルシェ。

その子供っぽい動作にクルルシファーは微かに苦笑を浮かべ、少女の頭を撫でた。

 

「お世辞ならいらないわ。私とあなたがどうあるべきかまだ分からないけど、もっと気安く話してくれて結構よ」

「もったいなきお言葉です。では僭越ながら、もっとお美しくなるための助言をさせていただきます。管理者様は少し痩せ過ぎです。もっとお肉とか食べた方がいいのです。そうすれば控えめな体の一部が補強されるかと――」

「……。そういえば、結局あなたは肝心のことは何も知らないのよね。つまり、あなたがここで壊れたところで、私たちには何も不都合がないと言う事よね?――()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()

「し、失礼を致しましたッ!」

 

一転、見事なDO・GE・ZAを決めるラ・クルシェ。

クルルシファーはニコニコしているが、それが余計に怖い。

蓮はおびえるラ・クルシェの肩をがっちりつかんで温度0℃の微笑みを向けていた。

 

とまあ、おふざけはそこまでにして。

 

「それで、その中枢のシステムを復旧するにはどうすればいいのかしら」

「は、はい。管理室エリアに行き、管理者様を認証させた後、復旧命令を出せばいいであります」

「その管理者エリアは、どこにあるの?」

「全部で地下十一階ある『方舟(アーク)』の()()()()()()()()()――そこに行けば、全てがわかります」

 

恭しく頭を下げ、ラ・クルシェはそう断言した。

 

 

 





クルルシファーさん、やっぱり気にしてたんですねw

まあ、蓮君も作者も「人は外見より中身」ですから気にしませんけど。
ちなみにラ・クルシェのDO・GE・ZAですが、皆さんのご想像にお任せしますね。作者のイメージは「トリプルアクセル土下座」です。

修正点や感想等を待っています~!

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