最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第28話

 

リエス島での合宿二日目。

いよいよ装甲機竜を使った訓練となる前、セリスは何を思ったのか蓮とルクスの二人をみんなの前に引っ張り出した。何かと思った二人だが、セリスが理由を説明し始める。

 

「訓練の方法を変えようと考えているのですが、そこで二人に折り入ってお願いがあります」

「訓練の方法を変える?」

「はい。私は元々、みんなに自己評価してもらって、長所を伸ばし、短所を克服することを目標にと考えていました」

「いいと思いますけど……。何を変更するんですか?」

 

二人がどういうことかと首を傾げると、

 

「その長所と短所をルクス、あなたに判断してもらうことになりました」

「ええっ……!?」

 

言われた瞬間、ルクスは目を丸くする。

 

「それって、どういう―—?」

「簡単な話よ」

 

そう言って割り込んできたのは場外で見守っていたレリィだった。

 

「ここにいる選抜メンバーは、あなたの本当の腕前を知っているわ。なら、一番強いあなたから教わった方が手っ取り早いと思わない?」

「でも、それならセリス先輩や蓮でもいいんじゃ………?」

「いいえ。これはあなたにしかできないことなの。

 まず、レン君には別の役目を持ってもらう予定だから無理なの。それでセリスさんだけど、彼女はいつも圧倒的な強さで敵を倒してしまうでしょ?だから、相手の動きをひたすらに見切り、防御を駆使して戦ってきたあなたの方が適任なの。そこであなたには、一人一人の弱点や強い点を鑑みた助言と、目標としての課題を提示して欲しいのよ。みんなも異存はないわね?」

「「「はい!」」」

 

即答。かつ、見事なハモりだった。

 

「あの…。俺の役目は?」

 

取り残され気味の蓮が問いかけると、セリスが答える。

 

「レン。あなたには主にみんなの練習相手を務めてもらおうと思っています。あなたの神装機竜は戦いの幅が特に広いですからね」

「なるほど、課題の進捗の確認と同時に多くの模擬戦をこなすってわけですか。で、終わった後のワンポイントアドバイス的なことでもすれば満点ですか?」

「そうですね。そうしてもらえると助かります」

 

セリスの言葉に納得し、蓮は何となくレリィへ視線を向ける。

すると、それに気が付いたレリィはニヤリと口元をゆがめた。

 

「そうねぇ、せっかく男の子がいるのだから~、いろいろ絡ませてあげないと面白くないわねぇ」

 

瞬間、蓮とルクスの背中に電流走る(おかん)

 

「は~いみんな、注目!

 もし与えた課題をクリアできた子がいたら、ルクス君かレン君を選んで、その彼からご褒美をもらえるわ。具体的には、この合宿から帰った後、個人的な依頼を引き受けてもらえるってことで――」

「え……!?」

「おい、ちょっと待て……!」

「ちなみに、先着三名にしましょうか。そうすれば競争意識が出て、盛り上がりそうだし」

 

お構いなしに話を進めるレリィ。

ご褒美ぶら下げて意欲を引き出すのはテンプレだが、これはどうなのだろうかと思う。

しかし、女生徒達の反応は―――

 

「え?いいんですか!?学園長!?」

「それは楽しそ――やる気が出ますね!」

「どんな内容でもいいのかしら、アレとかコレとか――」

「いつもお姫様たちに独占されてるルクス君に――」

「クルルシファーさんに取られちゃったレン君をN(自己規制)」

 

などと、口にして大歓迎だった。普段はそんなに関わりのない『騎士団』の少女たちが、キラリと目を輝かせている。とても演習前の雰囲気とは思えないにぎやかな空気だ。でも、一部からおかしな単語が聞こえた気がしたのは何故だろう?

 

しかし、この反応には蓮もルクスも諦めのため息を漏らすしかなかった。

 

「まあ、仕方ないのかな……」

「だな。あの人にかかれば俺たちの意思なんて関係なしだ」

「じゃあ、さっそく、一人ずつ模擬戦をお願いね。ルクス君」

「え――?もしかして、僕一人で全員分見るんですか!?」

「それじゃ頼んだわ。私はこれから、いろいろ学園の仕事があるから」

 

スタスタと去っていくレリィの背に手を伸ばした態勢のまま固まるルクスの横で蓮は腕を組みながら「哀れ」と短く心の中で呟いた。

 

「よし!先駆けはわたしだ!ルクス、早く準備しろ!」

「って、いきなり神装機竜を使う気ですか!?」

「何だよ?嫌なのか?全力を出さねば、練習の意味がないと思うのだが?」

「そ、それは…そうですけど……」

 

リーシャが我先にと立ち上がり、他の生徒たちもそれに倣い始める。

助けを乞うように蓮に視線を向けるルクスだったが……

 

「レン……あれ?」

 

振り向いた先に蓮の姿はなかった。

さっきまで確かにそこにいたはずの友人の姿は欠片も残っていなかった。

首をかしげるルクス。と、そこに小さなメモのような紙を持ったクルルシファーが話しかける。

 

「彼ならジャグとコップを取ってくると言って合宿所に戻ったわよ。あと、これ」

「メモ?ええと……『安心しろ。安心できなくても安心しろよ、ルクス。ちゃんと骨は拾ってやる。俺は決してお前という勇者の姿を忘れない。P.S.俺は《ヴリトラ》使うから。あと、最後に相手してもらうことにするZE』――って、ええぇっ!?」

 

蓮から伝言を頼まれたらしいクルルシファーから小さなメモを受け取り、その文面に絶望するルクスだが、周囲は待ってくれない。

ルクスは覚悟を決め、「僕の体、持つかなぁ……」と思いながら右手の指を三本立てる。

 

「じゃ、じゃあ、ひとり三分だけ……」

 

―――――――――――――――――――――――

 

そしてついにルクスは――蓮、クルルシファー、リーシャ、フィルフィ、セリス、ノクト、ティルファー、シャリス、その他の選抜メンバー全員との模擬戦と助言をやってのけた。

 

「ルクス。大丈夫か?」

「…………(死ーン)」

「返事がない。ただの屍のようだ(合掌)」

 

最後、蓮との模擬戦を終えたルクスの様子は以上だ。

 

 

 

 

 

(さて、このまま二日目も終わりか)

 

午後の訓練も夕食も風呂も終え、後は自室で休むだけとなった蓮は二人部屋の真ん中に将棋盤と駒を並べていた。

パチン…パチン…と同室の人物がいない静かな部屋に澄んだ木駒の音だけが響く中、合宿に来る前にフェルテ家から取り寄せた遺跡(ルイン)についての書物の記述とエインフォルク家からの帰りに聞いた義父のエンバルケスの話を思い出していた。

 

(義父上の話だと、獄中にあったバルゼリッド卿とベルベットが何者かに暗殺されていたらしい。犯人は調査中だと言うが、奴らにブツを流していたというヘイズには警戒しといた方が良いな……。そう言えば、もうすぐ『方舟(アーク)』が浮上する時期か)

 

方舟(アーク)』は普段、新王国周辺の外洋で浮き沈みを繰り返し、一定周期で出現地点を変えるという特殊な遺跡だ。海上に現れることがほとんどなので、調査は進んでいないと書物には書いてあった。

また面倒なことが起こらないで欲しいものだな、と考える蓮が集中を盤に戻そうとしたとき、ふいに部屋のドアが開いた。

 

「あら、まだ寝ていなかったのね?」

「クルルシファーさん。自分の部屋だからってノックぐらいはしてくださいよ、びっくりするじゃないですか」

「別にいいじゃない。言うほど驚いていないのだし」

「ま、それもそうだな。それでどうだい、訓練の方は?」

 

合宿所でのルームメイトはクルルシファー。婚約者だからと言って安易に同室にするのはどうかと思わなくもなかったが、結局は二人とも納得して収まっている。

ちなみに、ここで「クルルシファーの濡れた髪が……」的な展開はない。なぜなら、大浴場には女子が先に入っているからだ。この順は学園の時もそうだ。

最初は男子が女子の後に入ることになっていたのだが、なんでも一部の女子から「私たちの後に男子が入るなんて、どうお風呂に入ったらいいかわかりません!」と言う異議申し立てがあったとか。じゃあ、男子が先で…となれば再びそれに倍する異議申し立てがあったそうだ。曰く、「男子が使った後の風呂なんてどう使ったらいいんですか!」だと。ならどうするんだという話になったが、そこは学園長が

 

「汗を流せないのは彼らが可哀想じゃないかしら。あなた達も汗臭い男の子は嫌でしょう?大丈夫よ、彼らは紳士だもの、あなた達の使った後のお湯でも湯船でも普通に使って終わりだから」

 

と言って落ち着いたらしい。ちなみにこの情報はティルファーから入手したので、事実、そういうやり取りがあったのだろう。最初に聞いたときは「遠回しにヘタレって言われていないか?」と思ったものだ。

 

話は戻って、クルルシファーが後に現れたのはただ単に外の空気を吸いに行っていただけである。

 

「順調とは言い難いわね。でも彼が言うにはあなたに教わった方が分かるって言われたのだけど、どういうことかしら?」

「知らん。ったく、ルクスめ。逃げた俺への当てつけか?

まあ、いいや。それでクルルシファーさんの課題って?」

「決定力不足よ。あなたも分かっているはずだけど、私の《ファフニール》は決め手に欠ける。ずっと前から悩んでいたことなのだけどね」

「ふーん。それならちょうどいいかな。えっと…これをここに置いて…こいつはここに――」

 

悩むそぶりも見せずに、蓮は淡々と盤上の駒を動かしていく。クルルシファーは盤を挟んだ対面に腰を下ろす。

やがて蓮が「よし」と言って手を離した盤面には終盤を迎えた局面が再現されていた。

 

「相手陣は居飛車穴熊、しかも金二枚を使っているガチの穴熊。自陣は四間飛車で囲いは高美濃。盤面は終盤、お互いに龍王が敵陣の一番下にいる状況だ。自陣側の持ち駒は銀桂香歩三、相手陣は銀と歩二のみ。さて、ここで俺は穴熊破りの手法である1五歩と突く端攻めを見せる。その目的は?」

「後で2五桂と跳ねて1三の歩を狙う筋ね。1五歩以外にも3一の金を狙う2六香打と1五桂打やと金を作っての攻めである5三歩の垂らしを入れる……穴熊破りの常套手段ね」

「そう、固い穴熊の弱点はと金攻め、端攻め、2三の地点を攻められるという三例が代表的。どの囲いにも存在する弱点を重点的に攻める。――クルルシファーさんの最大の強みは何と言ってもその狙撃の正確さだ。装甲機竜と幻神獣に共通している弱点を考えれば、おのずと答えが見えてくるはずだ」

 

ちょっとヒントを与えすぎた気もするが、まあいいだろう。

そして将棋から学べるもう一つの手段にも彼女は行き着いただろうか。そしてそれは自身の課題にも通じるもの。

 

「なるほどね。ありがとう、参考になったわ」

「褒められるようなことじゃないさ」

「ふふ。そろそろ寝ましょう、どうせ明日も早いのだし」

「だな。さ、俺はこいつらを片付けて―――」

 

クルルシファーが立ち上がり、自分のベッドに腰かけ、蓮が駒に手を伸ばした時だった。

 

ゴゴゴゴゴゴォォオオンッ……!

 

凄まじい地鳴りが合宿所を揺らす。

蓮とクルルシファーは目線を一度合わせ、自分の機攻殻剣を持って寝室を飛び出す。

彼らがリビングに到着する頃には音を聞きつけた合宿参加メンバーのほぼ全員と学園長のレリィが外に出ていた。

 

「みんな、ついていらっしゃい。今からこの合宿の本当の目的を教えるわ」

 

レリィに連れられ、島唯一の灯台に連れられた生徒たちはその光景に絶句した。

そこにあったのは新王国のいかなる軍艦よりも巨大で、奇妙な形状を持つ舟。

 

「新王国領の遺跡の一つ。第三遺跡、『方舟(アーク)』と呼ばれるものよ」

「学園長。本当の目的とは、まさか――これですか?」

「察しが良くて助かるわ」

 

セリスの問いかけにレリィは微笑みを切らすことなく頷く。

 

「この第三遺跡『方舟(アーク)』の調査が、今回の本命よ。かつて旧帝国が解き放ったとされる深層の門番――終焉神獣(ラグナレク)、ポセイドン。それがこの前の演習場の戦いで消滅したことによって、最終層への扉が開かれた可能性があるわ。まだ、この時代のだれもが足を踏み入れたことのない領域、その場所がね」

 

淡々とした説明に誰も言葉を返さない。聞こえるのは息を呑む音だけ。

 

「今回の合宿の目的は訓練のほかに、新王国からの密命を果たすという目的があったの。この『方舟(アーク)』は一週間、ここリエス島の付近に停泊する。明日の午後から、潜入調査を開始するわ。いいわね?みんな」

 

生徒たちは戸惑いを残しながらも頷き、宿舎に戻っていく。

その中にあって、ルクスと蓮の二人だけは遺跡を見据えることができる灯台にとどまった。

 

「誰も足を踏み入れたことのない領域か。少年らしく、未知への探求に心躍らせたいところだが……そうもいきそうにはないな」

「うん……」

 

嘆息に応える声は短かった。

蓮は後ろ髪を掻きながら呟く。

 

「やれやれ、今回の遺跡調査が無事に終わって、お前の不安の種も消えてくれるといいんだが」

「………。気づいていたの?」

「俺じゃなくて、クルルシファーさんがな。無理に話せとは言わないが、一つだけ聞いとく。あの廃墟で昔、何があった?」

「………ごめん。そこまではレンでも言えないんだ」

「……分かった。この話は聞かなかったことにする。さて、とっとと宿舎に戻ろうか。明日は疲れそうだからな」

 

一言の言葉も交わさぬまま、二人は来た道を戻っていく。

互いに言い知れぬ不安とも違和感とも言えるものを抱きながら。

 

合宿二日目の夜はそうして明けていった。

 





久しぶりの土曜日の投稿です。

ついに現れましたよ、4巻のメインステージ『方舟』が。
ていうか、本当にルクス君ってすごいですよね。十人以上を1対1でなんてムリゲーだろぅ……

修正点や感想等を待っています!


さて、完全に私事ですが、本日、「デート・ア・ライブ」の16巻を買いました。
その感想をこの場を借りて、一言だけ叫ばせてください。

               狂三に撃ち抜かれました!!!




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