最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第27話

 

「ん~!やっぱり海はいい」

 

さざめく波の音。色とりどりの海鳥の鳴き声。

これで夕焼けのシチュエーションならクルルシファーを呼んでタイ〇ニ〇クしてみるのもいいかもしれない。などと考える蓮。

 

今、蓮たち校外対抗戦――全竜戦――出場メンバー12人と学園長のレリィ、(おそらくルクスの監視役の)ルクスの妹のアイリを含めた計14名は新王国の大型船に乗りリエス島を目指している。

目的は校外対抗戦に備えての合宿。今までは行われていなかったそうだが、今年は(イベント大好き厨の)レリィの提案で話が持ち上がり、セリスがこれを受け入れ、他のメンバーも即決で同意したので割とあっさり決まった。

リエス島はかつて軍事基地として使われており、バカでかい演習場の他に広いビーチもあり、合宿に使うにはもってこいの場所だった。

 

舟に乗った女子たちはそれぞれ思い思いに自由に船の旅を過ごしていた。

 

「ただ一人を除いてだけどな……」

 

蓮が苦笑いで見つめる先、船室の一室ではルクスが船酔いで完全にダウンしていた。

 

 

 

 

リエス島に到着し、船を降りた蓮達は木々の生い茂る森の中の道を歩き、今日から使う宿舎に着いた。

リビングで部屋の鍵を渡され、各々が自分の持ってきた荷物を持って部屋へと入る。

蓮も荷解きを済ませ、キャリーバッグからとある着替えを取り出す。

 

「さて、荷物も下したことだし。お楽しみに行きますか」

 

ちゃっちゃと着替えて合宿所を出る。

少し歩いたそこに広がっているのは広大なビーチと――

 

「遅かったな、ルクス君。皆がお待ちかねだぞ」

「う、うわぁっ!?し、失礼しました……!僕は何も見てませんから―――」

「No.その反応は間違いかと思います。ルクスさん、私たちの服は下着ではありません。ルクスさんにとっては残念かもしれませんが、これは下着ではありませんよ?」

「何で2回言ったの!?っていうか、そもそも残念がってないし!」

「うわー、ルクっちってば、やらしーなー。でもいいよ、普段お世話になってるしさー」

 

さっそくルクスは三和音(トライアド)の三人組にいじられているようだ。

蓮もその輪にフラフラ~っと入っていく。

 

「みなさんお似合いっすね。ルクス、これは水着と言ってな。断じて下着ではないぞ。目のやり場に困る気持ちはわかるけどな」

「いつの間に!?」

「ついさっきだ。てか、シャリス先輩が一番謳歌していませんか?」

「やあ、レン君。君は狼狽えてくれないのかい?」

 

パラソルを広げ、その陰に寝転がるシャリスを見て蓮は苦笑いをする。

某展開ならサンオイルルートなのだが、残念ながらサンオイルはこの場では誰も持っていない。

ノクトもティルファーもそれぞれの雰囲気に合う水着でとても似合っている。

 

「目のやり場に困ると言ったばかりですけどね。背中から刺されるのだけはごめんなので」

「失礼ね。そんなことしないわよ」

「お、クルルシファーさんか。――うん、生きていて良かった。俺」

 

そこには女神がいた――言い過ぎと言うツッコミが来そうだが、無視。

銀細工がアクセントになった黒の水着。新雪のように白く滑らかな素肌に大人っぽい黒が合わさり彼女の儚げで神秘的な美しさをより一層引き出している。

 

というか、ただ単純に美しい。艶めかしい。魔力のような、蠱惑的な美しさがあった。

 

「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。私も時間をかけて選んだかいがあったわ」

「なんか、普通すぎる自分の水着がすごく恥ずかしいです」

「別にいいじゃない?こういうのは女性が魅せるものなのだから」

 

いつもの涼しげな表情ではなく、少し照れくさそうな顔で、クルルシファーははにかむ。

普段なかなか見られないその仕草が無性に可愛らしく見えてくる。

 

「あら~みんな盛り上がっているわね」

「レリィさんも遊ぶ気ですか!?」

「失礼しちゃうわね、ルクス君。私も一人の人間なの。たまの休暇くらい、少し羽を伸ばさせてくれないかしら?」

(よう言うなぁ、レリィ遊び長。つか、これって休暇じゃないだろ)

 

レリィの悪びれもない反論にルクスがツッコミを入れる中で、蓮は苦笑いを浮かべながら心の中でツッコミを入れた。

するといつの間にか現れたセリスがルクスの隣に立って反論開始。

 

「ルクスの言う通りです。初日から遊びなんて許可はできません。そもそも私たちは強化合宿の名目で島に来たのです。もっと真剣に取り組むべきです」

「そんなこと言ってても、あなただってしっかり水着を着ているじゃない?」

「こ、これは学園長に水練と騙されて!」

「はぁ。相変わらずお堅いわねぇ。長い訓練になるのだから、ちょっとした息抜きも大事よ。そうは思わない?ねえ、ルクス君」

「ルクス。あなたからも言ってください」

「セリス先輩も僕に振るんですか!?」

 

アレは、折衷案パターンだな。と思いながらその行方を見守ろうと思った蓮だが、ある予感。

 

「じゃ、じゃあ少し泳いで体をほぐした後、白兵戦の訓練をしませんか?地面が砂浜で柔らかいですから怪我の心配もないですし――」

 

ルクスが折衷案を出してセリスの説得を始める。

セリスは疑うような目を向けていたが、諦めがついたように首を縦に振った。

 

「ほら、セリス先輩も水着が良く似合ってますし、周囲の目を気にしなくても――」

「なっ……!?何を言うのですかっ!?変なことを言わないでください!べ、別に、慣れないこの格好が恥ずかしくて早く着替えたいとか、そう言うわけではないんですから!」

 

だが、不用意に放ったルクスの一言はセリスの自爆を誘うことになった。

その様子を見て再び三和音が口々にルクスをからかい始める。

 

「やはりルクスはからかいがいがあるなぁ」

「あなたもあれくらい慌ててくれれば、面白いのだけど」

「さすがに耐性つきますって……。ああ、恥ずかしい」

 

散々からかわれたことを思い出して頭を抱える蓮をよそにクスクス笑うクルルシファーだった。

 

姿の見えなかったフィルフィとリーシャ、アイリもすぐに現れ、ビーチが騒がしくなっていく。と思いたかったが、軽い準備運動(注:セリス基準)とちょっとした白兵戦の訓練を終えて、遊びの騒ぎが聞こえたのは一時間後だった。

 

 

 

島の施設巡り等、当初決められていたスケジュールをこなし、最後に軽めの演習で汗を流したら外はもう夜。残るは夕食とお嬢様達お待ちかねのお風呂だ。

合宿の三日目には温泉に入れるそうだ。島にある温泉は島民も使うが、今回は貸し切りで入れるとのこと。

当然、生徒たちから疑問が出たが、レリィがたった一言「そこは、お金の力よ♪」と言って歓声に変わった。さすがはアイングラム財閥の令嬢、お金の使い方が無駄にすごい。

 

話は戻って現在、合宿所の広いリビングに集まった蓮たちは夕食を取ることにしたのだが――

 

「ところで学園長。どうしてコックを連れてこなかったんだ?」

「いやねぇ、こういう時は皆で作った方が、気分が出るのよ?」

 

リーシャの問いに笑顔で答えるレリィ。やはりこういうイベントごとは好きなレリィである。

 

「でも……レリィさんって、料理作れましたっけ?」

「できるわけないでしょう」

「ですよね……」

「自信満々に言うことじゃないだろ……」

 

レリィの満面の笑みとともに放たれた一言に聞いたルクスも蓮も、他の女生徒達も呆れていた(声に出したのは男子2人だけ)。

 

「とりあえず、食材や調味料は持ってきたもので揃っているみたいね。レン君。ルクス君。少し手伝ってくれるかしら」

「あいさー」

「あ、うん」

 

普段、料理などしないであろうお嬢様達の中で料理がうまいのはクルルシファーらしい。蓮は共働きの両親が夜になっても帰って来ないと言うことが間々あったので、こっちに来る前から料理はできた。ルクスも雑用で手伝うことも多かったから心配はない。

 

「私も手伝います。まだ、あまり得意ではありませんけど」

「「「セリスさんはやめてください!」」」

「な、何故ですか!?」

「王都への遠征でよくわかりましたから!お願いですからもういろいろと壊さないでください!」

 

………。聞く限り、セリスの料理はかなり残念なようだ。

フィルフィも手を挙げたが、得意料理を聞いたクルルシファーは「気持ちだけ受け取っておくわ」と言って引き止めさせた。

リーシャも役に立たないと自分で言っていたので、結局、シャリスとノクトが手伝いに入ることになった。

 

「クルルシファーさん。そこの小瓶を取ってくれ」

「これね。あ、それを取ってくれるかしら」

「どうも。えっと…これか。ほい」

「ありがとう」

「あ、ルクス。そいつは沸騰してから入れた方がうまくなるからそうしてくれ」

「そうなんだ。わかった」

「シャリス先輩。人数倍でその調味料を入れてしまうと味が濃くなってしまうわ」

「おっと、すまない。案外、難しいものだな」

「Yes, 以前、それでアイリがひどい目に―――」

「その話はしないでください!」

「まあ、初心者にありがちなミスですよね。わかんないからドバッ、なんてな。クルルシファーさんは経験ある?」

「ないわ。家のコックたちに教えてもらった時に食べ比べてみたけど、ひどいものだったのを覚えているから」

「だよなぁ。っと、もうすぐ焼けるな。後は――—」

 

蓮とクルルシファーが引っ張る感じで調理は進んでいき、三十分もするうちにはほとんどの料理が出来上がり、すぐに夕餉となった。

ちなみに蓮とクルルシファーの作った料理はすぐにわかったとか。

 

さすがにお腹がすいていたのだろう。食事が始まるなり無言で食べすすめ、十分後には全員が食べ終わった。

後はお風呂ぐらいだが、広いリビングで生徒たちは各々で持ち込んだもので時間を潰し始める。

フィルフィは自分で作ったお菓子を食べ、アイリは本を読み、ノクトは他の少女とチェスを、ティルファーとシャリスは賭けトランプ(すぐにばれて、セリスに怒られた)をしていた。

ルクスは食器洗いを終えるなり、リーシャを連れてリビングを出て行った。

 

さて、蓮とクルルシファーは何をしていたかと言うと――

 

「………」

「………ふぅ、参りました。私の負けね」

「あっぶねぇ。5二龍~7三桂成で勝ったと思ったんだけどなぁ。4六角から反撃されたときは冷や汗かいたわ」

「やっぱり角換わりの右玉はつらいわね。こっちも銀冠に組めたけど、角の打ちどころがないとどうしても絡みにくいし。結局、最後の方まで角が手持ちに余ってしまったから」

「まあ、それが目的だからな。そう言えば、そっちから仕掛ける前に――」

 

蓮の持ちこんだ将棋をしていた。

二人が付き合いだしたころから蓮が教えて、今ではこうして時折指すまでになった。きっかけは蓮の部屋の前を通りかかったクルルシファーが木駒独特の澄んだ音を耳にして、部屋を覗いたら一人、ブツブツ言いながら盤駒に向き合っている蓮がいたことだった。

それ以来、クルルシファーもチェスとは大きく異なった将棋に興味を持ったというわけだ。最初こそ蓮は慣れない駒落ちで戦っていたが、そこは才女と評判のクルルシファー。すぐに平手で戦うほどに。勝率は蓮の方がまだ高いが、負けることも多くなってきた。

ちなみに、蓮は居飛車党。クルルシファーは振り飛車党である。

 

10分ほどたっぷり感想戦をする。しかし、指していて常々思うが時計無しというのはどうも味気なさを感じてしまう。クルルシファーにはできるだけ早指ししてくれと頼んでいるのが非常に申し訳なってくる。

 

(せめて時間切れ方式だけでもなぁ……。もうすぐできるって話だけど、早くしてくれないかなぁ)

 

などと考えていた蓮がふと顔を上げると、いつの間にか周囲に人だかりができていた。

 

「どうした?って、将棋(コレ)か。まあ、珍しいよな。ものすんごいマイナーだし」

「そうね。私もあなたに教わるまでは知らなかったわけだし、みんなが物珍しそうに見ているのも当然かしら」

「一応聞いとくけど、ルール分かる人いる?」

 

しかし、首を縦に振ってくれるお嬢様は一人もいなかった。

蓮は歩兵の駒を手に取り、パチンと音を立てて盤上の空いたスペースに打つ。

 

「う~ん。この駒を打つ音がいいんだけどなぁ…。やっぱり、ルールが難しいのかね?」

「というより、取った駒を再利用できるのが一番戸惑うのよね」

「俺から言わせてもらえば、そのせいでチェスは引き分けが発生しやすいからあんまり好きになれないんだけどな。将棋だったら千日手をしない限り、引き分けはないけど、それも滅多に起こらないし」

「そうね。負けていても一手の悪手か一手の好手で逆転も見えるから私は将棋の方が好きね」

「涼しい顔でさらっと詰めろ逃れの詰めろを決められたときはゾッとしたわ。

 さて、簡単にルール説明でもしますかね」

 

その後、蓮とクルルシファーが中心となって将棋入門教室みたいな感じになり、生徒たちが集まって何事かと思ったセリスや三和音(トライアド)の三人も集まってきた。

意外にもセリスは将棋を知っていたみたいで蓮と平手で指したが、セリスのぼろ負けという結果になった。

 

苦笑いを浮かべる蓮とクルルシファー。

落ち込むセリスとそれを慰めるシャリス。

周囲で表情に困っているノクトとティルファー。

そして同じように反応に困った他の女生徒たち。

 

戻ってきたルクスとリーシャがそんな状況を見て、首をひねることになったのは想像に難くないだろう。

 

 

 

 





4巻突入です。

料理シーンですが、まあ、こんなもんでしょ。という感じにしました。この二人の場合、二人っきりの場所で甘い方が似合うと思うんですよねぇ。

将棋の話は作者が将棋をやっているので入れました。自分の経験談をもとにしていて、もっと細かく書こうかとも思ったんですが、あまりダラダラ書くのはどうかと思いましたので短く。


さって、今日はここまでです。

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