最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第26話

 

エインフォルク家の面々とあいさつを交わした日の夜、蓮はとある一室を訪れていた。

扉をノックし、中に入る。

大量の本が並べられた書架に囲まれた執務室の奥、今回の訪問の、本命の話し相手が座っていた。

 

「失礼しますステイル卿。今日はお話の機会を下さり、ありがとうございます」

「もうじき深夜だ。要件は手短にしてくれ、私ももう娘たちのように若くはないからな」

「ご安心ください。3つほど質問させていただくだけです。内二つは「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問ですから」

 

蓮はステイル卿の近くまで歩き、要件を手短に伝える。

 

「何が聞きたい?」

「まず一つ目。その手袋で隠している傷は一年半前の遺跡の暴走事故でできたものですか?」

 

外の寒さに対して屋敷内は当然暖かかった。普段寒くない街から来たはずの蓮でも来るときに着けていた防寒具はすべて外していた。

そしてもう一つ、初めて顔を合わせたあの部屋。ステイルは暖炉に最も近い場所にいたのにもかかわらず、手袋を外していなかった。蓮は部屋を出た後、アルテリーゼにそれとなく聞いてみたが、一年半ほど前からステイルが人前に右手の素肌を晒すことはなくなったと言っていた。

おそらく、クルルシファーが避けられるようになったきっかけと言っていた遺跡の暴走事故の前後――もしくはその事故の時にできた傷。

 

事故でできた傷なら、ほぼ間違いなくクルルシファーに絡んでくるだろうと蓮は考えて問いかけたが

 

「君には関係のないことだ」

 

問われたステイルは突き放すだけで明確な答えはださなかった。

蓮はそのある意味、予想通りの対応に「そうですか」と返すに留めて次の質問をする。

 

「それでは、二つ目。なぜ、フェルテ家からの急な訪問を受け入れてくれたのでしょう?」

「君も聞いての通り、我がエインフォルク家とフェルテ家は長い付き合いだ。そして、娘の婚約者に挙がった君の顔を見たかった。これでは足りないかね」

「本当は、クルルシファーさんが気がかりだったからじゃないんですか?」

「どうしてそう思う?」

「わざわざ、若輩者の私と一対一の対談に応じた理由と言ったらそれくらいでしょう」

 

午後にも言っていた通り、蓮の立場はステイル卿からしたらかなり低い。クルルシファーの婚約者だからと言う理由だけでは一対一の対談が実現するとは思えない。

 

「君は中々に想像力が豊かな男のようだな。それで、最後の質問は何かね?」

 

ステイルは話を打ち切り、蓮を促す。

蓮も聞きたいこととその反応だけでも十分な収穫だと思ったので、その誘いに乗ることにした。

 

「そうですね。では最後に一つだけ――クルルシファーさんとよりを戻す気はありますか?」

「私を責める気かね?」

「責めるも何も、言ったはずです。見極めに来た、と」

「……君も知っての通り、私はクルルシファーと今は距離を置いている。戻す気はない」

 

それ以上は語らなかった。

ステイルは蓮に背を向け、机に向かう。話はここまでと言う意思表示だった。

蓮は一礼して、用意された寝室に向かう。執務室を出る前、扉の取っ手に手を掛けた蓮は振り返ることなく、ステイルに聞こえるように一言。

 

「ステイル卿。冷たく突き放したつもりでも、やっぱり親じゃないですか」

 

返答は、なかった。

 

 

 

 

「いやー、悪目立ちし過ぎましたね。義父上」

「当然であろう、初対面であのようなことを言うからだ。ザイン殿からずっと睨まれておっただろう」

「今更、あの程度ではひるみませんよ」

 

たった一日の訪問のためにと言われるかもしれないが、それは最初から承知していることだから気にしない方向で。そして言うまでもなく、今の蓮とエンバルケスはエインフォルク家からの帰りの途中である。

エインフォルク家を出るときは意外にも家族総出で見送られた(ザインは終始、蓮を睨みつけていたが暖簾に腕押しというやつだ)。

アルテリーゼも国境まで同行することになっているが、別の馬車に乗っている。

 

「それで、何か解ったか?」

「クルルシファーさんの留学は義父上の予想通り。それで、ステイル卿はクルルシファーさんとよりを戻すつもりはないそうです。というより、あの様子だと「()()()()()」って言いだしそうですね」

「そうか。となれば」

「全竜戦の合間に引き合わせても、ろくな効果がないでしょうね。何かしらのきっかけがないとあの御仁は本音を漏らさないでしょう」

 

二人揃って盛大にため息をつく。

ステイル卿がクルルシファーと距離を取っている理由。二人にはある程度の予測がついていた。

 

「十中八九。秘密目当ての貴族どもでしょうね。ステイル卿が腕を見せないのは、傷を見せれば聡いクルルシファーさんに気づかれると思っているのでしょう」

「気づかれれば、彼女は余計にステイル卿から離れることができない、か」

「新王国の家に嫁げば、エインフォルク家に戻ることもそうはない。結果としてユミル教国からも離れることができる。貴族とのパイプは情報網。機竜使いとしての技量は有事の時に彼女を守れるかどうか。

条件をよ~く考えてみれば、これほど分かりやすい心配はないですね」

 

ステイルはずっと隠そうとしていたが、蓮からすれば逆効果だった。

彼はヒントを与えすぎたのだ。もしかしたら、わざとなのかもしれないが。

 

「それで彼女には伝えるのか?」

「俺から言っても意味無いでしょ。しばらくは止まり木に甘んじますよ」

「その方がいいだろう。だが、いずれは話さねばならぬ時が来るはずだ」

「覚悟はしていますよ。でも、俺から話すのは本気でごめんこうむりたいっすね」

 

切り返しに笑いあう二人。

 

その後、予定通りに日程は進んでいき、ユミル国境でアルテリーゼと別れた後、最初に合流した時と同じ町で蓮はエンバルケスとフェルテ家の騎士たちと別れた。

そして人目につきにくい夜を待ってから《ヴリトラ》を纏って城塞都市(クロスフィード)まで一気に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~。これで一通りの準備は完了っと」

「随分な荷物ね。あなたのことだからもっと少ないと思っていたわ」

「ああ、レリィさんに頼まれた案件用の道具と暇つぶしの物を入れているからな」

 

蓮が学園に戻って数日。

明後日に控えた全竜戦参加メンバーの合宿に備えて荷作りをしている蓮の部屋をすでに用意を終えた様子のクルルシファーが訪れていた。

 

「どういうことかわからないけど、必要な道具といってもそんなにあるかしら?」

「はっはっは。俺がまだ一度も拝んだことのないクルルシファーさんの柔肌をそこらの馬の骨に見せるつもりはねぇよ?」

 

笑ってはいるが声も目も、微塵も笑ってなかった。

 

「あれ?なんで合掌してんの?」

「その馬の骨さんたちのご冥福をね」

「大げさだな~。殺す気はないよ~半殺しにはするけど」

 

やっぱり笑っていなかった。

が、すぐにその表情を引っ込めて荷物に向き直った蓮。すると何かに気づいたようにクルルシファーの方に向き直った。

 

「あ、そうだ。この後、空いてる?」

「ええ、空いているわよ」

「じゃあ、久しぶりに街へデートとしゃれこみましょうか」

 

 

 

「こうしてあなたと街に出るのは『箱庭(ガーデン)』の遺跡調査の前に来たとき以来ね」

「そういやそうだな。思えば、あの頃から俺たちのこの関係が始まったんだよな……お、目的地に着いたな」

 

身支度を整え、制服から私服に着替えた二人は城塞都市(クロスフィード)の一番街区。その中でも貴族御用達の高級店が集まる商業エリアを歩いていた。

カフェや服屋を回り、学園の門限も近くなってきたのでそろそろ帰ろうか、と言う話になった。その際に蓮が「あと一か所だけ寄るところがある」と言っていたので、どこかとクルルシファーは思っていた。

蓮が足を止めたのは新王国内でもそれなりに有名なアクセサリーショップだった。

 

「ここって…」

「さ、入ろうぜ。渡したいものがあるんだ」

 

蓮はクルルシファーの手を引き、堂々と入店する。

店内には一品一品精巧につくられたアクセサリーが並び、埋め込まれた宝石などが輝いていた。

店に入った蓮は近くにいた店員に声を掛け、上着の胸ポケットから取り出した紙を渡す。

 

「レン・フェルテ様ですね。はい、少々お待ちください」

 

渡された紙面を確認した店員は一礼して店の奥に向かう。

そして、そんなに経たないうちに、一つの箱を持って戻ってきた。店員はそれを蓮に渡すと再び一礼して下がる。

蓮はクルルシファーの正面に立ち、少し照れくさそうに口を動かす。

 

「まあ、なんだ。女性に贈り物をするなんて初めてだけどさ、こいつは俺に着けさせてくれ」

「……ええ」

 

箱に入れられていたのはシンプルなシルバーのペンダント。

ペンダントトップのモチーフは十字架だった。

蓮は目を閉じて待つクルルシファーの首にそのペンダントを下げさせた。

目を開けたクルルシファーは十字架を右手の掌にのせて見つめる。

 

「きれいね。ありがとう、大事にするわ」

「これならいつでも身につけておくことができるだろ?

十字架は永遠とか魔除けの意味を持っているんだ。あとそれ、ロケットになっているから開いてくれないか?」

 

クルルシファーが言われたとおりに開くと、そこには「R.A」――彼の本名である天宮蓮のイニシャルが描かれていた。

それが何を意味しているのか。クルルシファーはすぐにわかった。

蓮もそれ以上は何も語らない。いや、そもそも語る必要などないのだ。

 

「…………」

「…………」

 

静かにロケットを閉じ、十字架を握りしめるクルルシファー。

 

 

蓮はその後に見せた彼女の微笑みを忘れることはなかった。

 

 





――駆け足で詰め込みました。
もっと、しっかりしたデートってやつを入れたい!


と、まあ、こんな感じに3巻の内容を終了します。
次回からは4巻の内容になりますが、はっきり言って、あの子出しにくいよぉ~!

修正点や感想等を待っています!

あと、1週間更新に戻せるように努めまっす!




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