最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第24話

 

「「ふぁ……」」

 

終焉神獣(ラグナレク)との戦いから早三日。

ヘイブルグの軍師と名乗るヘイズとスパイであったサニアたちが率いる部隊。そして、終焉神獣(ラグナレク)の襲撃によって、演習場は瓦礫の山になり、学園の校舎も一部が破損。それだけに生徒たちの大半が軽傷で済んだのは奇跡的だった。

この三日間はそのほとんどが復旧作業に追われ、王都や周辺地域から整備用の機竜使いたちを総動員してもらい、なんとか学園内の瓦礫を全て撤去。演習場も一部に爪痕は残るものの体裁は整えられた。

 

ルクスは《バハムート》での永久連環(エンドアクション)使用の疲労でベッドにお世話になり、今日やっと登校の許可が出た。それでも完全に疲労が消えたわけではない。

蓮は初日を除いて自ら機竜を纏って瓦礫撤去に勤しみ、フェルテ家から送られてきた人員の陣頭指揮もこなしていた。

 

ゆえに、蓮とルクスの二人は眠いのである。

時間は午後の授業前だが、もういっそこのまま寝たいぐらいだ。

 

「ああ~眠。クルルシファーさん。授業のノート、後で見せてくれ」

「お断りするわ」

「冷たいなぁ。ユミルの女性ってそれがステータスなの?」

「さぁ、どうかしらね。それじゃ、寝ないように頑張ってね」

 

クルルシファーが蓮の側を去ってすぐにライグリィ教官が教室内に入ってくる。

今日は二か月後に迫った校外対抗戦の選抜メンバーの発表が控えている。メンバーにだいたいの予想はつくが、全校集会の場で眠るのは避けたい。

 

(なんとかもたせるか、物理的に……いでっ)

 

物理的――自分の太ももをつねる――刺激で蓮の意識は眠気に落ちることなく、授業を聞き終えた。そして授業終わりに周囲を見渡してみれば、隣で思いっきり寝こけているお姫様がいたが、気にせずに蓮の視線は列の最後尾に座るクルルシファーと窓際最前列に座るルクスとフィルフィへ。

 

クルルシファーはというと、ある意味、なにも面白くない。

 

「……」

 

教科書内の今日学んだ範囲のページに付箋を張り付けて復習の準備をしていた。真面目な彼女らしい。

 

一方で、ルクスはリーシャほどあからさまではないものの、あくびを噛み殺しながらうとうとしていた。その横に座るフィルフィは相変わらずぼーっとした雰囲気を出している。

 

「すー……」

 

訂正。しっかり寝ておられました。

気付いたらしいティルファーが「フィルフィ、起きてー」と言いながら肩をつかんでゆさゆさ(何がとは言わない)と揺らして起こそうとしている。

蓮はとりあえず最初に、王女様を起こすことにした――デコピンで。

 

「リーシャ様。起きてください」

「ッ――!?な、なにをする!?」

「思いきり身を起こしたままスースー寝息を立てて、よだれまで垂らす熟睡っぷりを見せつけてくれたお姫様を起こしただけですよ」

「っ――――!」

 

蓮の指摘にリーシャの顔がボンッと赤くなった。その顔を隠しもせず、直後にルクスの姿を探すあたり、実に面白い。

蓮は「さて」と息を吐いてルクスも同じように起こす。デコピンで完全に目が覚めたのかルクスの寝覚めは良かった。寝ぼけていれば背中をバシン!と叩く腹づもりだったが、それなりに長い付き合いの中で学んだのだろう。

 

「そろそろ行きましょう。他の子たちはもう移動してしまったみたいだし」

 

クルルシファーが周囲を見渡しながら皆を促す。

言われてみればクラスメイトの姿はほとんどなく、おふざけをしている間に移動してしまったようだ。時間にはまだ余裕があるから急ぐ必要はないけど、そろそろ行った方がいいか。

 

 

 

「ではこれより、先日行われた校内選抜戦の結果から判断し決めた、校外対抗戦の代表メンバーを発表する!」

 

演習場の真ん中に特設のステージが用意され、その前にはライグリィ教官が立っている。昨日までの丸二日、ほとんど不眠不休で指示・指揮をしていたみたいだが、その疲れを顔に出すことなく、相変わらずの凛とした雰囲気を出している。

 

「代表十名、補欠二名の計十二名だ。無論、先日までの勝敗はあくまで参考だ。総合力、成長性、連携力などを加味して決められている。選ばれなかった者は、今後も研鑽に励め。

では、発表する。選抜代表のリーダーは、三年生、セリスティア・ラルグリス!」

 

わあっ!と女生徒たちの歓声が上がる。

そして、続々と代表者の名前が呼ばれていく。

神装機竜の使い手であるリーシャとフィルフィ。『騎士団(シヴァレス)』の一員である三和音(トライアド)の三人組は予想の範囲内。

 

「レン・フェルテ!クルルシファー・エインフォルク!」

「やっと呼ばれたか」

「よろしくね」

「って、クルルシファーさんも、新王国の代表で出るんですか!?」

「ん、知らないのか?規定では留学生枠ってのがあるらしいぜ」

「まあそれでも、ユミルが同盟国であることもそうだし、特別な許可をもらう必要はあったけれどね」

 

ルクスの驚いたという反応に対して二人は何のことはないといった口調で淡々と返した。

 

「それで、向こうはどういう理由で納得してくれたの?」

「私の婚約者がいる学園の代表という事で、ことを収めてくれたそうよ。アルテリーゼには感謝しないとね」

「てことは、俺。ついに、ユミル教国にもそう認識されたってことなのね」

「ええ」

 

彼女のいつもの微笑みに蓮はわざとらしく肩をすくめる。

ルクスはと言うと、2人の雰囲気を出し始めた二人を視界から外してライグリィ教官の読み上げに意識を向けていたとさ。

 

その後も発表が続けられ、最後の代表が発表された。

 

「最後に――ルクス・アーカディア」

 

最後にルクスの名前が呼ばれたとき、演習場内にいる生徒たちがどよめいた。

読み上げられたルクス本人でさえ「え?」という表情をしている中、セリスが壇上に立つ。

それだけで喧騒は収まり、視線が集まる。これも彼女の持つリーダー性の賜だろう。

 

「私は皆にあやまらなければならないことがあります。

私は常に最善を希求し続け、そのために行動していました。それが私の務めであり、為すべきことだと――」

 

雰囲気と声音こそいつものセリスだったが、少しだけ俯かせた顔が彼女の中で大きなことがあったのだと感じさせる。

 

「私が痛感したのは、自分の未熟さと至らなさです。終焉神獣の存在に気づくこともできず、信用していたパートナーが他国のスパイであったことを見抜けなかったこともそうです。

 私は四大貴族の血統として、『騎士団(シヴァレス)』の団長としても、相応しくないのかもしれません」

 

それでも彼女は顔を上げる。自分がこの戦いの中で何を得たのか、どうしていきたいかを訴えるために。

 

「だから、誰かの助けをほしいと思いました。他でもない学園の仲間であるあなた達に、助けてほしいと。そして、この学園を救うために戦ってくれた彼らにも」

 

セリスはそこでいったん言葉を切って、演習場を見回す。

そして蓮とルクスの姿を見つけるとその一転に視線を固定し、背筋を伸ばして、静かな美容を浮かべた。

 

「レン・フェルテ。私一人でできることはたかが知れていると、終焉神獣を一人で倒そうと考えるのはただの蛮勇だ、と教えてくれたのはあなたでしたね。殴られたのはいつぶりだったでしょうか」

 

「そして、ルクス・アーカディア。今回の勝負において、私の敗北を認め、あなたの願いを聞き入れます。私に協力してくれますか?」

 

蓮とルクスはセリスの視線に気づき、しっかりと頷く。

 

「もう一つ、私から、お願いです。これからの校外対抗戦で、あなた達の力を貸していただけませんか?」

 

三年生を含めた女子生徒たちが驚きの声を上げる。

今まで「最強」を守り続けてきた彼女が「敗北」を宣言したこと、「男嫌い」であるはずの彼女が男である二人を認め、助力を求めたこと。

 

そんな衝撃の出来事に揺れる少女たち。

その視線の先で蓮とルクスは――

 

「その願い、確かに受け取りましたよ。セリス先輩」

「はい。僕からもよろしくお願いします。セリス先輩」

 

蓮はクルルシファーのように余裕を感じさせるような笑みで、ルクスは親しみを込めた笑みで答える。

周囲の女子生徒たちは一度、静まり返った後、大歓声を上げた。

口々に喜びの言葉を言う一・二年生もいれば、セリスが認めたことに驚きを表す三年生もいた。ある意味で、学園の転換を決めた重大発表が、みんなに受け入れられた瞬間だった。

 

「――それと、ルクスは、私に男性のいろいろなことを教えてくれると約束してくれました。これも、後で皆に報告させていただきます」

 

しかし、その感動も次にセリスが口にした言葉で全く違う方向に波紋を広げることとなった。

聞こえてくる声の中に「あ、ああゆうお話かしら?」とか、「男嫌いが治ったのって、まさか――」とか、「そ、そんなわけないわよ!きっと勘違いよ!」と叫ぶ女子まであらわれた。側でそのセリフを聞いたライグリィ教官に至っては「やってしまったか……」と言わんばかりのため息をついていた。

慌てて弁明しようとするルクスの周囲に詰めかけるリーシャをはじめとした女子達。気づけばその中にフィルフィの姿もあり、その点だけは意外だった

囲まれる直前にルクスは蓮と目が合ったが、蓮は満面の笑みを浮かべて手を振った。つまり、助け舟は出さないと言うことだ。

 

「やっぱりフラグ建築していたか、ルクスのやつ。つーか、自分の言葉の意味がみんなにどう取られているか分かってないだろ、あの先輩」

「だから言ったでしょう、不器用なだけだって」

「あのなぁ……。あの様子だと、男嫌いって言うより、接し方が分からなくて避けていたら曲解されただけだろうな。さて、ルクスはちゃんと教育できるかな」

「どうかしらね。――せっかくだし、あなたが私に教えてくれないかしら?」

 

恋人の爆弾発言に蓮はすぐに言葉を返さなかった。けれど、その沈黙は答えに窮したというより、言ってしまうべきかを悩んでいるようにクルルシファーは感じた。

数秒の沈黙を経て、蓮は口を開いた。

 

「……この前も言っただろ、まだ終わってないことがあるんだ。少なくとも一つ。それが終わらない限り、俺は君に手を出さないよ」

「その一つが何かは、教えてくれないのね」

「ああ。こればっかりはな」

 

真剣なまなざしで聞いてくる彼女にはっきり「否」と答える。

クルルシファーはそれ以上、何も聞かなかった。聞かれても答える気はない蓮の様子に諦めたからだ。

 

(近い内に、行く必要があるかな……)

 

そして蓮は一つの決意を固めた。

 

 






次話からいよいよ4巻ですね。

かなり難産していますが、何とか更新ペースを保ちたいですねぇ。


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