最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第20話

 

「わりぃ。勝ち切れなかったわ」

 

学生寮内にある自室で目を覚ました蓮は開口一番、側にいた少女にそう謝った。

 

「そうじゃないでしょ。選抜戦と言っても模擬戦なのよ?」

 

返答は呆れ半分、安心半分の声音だった。

側にいたのは蒼く長い髪が特徴的なクルルシファー。

 

セリスとの試合後、《ヴリトラ》を解除して控室まで戻った蓮は椅子に座るなり、意識を手放した。そこにルクスやクルルシファー、リーシャ、フィルフィ、ノクト、ティルファー、アイリといった面々が迎えに来た。

椅子に座って眠りこけている蓮に全員が苦笑を浮かべながら、ルクスが背負って蓮の部屋まで運んだ(身長差ゆえ、かなりつらそうに歩いていたルクスであった)。そのあとは「今日はゆっくりさせとくか」という一致を経て、解散。クルルシファーだけが後で蓮の部屋に戻ってきたという経緯で、今に至る。

 

「のど乾いたでしょう?はい、お水」

「ありがと。何もない部屋で済まん」

「あら、そんなことないわよ。レンが寝ている間にこんなの見つけちゃったし」

 

そう言ってクルルシファーが手に取ったのは青いA4サイズのノートだった。

蓮の顔面に冷や汗が垂れる。そう、あのノートは蓮が前の世界で書いていた好きな楽曲の歌詞ノートだった。しかも背表紙とかめっさボロボロのやつ(随分とボロボロになっていたので、別の紙に中身はコピー済み。つまり、クルルシファーが今持っているのは原本である)。

 

「見ました?」

「ええ。今に比べると――」

「字が汚いのは自覚しています。――だから見せたくなかったんだよ」

「そうね、今と比べたら天地の差ね」

 

きっぱりと言われた蓮は「ぐふぅ!」とわざわざ口にして、胸を押さえるようにうずくまる。まあ、すぐに顔を持ちあげたが。

 

「容赦ないな~。頼むから負けた罰ゲームに「一曲歌ってもらいましょうか?全員の前で」とかって…はい?」

「冗談よ」

「たちが悪いわ」

 

いつものようなやり取りにお互いに軽く笑い合って、クルルシファーは手に持ったノートを机の上に戻し、部屋のドアノブに手を掛ける前に蓮の方に振り向いた。

 

「後で、一緒に寝てあげましょうか?」

「それは魅力的な誘いだけど、やめとくわ。眠れる気がしない」

「あらそう、残念」

 

冗談とも本気ともとれる顔で言われて蓮は内心ドキドキしていた。

クルルシファー本人はからかい100%のつもりで言ったのだが。

 

「さて、飯食いに行くか。どうせ食べてないんだろ?」

「ええ。でもあなたは疲れているでしょう?」

「……人がいなかったらな」

 

蓮は腰を浮かせ、面白くないと表情に出したクルルシファーと共に部屋を出て食堂に向かう。

その後の食堂では、人目も気にせずに迫ってきたクルルシファーに蓮があたふたしながらも口を開く光景が広がり、一部の生徒がブラックコーヒーを求めたとか。

 

 

 

「お前たち!いま、私たちと三年生の点差は10点ついている。だが、最後まで気を抜くな!――さあ、勝つぞ!」

 

リーシャが最後にそうまとめ、クラスの生徒の歓声が上がる。

昨日の最終戦で蓮がセリスに敗れたが、昨日行われた試合の大半は一、二年生側が取った。その結果、点差は逆転、貯金は10まで広がった。

今日の試合数こそ少ないものの、油断はならない。

おまけに、今日の午後一でルクスとフィルフィのペアはセリスと対戦することになった。その試合が始まるころには大勢が決しているかもしれないが、重要であることに変わらない。

 

「いや~すまん。参考にならない試合で」

「そんなことないよ、だいぶクセは掴めたから。すこしはまともに戦えるよ」

「それにしても驚いたわね。あなたの無茶は」

「だって、そうでもしないと勝てないと思ったんだもん」

 

リーシャとクラスメイトの輪から少し離れたところで蓮、クルルシファー、ルクス、フィルフィ(バ〇ムクーヘンを食べている)の4人は話していた。

 

「まさか、流れて欲しくない場所にエネルギーの膜を作っていたとはね。しかも、()()()()()()

 

武装を握る装甲腕と推進装置、脚部の装甲に蓮は常にエネルギーの膜を張っていた。結果として

雷光穿槍(ライトニングランス)》の電撃は膜の上を滑るように空中に逃がされていたのだ。

 

蓮が状況的勝利を手にしていたのにもかかわらず、降伏した理由――つまりはガス欠。最後に

支配者の神域(ディバイン・ゲート)》を使ったところまでで精一杯。あれ以上はキツかった。

 

「まあ、よく持ったと思うし、よくばれなかったよ。あんな作戦」

「そうね。まったくもってその通りね。さぁ、次はルクス君の番ね」

「う、うん」

 

唐突な話題転換にルクスはぎこちなく答える。

話題は今日のルクスとセリスの直接対決へ。

 

「たぶんだが、セリス先輩のパートナーはシャリス先輩だと思う。現状残っているメンバーで戦えるのはあの人だけだろうし」

「うん。基本的には僕がシャリス先輩、フィルフィがセリス先輩と戦う構図になると思う。でも、あまり無茶はしないでね。フィルフィ」

 

ルクスのこの気遣いはフィルフィの性格を思ってのことだった。

フィルフィは普段こそぼーっとしているが、自分で決めたことは意地でも譲らない質で、セリスとの戦いで無茶をして怪我等をして欲しくないというのがルクスの意思表示だったのだが

 

「うん。だいじょうぶだよ。がんばろ、ルーちゃん」

 

ほんのわずかに笑みを浮かべて少女は即答した。

そんな幼馴染みの様子にルクスは苦笑するしかなかった。

 

「そういえば、ルクス。なんか面白いことをしていたみたいじゃないか?」

 

だから、蓮はこのタイミングで茶々を入れる。

 

「え?」

「もしセリス先輩に負けたら、丸一日――ルノになってもらうからな?」

「ちょっ!?なんでそれ知ってんの!?」

「いやあ、ティルファーから(有料の)口コミで聞いたんだ。ルクスが女装して、ルノって名乗って、セリス先輩とデートみたいなのをしていたってさ。で、それがやけに似合っていたというんだから見なきゃ損だろ?」

「ちょっ、ティルファー!?」

 

ルクスは元凶の一人であるティルファーに体ごと振り返るが、ティルファーは「イェーイ」と言わんがごとく、笑顔+ピースという対応をした。

続いてルクスの視線はクルルシファーの方にも向いた。

 

「もしかして……」

「ええ。私は見たわよ。すごく似合っていたわね」

「なんだよ、それならそうと教えてくれればよかったのに」

「………(ズーン)」

 

幸いにしてクラスメイトのほとんどには聞こえていなかった。

 

「ルーちゃん、そろそろ、行こ?」

「う、うん。ありがと、フィーちゃん」

 

あいかわらずぼーっと蓮とルクス達のやり取りを見ていたフィルフィがルクスを促す。ルクスはそれで気分を切り替えたのか、沈んだ表情を引っ込めて教室を出て行こうとする。

 

「おい、ルクス!天然娘!セリスを倒して来い!」

 

リーシャがそう叫ぶと他のクラスメイトも次々に応援の言葉を掛けていく。

 

「勝って来い、2人とも」

「がんばってね、彼のかたき討ちは任せたわ」

 

「うん。いってきます」

 

蓮とクルルシファーにそう答えてルクスはフィルフィと一緒に教室を出て行った。

 

 

 





短いですが、ここまでです。

次話からルクス・フィルフィペア対セリス・シャリスペアです。


あと、投稿が遅れて申し訳ありません。次話はいつも通り土日のうちにあげる予定ですので、少々お待ちをと。


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