最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第19話

 

「やっぱり、厳しそうね」

「うん。直撃こそまだないけど、相当に戦いにくそうだよ」

 

蓮とセリスの戦いが始まってわずかに2分。

しかし、その2分は濃く、幾度もの交錯があった。

蓮は基本的に《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》と《狂竜乱哮(カオス・リフレクト)》の遠距離攻撃をメインに戦う位置取りをしようとしているが、セリスは《狂竜乱哮(カオス・リフレクト)》のクリスタル自体を潰しに来ているため、所々で接近戦をしなければならない。

その度に雷閃が襲い掛かる。直撃こそないものの、幾度か浴びた電撃が確実に削っているはずだ。

 

「今はまだ誤魔化せているが、そろそろ危険だな」

「Yes.最初に出したクリスタルも5つすべて墜ちています。そしておそらく、そろそろ決めに来るかもしれません」

 

ノクトが心配そうに見上げる。

周囲にいるクラスメイト達も苦戦する蓮を心配そうに見つめている。

そして、戦況は大きく動き出す。

 

《リンドヴルム》から光が広がった。

 

 

 

(チッ……、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》なしでこの機動かよ。さて、そろそろ仕掛けてくれるかな)

 

演習場内を飛び回りながら特殊武装による遠距離攻撃を行う蓮だが、牽制以上の効果はなかった。《狂竜乱哮(カオス・リフレクト)》を使った偏向射撃(フレキシブル)も試しているが、「どこに目がついてんだよ!」とツッコみたくなるぐらいに避けられていた。

 

「やれやれ、本気で困ったな。これは」

「冗談はやめなさい。本気で倒しに来ていないでしょう、あなたは」

「まあ、バレますよね」

 

とはいえ、ここまではお互いに手の内を探っていた場面。

以前のリーシャ戦と同様に戦う蓮だが、セリスとの戦いは予想以上に精神がすり減っていく。

もう、これ以上は危険だ。

 

「行くぞ、学園最強。ヘコませてやる」

「本気、というわけですか。ならば、私も本気であなたを倒します」

 

直後、《リンドヴルム》から光が広がり、光の結界が演習場全体を覆う。

 

「行きます」

 

瞬間、呟いたセリスが消える。神装《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》による高速転送。

それを見た生徒のほとんどは《雷光穿槍(ライトニングランス)》による雷閃の直撃を受ける蓮を予想した。

だが、次に響いたのは武器同士がぶつかる金属音だった。

 

「――ッ!」

 

電撃を浴び、すぐに距離を取る。

 

「なぜ、私が左から攻撃することが分かったんですか?」

「その能力を使われて一番恐ろしいのは絶対の死角である背後に回られること。だからこそ、そこを最警戒するのが心理だ。だから外してくると思った。あとは、左の方をわざわざ空ける構えを取ったから」

 

先日のリーシャ戦でセリスは《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》が接続されていた右側をほとんど狙わなかった。考えられるとすれば、防がれるのを嫌ったと言う事。

 

「君の体力は聞いている。が、神装という消費の激しい代物を使うのなら、確実性を取ると思った」

「………」

「この前の戦いを見たところ、瞬間移動後の位置は左か背後の二択。右はリーシャ様の利き腕かつ《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》が接続されていた。防がれるのを嫌ったんだろ?

だから、わざと攻撃しやすい場所を作った」

「そんなものは賭けでもありません。一歩間違えれば――」

「一発でアウトだっただろうな」

 

セリスの指摘に蓮は大きく肩をすくめる。

そして、あの名を呟く。

 

「《深怨の再臨(フェアシェプレヒェン・カタストローフェ)》」

 

《ヴリトラ》の神装。相手の神装をコピーするその神装は何も起こさない。現実に起こるのは紫の光が瞬くことのみ。

コピーして、ストックする。そしてストックされた神装は一度だけ発動できる。

この神装について知っているのは学園内ではルクスとクルルシファーのみ。

 

だからセリスが警戒して動きを止めたのも無理はない。

 

「……っ!」

「知らないっていうのは怖いだろ?」

 

急加速で接近し、武器を落としに手首を狙った左の刃をセリスはすんでのところで回避。

即座に槍を振るい、穂先から電撃を放つ。対する蓮は右の刃から放ったエネルギー刃で迎撃。

 

「一斉射出!」

 

特殊武装《狂竜乱哮(カオス・リフレクト)》のクリスタルで残っていた15個を全て解き放ち、一転、攻勢に出る蓮。

次々と刃を振るってはそのエネルギー刃がクリスタルを経由してセリスに迫る。さしものセリスであっても冒頭の5個からいきなり三倍に増えたクリスタルによる偏向射撃(フレキシブル)には対応しきれない。

 

「――っ。やりますね」

「そりゃどう――もっ!」

 

支配者の神域(ディバイン・ゲート)》で《ヴリトラ》の背後に現れた《リンドヴルム》がその巨大な槍を突き出す。

蓮は真上に少しだけ上空に飛んで躱しながら反転、電撃のダメージも顧みずにその槍を踏みつけてセリスのバランスを崩しにかかると同時に双剣を上段から振り下ろす。セリスは中型のブレードを逆手で抜刀し、振り下ろされた双剣を受け止める。

受け止められたのを見た蓮はすぐに後退、セリスはひびの入ってしまったブレードを即座に破棄、下がった蓮にダガー三本を投擲して追撃。

 

(来るかッ!)

 

セリス一人による《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》の高速転送を利用した二方向同時攻撃――重撃を予感する。後退をやめ、前方から迫るダガーを直接払い落とす。

読んでいたかのごとく、瞬時にセリスが《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》で《ヴリトラ》の背後に現れる。そしてそのまま電撃を帯びた突きを繰り出す。

 

(回避は無理かッ!)

 

直感的にそれを察した蓮は《ヴリトラ》の機体をわずかに倒して、推進装置を砕かれるのを何とか防ぐ。しかし、穂先が触れた場所から流れた電撃が蓮の体を流れる。

それでも逆手に持った《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の右の刃を地表に向けて振るい、《狂竜乱哮(カオス・リフレクト)》による反射でセリスの追撃を防ぐ。

そのまま蓮は上空へ全速力で逃げ、再び両者の距離が開く。

 

「今ので、決めきれませんでしたか……。お見事です。ですが、私も負けるわけにはいきません。あなたがそうでなくても、まだこの国には女性を虐げ続ける男がいます。私は彼女たちの盾となり、剣となって戦わねばなりません」

「ま~た、そんな理屈か。いい加減、聞き飽きたわ。つーかアホだろ、あんた」

 

セリスの再びの拒絶ともとれる発言に蓮は苦笑を通り越して呆れた。

そのまま大きく息を吸う。

 

「ふぅー。仕方ない。一人で背負おうとして失敗する人は多いんだがなぁ。――そろそろ俺一人では限界だな。()()()()()()()()()()()

 

そう言って蓮は目をつぶる。

 

(こうべ)を垂れろ――《天声(スプレッシャー)》」

 

蓮が呟いた瞬間、《ヴリトラ》が紫の光を放つ。一拍遅れてセリスは《リンドヴルム》ごと地面にたたきつけられた。

 

「こ、これはっ!?なぜ――ッ!?」

「移動しないとやられるぜ?」

「くっ!」

 

聞こえた蓮の声が近い。

セリスは迷うことなく《支配者の神域》でその場を離れる。が、転送先でも同様に重力の負荷がかかり、少しずつ降下していく。

地面を蹴って再びセリスに迫る蓮。

 

「《天声(スプレッシャー)》―解除。続いて《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》……ッ」

 

再び《ヴリトラ》から紫の光が放たれる。

突然、自分の体にかかっていた重力負荷が消えたセリスは困惑を覚えながらも回避は難しいと判断し《雷光穿槍(ライトニングランス)》、の放電攻撃で蓮を牽制、脱出を図る。

 

が、未来予知をした蓮にとってそんなものは意味をなさない。

 

「――!?」

「魔人剣!――なんつってな」

 

迫る電撃を最小の動きで完全回避し、放ったエネルギー刃がついに直撃する。

《ヴリトラ》の加速度を上げ、動きを止めたセリスに次は《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の実体刃が迫る。セリスは第一撃を槍で受け止める。電撃が《ヴリトラ》の装甲を走るが、気にするそぶりも見せずに次々と双剣を振るう。

その刃を槍で受ける度に機竜の機能低下をもたらす電撃が流れているはずだが、蓮の攻撃速度はわずかに鈍る程度だった。このままではジリ貧になると感じたセリスは《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》で移動して大きく距離を開けた。

だが、蓮もこの好機を逃すまいと追いすがる。

 

 

 

さっきまでと打って変わって、蓮の方が一方的に攻めることになったことに観客からざわめきが広がる。

 

「もしかして、今はレン君の方が優勢だったりするの?」

「そんな、あのセリス団長が押されているの!?」

「それよりさっきセリス先輩が地面に落とされたのってお姫様の神装じゃない!?」

「そんなわけないでしょ!別物に決まっているじゃない!」

 

形勢の逆転が半分、逆転のきっかけとなった攻撃がもう半分。

聞こえてくる声の内容はこれらが大半だった。

そしてそれは、クルルシファーやルクスたちが座る観客席の一角でも同様だった。

 

「……っ!?今のは私の《天声(スプレッシャー)》じゃないか!?どういうことだ、ルクス!?」

「それだけじゃありません。レンさんはセリス先輩の攻撃を完璧に躱していました。まるで――いえ、それこそ《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》を使って未来予知をしたかのように…!」

 

リーシャやアイリ、他にもノクトやティルファー、表情こそいつも通りのフィルフィも事情を知っているだろうルクスとクルルシファーに顔を近づける。

最初に口を開いたのはクルルシファーだった。

 

「彼の――《ヴリトラ》の神装の名前は《深怨の再臨(フェアシェプレヒェン・カタストローフェ)》。その能力を簡潔に一言で表すなら『相手の神装をコピーする』能力よ」

「なっ!?そんな神装って――」

「存在するのよ。私と彼が以前戦ったバルゼリッド卿の《アジ・ダハーカ》の神装《千の魔術(アヴェスタ)》は機竜のエネルギーから特殊武装、神装まで奪う恐ろしい能力だったわ。《ヴリトラ》の神装はただコピーするだけだから、考えようによってはかなりマシよ」

「ですが、それができたとしても複数の神装が使える理由は一体?」

「《ヴリトラ》の神装はコピーした神装を計7つまでストックとして貯めておける。ストックしていた神装は一度使ってしまうと使用不能になるけど、再びコピーすることで補充ができる。ただし、使用とコピーはどちらも一つの神装に対して一日一回しかできないんだ」

 

その後もクルルシファーとルクスが出てくる疑問の一つ一つに答えていく。

 

「おおよその能力はわかった。だが、条件は何だ?《千の魔術(アヴェスタ)》とやらも神装を奪うのに関しては直接触れる必要があったのだろう?」

「簡単よ。相手の神装が発動中にこの神装を発動すること、たったそれだけ。セリス先輩が神装を発動した時に紫の光が一瞬だけ見えたでしょう?」

「あの時か。だが、《天声(スプレッシャー)》は一体いつ……」

「あなたがルクス君と練習しているときにこっそりとしたらしいわよ、彼」

 

クルルシファーの暴露にリーシャの顔が真っ赤に茹で上がった。

そして顔を俯かせながら「み、見られ……」とブツブツと呟き始める。リーシャとの練習を蓮が見ていたのをルクスは気づいていたが、気にしていなかったというのは余談。

そんな中、ティルファーが別の疑問を出した。

 

「でもさ、おかしくない?それだとセリス先輩の雷閃は防げないと思うんだけど?」

「確かにそうですね」

「Yes. 確かに、レンさんは先程からあれだけの電撃を受けているのに動作がそんなに鈍っていませんね」

 

アイリとノクトも同様に問いかけた。

しかし、この疑問に関してはルクスもクルルシファーも即答できなかった。

 

「それは、レンに聞かないと……。クルルシファーさんは?」

「私に聞かれても困るわ……。お姫様はどうかしら?」

「おい、私に振るのか!?」

 

結局わからずじまいで、演習場から響いた爆音にルクス達の意識は行われている戦いに再び向くことになった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…。そう簡単に、負けてはくれないか」

「はぁ…。そう思うのであれば、降伏してはどうなんですか?」

「言っただろ、ヘコませるってさ。さて、そろそろお互いに体力も限界だろ、決着といこうじゃないか」

 

幾度目かの降伏勧告をやはり蓮は蹴り飛ばす。

お互いに肩で息をしていて、決着が近いことは誰の目にも明らかだった。

 

(まだだ…まだ、使う時じゃない。それにしても……うるさい)

 

先の攻防ぐらいから《ヴリトラ》のテンションが上がっているような気がする。

なんか「ぬるいぬるい!」とか「その程度の電撃などで我がひるむかぁ!」とか、今までにないぐらいに――というかキャラ崩壊のレベル――トリップしてるのだが……。

 

(おい、さっきからうるさい。少し黙ってろ)

(ム…すまぬ。抑えよう)

 

コイツ、本当は堅い口調が苦手なのか?

 

まあ、後回しにしよう。蓮は考えるのをやめ、正面のセリスを見据える。

セリスもまた観客席のルクス達や蓮と同様のことに悩みかけるが、そんなものは即座に思考から排除していた。

 

(どういう理由かわかりませんが、彼に電撃はそこまで意味がありませんね。反射の特殊武装も厄介です。ですが、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》の維持もそろそろ限界ですね)

 

校内選抜戦での模擬戦には通常の模擬戦と同じように制限時間がある。が、その時間は長く設定されているため、かつてない程に《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》を多用し続けているせいでセリスの体力にも影が濃くなってきた。

 

((おそらく、次が最後))

 

「行きますよ。レン・フェルテ」

「……行くぞ―ッ」

 

言葉を口にしたのはセリスが先だったが、先に動いたのは蓮。《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の左の切っ先にエネルギーを集め始める。

ほんの少し遅れてセリスも動く。ダガー三本を正面に投げ、《雷光穿槍(ライトニングランス)》の腹でその柄を叩く。打ち込まれたダガーには雷閃同様に電撃の輝きを纏っていた。

同時に《リンドヴルム》の周囲に光の輪が顕れる。

 

(防がせるのが狙いか!?)

 

蓮はダガーの軌道から外れるように上昇する。

背後は《ヴリトラ》の手伝いもあって幾度も防いできた。蓮は左右を警戒する。

 

だが、セリスと《リンドヴルム》の姿は現れない。

 

(どうい――しまったッ!?)

 

蓮がセリスの狙いに気づき、下に視線を向ける。

同時にそれが正解であると告げるように《リンドヴルム》の左肩から伸びた砲身が一つの光弾を放つ。

 

《リンドヴルム》の特殊武装《星光爆破(スターライト・ゼロ)》の光弾、「星」と呼ばれる半径300mlを殲滅する爆弾だった。

 

「―――――」

 

数秒後、閃光と爆風が演習場内を覆い尽くした。

 

「………」

 

地表に降りたセリスは依然と厳しい顔で爆心地であった一点を見つめる。

煙が晴れるのを待つ中、蓮の声が聞こえた。

 

「――()()()()、とどめに使ってくれるよね。《星光爆破(スターライト・ゼロ)》を」

 

あろうことか、セリスの頭上から。

 

「っ!?」

 

気付けば自分の周囲が不自然に暗くなっていた。続いて襲ったのは頭を強く揺らす衝撃。

蓮はいきなりセリスの頭上に現れ、頭をガードするように張られた《リンドヴルム》の障壁を腰のひねりを加えて、全力で()()()()()

もちろん、観客席からはいろんな視線を向けられたが気にしない。

 

「どうして無傷でいるのかって?答えは簡単、周りの色を見て見ろ」

「これは……」

 

背の推進装置に切っ先がつきつけられていることを察し、セリスは顔だけを後ろに向けた。

そして蓮の言葉を聞いて、セリスが周囲を見渡す。

 

色が、混ざっていた。紫の光が《リンドヴルム》の展開した光の結界の色に。

 

「《深怨の再臨(フェアシェプレヒェン・カタストローフェ)》。《ヴリトラ》の神装であるこの能力を簡単に言えば、『神装をコピーする』こと。つまり――」

「私の特殊武装が爆発する直前にコピーした《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》を発動。その能力で頭上に転移した、と言う事ですか」

「正解。正直なところ、俺一人では無理だったな。今日のこの戦いだってみんなが協力してくれたおかげだし、選抜戦だってそうだ。ということで、覚えておけ―― 一人でできることなんてたかが知れてる、まして未知で、強敵だと言うことが分かり切っている相手と戦うっていうのに誰の協力も得ずに一人で挑もうって言うのは――」

 

「英雄の名声なり手柄なりが欲しくて、一人で勝手に突っ込む蛮勇を犯し、あっさり即退場のモブキャラに近い」

 

そうきっぱりと言い放った蓮はいまだに何を言われたのか分かっていないセリスが纏う《リンドヴルム》の推進装置に突き立てていた刃を引き、両手に持つ双剣の切っ先を大地に突き立て、くるりと背を向けた。

そして観客席にも伝わるように両手を挙げて、告げた。

 

「さて、これで見た感じは俺の勝ちだろ。ってことで――はい、降参」

 

次の瞬間に響いた絶叫は容易に予想できるであろう。

 





こういう形にまとめました。

やっぱり、戦闘描写って難しい。
精進します。


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