最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第18話

 

「ふぅむ……。どうにも困ったな」

 

一日目の試合がすべて終わり、自室に戻っていた蓮は自分の試合の反省点を思うよりも先にセリスの試合を思い浮かべていた。

 

リーシャが千載一遇のチャンスをつかんだあの瞬間に瞬いた光が何であるか、目的は何であるかをあの場にいた蓮とルクス、クルルシファー、フィルフィは理解していた。

 

光はセリスの《雷光穿槍(ライトニングランス)》から放たれた雷閃の輝き。自身を攻撃し、リーシャの《ティアマト》に電撃を流すことで拘束を弱めて脱出した。それもおそらく、最大に近い出力で。

それだけじゃない、あれには接近しつつあったティルファーへの目眩ましも兼ねていた。

 

(予想外の攻撃にもわずか数秒で最善の策を導き出し、実行する。定石を崩す奇策も通用しないだろうな――というより、むしろそれ自体が完全な悪手だ)

 

奇策は定石に強いが、その逆もまた真である。RPGとかで「光属性は闇属性に強い。闇属性は光属性に強い」っていう強弱関係がそれだ。

だが、彼女の場合は「光属性は闇属性に強い」という一方的な関係しか存在しない。

 

加えて、もう一つの特殊武装である《星光爆破(スターライト・ゼロ)》も問題だ。なによ、あのC4よろしくの威力は。威力範囲も半径300mlとか、バカじゃないの?

 

総合的に考えても《リンドヴルム》はかなりのバケモノ性能。おまけに使い手の技量も群を抜いているというのだから反則級の組み合わせだ。

 

「真正面からぶつかるしかないけど、人間にとって絶対の死角となる背後も瞬間移動で取られちまう以上、厳しい。いくつかのバリエーションもシャリス先輩や他の三年生に見られているからな~」

 

頭の後ろで腕を組みながら何度も脳内シミュレーションをする。が、どれもこれも《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》でオダブツ。

 

「やっぱり、サニア先輩をさっさと倒して二対一がベスト……か。ゴリ押し感半端ねぇわな~――心が焦げ付いて~~」

 

結局最後はそんなことを呟きながらメロディーを口ずさみ始める蓮であった。

 

 

 

「あの~、すみません。何でみんなはこんなにも複雑な目を向けているのかな?」

 

二日目、三日目と順調に進み、今日は四日目。

初日の終了時点では一、二年生22対三年生33と差が開いていたが、二日目にルクスが個人戦で三年生最強のセリスのペアパートナーだったサニアを『極撃』という新たな離れ業を使って勝利したことで流れが変わった。現在では72対78と迫っており、今日の結果如何によっては逆転も見えてくる。

昨日の夜の時点ではみんな「逆転だ」なんだのと盛り上がっていたのに、一晩明ければその視線は期待と心配が入り混じった視線。それも心配に大分偏ったものだ。

とりあえず、蓮は事情を知っているであろうクルルシファーに声を掛けた。

 

「なに、この空気――というか視線は?」

「対戦表を見て来なかったのね。レン君、今日の最終戦でセリス先輩と当たるわよ」

「へぇ、それは、きっついな……」

「それともう一つ、私は出られないから」

「は――?……おいおい、待て待て待て。よりにもよって個人戦?しかも最後かよ」

 

蓮が事情を理解すると同時にクラスメイトの表情にまた影が差す。

今日、蓮がする試合数はペアで二戦、個人で二戦の計4回。試合順はペ、ペ、個、個の順で、その最後に蓮はセリスと当たることになる。

 

「どのみち当たることになるなら、最初が良かったなぁ」

「とりあえず、今日のペア戦は私が前で戦うわ。体力は温存しておかないとセリス先輩には勝てないでしょうから」

「助かります。さて、じゃあ俺は《ヴリトラ》の調整でもするかな」

 

蓮は「んじゃ、今日も頑張っていこうか」と選抜戦が始まってから毎朝口にしている言葉に「さあ、今日で逆転だ」と付け足して教室を出て行った。

最初こそ驚いていた蓮だったが、結局最後はいつもと変わらない姿勢を取った。そんな蓮を見て、仲間たちの表情から影は消え――

 

(なんか心配していたのが馬鹿らしくなっちゃった)

 

却って、そんなことをみんなが考えていた。

「相手がセリス先輩だろうがなんだろうが、自分のすることは変わらない」という蓮の意思をその姿勢から感じたからだ。

 

(私たちが心配し過ぎて不安を持たせちゃったらダメだ)

 

変わらない姿勢というのは時に言葉よりも周囲を落ち着かせる力を持つ。

クラスの仲間たちの不安や心配は消え、最後にリーシャが鼓舞して再び「逆転だ」なんだのと口々に言っていた昨日の夜のテンションに戻った。

 

「負けないでね」

 

クルルシファーはこの場にいない自分の思い人の背を思い浮かべながら、誰にも聞こえないように小さな声でそっと呟いた。

 

 

 

今日行われる4試合の内3試合を全て勝利で終え、最終戦を控えた蓮は演習場の控室に向かう廊下で立ち止まった、

クルルシファーやルクスをはじめとした仲間たちにはすでに観客席に向かっている。

いつもならそのまま控室に直行するが、今日は先客がいた。

 

「今日はよろしくお願いします。セリス先輩」

「久しぶりですね、レン・フェルテ」

 

いたのは対戦相手であるはずのセリスティア・ラルグリスだった。

どうして試合前に対戦相手の控室前にいるのかと普通は疑問に思うが、蓮にとってはある程度予想していたことだった。

 

「まあ確かに、こうして顔を合わせるのは学園長室での一件以来ですね」

「ええ。そして、あなたはすでに私が今ここにいる理由が分かっているでしょう?」

「最後通告のつもりですか?降伏しなければ容赦なく叩き潰す――わざわざそんなことをこんな場所に来てまで言いに来るとはね」

「解っているなら降伏して、この学園から去ってください。あなたでは私に勝てません」

 

呑み込むような強烈なプレッシャーを掛けてくるセリスを前に蓮は縮こまるどころか、逆に呑み込もうと冷笑を浮かべる。

 

「やれやれ、『勝てません』と来たか。確かに、あんたの《リンドヴルム》だけでも相当に厄介なのに、使用者本人の技能も抜きん出ている。あんたに勝てる機竜使いは世界にも数人ぐらいしかいないかもしれない。ならば、戦わないという選択肢が安全かもしれない。けど――」

 

両手を大きく広げ、言った。

 

「あえて言わせてもらおう――だが、断る。と」

「――ッ!?」

「なんで当てが外れたって顔をするのかねぇ。言っとくが、賽はもう投げられたんだ。なら、そんな妥協はしない。

それに、こんな時に逃げ出したりしたら、今まで頑張ってくれた仲間たちに失礼じゃないか」

 

蓮はセリスに口を挟ませる間もなく、言いたいことを言い連ねる。

そして最後に―――

 

「さぁ、勝負だ。セリスティア・ラルグリス。何でも一人でしようとしてしまうその高貴過ぎる貴族根性を粉々にしてやる」

 

《ヴリトラ》の機攻殻剣(ソードデバイス)を剣帯からわずかにのぞかせ、不敵な笑みでそう告げた。

セリスはただその場で控室に去る蓮を見送るだけだった。

 

 

 

「それでは、本日の個人戦第8試合、レン・フェルテ対、セリスティア・ラルグリスの戦いをこれより執り行う!互いに抜剣し、装甲機竜(ドラグライド)を装着せよ!」

 

ライグリィ教官の声が演習場内に響く。

周囲を見渡せば、観客席は今日の最終戦だからか、満員だった。

蓮はすでに抜剣し、機攻殻剣(ソードデバイス)を2、3度振るって、剣先を正面に向ける。

セリスは対照的に機攻殻剣の柄に手を添えているだけだった。

 

場が、静まる。

二人が詠唱符(パスコード)を唱えたのは偶然にも同時だった。

 

「――降誕せよ。幾数多の憎悪を身に宿し蛇竜。怨恨放ち雷霆を弑せ、《ヴリトラ》」

「降臨せよ。為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、《リンドヴルム》」

 

二人は機竜を纏い、開始の合図を待つ。

観客たちは今日までの試合で見てきたはずの《ヴリトラ》と《リンドヴルム》の放つ、いつもと違う威容に気圧されていた。それほどに今日の二人はいつもと違っていた。

 

「…………」

「…………」

 

開始の合図をいまかいまかと待つ。現実にはここまで1分もかかっていないが、観客の生徒たちにとってその時間は10分にも20分にも感じられた。

 

模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

ライグリィ教官の腕が振り下ろされると同時、飛翔型である神装機竜2機が上空へと飛び出す。

 

 





どうも、聖夜の夜の投稿です。


お分かりのように次話は蓮対セリス戦でございます。
まあ、結構さっぱりめに作ったので、物足りないと感じる人もいるかもしれませんがw。

さてさて、来年以降もできる限り更新ペースを落とさないように頑張ります。
では、みなさん、よいお年を!

修正点や感想等を待っています。



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