最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第17話

 

「それでは、本日より五日間、校内選抜戦を執り行う!」

 

早朝の教室でいつものように挨拶を終えると、すぐにライグリィ教官がそう声を張り上げた。

続けて今回の校内選抜戦のルールと特殊な勝負形式が説明された。

校内選抜戦用のルールは前に解説されたが、今回は蓮とルクスの在学を賭けた一、二年生と三年生の勝負である。

 

今回の特殊ルールを要約すると以下のようになる

 

・セリスの支持派である三年生とルクスと蓮の支持派である一、二年生で対戦。その結果、勝った方の要求を呑まなければならない

・選抜戦で三年生が勝てば三ポイント、一・二年生が勝てばそれぞれ一・二ポイントが加算され、その合計ポイント数で対戦結果の勝敗を付ける

・一般生徒戦と『騎士団(シヴァレス)』戦の二つに分けられる

・ルクス側の要求は「ルクスと蓮の在学」と「幻神獣(アビス)討伐任務への同行」。セリス側の要求は「ルクスと蓮の退校」と「同行拒否」とする

 

つまり、最低でも一勝――一般生徒戦と『騎士団(シヴァレス)』戦のどちらかで勝利しない限りはルクスと蓮の退校が決まってしまうという状況だった。

 

「説明は以上だ。では各自、全力を出せ」

 

説明を終えたライグリィ教官は最後にそう締めて教室を出て行った。

その姿が見えなくなるなり、教室内は生徒たちの不安の声が聞こえ始めた。

ルクスはその様相に何とも申し訳ないといった表情を見せ、謝罪の言葉を紡ごうとしたが

 

「ええい、静まれ!私たちのやることは一つだ!狼狽える必要はない、そのために全力を尽くせ!既に打てる限りの手は打っておいた」

 

しかし、それよりも前にリーシャの一喝がその場に漂っていた空気を変えた。

 

「一晩掛けてこのクラス全員の装甲機竜(ドラグライド)を、調律しておいた。これでお前たちの機竜は以前より全体の出力が上がっているはずだ。これで一応は三年生に対抗できる」

 

一晩掛けて――このあたりからリーシャの本気度が伝わる。それに応えるようにクラス内からは自信を含んだ声が聞こえ始めるようになった。

 

「良かったな、ルクス。さぁ、さっさとリーシャ様にお礼を言って来い。ごめんとかすみませんとかは言うんじゃないぞ?」

「うん、そうするよ」

 

取り残され気味だったルクスの背を押して、リーシャの所に送り出した蓮にクルルシファーが話しかける。

 

「――なかなかやるわね、彼女も」

「だな。さっきまでの重い空気はどこへやら、今じゃ軽すぎない、適度な緊張を含んだいい空気だ。後は俺達のようなエースクラスが取りこぼしたりしないようにすれば、勝ちが見えてくるだろ」

「そうね。せっかく作ってくれた空気を私たちが台無しにしては格好がつかないわ」

 

士気というものは戦いにおいていまだに重要なファクターだ。そもそもコレが欠けていては戦いになどなるはずもない、少なくとも蓮はそう考えている。

戦場において戦う意欲を失い、及び腰になったりした兵に待っているのは死のみ。指揮官の場合は指揮している部隊は崩壊、勝てるわけなどない。

 

(まあ、最上官が無能な場合は士気も何もないが)

 

――閑話休題――それから一時間後、今日の対戦相手が貼り出される。

蓮とルクス達にとって最大の懸案事項であったセリスとサニアのペアと最初に当たるのはリーシャとティルファーのペアだった。

サニアは神装機竜を持っていないため、機竜の性能だけで言えば五分であると言えるかもしれないが、数々の逸話を持つセリスに恐れを抱いていることはクラスメイト達の緊張が何よりも物語っていた。

 

 

 

「それでは、校内選抜戦Aグループ一番ペア対Bグループ三番ペアの模擬戦を開始する。互いに抜剣し、装甲機竜(ドラグライド)を装着せよ!」

 

審判を務めるライグリィ教官の声で、四人は一斉に機攻殻剣(ソードデバイス)を抜き払う。

そしてまず、ティルファーとサニアが詠唱符を唱える。ティルファーは《ワイアーム》を、サニアは《ワイバーン》を纏った。

 

「荒事はあまり得意じゃないけれど、今日だけは本気で行かせてもらうわ」

 

サニアがそう宣言すると三年生たちが固まった観客席から微かなどよめきが走る。

しかし、リーシャはそれを一笑に付して自身の機攻殻剣(ソードデバイス)を空高く掲げた。

 

「――目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。《ティアマト》!」

 

紅い機竜がリーシャの背後に現れ、すぐに無数の部品となり、高速で各部位に装着される。

その威容に三年生たちの口から不安の声が漏れるが、対峙するセリスにそんなものは微塵も存在しなかった。

 

「降臨せよ。為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、《リンドヴルム》」

 

学園最強と名高き、セリスの持つ神装機竜《リンドヴルム》。その姿を形容するのであれば、天使と言うものが相応しいのだろう。

右手には罪人を貫く突撃槍、左肩には裁きを下すかのような特殊な形状をした機竜息砲(キャノン)

 

(これが《リンドヴルム》……)

 

その名はドイツ語で「翼のあるドラゴン」を意味する。軍隊の紋章に使われ、「容赦のなさ」等の意味を持っていたという。流星や稲光はリンドヴルムが発したものだとも言われる。

 

観客席からその姿を見る蓮は身震いした。それは本能的な恐れ、強者に対するものだった。

 

「よく見ていてください、兄さん、レンさん。学園最強と呼ばれる彼女の《リンドヴルム》と、その戦術を――」

「Yes.『騎士団(シヴァレス)』に所属している私ですら、セリス団長がまともに戦う姿を見たことはありません。なぜなら、すぐに決着がついてしまっているからです」

 

アイリとノクトが呟くが、蓮とルクスには聞こえていない。すでに二人の意識はリングにたたずむ4人4機に向いていた。

 

 

 

模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

ライグリィ教官の合図と同時に全員が飛び出す。

リーシャはすぐさま《ティアマト》の特殊武装である《空挺要塞(レギオン)》四つを全てセリスに向かわせる、全て違う線を描く《空挺要塞(レギオン)》がセリスに襲い掛かる直前、その進行方向は上空へ変わる。

 

「…ッ!?狙いは私!?」

 

その先にいたのはサニアだった。気づいたサニアが障壁の出力を上げ、ブレードを構える。

その行動にリーシャは不敵な笑みを浮かべる。

 

「フッ。()()正解だ」

 

ドウンッ!と、ティルファーがサニアに向けて機竜息砲(キャノン)を放つ。サニアは直撃を避けるために回避行動をとるが、すでに退路を塞ぐように回り込んでいた《空挺要塞(レギオン)》の一つと衝突した。

それとほぼ同時、セリスは反転して自身の背後であった空間をランスで薙ぎ払う。

 

「チッ…。そう、うまくはいかないか」

 

墜ちて行く自身の特殊武装を見てリーシャが舌打ちをする。

先の四つの《空挺要塞(レギオン)》でセリスの視界を隠し、その間に別の《空挺要塞(レギオン)》を出してセリスの背後を襲わせる――背後射撃(ハイドショット)。ティルファーの機竜息砲(キャノン)はサニアが墜ちればもうけもの程度で、意識誘導の意味が強かった。

 

瞬く間の連携攻撃だった。

だが――

 

「強くなりましたね。十分、勝ちの目はありますよ」

 

穏やかで静かだが、確かな威圧感を含んだ声でセリスが告げる。

 

「ただし、相手が私でなければですが」

 

直後、《リンドヴルム》が爆発的な加速で滑翔。《ティアマト》を纏ったリーシャの眼前に現れ、突撃槍による突きを放つ。

さらに突撃槍の穂先から雷が放たれ、後方に弾かれるリーシャ。

 

「では、肩慣らしは終わりにしましょう。いいですね?二人とも」

 

 

 

「あれは――!」

「ええ、あの特大の突撃槍こそ《リンドヴルム》の特殊武装《雷光穿槍(ライトニングランス)》です。雷撃は幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)にも影響を与え、当たれば装甲を通して使用者にダメージを与え、受けた装甲や武装は十数秒もの間、動作が鈍くなってしまいます」

 

ルクスが《ティアマト》に起こった異変を感じた時、すぐさまアイリが説明する。

さらにクルルシファーが付け足すように続いた。

 

「電撃は穂先から放つこともできて、中距離攻撃も可能よ。もちろん受ければ機能の低下が起きるわ」

「電撃を帯びた彼女の攻撃をみんなは『雷閃』と呼びます。あれを使われたら、いくら兄さんと言えども、連続で防ぐのは無理です」

 

連続して攻撃を受け続けるのは不可能。

分かりやすい対策は、当たらないことだが、セリスの精錬された突きの一撃を全く受けずに躱すのはほぼ不可能。

 

「当たればダメージにオマケ付きと来たか……。昨日、クルルシファーさんから話は聞いてたけど、これなんてムリゲーだよ」

 

蓮が顔を引きつかせながら冗談めかした言い方をする。が、ルクスは黙ったままだった。

ルクスは押し黙ってどうにか対策を立てようと試合を眺めていると、ふいにセリスの視線が一点――蓮とルクスが座る観客席を向いた。

 

ほんの一瞬。だが、その意味を蓮とルクスは理解した。

 

「来ますよ。あれが彼女の本気です」

 

ヴン!

 

《リンドヴルム》が激しく輝き、その光がリング全体を覆った。

 

 

 

「やれやれだ……。どうにかこうなる前に決着を付けたかったんだがな」

 

空中を含んで演習場全体を包む光の領域を見て、リーシャがぼやく。

 

「それはいくら何でも虫が良すぎますよー、リーシャ様」

 

反応してティルファーが冷静なツッコミを苦笑しながら返すと

 

「ああ、分かっている。《ティアマト》よ!本性を顕せ!」

 

リーシャは不敵に笑って、機攻殻剣(ソードデバイス)を掲げ、叫んだ。

転送された武装――《ティアマト》のもう一つの特殊武装《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》が右腕と右肩に連結される。更に追加転送された《空挺要塞(レギオン)》、計十六機を一斉に起動させた。

 

 

 

「さあ、楽しませてもらおうか!学園最強!」

 

一斉に襲い掛かる十六機の《空挺要塞(レギオン)》を前に、セリスは冷ややかな笑みを見せ――呟いた。

 

「楽しむことなど、できるのですか?」

 

瞬間。セリスの姿はリーシャの隣にあった。

 

「……!」

 

リーシャが息を飲む刹那、繰り出される電撃を帯びた突撃槍の一突――『雷閃』。

しかしセリスは槍を途中で止め、後退した。

直後、先程までセリスがいた空間を一つの《空挺要塞(レギオン)》が猛スピードで横切った。

 

「やりますね」

「賭けは自分の金を出さなければ、始まらないだろう?」

 

リーシャは再び、計十六機の《空挺要塞(レギオン)》による攻撃を再開した。

 

 

 

「あれが《リンドヴルム》の神装、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》……」

「そうよ。あの神装は最初に広げた光の結界内にあるものを、範囲内のどこへでも高速転送できるわ」

 

間合い。それは戦いにおいて最も基礎的で、重要で、最も難しい技術。

どんなに近接戦ができても自分の攻撃が届かなければ意味がない。

どんなに射程の長い銃を使っていても、近づかれては意味がない。

そう、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》はそれ一つで間合いを完全に支配できるという暴力的な代物なのだ。

 

「群を抜く戦闘技術と機竜操作。加えて間合いを無にする神装……。となれば、一人でできちまうかもしれないな、アレが」

「ううん。彼女の腕前なら()()()()()できる」

 

蓮とルクスが言うアレ――それは今まさにセリスがしようとしていることだった。

 

 

 

「ハァ…ハァ……」

「あなたの攻撃は強力ですが、しのがれると脆いのが弱点です」

「いちいちわたしのプライドを傷つけてくれるな最強様は。わたしの攻撃をしのぎ切れるヤツが一体この世界に何人いると思っているんだ」

 

苛烈に攻め立てたリーシャだったが、全ての《空挺要塞(レギオン)》は墜ち、リーシャ自身にも目に見る疲労がたまり、体力は限界が近づいていた。

対するセリスは息切れなど、全く起こしていない。どころか、《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》による瞬間移動は最初に使って以降一度も使っていない。

 

「なら、こいつで――……っ!?」

 

リーシャが《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》を構える。

それを見たセリスは《ティアマト》に向けて三本のダガーを最小の動作で投擲、《リンドヴルム》の姿が消える。

 

「終わりです。朱の戦姫」

 

リーシャが正面に障壁を張った直後、背後に現れる《リンドヴルム》。

背後からの雷閃を受け、《ティアマト》の推進装置が砕かれる。

 

「これが、セリス姉様ひとりによる同時攻撃(クロスファイア)。わたしたちが『重撃』と呼ぶ技よ」

 

ティルファーを二丁のブレスガンで足止めするサニアが笑みを浮かべる。

蓮とルクスが言っていたアレ――複数方向からの同時攻撃(クロスファイア)

元来、装甲機竜(ドラグライド)において背後は最大の弱点にして最も対処できない場所である。

その理由は至極簡単だ。もとより、装甲機竜(ドラグライド)は背後を攻撃するようにはできておらず、急な方向転換ができないからだ。

 

「リーシャ様!」

「次はあなたですよ、ティルファー」

 

推進装置を破壊され、落下するだけと思ったセリスはリーシャに背を向け、そう呟く――そう、思ったのだ。

 

「どこへ行く気だ。お前の相手はまだここに居るぞ、最強」

「……っ!」

「さあ、共に大地を踏みしめようじゃないか。――神の名の下にひれ伏せ、《天声(スプレッシャー)》!」

 

リーシャは《ティアマト》で《リンドヴルム》に組みつき拘束。そのまま自身に重力負荷の神装を発動、高速で大地に叩きつける。

 

「――重力制御で自分にかかる重力を消し、滞空することも可能という事ですか?」

「今まではあまりうまくいってなかったが、最近になってようやくと言ったところだ。

確か、支配者の神域(ディバイン・ゲート)》で転送できる大きさには限度があったな?それは《リンドヴルム》を纏ったお前自身だ。ならばこうして組みつき、重力を掛ければ――ティルファー!」

 

肉を切らせて骨を断つ――ギリギリまで待ったこのチャンス。リーシャは見事につかみ取ったのだ。

ティルファーは《ワイアーム》の車輪を回転させ、中型のブレードを構えて《リンドヴルム》に迫る。サニアが足止めではなく、倒しに来ていたらできなかった。

リーシャとティルファーはほんの一瞬だけ勝ちを浮かべた。

 

しかし、現実はそう甘くはない。

 

バシィイイイ!

 

轟音と共に雷が《ティアマト》と《リンドヴルム》を包む。

 

「うああっ…!」

「――ッ!?」

 

「《星光爆破(スターライト・ゼロ)》」

 

次の瞬間、上空から響くセリスの声。

リーシャとティルファーが見上げた時、左肩に接続された砲身から球状の光弾が放たれる。

 

その速さは決して早くはない。

しかし、それが意味することをリーシャとティルファーは知っていた。

光弾が演習場の中央に達した時、それは歪み、爆裂した。

 

ドウッ!

 

一瞬だった。演習場の八割方を光と爆炎が埋め尽くす。

 

星光爆破(スターライト・ゼロ)》は《リンドヴルム》の持つもう一つの特殊武装。

極限まで圧縮された『星』と呼ばれるエネルギーの光弾を撃ち出し、数秒後、そこを中心とした半径三百ml内の空間を爆撃する。広域殲滅兵器。

 

やがて光、爆炎が消え、煙が晴れると――

 

「ああ、負けたな」

「そうですねー。でも、善戦したんじゃないですか、あたしたち」

 

エネルギー全てを使い切り、機竜のシステムがダウンして、機竜が解除されたリーシャとティルファーがいた。

二人とも地面に寝そべっていたが、その表情はすがすがしかった。

 

「戦闘続行不可能と判断し、三年生『セリスティア・サニア』ペアの勝利とする!」

 

ライグリィ教官の宣言と同時、模擬戦終了の鐘が鳴る。

直後、観客席からは大歓声が響いた。

 

 

 

 





よし。セリス対リーシャ終了!

原作ではこの後にルクスのラキスケ発生ですが、俺の作品ではやりません!
そう言うラキスケは転がってくるほうにしよう。アクセルワールドのOVAみたいな!

さて、来週もきちんとあげられるように課題を頑張るとしますかね~


修正点や感想等を待ってます。

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