「あの場を手っ取り早くまとめるには有効だったけどさ。学園長の
「そうね。でも、この問題はあなたも同じなのよ」
晴れて恋人同士になった蓮とクルルシファーは目の前で繰り広げられているリーシャを中心とした一、二年生の作戦会議の様子を部屋の隅で壁によりかかるように立ちながら眺めていた。
事の発端はおとといの昼頃までさかのぼる。
クルルシファーの婚約を巡っての一件がすべて片付き、王都で開かれる校外対抗戦のメンバーを決める校内選抜戦が三日後に迫った頃、ついに彼女が戻ってきた。
学園最強の機竜使い、セリスティア・ラルグリスが学園に戻ってきたのだ。
当然のこと、彼女はすでに学園に男が二人在籍していることを知っている。そして案の定、戻った彼女は真っ先にレリィ学園長に蓮とルクスの退学を迫った。
それを聞きつけたリーシャが真っ先に学園長室に飛んでいき、蓮とルクスもティルファーからそのことを聞いて学園長室に向かった。
蓮とルクスが部屋に着いた頃には
お互いがお互いの意見を否定し合うという会議が全く進まない典型例。ルクスが途中からリーシャに代わって説得を試みるが、やはり平行線。逆に蓮とルクスがなぜこの学園に残りたいのかと問われた。
「俺がここに残りたい理由?そんな野暮なことを聞かないでくださいよ――望まれているから、傍で守ってやりたい人がいるから、それだけだ」
「僕も同じです。そして僕からあなたにお願いがあります。バルゼリッド・クロイツァーが請け負うはずだった
「……!?」
「おい、ルクス!」
ルクスの一言で学園長室内に緊張が走り、ここで初めてセリスの表情に動揺が走った。
ヘイブルグ共和国内で胎動する
なぜ新王国内に存在するわけでもない
この任務にはバルゼリッドが当たるはずだったが、失脚。次の討伐隊隊長候補として学園のみならず、新王国内でも最強クラスの実力を持つであろうセリスに話が挙がっているのは容易に想像がつく。
ルクスがこのカードを切ったのには理由がある。
新王国王家よりもセリスの実家であるラルグリス家をはじめとした四大貴族の方が力を持っているという現状、学園の出資者の貴族たちはラルグリス家に付く。そうなれば、あとは火を見るよりも明らかである。
「あなたがなぜ、そのことを知っているのかは、あえて問いません。ですが、あなたには関係のない話です。その任務は私一人でしますから」
「なら、僕はまだこの学園に残ります。そして学生の身でありながら軍の任務にも参加できる『
「何度も言わせないでください。あなたの協力はいりません」
再びの拒絶。ルクスがさらに言葉を続けようとしたとき、蓮が割り込む。
「……俺も参加させてもらおう。バルゼリッド卿を失脚させたのは俺だ。その責任もこの国からもらった恩の為にも同行させていただきたい」
「レン・フェルテ。あなたがバルゼリッド卿を倒したことは知っています。ですが、あなたの力は不要です」
しかしセリスはやはり拒否を示した。
蓮とルクスの要求は「セリスの討伐任務への協力」、セリスの要求は「蓮とルクスの退校」。そしてお互いの主張が、お互いに受け入れられない状況。
このままではほぼ永遠に決着がつきそうではなかったのだが、学園長のレリィがこのような提案をしてきた。
「このまま意見を食いつぶし合っても結論は出ないわ。
だから三日後に始まる校内選抜戦――その結果次第でこの論争に決着をつける。後でみんなに意見を募って容認派と否定派の二つの勢力に分けて、他の生徒も参加させてね。これでどうかしら?」
ものすごい提案だった。まさかの全校生徒巻き込みだ。
ルクスとセリスが反論しようとする前に扉の反対側で盛り上がる声が聞こえた。あっという間に学園中にこの話は広まり、今更取り消しができるような状況ではなくなってしまった。
そして校内戦を明日に控えた現在、リーシャをはじめとした一、二年生たち男子容認派はセリスティア・ラルグリスを中心とした三年生たちを倒すための作戦会議中というわけだ。
一、二年生対三年生という単純な構図になったことに蓮は違和感を持ったが、気にしても仕方のないことと割り切った。
「学園長もいいルールを作ってくれたものだな……」
「メンバーは負けたら次から出られないっていう生き残り方式だもんね~」
「そうですわね。できうる限り戦力を分散せなければなりませんが、こちらは人数が多い分、優位では?」
「逆に考えれば、三年生はポイントを稼ぎやすいとも取れるわね」
積極的に議論が交わされているが、一部の生徒からは三年生との実力差を心配する声も多かった。大方のペア分けは終わっているが、問題は神装機竜の使い手達とルクスが誰と組むかだ。ルクスは《バハムート》を使うわけにはいかないので汎用機竜の《ワイバーン》を使うことになる。よってそのペアはほぼ確実に神装機竜の使い手が組むという流れになっていた。
セリスは同じく三年生のサニア・レミストと組んで初日から出てくるということを先程、今回はセリス側に着いたシャリスがセリスからの言伝として伝えてきた。
伝えに来たシャリスを見るなりティルファーは「裏切者ー」とわめいていたが、シャリスは彼女なりの考えがあるとだけ言って受け流していた。
「そういえば、フィルフィって神装機竜を持っていたんだ」
「まだ教えてなかったわね。彼女の神装機竜は《テュポーン》。陸戦型の神装機竜だけど、特殊武装で引き寄せてからの強制カウンターは強烈よ。加えて彼女は独特の戦い方をするから、動きを読むのが難しいの」
「なるほど。クルルシファーさんが言うなら間違いないか」
この時蓮がふと思ったのは自分が元々いた世界でのテュポーンの伝説だった。
(テュポーン――ギリシャ神話に語られる全能神ゼウスを倒すために生まれた怪物。一度はゼウスに勝利し、閉じ込めた。だが、再戦した時は敗北。最後は騙されて『無情の果実』を食べ、力を失い封印された、か。どことなくヴリトラの伝説に似ているな)
「さてと、そろそろ行くか」
「そうね。このままだと時間の無駄だわ」
紛糾を続ける議論を外から眺めていた二人は見かねたようにため息をこぼす。そして壁際から離れ、話の中に入っていき、困った様子のルクスに話し掛けた。
「それで、決まっていないのは誰だ?」
「あ、蓮にクルルシファーさん。えっと、僕とリーシャ様。後は二人とフィルフィ、ティルファーの6人だけ」
「ほとんど決まっているじゃない。何をもめているのかしら?」
「実はリーシャ様とフィルフィが――」
「なるほど、なるほど。お姫様とフィルフィがお前を取り合っている状況か、そしてお前は二人のうちどちらを選ぶかできないと。実に微笑ましいことじゃないか」
「僕の身にもなってよ!?」
ルクスが悲鳴を出すが、蓮は愉しそうに笑みを浮かべたままだった。
それにしてもフィルフィがこういう時に主張するとは思わなかった、と言うのが蓮の正直な感想だった。口にした言葉は違うが。
しかしこれでは一向に埒が明かないのでどうしたものかと蓮が考えていた時、静かににらみ合う少女二人の隣で紙を切っているティルファーを見つけた。
「ん?それってクジか?」
「そうだよ~。このままだと遅くなっちゃうからさ、恨みっこなしで」
「きっちり六本。赤、青、黄の三色ね。確かにこのメンツならどう組んでも戦力は十分だな」
「はいはーい!まだペアが決まってない五人はこっちに来てー」
ティルファーの呼びかけにまだペアの決まっていない五人が集まってくる。
リーシャもフィルフィも睨み合いをいったん止めてくれたようだ。
「こんな感じで、くじ引きを作ってあげたからさ。恨みっこなしだよ?ちなみにあたしが引いたのは赤だからねー」
そして五人が一斉にクジを引く。
赤を引いたのはリーシャ。
青を引いたのは蓮とクルルシファー。
残る黄色を引いたのはルクスとフィルフィだった。
形的にだが、ルクスの取り合いに勝ったのはフィルフィだったというわけだ。
この結果に当然リーシャは
「くっ……!?」
ものすごく悔しがっていた。なんだかすごく子どもっぽい。リーシャとペアになったティルファーは隣で苦笑いをしている。
一方、勝者はというと
「ルーちゃん。わたしと、一緒だよ」
「あ、う、うん……」
「だいじょうぶ。負けないから」
いつものようにぼーっとした口調で、しかし心なしか嬉しそうに見えた。
そしてものの見事にペアになった蓮とクルルシファーの方はというと
「よろしくお願いします、クルルシファーさん」
「こちらこそよろしくね。と言っても、基本的に私が後衛。あなたが前衛という形になるでしょうけど」
「わかってます。筋肉痛で演習をサボらせてもらった分、暴れてやりますよ」
「援護は任せて。あなたが好きに暴れられるようにしてあげるから」
「どもです。じゃあ、一発目で当たるかもしれないというセリス先輩の対策をしましょうか。彼女の機体について教えてくれ」
「わかったわ。彼女の神装機竜は――」
少女たちのように一喜一憂することもなく、これからのことをすでに考え始めていた。
その後は、各々のペア同士で打ち合わせをするということになり、解散となった。
蓮もクルルシファーからセリスの使用する神装機竜について話を聞き、その対策や連携時の合図のこすり合わせ等を行って、それぞれの自室に引き上げた。
ものすごく唐突に始まってしまいましたが、浮かばなかっただけです。すみません
もうすぐ大学も冬期休業に入りますけど、やることが多過ぎて死にそう……。
テストの用意…発表二つ分のスライドづくり……うん。休みなんてなかったんだ(涙目)。
という事で、今日はもう一本あげちゃうぞー!(意味不)