最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第15話

 

「いつつ……。やっぱり、もう一日寝とけばよかったな~」

 

全身を苛む筋肉痛に蓮は顔をしかめながらぼやく。

 

バルゼリッド・クロイツァーとの決闘から二日が経ち、蓮はクルルシファーとエインフォルク家執事のアルテリーゼと共にフェルテ家領内の街を目指し、馬車に揺られていた。

元々は蓮が一人で行く予定だったのだが、蓮の部屋に見舞いに訪れたクルルシファーからアルテリーゼがフェルテ家に謝罪したいと言っているということを聞いて、現在に至る。

 

「申し訳ありません。私の――」

「ああ、別に気にしないでいいですよ。どうせ近いうちに顔を出さなければならなかったんですから。遅いか早いかの差ですよ」

 

アルテリーゼが申し訳なさそうにこの馬車の旅中、何度か聞いた言葉を口にしそうになる前に先回りして蓮が遮る。アルテリーゼは「ですが……」と続けそうになるが、御者の声がそれを遮った。

 

「レン様。まもなく街に入ります」

「わかった。手続きが済んだら知らせてくれ」

「わかりました」

 

どうやら城塞都市(クロスフィード)から約一日に及ぶ馬車の旅も終点のようだ。

いつもは機竜を纏って飛んできているから一時間ほどで着いていたんだが、今は遺跡調査での疲労と《ヴリトラ》の解放(リベラシオン)の使用(完全開放していたらあと1週間近くベッドの上だった)による筋肉痛とその疲労のせいで機竜を使えるような状態じゃないし、使ってまで移動するような急ぎのようでもないので馬車を使った。

 

馬車を降り、街に入った蓮達だったが、すぐに蓮は街の人達に捕まった。

 

「御曹司!」

「レン様!今日は何用で?」

「おーいみんな~!レンが帰ってきたぞ~!」

「レンさん!後で施設に来れるかしら?子どもたちが待っているわよ」

「おう、レンじゃねぇか!どうだい?今日は俺の店にでも寄って行くか?」

「おい、レン。あの美人二人は誰だ?ハッ!?まさか――」

 

「ああもう!すること終わったらどこでも寄ってやるから、道を開けやがれ!」

 

背中を叩かれたり、口笛を吹かれたりなんだりとひっきりなしであったが、蓮がやけくそ気味に叫ぶと民衆はいつもの生活に戻るように散らばっていった。

 

視線だけはチラチラと蓮とその後ろを歩くクルルシファーとアルテリーゼに向けられていたが。

 

「慕われているのね、あなたって」

「恥ずかしいけどな。俺は屋敷の中で勉強をしている以外の時間は外のみんなの手伝いをしながらいろんな話を聞いては、義父上に伝えていたんだ。つまりは耳さ。

さっき俺に施設に来てくれって頼んでた人も俺が義父上に頼んで建ててもらった孤児院の保母さんだし」

「そういえば、あの時の礼金も自分で使う分を残して全部送ったって言っていたわね」

「ああ、ベルベットの時のか。あれは確か道の整備と孤児院の運営費、学校の老朽化した部分の修繕費に充てたって聞いたな」

 

などと他愛もない会話をしながら歩いているうちに街の中心にあるフェルテ家の屋敷に到着した。

そしてドアに手をかけ、開ける直前に後ろを振り向いて一言。

 

「ああ、そうだ。頼むから幻滅しないでくれよ?」

「「?」」

 

二人は何のことかわからないといった表情をしていたが、あえて無視してからドアをノックして開ける。

 

「ただいま戻りまし――」

「レェェエェェェン!待ってい――バン!(←ドアを閉じる音)

 

何かがドアに当たる音がしたが気にすることなく、一度閉ざしたドアを開ける蓮。

 

「ただいま戻りました。おや?義父上はそこで何をしておられるのでしょうか?」

 

ドア前の床でぴくぴくと痙攣している屋敷の主人に話し掛ける蓮。その表情は悪戯が成功したような楽しさに満ちていた。確信犯である。

 

「まったく、いい加減学習しないのですかね。うちの主人は」

 

続けて現れた女性――クレアがため息をつく。

すると蓮も笑みを引っ込めて同じようにため息をついた。

 

「母さん。何とかしてくださいよ、ただでさえ今日は客人もいるのに」

「はぁ……。あなた、お客様の目の前でいつまでそうしているのですか?」

「う、うむ。いや、しかしだな……」

「仕方のないお人ですね」

 

そう言ってクレアはパンと手を叩く。すると数名の使用人が現れ、ようやく起き上がった主人――エンバルケス・フェルテを担ぎ上げ、いずこかに連れて行った。

 

「…………」

「…………」

 

クルルシファーとアルテリーゼがその光景に言葉を失っていた。

まあ、当然と言えば、当然だろうけど。

 

「レン、お二人を客間に案内してもらえますか?少し灸を据えてきますので」

「わかりました。あと、ほどほどにしといてやってくれな」

「ええ、わかっていますよ。ごめんなさいね、せっかく来ていただいたのに」

「い、いえ……」

 

クルルシファーとアルテリーゼに一言謝ってからクレアはエンバルケスが消えた戸の方へと消えた。

 

「んじゃまあ、案内しますんでついてきてください」

 

 

 

「皆様、お茶が入りました」

「ああ、どうもありがとう。すまないな、こんな急に来てしまって」

「いえ、お気になさらないでください。――大したもてなしもできませんが、ゆっくりなさってください」

 

女性の使用人が三人の前に紅茶の入ったカップを置いていく。配り終えると戸の前で一礼して客間を出て行った。

今、客間にいるのは蓮を含めてクルルシファーとアルテリーゼの三人だ。フェルテ夫妻はまだこの客間に姿を現していない。早く来てくれ。

男一人に対して女性二人で広い客間にいるっていうのはかなりきっつい。加えてアルテリーゼさんに至っては妙に緊張しているようにも見えるわけで、居づらさに数値があるなら倍増している。

 

「やれやれ……」

「あら、紅茶に砂糖なんて入れていたかしら?」

 

とりあえず喉でも潤そうと思って蓮のカップだけに付いていた角砂糖を入れて溶かしているときにクルルシファーが聞いてきた。多分、話し辛かったからだろう。

 

「ああ、普段は入れないよ。さっきので、少し疲れたからな。特別だ」

「でも、何であなただけ砂糖がついていたのかしら?」

「砂糖は頼まれたときにしか出さないが、俺が屋敷に帰ってくるときは大概、帰宅早々アレだからな。こうやってメイドたちが気を利かせてくれてるのさ」

「まあ、確かにわかる気もするわ。でも、ああいうのも少し羨ましく感じてしまうわね」

「お嬢様……」

「気にしなくていいのよ、アルテリーゼ。それよりせっかく淹れてもらったのだから冷めたらもったいないわ」

「……そうですね」

 

………何かを誤爆してしまった気がする。何やってんだか。

 

「…すまん。不謹慎だった」

「いいのよ」

 

クルルシファーがいつもの余裕を含んだような笑みでそう答えた時、ふいにノックをする音が客間に響いた。

 

「まったく、これに懲りて慎んでくださいね」

「……以後気を付けます」

「久しぶりにこってり絞られたみたいですね、義父上」

「レン。お前があのようなことを――」

「しようがしまいが引かれるわ!」

 

言い切らせねぇよ!というより、俺はなんも悪くないからな!

 

「あなた。自己紹介ぐらいしたらどうですか?」

「そうであるな。私がフェルテ家の当主、エンバルケス・フェルテだ。彼女は妻のクレア。遠方よりはるばる参られたのに大したもてなしもできずにすまない。アルテリーゼ殿は新年の祝い以来であるな」

「初めてお目にかかります。私は彼の級友で、クルルシファー・エインフォルクと申します」

「お久しぶりでございます。エンバルケス・フェルテ侯爵。この度は……」

 

呆れ混じりに告げたクレアに鷹揚に頷いたエンバルケスがクルルシファーとアルテリーゼに向けて挨拶をする。同じように彼女たちも貴族らしい挨拶をした。

アルテリーゼが今回の訪問の理由を告げ、頭を下げるとエンバルケスは首を横に振り、頭を下げた。

 

「そちらが謝罪する必要はない。謝罪すべきはむしろ、あのような男を野放しにしていた新王国にある。新王国を代表して謝罪する」

 

頭を下げるエンバルケスにクルルシファーとアルテリーゼは先程とは全く別の意味で面食らっていた。

それをよそにエンバルケスは顔を上げるなり毒づいた。

 

「聞けばあの男は盗賊を私兵として雇い、その私兵共を使って遺跡の盗掘や対立者への圧力、賄賂なども行っていたらしい。おまけにクルルシファー嬢、そなたを『道具』などと呼んだそうだな。いかに四大貴族が一角であるクロイツァー家と言えど、許すことはできん。まったく、どうして今どきの貴族と言うのは皆こうなのだ」

「あなた。一度、時間を置きましょう。彼女たちが困惑していますから」

 

絶賛困惑中のアルテリーゼを見て、今まで静かに見守っていたクレアが提案した。エンバルケスはその提案に乗って、しばらくは無言の時間が流れた。

 

 

 

「ふ~……。まさかあんな話になるとはなぁ」

 

蓮は自室でさっきまでに起こった出来事を振り返って、深いため息を一つついた。

 

 

10分くらいたったころにはアルテリーゼの困惑も収まり、話は事後処理の方へ向かった。まあ向かったのは良かったんだが、ここで爆弾を一つアルテリーゼが投下したのだ。

 

「レン・フェルテ様を婚約者として推挙したい」

 

全くの予想外だった。

蓮は即座にクルルシファーにアイコンタクトをした。それに対してクルルシファーは蓮の視線の意味を正確に理解し、ゆっくりと眉を寄せた。

つまり、恋人役の件を話していなかったと言うことだった。

この提案に対してエンバルケスとクレアは「本人たちの意思を尊重する」と答えた。

 

実はフェルテ家の歴史において政略結婚の文字は存在しない。また、当主とならなかった者も一人として政略結婚をしなかったらしい。貴族同士の結婚であっても権力等を目的としたものは一切認めない。フェルテ家にとって結婚というのは全て恋愛結婚なのである。

フェルテ夫妻の答えは蓮とクルルシファーが本当の恋人として結婚する意志があるか確認するものだったというわけだ。

明日の昼頃にはアルテリーゼさんがユミルに戻るらしく、それまでに今の答えを出しておけということか。

 

 

そして今に至る。

蓮は部屋のソファに寝転がりながらただボーっと天井見上げる。

するとふいにドアをノックする音が聞こえた。蓮は起き上がって返事をする。

 

「どうぞ~」

「良かった。ここで合っていたみたいね」

「クルルシファーさんか」

「お邪魔するわよ」

 

そう言ってクルルシファーは蓮がさっきまで寝転がっていたソファにゆっくりと腰を下ろした。蓮もクルルシファーの隣に空いたスペースに座る。

 

「……」

「……」

 

会話が生まれるわけもなかった。

 

(せっかく政略結婚をパーにできた矢先にこれか……。彼女はどう思っているのだろうか)

 

政略結婚が嫌で今まで躱し続けたが、外堀から埋められた今回の件に彼女は抗った。そして話は白紙に戻ったとたんに新たな話が書き込まれた。

蓮としてはアルテリーゼに対して色々と言ってやりたい気分だった。

 

「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」

 

ふいに掛けられた感謝の言葉。

 

「へ?」

「別に私とあなたはそこまで親しい仲じゃなかった。ただの級友。あなたが自分で言いだしたことだったけれど、まさかこんなお願いをされるとは思わなかったでしょう?」

「そりゃあな。確かに『一つだけ言うことを聞く』って言ったのは俺だけどさ」

「そうね。そして私とバルゼリッド卿の婚約の話がわかって、決闘まで話が進んだ。こんなろくでもない決闘にあなたは駆けつけてくれた。これ以上巻き込ませたくなかった私の覚悟も知りながら」

「もしかして責められているのかな?今の俺」

 

ここまで蓮とクルルシファーは一切目を合わせていない。クルルシファーはまっすぐ目の前だけを、蓮は横から顔色を窺うように見ていた。

だが、そんな時間は唐突に終わった。

 

「ねえ、もう一度言ってくれないかしら?この人は俺の――何かしら?」

 

クルルシファーは顔を蓮の方に向けて、いつもの余裕を含んだ笑みのまま小首を傾げてみせる。

 

(クソ…。そんなの反則だ)

 

蓮はすぐにその言葉の続きを思い出した。

どうやらしっかりと覚えていたらしい。

あの時は勢いで言ってしまったが、あんなこっぱずかしいセリフをよくもまあ、すらすら言えたものだ。そして今、それを思い直してみると本心のように思えてくるあたり、惚れたもん負けだな。

 

「――この人は俺の恋人だ。これでいいか?」

「ダメよ。ちゃんと私の目を見て言ってくれないと」

「うっ……」

 

認めたとしても、とてつもなく恥ずかしいことに変わりはないので目をそらしたままだったのだが、クルルシファーは許してくれなかった。

蓮はおそらく人生最大になるであろうため息をこぼしてからクルルシファーの方に向き直った。

 

「―――この人は俺の恋人です」

「ありがとう。わたしも好きよ」

 

クルルシファーが囁き、そのまま蓮は唇を塞がれた。

一瞬だけ、ほんの少し触れるだけのようなキスだった。

しかし甘く柔らかな唇の感触は残っていた。

 

「ちょっ…!?」

「今までのお礼と、私の答えよ。――足りなかった?」

 

相変わらず涼しげな表情だったが、その頬はうっすらと朱が差していた。

 

「そ、そんなこと――」

「じゃあ、もう少しだ――!?」

 

再び口づけをしに来たクルルシファーの唇を今度は蓮が塞ぐ。

驚いて離れようとするクルルシファーを蓮は彼女の後頭部に右手を回して押さえつけた。

たっぷりと十数秒。蓮は右手を離した。

 

「――強引ね」

「――されっぱなしは好きじゃないんで」

 

「えんだあああああああああああああ!!!」バ  ン!

 

突然の乱入に言葉を失う蓮とクルルシファー。

そして、開け放たれた扉の外にはクレアとアルテリーゼの姿もあった。二人もまた、言葉を失っていた。

 

「……あ………」

「ち、義父上?母さんにアルテリーゼさんまで……」

「あ、アルテリーゼ?」

「あ、あのですね、お、お嬢様…これは……///」

 

エンバルケスが「やってしまった」と言った様子で固まるが、時すでに遅し。

 

「……義父上が全部悪い」

「……あなたのせいでムードが台無しなのだけれど」

「ぐふぅ!」

「あなた」

「はひぃっ!」

「少し……頭、冷やしましょうか?」

「は、はい……」

 

夫の首根っこをつかんだ際に放たれた言葉には某管理局の白い悪魔のような迫力があった。前に俺が使った時の数倍は迫力があった。クレアは夫をズルズルと引きずりながら廊下の先に消えた。

そしてノゾキ組(?)で一人残されたアルテリーゼは何か弁明しようと口をパクパクしていた。しかし言葉は出てこず、ダッシュでその場を去った。

 

再び二人きりになった蓮とクルルシファーだったが、場はすっかり冷めきってしまっていた。

 

「……台無しもいいところだな」

「そうね……。でも、寄りかかるぐらいはいいわよね?」

「ああ。君の望むままに寄りかかってくれ」

 

 

 





もう、何やってんだこれ?


はい。というわけで次話から三巻の内容に入っていきます。
最近冷えが厳しくなり始めて辛いです。というか、バハムートの世界ではまだ夏ぐらいなんですよねぇ…若干羨ましい。

完全な与太話ですが、今、作者は恋姫無双のssを漁ってます。なんかみんな一刀君ばかりで……オリ主でやれとか思ってる今日この頃。
自分で書け?―――ゲームも何もやってないんだよう!

おすすめあったら教えてほしいですぅ。


修正点や感想等を待ってます。




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