最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第14話

 

「貴様 は 土へ 還れ」

 

 

突如として響いた異質な声。

 

「っ!?だ、誰だ!?」

 

威厳に満ちたその声にバルゼリッドは強烈なプレッシャーを感じて周囲を見回すが、この場には蓮、クルルシファー、気絶したままのアルテリーゼ以外は誰もいない。

そんな時、今度は蓮の笑い声が響いた。

 

「はははっ、あ~、おもしれ。どうやら押してはいけないスイッチを押してしまったようだな、バルゼリッド卿」

「なに?」

 

バルゼリッドが怪訝そうに聞き返す。

蓮はバルゼリッドに不敵な笑みを浮かべながら返答する。

 

「お前は――()()()()()()

 

答えた直後、蓮の纏う《ヴリトラ》に変化が起きた。

 

装甲のいたるところに朱線が走り、装甲のつなぎ目からは白い蒸気が噴き出す。

周囲には禍々しささえ感じる装甲が追加召喚され背翼と両腕部に接続される。

 

「――解放(リベラシオン)

 

その姿を見たバルゼリッドもクルルシファーも息をのむ。

新たな《ヴリトラ》の姿から放たれる他を圧する強烈な殺気。おそらく並みの軍人であれば気絶しかねないほどの殺気を放っていた。

 

「なんだ、その機竜は……!」

「こいつは《ヴリトラ》が自らの意思でその力を解放した形態だ。今は俺の状態もあって、出力を大幅に押さえ込んでいるから限界突破(オーバーリミット)には到底及ばないが、貴様を相手するには十分だ……さぁ――竜の威にひれ伏せ」

 

普段の蓮では考えられないような底冷えのする声音で告げた瞬間、クルルシファーの前にいたはずの蓮の姿がバルゼリッドの目先1ml(メル)に迫っていた。

 

「なにぃ…っ!?」

「遅ぇよ」

「がはっ!」

 

突然の接近にバルゼリッドができたのは戦斧(ハルバート)で正面をガードすることのみだった。

しかし、強化された《ヴリトラ》の前ではその程度は意味をなさない。

蓮が握る双剣であっさりとそれを弾き、隙だらけになったバルゼリッドの腹部に回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。

 

「やれやれ、この程度か?」

「ぐッ、貴様ぁ……」

「ほら、なんなら俺から奪った神装を使えよ?」

「ハッ、なら望み通り自身の神装で死ねッ!《暴食(リロード・オン・ファイア)》!」

 

バルゼリッドが戦斧を大きく振りかぶりながら《ヴリトラ》めがけて突進する。

しかし、その速さに変化はなく、いとも簡単にカウンターを食らう。

 

「がら空きですぜ?」

「ぐッ――な、何故だ!?貴様の神装は確かに奪ったはずだッ!?」

「ああ、確かに奪われたな。()()()()()()を」

「空っぽ…だと?」

「言っとくが、貴様のようなゲスに理由(からくり)を教えてやるつもりはないから安心しな。さてと…」

 

呟いた蓮は《アジ・ダハーカ》の脚部を無造作につかみ、コマを回す要領で近くの瓦礫の山に投げ飛ばす。

 

「喜劇と言ったな、バルゼリッド。なら、幕を下ろそう――ゆくぞ。貴様にとっては時期尚早だが、ここが貴様の死地と知れ」

 

きっぱりと言い放って、蓮は《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の両方の切っ先に赤黒いエネルギーを溜め始め、その照準をバルゼリッドに合わせる。

そして球状に圧縮されたエネルギーが混じり合い、一つになる。

 

「ほざけッ!このオレが貴様ごときに負けるわけあるか!」

 

まるで滑稽なものを見るような眼でバルゼリッドを見る蓮の挑発にバルゼリッドが叫ぶ。

《アジ・ダハーカ》の車輪を回転させ、間合いを詰める。

通常この行動は挑発に乗って逆上したただの自棄かと思うが、バルゼリッドにはクルルシファーの《ファフニール》から奪った未来予知の神装があった。

 

「フル…バースト」

「バカがッ!貴様の攻撃なぞ、見えている!」

「私の特殊武装まで奪ったというの!?」

 

通常の倍近いサイズになった赤黒い光弾の軌道をバルゼリッドは未来予知で知る。迫る光弾を一点集中の三重障壁と《アジ・ダハーカ》の周囲に集まった《竜鱗装盾(オートシェルド)》が防ぐ。だが、それらの防御を突き破ってその装甲を削り、いずこかへと飛んでゆく。蓮が殺さないように威力を絞ったため、削るにとどまったのである。

 

「やはり貴様は甘いッ!」

 

バルゼリッドの接近を許すことになった蓮は躱されるのを織り込み済みでリチャージしていた光弾を放つ。しかし、それはすでに潰れていた《アジ・ダハーカ》の右肩に掠っただけだった。

そしてバルゼリッドは右装甲腕で握っていた戦斧を振り上げる。すぐさま迎撃の構えを取る蓮。その刹那、《アジ・ダハーカ》の左肩に接続された《双頭の顎(デビルズ・グロウ)》のエネルギー砲を蓮ではなく――あろうことか、再び、後方にいるクルルシファーに向けて発射した。

 

「――っ!?」

 

迫る紫の光にクルルシファーが息を飲む。かろうじて《ファフニール》は起動したままになっていたが、《千の魔術(アヴェスタ)》でエネルギーを奪われ続けた上に《竜鱗装盾(オートシェルド)》を失った今のクルルシファーに耐えるだけの十分な障壁を張ることはできない。

 

だが、クルルシファーと《双頭の顎(デビルズ・グロウ)》の光の間に割り込んだ《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の一閃で軌道がほぼ直角に変わり、離れたところに着弾した。

 

「なにぃっ!?」

「驚くことか?ラグでバレバレだこの野郎。やれ、最後まであなたらしかったな。――頭上注意だ、悪く思え……バースト:(レイン)

「しまっ――!」

 

これが本命。

蓮が指を鳴らすなり、上空から降り注ぐエネルギーの弾雨にバルゼリッドと《アジ・ダハーカ》が呑まれる。

10秒ほど降り注いだ後、土煙が晴れ、その姿が見えてくる。残っていた左肩の《双頭の顎(デビルズ・グロウ)》の砲身はひしゃげ、脚部の車輪も潰されボロボロになっていた。

 

「これで終わりだ。おとなしく投降するんだな」

 

《ヴリトラ》が通常の形態に戻り、《憎荒双剣(ヘイトレド・デュアル)》の切っ先を突きつけて、バルゼリッドを見下ろしながら蓮が温度を感じさせない冷たい目で告げる。

 

だが―――

 

イイィィィイ!

 

半壊した《アジ・ダハーカ》から甲高い音が鳴り、バルゼリッドは口元に笑みを浮かべる。

 

「今のは…」

「く、くくく…!ただの合図だよ。人払いのために配置しておいたオレの私兵たちを呼ぶためのな」

「なるほど、勝利した後で俺を闇討ちして消すって腹だったか。もし仮に負けても、《千の魔術(アヴェスタ)》による疲弊で動きが鈍っている俺を消すには十分というわけだし、アルテリーゼさんさえ気絶させておけば目撃者はいなくなり、クルルシファーさんは脅して黙らせることができると」

「そうだ。これも立派な策だよ。『王国の覇者』が負けることは許されんのだ――さて、覚悟はできたか?」

 

バルゼリッドがいかにも悪役ですというような勝ち誇った笑みを浮かべる。

それを見た蓮はため息を一つ。

 

「はぁ……やれやれだぜ。負けが許されない存在なんてどこにもいやしねぇよ。貴様の敗因はそれ一択だな。――おーいみんな、終わったか~?」

 

やれやれといった口調で蓮が空を見上げて呼びかけると同時にグシャ、と音を立てて《エクス・ワイバーン》を纏った一人の男が落ちてくる。

 

「――え?」

 

クルルシファーは目を見開き、上空を見上げると――

 

「まったく、よくも私にこんな役目を押し付けてくれたな」

「リ、リーシャ様……」

 

《キメラティック・ワイバーン》を纏ったリーシャと《ワイバーン》を纏ったルクスのふたりが佇んでいた(一人だけあからさまに嫌がっていたが)。

 

「ほ、他の連中はどこへ行った!?傭兵を含めて五十機はいたはずだ!」

「ふたりとも、無事だった?」

「――!?」

 

間延びした声にバルゼリッドが振り向くと、装甲の解除された数人の私兵を抱える《テュポーン》を纏ったフィルフィがいた。

更に各々の機竜を纏った三和音(トライアド)の三人も現れる。

事ここに至ってバルゼリッドの顔から余裕が消える。

 

「残念だが貴公の奸計は、全て聞かせてもらったよ。バルゼリッド卿」

「うんうん。まー、今更言い訳できないよー。私も聞いてたし――」

「Yes. 私の《ドレイク》の傍受機能で、会話を拾わせていただきました。学園の生徒であるクルルシファーさんを脅していたこと。あなたが盗賊を雇っていた容疑。そして、決闘のルール違反、相手の意図的な殺害容疑。全て、連れてきた軍の方々に確認していただきました。録音もしています」

 

そして最後に――

 

「貴様の負けだ、バルゼリッド卿。唯一頼れる権力もこれでは役に立たない。今の貴様にこの四面楚歌を抜け出す術はなし。そしてこれは、俺個人の要求だ――恥も外聞もなく、今ここで、土下座してでもクルルシファーさんに謝罪をしろ。三分間待ってやる」

 

蓮が最後の宣告を告げる。

 

「――ふ」

 

けれど、バルゼリットは最後の勝負に出る。

教会跡地のすぐ隣に広がる深い森に向けて、武装をすべて失い、半壊した《アジ・ダハーカ》を走らせる。

すなわち――逃走である。

 

「待て!逃げる気か!?」

 

リーシャがすぐに反応する――先に動いたのは蓮だった。

 

「往生際が悪いなぁ――強制超過(リコイルバースト)

 

リーシャ達にその場を動くなと竜声で告げ、右手の剣を地面に向けて振り下ろす。

衝撃が地表を爆裂したように噴き上がらせながら進み、バルゼリッドのすぐ真横を走り抜けていった。

 

「あ……な…ぁ……ぽぺ………」

 

強烈な衝撃波に晒され、すでに半壊していたバルゼリッドの纏う《アジ・ダハーカ》が解除される。

そしてばたりと倒れた使い手のバルゼリッドは意識を失った。

 

「バカ野郎が。逃げなければ――

両肩脱臼+デス・〇ビス(這いつくばれっ!的な)+ト〇ンプル(雷なし)+コブラツイスト+キンテキグォレンダァ!+オラオ〇ラッシュまでのワンセット―――で許してやったのに」

 

蓮の物騒な独り言にルクスが苦笑いで聞いてきた。

 

「それ、冗談だよね?」

 

そして蓮の回答は?

 

「もちろん本気(じょうだん)だ」

「……どうしてだろう。文字と読み方が一致してない気がするよ」

 

執行()る気満々だった。

 

苦笑しながら目元のあたりをヒクつかせるルクスに背を向け、蓮はリーシャ達の方に向き直る。そして右手の親指を立てる。

 

「よし。それじゃあ、俺はクルルシファーさんを学園に運ぶから。後は頼む」グッ

「おい待て。私たちに対する労いの言葉も言えんのか貴様は」

「我侭聞いてくれて助かったよ、みんな。あと、ノリノリで協力してくれて助かったよ、リーシャ様」

「バ、バカ者!誰がノリノリだ!?」

「そう思うだろ?みんな」

 

蓮の確認に全員が頷きを返す。

 

「満場一致ですね、リーシャ様」

「そんなわけあるか!だいたい、今回の件はお前がどうしてもと――」

「ほらな、みんな動いてくれたんだよ。あのリーシャ様も含めたみんなが。クルルシファーさんのために」

 

そう言って蓮は《ヴリトラ》を解除して、《ファフニール》の装甲を解除した後も地面に座り込んでいるクルルシファーに手を差し出す。

後ろから何か聞こえたが無視。

 

「さ、俺たちの学園に戻りましょう」

「……。ええ」

 

学園の仲間たちが見守る中で、差し伸べられたその手を取る。

 

もうそこに涙はなく、少女は笑みを浮かべていた。

 

 





終わった!


はい。かなりソフトにしました。というか、ネタをブッこみまくりました。
実を言うとレン君が最後に「もし逃げなかったら~」のセリフはやろうとしたけど、書くのがめんどくなってやめただけです。はい。

次々回からは原作の三巻の内容に入ります。

修正点や感想を待っています!

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