最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第13話

 

 

街から数km離れた教会跡地。そこがバルゼリッドの用意した決闘の舞台だった。

普段、人が来ることの全くないそこに、クルルシファー、バルゼリッド、アルテリーゼの3人は立っていた。

 

「時間より早く来てくれたな。我が未来の妻よ。ところで――そなたが恋人だといったあの男はどこに行った?怖気づいて逃げ出したのか?」

「彼には帰ってもらったわ」

 

バルゼリッドの絡みつくような挑発をさらりと流し、クルルシファーはその冷たい眼光で二人をにらむ。

 

「こんなくだらない茶番に、これ以上彼を、付き合わせるつもりはないから」

「そうか。なら、開始時刻は今この時より。決着は纏っている機竜が解除されるか、対戦相手2人が降参を認めるまで」

「決闘の舞台である教会跡地からの意図的な逃亡は敗北とみなす。それ以外のルールは王都の公式模擬戦に準拠する。覚悟はいいですね、お嬢様」

「覚悟ならできているわ、ずっと前から――」

 

バルゼリッドとアルテリーゼが決闘のルールを宣言し、3人は機攻殻剣(ソードデバイス)を抜いた。

 

「――転生せよ。財貨に囚われし災いの巨竜。あまねく欲望の対価となれ、《ファフニール》」

「――来たれ、不死なる象徴の竜。連鎖する大地の牙と化せ。《エクス・ワイアーム》!」

「さあ、決闘開始だ!」

 

バルゼリッドが《アジ・ダハーカ》を纏い、そう叫んだ直後、戦いが始まった。

 

 

 

「まったく、どうして的中して欲しくない嫌な予感ってやつはこうも当たるものなのかねぇ」

 

舞台として設定された教会跡地に《ヴリトラ》を最高速度で飛ばす蓮は移動中、そんなことを考えていた。

彼女が自らの過去を打ち明けたあのとき、最後に茶化してはいたが、その言葉の一字一句に間違いはなかった。何よりもその涙が物語っていた。

そして、言外に訴えていた。

 

(助けて欲しかったんだよな。一人は嫌だって。孤独はつらいって)

 

人間は一人では生きていけない。

人はその人生の中で幾戦、幾万、幾億もの出会いと別れを経て生きていく。だからこそ、繋がりを求める。自分はここに居ると、自分は孤独ではないんだと感じたいが為に。

 

おそらく、彼女は遺跡(ルイン)の秘につながる鍵として利用されたのだろう。そのせいで周りの人を信じられなくなった。それだけに、家族という繋がりを欲した――少女は夢を見たのだ。

夢の実現のために誰よりも努力し、厳しい修練の果てに神装機竜《ファフニール》を手に入れた。それは何よりの証になると思っていた。

 

それが、少女をさらなる絶望へと導くことになってしまうとは微塵も思わずに。

 

ただ一人、繋がってくれていたと思っていたはずの義父の言葉にかつてない悲しみと絶望を感じて以来、彼女は殻に閉じこもってしまった。失うものを何も作らないように。

 

(だから、この機会を逃すわけにはいかない。今、一番近い場所にいるのは俺なんだ!)

 

 

 

ドオォォオォン!

 

普段は静かなはずの教会跡地でひときわ大きな音が響いた。

 

「っ――どうして、私の…未来予知が…」

「見苦しい――失望させないでくれ、我が未来の妻よ。そなたは勝ち目のないあがきなどしない。オレはそう信じていたのに」

 

開戦から半刻ほど、2対1の状況でも未来予知の神装《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》を使って渡り合っていたクルルシファーだがいきなり神装が発動しなくなり、追いつめられ――いや、決着となっていた。

バルゼリッドは《アジ・ダハーカ》の武装である戦斧(ハルバード)で《凍息投射(フリージング・カノン)》を握る装甲腕を押さえつけながら、クルルシファーを諭すように言う。

おそらくはアルテリーゼもそう思っている。

 

《アジ・ダハーカ》の両肩についた幻創機核(フォース・コア)の片方を破壊し、もう一つも破壊しようとしたその時に頼みの綱である《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》が使用不能になったのだ。それどころか、バルゼリッドにはクルルシファーの動きが、まるで未来予知をしているかの如く読まれ、ついには絶対防御を誇る《竜鱗装盾(オートシェルド)》も突き破られた。

クルルシファーは自分の余力も計算できないような、半端な使い手では決してない。

 

だが、《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》は使えなくなり、《竜鱗装盾(オートシェルド)》も破られた。今のクルルシファーに2人の実力者を相手に逆転することなどは不可能に近い。

 

それでも――

 

「残念だけど――私は、見え透いた嘘をつく男の人は、好みではないわ」

 

その瞳にはまだ諦めは浮かんでいない。

 

「何……?」

「失望させる?あなたは喜んでいたはずよ。私をいたぶる――この予想通りの展開に」

「……」

クルルシファーの指摘にバルゼリッドの顔から薄笑いが消えた。

 

「あなたは、私の神装を無効化している。おそらく、遺跡(ルイン)の調査に同行したのは私の手の内を見るため。それに私を妻として気に入ったというのも嘘。私が、道具として使えそうだったからでしょう?」

「……ハッ!」

 

クルルシファーが言葉を結ぶと、バルゼリットは凶笑浮かべて《アジ・ダハーカ》の豪腕で《ファフニール》に圧力をかける。

アルテリーゼにはわからないように。決して、肉体を破壊しない。けれども苦痛を与えられる力加減でじっくりと力をかけていく。

 

「ハハハッ!!さすがは遺跡の『()』だ!しかし哀れだな、クルルシファー。エインフォルク家に道具としてオレに売られたものが、こんなにも聡明な頭脳をもっているとは!」

「ッ……!?あなたは――!?」

 

遺跡(ルイン)の出身であり、『鍵』の能力を持つこと。

クルルシファーが今まで秘密にしていたことを告げられ、クルルシファーの涼しげな表情がひびわれる。

 

「そうだ。すべて俺が仕組んだんだ。あの執事にお前との婚約を持ち掛けたのも、遺跡(ルイン)で新しい幻神獣(アビス)を呼び出させたのも。すべてな」

「……」

「だがな。所詮、道具に過ぎないお前が真実を知ったところで、何もできやしない。道具であるお前に現実を変えることはできない」

 

その口調は蔑みに満ち、口元は歪んでいた。

バルゼリッド・クロイツァーの本性がそこにはあった。

 

「―()()

 

突きつけられた言葉に少女の表情が絶望に染まってゆく。

エインフォルク家に拾われてからずっと、埋まらない家族との絆を作るために、血のにじむような努力を重ねてきた。

けれども、彼女がどれほどの栄誉を手に入れても、それは逆に離れていくばかり――

 

(ううん、違うわね。私には、最初から――)

「わかっているな、クルルシファー。道具たるお前がこのオレに逆らうのは許されないのだ。なに、心配するな。おとなしく従っていれば、存分にかわいがってやる」

 

戦斧を下ろし、《アジ・ダハーカ》の装甲腕がクルルシファーの腹をやさしくなでる。

 

「わかるだろう。お前を助ける人間など、この世界に誰もいない。だから、受け入れろ。主であるオレに尽くすという、その運命を――。……ッ!?」

 

言葉の途中でバルゼリッドは《ファフニール》から距離を取った。

直後、《アジ・ダハーカ》の装甲腕がさっきまであった空間を二本の機竜爪刃(ダガー)が切り裂く。

 

「運命だぁ?そういう言葉はもうちょっとロマンチックな場面で使われると思っていたのだが。やれやれ、女を口説くにしてもちゃんとした言葉があるだろうに。これだから三流は……」

「何者だ!?」

 

3人が声のした上空を見上げる。

そこには月を背後に佇む巨竜。

 

紫の神装機竜《ヴリトラ》を纏った蓮がいた。

 

「レン・フェルテ。お前さんたちの決闘相手だ。遅くなったが、現時刻をもって参戦させてもらおう」

 

ゆっくりと地に降り立ち、クルルシファーの前に立ちはだかる蓮。

 

「ど、どうして来たのよ!?私が何の為に――」

「どうしても何もないだろ。やれやれ、一人で勝手におっぱじめやがって……。そもそもケンカを買ったのは俺だ。さて――悪いな、待たせちまってさ」

 

向けていた視線をバルゼリッドとアルテリーゼに向け、静かににらみつける。

 

「……ハッハッハッハァ!いやはや、見誤っていたぞ!てっきり逃げたと思っていた。たかが、女一人のためにそんな状態で戦いに来るとは!愚かだなぁ、その女を助けたところで、お前には何の利もないぞ?」

「確かに本調子とはいかないさ。でもさ、生憎と利の有無だけで動く人間に育っていなくてね。それに――この人は俺の恋人だ。貴様ごとき三下クンには彼女の価値など、何一つ理解できないだろうけど」

 

バルゼリッドの言葉を蓮は否定する。

そして双剣をゆっくりと構え、斬り込むために足に力を入れた瞬間、アルテリーゼが動いた。

 

「お待ちください!バルゼリッド卿は先の戦いで消耗しています。まずは私が相手になります!」

「悪い。最初からあんたが狙いだよ。それにあまり時間をかけるつもりはないんで…《暴食(リロード・オン・ファイア)》!」

「な……ッ!?」

 

不意を突いたはずのアルテリーゼだが、交錯したその瞬間にアルテリーゼの纏う《エクス・ワイアーム》の双剣とそれを持っていた装甲腕も同時に砕かれていた。

 

「チッ…(思った以上に腕にくるなコレ…)」

 

暴食(リロード・オン・ファイア)》を使った感触に思わず蓮は舌打ちをした。

対して武装を砕かれたアルテリーゼだが、彼女は特級階層(エクスクラス)機竜使い(ドラグナイト)。すぐに機竜息砲(キャノン)を構えて、戦闘を続行しようとする。が、その肩を《アジ・ダハーカ》の装甲腕がつかんだ。

すると突然、《エクス・ワイアーム》の装甲と幻創機核(フォース・コア)から光が失われ、アルテリーゼが膝をつく。

 

「なぜ、機体のエネルギーが…?」

「ここはオレに任せていただきたい。彼に手加減された時点で勝負はついている」

「くっ…!」

 

バルゼリッドに言われたことを理解したアルテリーゼは足取り重く後方に下がったが、少したって機竜の装甲が解除されると意識を失った。

その様子を蓮はバルゼリッドから決して視線をそらすことなく見た。

 

『どういうこと?さっきのはルクス君の――』

『今のが《ヴリトラ》の神装《深怨の再臨(フェアシェプレヒェン・カタストローフェ)の能力だ。簡単に言えば、神装をコピーして使える。すまないが、詳しい解説は後回しだ』

 

クルルシファーが竜声を使って問いかけてくるが、蓮は後回しにすることにした。

目の前の男が動き出したからだ。

 

「作戦会議は終わったか?なら、こちらから行かせてもらうぞ!」

「作戦会議もなにもしていませんがね。さぁ、お手並み拝見といこうか――『王国の覇者』さんよぉ!」

 

直後、激突の余波で付近の瓦礫が土煙を上げる。

お互いに武器をぶつけ合い、火花を散らしつつ相手の隙を作ろうとしている。

怪我と疲労の影響で本調子とは言えない蓮だが、双剣の回転数を生かした連続攻撃で一撃の重量に勝るバルゼリッドの戦斧(ハルバード)による一撃を捌き、優位に立っているようにクルルシファーからは見えた。

そして激しい斬り合いの中でバルゼリッドが戦斧を振り上げ、胴が開く。見逃さず、蓮が右の突きを放とうとしたときにそれは起こった。

 

「はっ…――!?」

 

バルゼリッドが戦斧を振り上げるように見せかけ、蓮の眼前に展開した最大出力の三重障壁が突きを阻み、はじき返した。

 

「やっべ……」

「――死ね」

「レン君!」

 

大きな隙を晒した《ヴリトラ》の頭部めがけて、バルゼリッドが戦斧を振り下ろす。

土煙が舞い、クルルシファーは悲鳴を上げるが、バルゼリッドは無言で土煙を割いて現れたダガーをあっさり弾き飛ばし、上空を見上げる。

 

「フン、あまりたいしたことはないな」

「言ってろ。まあ、今ので大体読めたぜ、《千の魔術(アヴェスタ)》の能力が」

「……いいだろう、答え合わせをしてやる」

「では遠慮なく。

千の魔術(アヴェスタ)》の正体――それは『機竜の力を奪うこと』だ。お前と打ち合っていているうちに体から力が抜けて行くような感覚があったし、アルテリーゼさんのあまりに急激な消耗。さほど適性が高くないはずのバルゼリッド卿の驚異的な持久力……判断するには十分だ。

だが、それらのことより厄介なことがある。あんた、今の攻防で《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》を使っただろ?」

「それって……!?」

「ああ。神装機竜の消耗を周囲の他の機竜からエネルギー奪って補うことができ、接触すれば神装さえも奪える。そいつが《千の魔術(アヴェスタ)》の正体。遺跡の前の戦いで急にクルルシファーさんが《財禍の叡智》を使えなくなった時もヤツは《ファフニール》に触れていたからまず間違いない。やれ…ホント、チートだろそれ」

 

アルテリーゼの《エクス・ワイアーム》が急にエネルギー切れになったのもそのためだった。

 

「いい読みだ。だが、それがわかったとしても、貴様はオレに勝てん」

「―――っ!?」

 

神装の正体を暴かれてもバルゼリッドは顔色一つ変えない。

どころか、肩のキャノン、《双頭の顎(デビルズグロウ)》をあろうことかクルルシファーに向けて放った。

 

「……チッ」

 

すんでのところで蓮の障壁が間に合った。

轟音と爆炎の中で《ヴリトラ》の装甲腕に巻き付いた何かを蓮は切った。

収まった頃に見てみるとそれは竜尾綱線(ワイヤーテイル)、その元は《アジ・ダハーカ》だった。

 

「ゲスが……」

「フハハハ!愚かだなぁ、いまさらその女を庇ったところでどうする?その女を庇ったせいで貴様の神装はオレに奪われ、万が一つの勝ち目もなくなった。

そうだ、一ついいことを教えてやる。お前の今やっていることは徒労だ。逆効果と言ってもいい。今この国に迫る危機――終焉神獣(ラグナレク)は知っているか?」

「ああ」

「だからこそオレはそこの女を娶る必要があるのだ。学者どもにその体を調べさせ、遺跡から強力な武力を発掘しなければならないのだ。今の貴様の行いは新王国を危機に陥れることになるのだぞ?」

 

バルゼリッドはその欺瞞に満ちた演説でクルルシファーの心を折ろうとする。支えとなっている蓮にクルルシファーを見捨てるように言っているのだ。

だが、それがどうしたと蓮が抵抗の構えを見せる――

 

「ふざけるのも大概にしやがれ。てめぇなんかより適任な人がいくらいると――」

「もう…いいのよ」

 

クルルシファーはいつもの涼しげな顔を作って、告げた。

 

「は?」

「もういいのよ、蓮君。私はあなたを道具として利用していたわ。

だから、あなたが私のために何かをする必要なんてどこにもないの。責任も義理も感じることなんてないの。だから――」

 

言葉を紡いでいくにつれて顔を俯かせていくクルルシファーの頬を一粒、また一粒と落ちていく涙が蓮の瞳に映る。

 

「私を道具だって言ってよ。見捨ててよ。『もしかして』なんて…期待させないでよ……!」

 

涙ながらに訴えられたその言葉を受けて、蓮は展開させていた特殊武装のクリスタル一つを手に取り、クルルシファーのすぐそばまで歩み寄り、それをクルルシファーに手渡す。

そして背を向けてきっぱりと断った。

 

「残念だが、そのお願いは聞けないな。泣いて訴えても()()だ。

さっきも言っただろ?あなたは俺の恋人だと。絶対に助けてやるからそいつをお守り代わりに持っとけ」

 

言い切った蓮はバルゼリッドを再び睨みつける。

対するバルゼリッドは――

 

「はっはっはっ!傑作だ!愚かすぎて笑いが止まらん!神装も奪われ、勝ち目もないというのにまだ強がる上に『絶対に助ける』だと?実に面白い喜劇だなぁ!!」

 

顔を歪ませ、大声で嗤う。

 

しかしその嗤いはすぐに止められることになった。

 

「貴様 は 土へ 還れ」

 

教会跡地に響いた威厳に満ちた竜の重い声によって――

 





やっとルビ終わった(第一感想)。

やっと大学の課題がひと段落です。ま、すぐにまた忙しくなりると思いますけどね。
はい、今話は前半です。前話のあとがきで言った通り、あまりハードな真似はしません。だって、ねぇ?

原作で《ヴリトラ》が出ちゃいましたが、マジで悩んでます。代わりを使わせるか、おリストにしちゃうか、悩んでます。
そして一番の問題は神装機竜です。《ゴルィニシチェ》とか《ザッハーク》なんてマイナーなところが使われたので、被らない奴を選ぶのに苦労しそう(確定事項)。


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