最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第11話

 

「蓮!起きて、蓮!」

「ん…ルクスか?すまん、気を失ってたのか――ッ」

 

ルクスの呼ぶ声で目が覚めて起き上がる蓮だったが、左肩に走った鈍痛に顔をしかめる。

たぶん、吹き飛ばされたときにルクスの《ワイバーン》にぶつかったせいだろう。

 

ゆっくり肩を回す。うん、支障はなさそうだ。

全身に打撲のような痛みが少しあるが、大丈夫だろう。

 

「それよりクルルシファーさんは無事か?」

「クルルシファーさんなら――」

「無事よ。あなたたちが庇ってくれたおかげでね」

 

ルクスの視線の先、そこには《ファフニール》の装甲を解除し、装衣の状態に戻っていたクルルシファーの姿があった。

どうやら二人がかりで庇ったおかげで、大きな怪我はしていないようだ。

 

(我の心配はなしか?)

(お、拗ねたのか?そりゃ、心配はしないさ、俺の相棒だしな。でも、痛い思いさせて悪かったな)

(フン。長い付き合いだ、理解しておる)

(そりゃどうも。明日の決闘に支障は?)

(……さほどない)

(……無理はしないようにする。わかった、今は休んどいてくれ)

 

《ヴリトラ》は解除されていた。おそらく《ヴリトラ》がしておいてくれたのだろう。

機攻殻剣(ソードデバイス)から直接脳内に響いた声は相変わらずのトーンだったが、心配してくれていたのだろう。詠唱符(パスコード)からは想像できないな。

 

それにしても問題は特級階層(エクスクラス)のアルテリーゼさんをいかに早く倒すかだな。アレを使うことも選択肢に入れといたほうがよさそうだ。

 

 

「ここは…やっぱり、遺跡の中なのかな」

「そうみたいね。運よく開門のタイミングに入れたみたいね」

「他のみんなとは離れ離れになっちゃったみたいだね…どうしようか?」

「明日は中央の祭壇に向かいましょう。そこにみんな集まっているはずよ」

 

蓮が一人《ヴリトラ》の相手をしている傍でルクスとクルルシファーは現状の把握を進めていた。

第六遺跡『箱庭(ガーデン)』の侵入方法と脱出方法は特殊で、一定時間で門が開閉し、外部のものは引き込まれ、内部にいるものは排出される仕組みだ。

今回の予定では『箱庭』内部への侵入成功後、中央の祭壇に向かい、調査をする。終了後、遺跡の内壁にある門の前に移動、開閉の時を待って脱出というものだった。

しかし、今回は異常事態である――

 

「ねぇ、体の方は大丈夫かしら、ルクス君」

「え、ええまあ…って、そうじゃないよ!」

「何が?」

「ま、真顔で返さないでよ……。無理はしない方がいいよ。それにクルルシファーさんたちは決闘も控えてるんだし、ここは脱出を優先しようよ。クルルシファーさんだって疲れてるでしょ?」

 

先程見せた《ファフニール》の暴走。

ルクスはクルルシファーの体調が万全ではないと判断したのだが、クルルシファーは首を横に振った。

 

「私は大丈夫よ。さっきはちょっと疲れていただけだから。ルクス君はここで待っててもいいわよ、私は一人で行くから」

「それはできないよ!――僕も行くよ。クルルシファーさんを一人で行かせられない!」

「――ありがとう」

 

クルルシファーは真剣な声音で言ってきた。

それがルクスの不安を刺激し、思わず強い言い方をしてしまった。

ルクスの強い意思表示に一瞬戸惑ったクルルシファーだったが、すぐに安堵したような微笑を見せる。

どこか熱っぽい視線がルクスをドキリとさせた瞬間、

 

「ところでルクス君。野外での炊事は得意かしら?」

「へ?」

「どういうわけか知らないけど、この『箱庭』は外の時間と連動しているらしいわ。このままだと、もうじき夜になるはずよ」

「え、えっと…?」

「『箱庭』の内部に入った際、薪とかの野営物資は現地調達。飲める湧き水の出るポイントも過去の調査でわかっているから取ってきてくれるかしら」

 

クルルシファーが急に素に戻る。

 

「う、うん。それはわかったけど、クルルシファーさんは?」

「私はここで荷物を見張ってるわ。よろしくね、ルクス君」

「……。行ってきます」

 

言い切られてしまった。

有無を言わせぬ口調で……

そして、彼女の手は「いってらっしゃい」と言わんばかりに振られていた。

 

「ルクス君は、やっぱり男の子なのね。頼りになるわ」

 

それに、こうまで言われてしまっては文句の一つも出てこなかった。

と、そこに――

 

「お、ルクスが野営の準備をしてくれるのか?助かるわ~。んじゃよろしく」

「蓮!?」

 

ずっとルクスとクルルシファーのやり取りを黙って見ていた蓮が混ざってきて、クルルシファーが作った流れに乗っかろうとする。

 

「あら、彼一人に任せるのかしら?」

「……喜んで準備に取り掛からせていただきます、お嬢様」

 

だが、それは叶わなかった。

冷たい視線が突き刺さる。

蓮とルクスは大人しく野営の準備に必要な薪なり水なりを拾いに行き、十数分ほど経って戻ってきた。

 

 

 

「じゃあ、僕達が先に見張りをするよ。クルルシファーさんは休んでて」

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

拾ってきた薪で火をおこし、持ち合わせの黒パン等で軽い食事を済ませた3人は交代で見張り番をして、睡眠をとることにした。

蓮とルクスが最初の見張りに立ち、クルルシファーは簡易テントにひかれた毛布に体を入れる。その際――

 

「襲わないでね?」

「「何もしませんよ!」」

 

唐突な発言に蓮とルクスのツッコミが見事にハモる。

クルルシファーはそんな2人の様子に軽く笑うと背を向ける。

少したってクルルシファーの規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 

「ふぅ――寝付いたか。なあルクス、寝顔を拝みに行かなイカ?」

「行かないよ!?というか語尾がおかしかった気がするよ!?」

「何もしないと言ったが、アレは嘘だ。せっかく、あのクール系美少女の代表とも言えるクルルシファーさんの寝顔をごく自然に拝める数少ないチャンスなんだぞ?カメラがないのがか~な~り惜しいが、脳裏にインプットしようじゃなイカ?」

「確かに普段――じゃなくて!しないからね!?それにやっぱり語尾がおかしいってば!!」

「大声を出すなよ、クルルシファーさんが起きちまうだろ」

「ご、ごめん……」

 

100%、蓮のせいである。

 

「とりま、ほぐれたところで真面目な話をしようか。

 なあルクス、進むか退くか、どうする?」

「う、うん。僕は退くべきだと思うんだ。蓮とクルルシファーさんは明日の決闘が控えているし、クルルシファーさんはあの時の暴走の件があるから……」

「同感だ。この後のことを考えると、現状、幻神獣との戦いは避けたい。それにルクスもあまり戦える状況じゃないだろ?」

「ばれてる?」

 

蓮の指摘に苦笑いを浮かべるルクス。

蓮が爆発の勢いをある程度殺していたとはいえ、吹き飛ばされた機竜がぶつかったのである。蓮よりは負傷の程度は軽いが、あちこちに鈍痛があった。

 

「薪を拾っているときにもしかしてと思ってな。

 それより問題はクルルシファーさんだ。あの様子だと本当に一人で行きかねないぞ。もっと言えば、ルクスは面倒なことに言質取られているし」

「う……」

「俺達の取れる選択肢は2つ。気絶させてでも門の前まで戻って脱出するか、彼女の意思を尊重して祭壇を目指すか……前者は確実に恨まれるだろうな。決して表に出さないだろうけど」

「……選択肢がないね」

「うるさい。とにかく明日は祭壇を目指すぞ。話は変わるが、一つ相談があるんだがいいか?」

 

ルクスは痛いところを突かれた仕返しに皮肉ってきたが、蓮は話を切り上げて躱し、別の話題に切り替える。

 

「――んじゃ、俺もそろそろ休むわ。時間が来たら起こすようにちゃんと伝えといてくれよ」

「うん。おやすみ」

 

そして、遺跡の夜は明けていく。

 

 

 

 

遺跡で一夜を明かした3人は昨日決めた通り、遺跡中心の祭壇を目指して歩いていた。

機竜を使えば早いが、疲労が抜けきらないのに加え、緊急時のために体力を温存する必要から徒歩で祭壇を目指していた。

 

そして、数十分ほど歩いたところで目的地である祭壇にたどり着いた。

白い円柱が立ち並び、中央の台には銀の宝玉。まさしく祭壇といえる。

 

「それじゃ、ここでみんなを待――」

 

ルクスがそう告げた瞬間

 

『ガ、ガガガ…!《鍵》の存在を認識しました。特殊コードの開錠を行います。問題がなければ、転送を始めます』

「ッ……!」

 

突如、竜声のような直接脳内に響く声。

蓮、ルクス、クルルシファーはとっさにそれぞれの機攻殻剣に手を伸ばすも、床に描かれた紋章が光り、3人を包んだ。

 

光が収まると、景色は一変。

青白い金属板に覆われ、瓦礫が散乱する回廊。

ここが――話に聞いていた遺跡の内部のようだ。

 

「ここが、私の――」

「ちょ、クルルシファーさん?」

 

クルルシファーはせくように足を動かし、近くにあった奇妙なオブジェに触れると、オブジェが光だし、声が聞こえた。

 

『鍵の認証を確認。レベル権限により、第二管制室の施錠を解除します』

「なに?」

 

聞き覚えのある音と今起こっている現象に蓮は覚えがあった。

これは、《ヴリトラ》と初めて会ったときだ!

 

「そう。やっぱり、私は――」

 

その傍らオブジェから聞こえた声に眉をひそめるクルルシファー。

が、すぐに顔を上げ近くの壁に触れる。触れた壁がスライドする。

 

「ここは…」

 

念のため、ルクスがクルルシファーを制して先行して部屋に入る。

現れた部屋は個室、といっても中にあるのは棚のみ。

棚には『ボックス』と呼ばれる古文書や機竜の武装などを入れた箱が並んでいた。

しかし、この『ボックス』だが、時間をかけて無理やり開けるしか方法がない。

だが――

 

「……」

「あ、開いた?」

 

クルルシファーがそっと端に手をかざし、撫でるように指を動かすと『ボックス』が開いた。

 

「違う…もっと、探さないと――ッ!?」

「おっと」

 

呟きながら『ボックス』を開けていくクルルシファーだったが、3個ほど開けたところでその細身がよろめき倒れそうになる。

 

「やれ、言わんこっちゃない――ん?なんだこりゃ、すごい熱じゃねぇか!」

 

慌ててクルルシファーを支えた蓮が叫ぶ。

クルルシファーは肩で息をしている上に、非常に体温が高くなっていた。

今すぐにでもこの場から脱出し、必要な処置を取らなければならないほどの高熱だった。

 

「ダメよ…まだ――」

 

ズズンッ!!

 

高熱に苛まれているはずの少女がそう答えて動こうとし、蓮が何かを言おうとした直後、振動が個室を揺らした。

 

『危険です。振動により、内部が崩落します。安全な部屋に退避してください』

 

直後、振動が強くなり個室の入り口が瓦礫でふさがれる。

 

「くそ、入口が塞がれちまったか……」

「僕が《バハムート》で抱えようか?」

「ぜひともそうしてもらいたいが、崩落が必ず一箇所なんてことはないしなぁ」

「そうだね。脆くなっている場所が他にあるかもしれないから、僕が少し様子を見てくるよ」

「任せた」

 

崩落の衝撃で明かりが薄くなっていき、暗さの増した部屋。

ルクスはまだうっすらと見える入り口付近に向かって歩き出す。

蓮はクルルシファーの細身をまだヒビのあまり入っていない安全そうな壁の近くに座らせ、自分もその隣に腰を下ろす。

 

「やれやれ、こんな体調でよく無理しようなんて考えたもんだ」

「……数少ない、チャンスだったのよ」

「遺跡の調査権は俺もわかる。けど、何をそんなに焦っているんだ」

「私が、誰なのかを知りたかった」

「うん?それはどういう――」

 

ことだ?と言い切る前に蓮の腕にクルルシファーが手をのせる。

 

「私は、この世界の人間じゃない、遺跡の――生き残りなのよ」

「遺跡の…生き残り?」

「少し、話を聞いてもらえないかしら」

 

顔を見せないように俯いたまま、クルルシファーは話し始める。

自分自身の過去を…………

 

 





ルビ振り少ないと楽だわ~。


さて、今話の一部に変なのが混ざっている気がするが、気にしないでください。
便利なネタだから仕方ない。

感想でバルゼリッドのセリフが斬られ過ぎとか言われてしまいましたが、だって嫌いだもんアイツ(それ言っちゃダメだろ)。

修正点や感想を待っています!

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